連載FastGrow Conference 2022

Vertical SaaSは、圧倒的No.1を最初から目指せ!ALL STAR SAAS FUNDとhacomono、hokanが語る“山の登り方”

登壇者
前田 ヒロ

シードからグロースまでSaaSベンチャーに特化して投資と支援をする「ALL STAR SAAS FUND」マネージングパートナー。2010年、世界進出を目的としたスタートアップの育成プログラム「Open Network Lab」をデジタルガレージ、カカクコムと共同設立。その後、BEENOSのインキュベーション本部長として、国内外のスタートアップ支援・投資事業を統括。2015年には日本をはじめ、アメリカやインド、東南アジアを拠点とするスタートアップへの投資活動を行うグローバルファンド「BEENEXT」を設立。2016年には『Forbes Asia』が選ぶ「30 Under 30」のベンチャーキャピタル部門に選出される。

神前 達哉

東京大学卒業後、ベネッセコーポレーションに入社。法人営業を経て、経営戦略部に異動。Udemy, Inc.との日本向けB2B SaaSの事業化を果たす。主にセールス全体の組織開発やCSの立ち上げに従事しマネージャーとして事業成長を牽引。2021年2月よりALL STAR SAAS FUNDのVenture&Enablement Partnerに就任。投資開拓やグロース支援体制の構築を担当。和歌山県出身。

蓮田 健一

青山学院大学卒業(体育会サッカー部)。株式会社エイトレッドの製品開発マネージャとして、ワークフロー製品X-point、AgileWorksを生み出す。業界No.1プロダクトへ。2013年7月株式会社hacomono(旧社名まちいろ)創業。銀座カラー、クリスプサラダワークスなど、業界で話題となる店舗のデジタル化を推進。小さい頃から大学まで続けていたのはサッカー。現在の趣味はランニング・フィットネス・アウトドア。バンタンデザイン研究所キャリアカレッジ修了。

尾花 政篤
  • 株式会社hokan 代表取締役 

東京大学経済学部卒。株式会社ベイカレント・コンサルティングにて、保険業界を中心にマーケティング戦略・IT戦略立案・投資管理・PMOなどに従事。2017年8月に株式会社hokanを設立。保険業界でのコンサルティング経験およびIT企画経験を活かし、保険代理店向けのSaaSサービス hokanの提供をはじめとして、保険代理店新規設立(独立)支援やInsurTech新サービス開発支援などに取り組んでいる。

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特定の業界に特化し、課題を解決するVertical SaaSに注目が集まっている。2021年はレストラン業界のPOSプラットフォームを展開するToast、IoTプラットフォームを手掛けるSamsaraなど、海外でVertical SaaSを展開するプレイヤーのIPOが続いた。

2022年2月に開催したFastGrow Conference 2022では「【投資家×起業家対談】Vertical SaaSスタートアップにおける『山の登り方』」と題したセッションを開催。注目のVertical SaaSが、どのように課題に向き合い、成長を遂げているのかを伺う。

登壇したのは、SaaSに特化した投資を行うALL STAR SAAS FUNDマネージングパートナーの前田ヒロ氏と、パートナーの神前達哉氏。そしてhacomono代表取締役の蓮田健一氏、hokan代表取締役の尾花政篤氏だ。

Vertical SaaSは業界・業種に特化しているがゆえに解決策を横展開しにくいと言われるが、セッションからは共通して必要な、山の「入り口」や「登り方」が見えてきた。ぜひ、「SaaSビジネスの履修項目」と捉えて読んでほしい。

  • TEXT BY OHATA TOMOKO
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顧客に使われている実感が「これでイケる」を生む

初めに、 hacomono代表取締役の蓮田健一氏、hokan代表取締役の尾花政篤氏が、自社の展開するプロダクトについて紹介する。

hacomonoは「ウェルネス産業を、新次元へ。」をミッションに掲げ、ウェルネス領域に特化した店舗の運営管理システム『hacomono』を展開する。2019年3月にリリースし、現在はフィットネスクラブを中心に、バレエスクールやゴルフスクール、公共運動施設など、1000店舗以上の導入が進む。(イベント登壇後の3月にシリーズBラウンドで20億円の調達を発表

なぜウェルネス領域に特化したSaaSプロダクトを開発したのか、「登るべき山」をどのように定めていったのだろうか。

蓮田もともと私は、フィットネス領域で受託でプロダクトを開発していました。日本の生活習慣病の多さやフィットネスクラブの参加率の低さなど、健康にまつわる課題を感じていたんです。人々の運動習慣をサポートするウェルネス産業に参入することは、社会的意義が高いのではとも考えていました。

