PMMとは、事業戦略×PdM?黎明期で手探りに進める3名が明かした、役割の定義や変遷の苦労──イベントレポート
SmartHRが先駆的に立ち上げたとも言われる「プロダクトマーケティングマネージャー(PMM)」が徐々に、ほかのSaaS企業の中でも存在感を強め始めている。そこで、同社主催のミートアップイベントである「PMM NIGHT」、3回目となる2023年5月開催にFastGrowが密着。その様子を記録させていただくことにした。
テーマは、「各社PMMの役割とキャリア」。マネーフォワード上田氏、ピクシーダストテクノロジーズ川村氏、SmartHR岡田氏の3名が同時登壇。
PMMはいかに事業を加速させ、組織の生産性を高めるのか。立ち上げ当事者が語る具体事例から、紐解いていく。なお、PMMと混同しないよう、プロダクトマネージャーはPdMと表現する。
冒頭の会社紹介
PMMという言葉を聞く機会こそ増えたかもしれないが、定義や役割について、一様な見解があるわけではまったくないだろう。なので、いきなり抽象化することは避け、まずは各登壇者の自己紹介・事業紹介に耳を傾け、ありのままの姿を確認していこう。
川村川村良太といいます。ピクシーダストテクノロジーズという、落合陽一さんCEOの80名のベンチャーで働いています。ボイストレーナーや、Sansanでのカスタマーサクセス(以下、CS)、プロダクトマーケティングを経験した後に、今年3月から参画しました。「社会課題をテクノロジーで解決する、かっこいい!」という、小学生みたいな気持ちで入りました。
このイラストが会社概要で、真ん中にある松の盆栽が、デジタルとネイチャーが混ざっている様子を表していまして、こういう?会社です。よろしくお願いいたします。
上田株式会社マネーフォワードの上田真梨奈です。新卒入社したワークアプリケーションズで7年程度勤め、その後、ベンチャー企業を経て、2019年にマネーフォワードにCSとして入社しました。そこからPMM、プロダクト戦略部を経験し、現在は事業戦略部にいます。
マネーフォワードは「お金を前へ。人生をもっと前へ。」というミッションを基に、お金に関わる事業を展開しています。今私は「マネーフォワード クラウド」というBtoB向けのバックオフィスプロダクトの人事労務領域を担当しています。よろしくお願いします。
岡田株式会社SmartHRのPMMで主に人事・労務プロダクトを担当しています、岡田遥と申します。2020年3月にPMMとしてSmartHRに入社し、そこから現在までさまざまなプロダクトのPMMをやってきました。今は人事・労務プロダクトのオプション機能のPMMとグループ会社のサービスのPMMを兼務しています。
SmartHRは、人事・労務とタレントマネジメント、主にこの2軸のサービス展開をしています。労務管理をしながら人事データを蓄積し、そのデータを活用して、タレントマネジメントの推進ができる仕組みです。私は主に労務管理に携わっています。
神前モデレーターとして来ました、ALL STAR SAAS FUNDの神前です。VCなのでプロダクトは持っておらず、プロダクトマネジメントは担っていないのですが、今日は初心者目線の質問を通して、プロダクトマーケティングマネージャー(PMM)の輪郭を浮き彫りにしていきたいと思います。よろしくお願いします。
神前本日のテーマは「PMMの役割とキャリア」ということですが、私自身、SaaS業界全体を見ている中で、PMMの歴史はまだまだ浅いと感じています。たとえばセールスやCSのKPIは明確になってきている一方で、PMMのKPIってわかりませんよね。海外の文献を見ても、役割は定まっていない。会社の文脈、フェーズによって、PMMのあり方が暗黙知ベース、実践ベースで模索されている最中なのかなと思っています。
そこで今日は、SaaSを代表する3社の皆さんのPMMの経験を深堀りさせていただきながら、PMMの役割を一部、明らかにしていきたいと思います。後半は個人にフォーカスさせていただいて、どういう経緯でPMMになったのか、PMMのキャリア形成にはどんな可能性があるのか、にも迫れればなと思っています。
ビジネスの総意・各部署の総意を全体的に握り、ボールを回す
FastGrowとしても、神前氏の意気込みをありがたく感じながら、具体的な取り組みに迫っていこうと思う。まず触れられたのは、「PMMを設置することで何が変わる?」という誰もが感じる疑問について。