また、会員管理や予約、決済機能を備えたMVPの時点で、店舗での使われ方が圧倒的に違ったのも、「これでイケる」と感じた理由の一つです。導入してからスタッフの業務が完全に変わったんです。

それまでもHRTech系で、日報のSaaSや飲食店特化のオーダーアプリを開発した経験があったのですが、導入いただいて一定評価されても、“must have”にはなり切れなかった。それが『hacomono』は全然違って、「こんなにお客様のデータがわかるんですね」とスタッフの方の満足度が圧倒的に高かった。展示会での反応も非常に良い感触が続きましたね。

hokanは「保険業界をアップデートする。」をミッションに掲げ、保険代理店向けの顧客・契約管理クラウドサービス『hokan』を展開。見込み顧客の発見から契約成立まで一連の流れをサポートする。

尾花氏も、保険業界のVertical SaaSを開発しようと決めるまで、いくつかの事業案を試していたと振り返る。

尾花当初は、BtoCで一般消費者向けにビジネスを展開したほうが、保険業界により大きな変革を起こせるのではないかと思っていたんです。検討していたのは、ユーザーが「保険証券」という契約内容にまつわる証書などの画像を送ると、最適な保険商品の組み合わせを教えてくれるようなビジネス。ですが、結果的に大失敗しまして......。

なぜかというと、そもそもユーザーから「保険証券」の画像が全然上がってこないんですね。健康保険証の画像が届くような事態もありました。要はそれくらい、一般消費者にとって保険は関心も馴染みも少ないものなのだなと感じました。

そこで、BtoBtoCに切り替えて、保険代理店の課題解決などにトライしようとすると、そもそも根幹の基幹システムから取り組まないといけないと解けない課題がほとんど。CRMが3つくらい組み合わさっているケースもありました。

保険代理店の扱う情報は、世帯、年収、資産など、一般的な業種・業界ではなかなかお客様に聞けないような情報が多い。そのようなコアな情報を格納する機能に長けたCRMは、あまり存在していなかったんです。

Salesforceにも標準のパッケージと金融業界特化型のものがあって、後者のほうが価格が数倍かかっても、金融業界では必要とされる。同じように保険業界にも必要だろうと、特化型のCRMを目がけていった形です。

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「業界のビジョンを描くこと」が、差別化の必須要素になる

二人の説明を踏まえ、ALL STAR SAAS FUNDの神前氏は、「限られた市場において、その業界の既存プレイヤーやHolizontal SaaSのライバルも存在するなか、どのように優位性を保ったり、参入障壁を作り上げているのか」と尋ねる。

hokanは「ビジョン」が大きな差を生んだのではないかと語る。

尾花「私たちはこういうものを作っていきたい、こういう未来を描いている」とビジョンを示し、「この人は、業界の先が見えている」と思っていただけているのが、大きいのではと思います。

具体的に何をしたかというと『InsurTechJapan』というInsurTech領域のメディアを立ち上げ、国内外の情報を発信しているんです。発信の積み重ねで「InsurTechといえば尾花」と想起してもらえる状態になったのは、差別化につながったかなと思います。

あとは徹底的に使い勝手を追求することですね。やはり既存のシステム、特に古いものですと、起動が遅かったり、機能が使いづらかったりするケースもある。顧客情報を検索した結果が表示されるまでに何分かかるのかなど、機能の比較表には見えてこない使い勝手って、現場の人が一番感じるところですよね。その人たちにとって便利なものをちゃんと作ったのも、差別化につながったと感じています。

蓮田氏も「サービスを開発した頃からUIには特に力を入れていた」と振り返る。

蓮田サービスを開発した当初から、UI設計には特に力を入れていました。その結果、お客様に「なぜ選んでくれたのですか?」と聞くと、8~9割がプロダクトの使い勝手の良さを挙げてくれます。とはいえ、最近は似た機能を持つプロダクトも増えてきましたので、機能だけではなくセールスによる差別化も図っています。

私たちのセールスチームは、お客様に導入いただくとき、機能説明ではなく、お客様の店舗の坪数やエリア、狙っている客層、料金プランなどを聞いていきます。その答えを聞くと、店舗に必要な損益分岐点や獲得できる最大客数、客単価などが把握できます。そのように店舗のビジネスを知って、経営者の目線に立って、その店舗や会社の経営をどのように変えていくべきかを提案します。

そのためには、業界の解像度やリアリティある提案力なども必要なので、人材育成にも力を入れています。やはり会社の「人」はとても重要だと思います。

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Vertical SaaSは、“ナンバーワン”を目指さなければならない

続いてALL STAR SAAS FUNDの前田氏に「なぜhacomonoとhokanに投資を決めたのか」について尋ねると、前田氏は「その業界でナンバーワンになるかどうかを考えた」と語る。

前田Vertical SaaSの戦略として、特定の業種・業界でナンバーワンになることは非常に重要です。それによって、狙える市場の規模感や、事業のポテンシャルも大きく変わってくる。

その上で、hacomonoに出資した決め手は、導入している企業からの支持率が非常に高かったこと。投資を検討するにあたって導入企業複数社にヒアリングを行ったところ、ある企業は10個近くサービスを試した上で最終的に『hacomono』を選んでいました。他の企業も複数プロダクトを検討してから『hacomono』にたどり着いた。そんな声があり、ナンバーワンになるポテンシャルを強く感じました。

hokanは、出資したタイミングではプロダクトが開発中で、判断材料は少なかったんです。しかし、顧客と市場の解像度が非常に高かった。尾花さんが、市場を理解していて、どのようなプロダクトを設計すれば、お客様が求めているものになるのかが見えていた。その辺りが判断基準になりました。今振り返っても、良い判断をしたと思います。

また、Vertical SaaSの成長戦略において欠かせないポイントについて、前田氏は「特定の業種・業界におけるITインフラになる必要がある」と語る。

前田Vertical SaaSが参入する業界は、Horizontal SaaSと異なり、レガシーな産業が多く、導入企業には情報管理部のような部署や、ITサービス導入を仕切ってくれるエンジニアが、必ずしもいるわけではない。なので、それぞれの産業にとってわかりやすい形で、ITインフラになる必要があると思っています。

特定の産業の課題を解決するプロダクトがいくつもあったとしても、最終的に企業が導入するのは恐らく一つか二つです。だからこそ、ありとあらゆる課題を解決する、トータルソリューションを目指すのが重要かなと。hacomonoとhokanが、共に業界を支えるインフラになってくれたら嬉しいですね。

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アイデアを多く出し、最も難しいものに挑戦せよ

Vertical SaaS領域における山の高みを目指す両社。今後の展開をいかに見据えているのだろうか?

尾花保険代理店向けシステムとして市場のシェアを取ることが、マイルストーンの1つです。すでに参入している競合の売上は年間5億円ほどですが、我々はさらなる高みを目指して、10億、20億と売上を伸ばしていきます。そのためにも、保険料などの出納管理やデータ活用にも領域拡大をしていきたい。その先は、保険管理アプリなど一般消費者向けサービスも展開していきたいですね。

保険への加入は現状、言われるがままの人が多いと考えています。例えば、賃貸の契約を行っている方であれば、必ず火災保険に加入しています。しかし、いざという時にどう活用したら良いかわからない方がほとんどです。これからは、人々の生き方がますます多様化していくからこそ、保険を正しく選べることは欠かせません。保険の真の価値を届けていきたいです。

一方で、蓮田氏は導入した店舗の結果にこだわりたいと語る。

蓮田海外のSaaS事例を見ていると、サービスを導入したお客様の売上が大きく向上したり、従業員の給料が増加していたりと、実際にお客様のビジネスの収益を改善させているものが多いんです。

山を登るためにやるべきことはたくさんありますが、まずは、これまでに導入いただいたお客様の店舗ビジネスの成長に貢献する。そのためにも、プロダクトの磨き込みのみならず、社内のチーム作りにも力を入れていきたいですね。

最後にこれからVertical SaaS領域で起業される方に向けて、両者がメッセージを送った。

尾花hokanを始めた頃は、市場が小さいのではないかと不安に感じていました。ところが、目の前のお客様に集中しながら価値提供を行っていった結果、むしろ可能性が広がったんです。

深い課題が存在していれば、正しい努力をすることで道は開けると思うので、積極的にチャレンジしてみてください。

蓮田私自身の失敗を踏まえると、起業のアイデアをたくさん出したら、できるだけ難しいものに挑戦した方が良いと思います。さらに、企業の部分的な課題を解決するのではなく、その企業全体に関わる事業を狙ったほうが良い。

もちろん、売ることも難しくはなりますが、その分インパクトも大きくなる。そういった観点で選んでみると良いですね。

こちらの記事は2022年04月26日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

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執筆

大畑 朋子

1999年、神奈川県出身。2020年11月よりinquireに所属し、編集アシスタント業務を担当。株式会社INFINITY AGENTSにて、SNSマーケティングを行う。関心はビジネス、キャリアなど。

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