神前ここからはパネルトークとして、まずは1つ目のテーマ「各社がどのような位置づけでPMMを設置しているのか」についてお話を伺っていきたいと思います。何らかの問題意識があってPMMを設置するに至ったと思うのですが、どんな背景でPMMを設置したのか、PMM設置以前と以後でどんな変化があったかをお話しいただけますか。
SmartHRの岡田さんからお願いします。
岡田SmartHRでは、PMMは4~5年前に設置されました。
PdMはもっと以前からいたんですけれども、PdMと、CSやセールス、マーケティングが関わり合いながら事業を推進する中で、それぞれが考えていることを取りまとめる必要が出てきたのがきっかけです。
前代表の宮田さんが書いた『「たらい」が2回まわったら新ポジションの合図』というブログがあるんですけども、そこに書かれている通り「仕組みを整えてボールを渡す」という役割がなかったので、プロダクトごとに担当をつけ、どうあるべきかの最適解をつくっていくことが必要で。そういうところから始まっています。
ちなみにPMMという役割と部署を設置してから4~5年経った今も、関連業務においてたらいは結構回り続けています(笑)。そんな状況が見られたら、「取りまとめて仕組み化して、自分がいなくても回るようにする」というサイクルを回していくことが必要だと思います。ずっとどこかにたらいがあってそれを回収して、という感じですね。
神前宮田さんのブログで、PMMは「何が売れるかを考え、どう売るかに責任を持つ部署」と定義されていて、それってともすればマーケティングと結構重なるのかなと感じました。マーケターとの棲み分けってどうなんでしょうか?
岡田そのブログの内容がベースにありつつ、最近はもう少しアップデートして、「どう売るかだけじゃなくて、どう使い続けてもらうか、どうサクセスしてもらうかまで広げた方がいいよね」という認識をしています。そう捉えると、マーケティングとの違いがより明確に感じられますよね。
契約して終わりではなく、その後に使い続けてもらう。うちはプロダクトがいっぱいあるので、使い続けてもらうことで「SmartHRいいな」と思ってもらって、さらに別のプロダクトへのエクスパンションに繋げる。この一連のサイクルを進めていくのがPMMになっています。なのでCSとはいっぱい話していますね。
マーケターやCSだけで取り組んでも、なかなかやりきれないことなんじゃないかと思います。
神前CSとは具体的にどういうコミュニケーションを取るんですか?
岡田特に人事・労務領域はユーザーがとても増えてきたので、新しいサービスや新機能がつくときに、それをどう届けるかについてよく話します。既存のお客さまの運用に関して、「今どうなっているのか、それは新機能によってどのように変わることになるのか、変わった状態でサクセスし続けられるのか」といった話を詰めていくイメージですね。
一方で、最近導入が増えてきたタレントマネジメント領域だと、入れただけで成果が出るものではないので、「どうやってこのプロダクトを使い続けてもらうのか、使っていくなかでさらにどう効果を実感してもらい、サクセスしてもらうか」といったところを連携しています。
神前上田さんは、この辺りの課題解決や役割分担、いかがですか?
上田うちは会社全体というよりは本部単位で組織があるので、前提から説明しますね。
私はHR領域という、人事労務領域の6つのプロダクトを管轄している本部にいます。その中でPMMのような役割を担ったのは、まだサクセスチームにいたころです。
当時は、本部が開発とビジネスの二つに分かれており、人も増える中で、意思疎通が難しくなってきていたフェーズでした。
たとえば開発のロードマップ共有のミーティングに、ビジネスサイドも全員が出るかたちだったんです。そうすると、そこで「こういう要望がいっぱいあります」みたいなのを、いちメンバーが発言しても、それがビジネスの総意なのか、どこに対する優先順位付けなのかみたいなものを、上手く開発が受け取れないシーンが多々ありました。
そこで、ビジネス側全体の総意として、サクセスやセールスそれぞれからヒアリングして、それを総意としてまずは整理する。そのうえで開発側と話して、きちんとそれぞれの部署が納得できる説明を持って帰るということを決めて、実行してみていたのが、PMMとしての一番最初の動き方ですね。
神前必要に迫られての設置、ということですね。そのあとの変遷は?
上田6つのプロダクトがあるので、6プロダクト分それをやっていました。ただそれぞれプロダクトとしては分かれているんですが、業務としては繋がっているので、プロダクトを横断した観点でどうしていくべきか、そのロードマップの調整、全体のバランスをずっと考えていました。その結果、ロードマップに責任を持つプロダクト戦略部を経て、去年末に今の事業戦略部を立ち上げたという変遷です。
私は、PMMと事業戦略は、見ている範囲は違えどとても近いものがあると思っています。
とにかく、「HR領域全体の事業をどうしていくか」「お客さまにどういう価値を届けたいのか」「そのためにはどういうメッセージを届けるべきか」というところを進めています。
神前やっぱり、プロダクト開発とそれに対するビジネスサイドやユーザーからのフィードバックって、かなり混線状態になりがちですよね。
しかも、事業拡大に伴って対応するニーズを増やしていくと、優先順位付けの難度も段違いに高くなっていく。そうした新たな課題に立ち向かうためには、PMMのように全体を握っている人がいないと回らない、というのが共通するのかなと感じました。
川村さんにもお聞きしたいです。ぜひ、前職のSansanでのご経験も含めて、いかがですか?
川村ちなみに今日40~50人ほどの参加者がいらっしゃいますが、プロダクトマーケティングマネージャーってどれぐらいです?(会場の参加者が挙手)……半分くらいか、すごい。たぶん、世界で一番PMM密度が高い空間になっていますね(笑)。
逆に、PMMが社内に存在しないって方はいますか?(会場の参加者が挙手)……4分の1くらい。なのに、興味をもって来ていただいたのは嬉しいですね。
僕は5年ほど前にSansanに入りPMMをしていたので、SansanがPMM体制をつくったときの話とピクシーダストでの話を、両方できたらなと思います。
Sansanでいうと2021年の年初、試験的にPMMが導入されました。背景としては、今まで「名刺管理のSansan」がメインだったところから、オンライン名刺などの新機能や『リスクチェック』『Sansan Data Hub(データ統合ソリューション)』、『Bill One(経理DX)』など、様々な領域に展開していた中で、よりそのドメインやプロダクトに責任をもって強く推進するエンジンが必要でした。
企業が大きくなっていくと、最初はシングルプロダクトでやっていたのが、マルチプロダクトになって、そうなるとプロダクトごとのマーケットやペインも当然変わってくるので、それぞれに刺していくことが必要になります。その推進力を生むためにPMMを設置しました。
ピクシーダストでいうと、PMMという役職名ではないですが、プロダクトマーケティングファンクションという組織が横串であります。
ピクシーダストは難聴者の問題や認知症の問題など、様々な社会課題にトライする会社ですが、それを新しい先端技術で解決しようとする時に、「どこの誰がどのように困っているんだ?」を特定して、顧客と技術を深く結びつけないと、事業としては起こらない。そのための役割として、ビジネス開発の組織であるプロダクトマーケティングファンクションを置いています。
神前プロダクトが複線化してくるから、フィードバックのループがめちゃくちゃ複雑になるんですかね?
川村そうですね、加えてピクシーの場合はまだ7年目の会社なので、「顧客」と言ったときに、既存顧客なのか、あるいはまだ見ぬ顧客なのか、いずれにせよそこに解像度高く当てていくために、専門領域で責任を持って進められる人を立てる必要があります。
神前マーケティングに結構近いような?
川村ですね。マーケティングって4Pじゃないですか。プロダクト、プライス、プレイス、プロモーション。そういう意味でいうと、マーケティングという概念の中にそもそもプロダクトが入っています。だから広義の意味でマーケティングをやる人は、プロダクトマーケティングマネージャーの役割も果たしていると思います。
各社において、PMMの設置には、かなり大きな違いがあることがわかる。
事業特性や組織形態によって、「プロダクト開発におけるどの部分でどのような課題が顕在化するのか」は、当然異なってくるはずだ。紹介があったSmartHR、マネーフォワード、Sansanには、SaaSという共通点はあれど、より細かく見ていけば相違点も多いため、取り組み方には差が見られるということなのだろう。
もちろん今後、さまざまな企業がPMMの設置を進めていく中で、共通点も見えてくるのだろう。
PMMは何を目指すべきか?
真に「事業成長へのコミット」だけを求められる存在
さて、読者の中には「PMMの設置を検討したい」という経営者や責任者もいるだろう。神前氏は先回りするかのように、実践論を聞き出していく。
神前皆さんにお聞きしたいのですが、PMMはどのような目標管理で、どこにフォーカスして業務を進めているのでしょうか?プロダクトに近い役割だと考えれば、おそらくリリースあたりにフォーカスするでしょうし、マーケティングに寄せるのなら、売上やパイプラインなどを見ていくのかなと思いますが、どうしていますか?
岡田私は、去年はあるプロダクトの売上を目標として追っていましたが、今年からやめました。
私が担当しているプロダクトは、本体機能にオプションでつけられるアプリです。リリースから5年ほど経っていまして、オプションの中では一番古いアプリです。少なくとも既存のお客さまには結構根付いているプロダクトなので、売上がこれから大幅に追加で伸びていくフェーズではないんです。
このフェーズだと1人のPMMが、マーケティング施策や、セールス・CSとの連携強化をしてもそれが四半期だとか半期の売上をガツンと上げるほどのインパクトには、なかなか繋がりません。
なので今は、売上を追う代わりに、「このオプションのアプリがあるおかげで、本体機能の受注をどれだけサポートできているのか」を追っています。
神前なるほど。売上となると、PMMが追うものとしてはちょっと距離が遠いという感じですね。
岡田そうですね。営業のように、一人ひとりの個人成果をわかりやすく数値化しやすい仕事ではないと考えています。
川村そもそもPMMがやっていること自体が、会社や事業フェーズによって変わってくるので、設計が難しいですよね。
同じプロダクトでも事業フェーズが進めばユーザー層も変わるので、50人の会社に刺すのか、2万人の会社に刺すのかで、強調すべき提供価値が全く異なるはず。
なので、「四半期ごとにKPIを変えていく」くらいでいいのかなと思います。
違う言い方をすると、PMMは「事業のフェーズに応じて変わっていくKPIに翻弄されながら、なんとか食らいつく人」という役割だと捉えています。
神前固定化されたものがあるというよりは、フェーズごとに、経営アジェンダに対してどうコミットしていくかってことなんですかね。
川村そうですね。KPIがカッチリ決まっていてずっとそれを追えばいいんだったらそういう部署、専門家におまかせした方がいいので。
神前落ちるボールをしっかり拾いに行く感じですね。上田さんはいかがですか?
上田私の所属はあくまで事業戦略部ということになるので、追うべきミッションは中長期の売上最大化です。とは言っても当然ながら、企画した機能が開発され、リリースされ、受注して、というまでには時間がかかるので、同時に本部の売上を追っています。中長期の視点で売上を最大化するためにいろいろな企画を走らせながら、直近の売上を増やすための取り組みも検討して実行していくことを、セールスをはじめとする様々な部門と話しながら進めている感じですね。
HR本部において、PMMという名前の職種は一旦なくしているんです。でもやっぱり、もう1回この事業戦略部の中にPMMの組織をつくろうかなと悩んでいるところです。
もし新設するなら……その時の事業フェーズによりますが、まずは1つプロジェクトを任せるかたちになりそうです。それが仮に機能企画のプロジェクトであれば、そのソリューション(機能)をフックとした機会創出や受注、利用率を追っていくのがいいのかなと考えています。
岡田私も、「この機能のおかげで何件の受注が生まれたのか」とか「チャーンを何件減らせたのか」とか、そういったところは常に追っていますね。ただ、それをマストで追っているっていうよりは、何かプラスアルファみたいな感じになるかなと。
それをあまり追いすぎると、開発のロードマップが伸びて、その分遅延が発生してしまう、そんなものでもあると思うんです。
神前上田さんの話の中で、PMMという名前の職種を一旦なくしているとあったと思いますが、1回やめようとなった背景は、具体的にどんな感じだったんですか?
上田「開発組織をどうしていくべきか?」という理想について議論した際に、「今PMMとしてやっている仕事のほとんどは、やっぱりPdMがやるべきなのでは?」という意見が出ました。それを基に話し合い、結果として「理想のPdM像は、やっぱりプロダクトに関する責任を全て負える人だ。そこまでやれるよう、会社として頑張ってみよう」となったんです。
もちろんPdMはそこを今も目指しつつ、とはいえ組織も大きいですし、プロダクトも多いですし、領域カット、セグメントカットで分かれている本部の連携、調整も必要で、PdMが1人で全部やるのはやっぱり現実問題難しいなと思っています。
ただ、PMMという名前の部署をまた作ってしまうと「PMMとPdM、誰がどこまで問題」が発生してしまいそうだなという点で、今迷っています。業務を上手く進めるために作るポジションによって、お見合いが発生してしまうことは本質的ではないので。一旦、事業戦略部の中でPMMのような動き方をしてもらい、そこでの働き方や役割のイメージが浸透したタイミングで、「PMM」という名前があるほうが上手く事が進みそうであれば付けようかなと思っています。
神前大きいフェーズなので、PdM1人だと回らなくなると言われますよね。そんな中で、「PMMはどういう役割を担うべきなのか?」という点は、行動と社内の中で成果をつくることで示していかないといけないというイメージですか?
上田示さないと認められないというわけではないです。ただ、分担をきっちり決めるのもすごく難しくて、責任範囲がグラデーションになりがちな部分だと思います。無理して定義して混乱を生むよりも、「名前なんてどうでもいいから必要なことをやろう」と考えて、あとで名前が必要になったら定義しようという考えに至りました。
神前無理に定義しようとしすぎるのがあまり良くないと。なるほどです。
立ち上げ当事者が語る、そもそもやりたかったのは組織の最適化と顧客要望の明確化
役割定義や組織設計には、これといった正解がまだほとんど存在しない。この3社(あるいは4社)の試行錯誤から、そんな実態が見てとれる。
ここまではどちらかというと企業側の目線から見てきた。一方で、個人目線ではどうだろうか。「キャリア」をテーマに、少し違った角度から、議論はさらに深まっていく。
神前ここからは会社という単位から、個人にフォーカスしながらキャリアについてのお話を伺っていければと思います。
まずは、なぜPMMになったのかを聞かせてください。川村さんはいかがですか?
川村2021年の正月明けに、COOと1on1が入っていて、恐々行ったら、「オンライン名刺のPMMやって。以上!」くらいの感じで……(笑)。
最初の仕事はPMMが何をする人か?ジョブディスクリプションとKPIを決めることでした。
神前当時はどういう状況だったんですか?
川村背景からお話しすると、PMMになる半年前、コロナ禍で第一次、第二次緊急事態宣言みたいなときに、Sansanはオンライン名刺という、オンラインで名刺交換ができる機能を出したんですね。
Sansanにとって対面の接点がなくなり、「紙の名刺交換がなくなる」という状況はかなり脅威でしたが、Zoomの普及などオンライン会議での接点は増えていて、「企業としてのオンラインの接点蓄積が漏れている」という社会課題がありました。
そこに新機能として会社一丸となって、当時800人くらいの社員全員で、発信や営業をガーッと進めているタイミングで、凄まじい推進力だった一方、統制がとりきれずに情報が絡まりあっている状況でした。
大きなリソースをかけて全社全力で動くからこそ、PMMとして企画の旗振りや情報の発信が必要でした。
神前なるほど。やはり事業の状況が絡んでくるんですね。上田さんはなぜPMMに?
上田私は先ほどちょっとお話ししてしまったんですけど、サクセスだったときに強く抱いていた課題感が、最初のきっかけでした。
弊社は、役割にとらわれず、結構領域を越えてやってもそれが必要なことだったら認められる会社なので、しばらく自由に動いていたときにSmartHRさんのブログを見て、「今の自分とやっていることが似てる!」となって(笑)。そこで「私が今やっていることはこれなので、PMMって名乗ります」と上司に申し出ました。
神前カスタマーサクセスの経験が活きたなという場面はありましたか?
上田そうですね、お客さまがリクエストしてくる断片的なものを、ちゃんと背景を踏まえた要求に昇華して開発に渡す必要があると思っています。そのあたりは実務やお客さまの運用状況を見てきているので、「たぶんこういうニュアンスで言っているな」「こう言っているけど、本当に解決したい根本の課題はこれだな」みたいなのを汲み取って開発に伝えられるのは、サクセスの経験が結構活きたと思っています。
神前経営企画や事業企画の経験からPMMになられる方もいらっしゃれば、セールス、カスタマーサクセス、マーケといったお客さまと接する職種からPMMになった方もいて、2方向あると思うんですけど、それぞれ良さがありますよね。
岡田私は前職で、toCのメディアマーケティングとなんちゃってPdMみたいなことをやっていて、当時も売り上げ目標を持って、売り上げ最大化のためにメディアとしての発信を頑張っていろいろやっていたんです。
そこから転職活動中に、マーケティングに携われる会社を多く受ける中で、当時はほぼ募集要項で見かけなかったPMMに出会い、受けてみました。3社内定いただいたうちの2社がマーケティングで1社がPMMで、2週間ぐらい悩んで、SmartHRのPMMに挑戦することを決めました。
神前前職でマーケティングをやっていてプロダクトもかじっていたら、勝手にPMMやっていた、みたいな感じじゃないですか?
岡田エージェントさんからもそう言われました(笑)。
未経験からのPMMは、手を動かして、経験から学べ
それぞれの経験や想いという「点」が、PMMという個人の役割という「線」として繋がった。それが3人の共通点と言えそうだ。
そこからさらに話を進め、探られたのが「PMMとして成果を出すまでの流れ」。各社のオンボーディングや仕組み化は、どのようなかたちなのだろうか。
神前次のテーマで話そうと思ったんですが、文脈がいいのでここで話したいのが、「PMMの理想のオンボーディング」というテーマです。
先ほど申し上げた通り、キャリアパスとして大きく2つの方向性があり、キャリアバックグラウンドも結構バラバラの中で、どういうふうにPMMのオンボーディングをしていくのかって結構難しいなと思っています。それぞれの体験を踏まえてでもいいんですけども、「理想のPMMのオンボーディング」をあえて型化するとしたら、どういうふうな設計になりますか?
川村まず中途だと、競合とかから転職してこない限り、ドメイン知識は絶対ないです。だから課題設定からやれと言われても、「車輪の再発明」というか、筋が良くても「うん、みんな知っている」な結論にたどり着くか、もしくは独創的だけど絶対違うみたいなのになると思います。
なので、みんな事業に真剣に向き合っている中で、「やらなくちゃいけないんだけど誰も手をつけられてない、この課題がずっとある」みたいなものをポンと渡してみるのが、僕は良いと思います。
要は、課題特定まで終わっていて、やることでバリューが発揮されることはわかっているけども、そのリソースがなかったり、なかなか最後のピースがなかったりしたところに、中途の人の新しい視点を入れて、それで「よし走ってみ」っていうのがいいのかなと。
岡田私が入社したときは、まさにそれでした。
上田先ほど、「組織を新たにつくろうかなと悩んでいる」という話をしたと思うんですけど、もし今人が入ったら、私が途中までやっているプロジェクトを1個渡そうかなと思います。
PMMって全方位コミュニケーションが必要で、どうしても「肌感覚でキャッチアップしていく」ような部分が大半を占めると思うんです。なので、実際に自分がどこで誰とどうコミュニケーションを取っているか、みたいなところを見てもらって、感覚を掴んでもらうというのが良いのかなと。
反対に、何か座学でどうとか、そういうのは今のフェーズではイメージが湧かないですね。
岡田私はもうちょっと単純で、「とにかくめちゃくちゃ要望を見るところ」から入るといいのかなと思っています。情報のキャッチからっていう感じですかね。
3年ちょっとPMMをやっていて思うのは、プロダクトは結構変わっていて、その度に大量に要望を見て考えてきたな、ということ。自分がやってきて、なんだかんだ一番効くかなと思っています。
神前価値観みたいな話で岡田さんに伺いたいのが、要望に対する解釈で「この人は筋がいいな」と感じさせるような“PMM初心者の考え方”ってありますか。
岡田一番は、「文面そのままに受け取らないこと」かなと思っています。
弊社には要望を管理するツールがあって、お客さまが言っていること、背景、代替手段、そして温度感(3段階評価)の項目で管理しています。
だいたい、PdMかPMMがそれを見るんですけど、その文面だけ受け取って、文面の数ですごいこの要望が多いとか、重要だとかを判断せずにいることが重要です。それはなぜなのか、本当にそこが大事なのか、クリティカルな背景は何なのかっていうところを、深掘りして考えて、「お客さまが本当に欲しいものは実はこれだったんだ」というポイントを、自分で見つけに行けることこそ、何よりも重要なのではないかと思っています。
神前今、現状どういうオンボーディングがあるんですか?
岡田セールスの商談同席やCSの商談同席、あるいは、アサインされたプロダクトのスクラムに最初はサブぐらいで入って学ぶところからしています。並行してコンテンツを使ってプロダクトの理解を1ヶ月かけて進める。そういうオンボーディングタスク表みたいなものがありますね。
川村今までの会話をまとめると、売上をいい感じにするのがPMMという認識で、その中でプロダクト、市場、営業、マーケ、と見る方向が複数あります。
SmartHRさんは、プロダクトに結構寄り添ったPMMの感じがしますね。PdMのオンボーディングと何が違ってくるんですか?
岡田弊社では、PdMがビジネスサイドの動きをあまりやっていません。そこは違うんじゃないかなと。
川村なるほど。逆に、当時のSansanのPMMはスプリントに入っていませんでした。レビューとかで出ることはありましたが。
岡田私は出ていますが、1週間にスプリントレビューと定例で、週に合計1時間ぐらいっていう感じです。なのでそんなにがっつりではないかもですね。ただ過去に、開発がどう成り立っていて、開発メンバーがどのぐらいお客さまのことを考えているのかを知りたくて、全部のプロダクトのMTGに入っていた時期もあります。
オンボーディングの段階では、ちょっと多めにMTGに入ってもらったうえで、どういう成り立ちで開発されているのかというところを勉強した方がいいと思いますね。
PMMに求められる素養は「巻き込み力」
事業成長への貢献という方向でさまざまな実践を聞いてきたが、同時に気になるテーマが「採用」だ。PMMという職種名で働いているビジネスパーソンは、日本にまだそう多くないはず。現にFastGrowも、PMMを採用しようとしても非常に難しいという話をよく聞いている。
そこで、各社の課題感や工夫について、語ってもらった。
神前採用時の見極めについて、どういう観点でされているのかなというのも伺いたいのですが、どういう人がPMMの素養があると思われますか?
上田PMMに関して、素養というか性格みたいなところで、絶対外せないと思っているのは、「説明が嫌いじゃない」ということ。
結構いろんな立場の人と関わるんですよね。前提が違ったり、いろいろな文脈を持っていたりと、さまざまな目的を持つ人に対して説明をして理解してもらうっていうシーンがものすごく多い。だから、ここを苦に感じてしまうような人だと、できないかなって思っています。
神前その点は、中途採用の面接で直接聞くものですか?
上田そうですね。
川村未経験者をPMMにするとしたら、採用にしろ異動にしろ、当たり前ですけど、PMMとして自分や皆さんが思い描いている能力って、持ってないですよね。なぜなら、やったことがないから。
だけど、どんな事業でも、「今うちはこの製品の企画力が弱いんだ」とか、「製品は悪くないんだけどお客さまに伝えるストーリーがちょっとグズグズなんだ」みたいな、そういう課題があるはずで。
たとえばストーリーがグズグズなんだったら、「売る力が強いセールスメンバーをコンバートする」のは良いでしょうね。一方で、「デジマの鬼」みたいな人を連れてきても、おそらくマッチしないじゃないですか。
だから、「今うちの企業は、PMMに何を求めているんだっけ。ストーリー?パイプラインをつくること?開発とフロントの橋渡しをしてほしいんだっけ……」と考えて、そこにスペシャリティを持っている人というのが、条件になるんだと思います。
その上でさらに、その役割にとどまらず染み出していける人だと尚良い、ということでしょうね。
上田役割を超えられる人っていうのは、かなり重要なポイントではありますね。役割を超えられて説明できて好奇心がめっちゃある人がいいなーと思います。
神前具体的に、面接やカジュアル面談でどういう質問をしていますか?
川村「最近、ガジェットやサービス何買いました?」とか僕は聞いていますね。例えば、ChatGPTを全く使ったことない人がPMMを希望していたら、それはどうなんだろう?とか。
別に、ChatGPTじゃなくてもいいんですけど、なにかをおもしろいと感じて、実際に触れるってことは、上田さんも触れていた「好奇心」の表れだなと。仕事だからやっているのか、その人が根っからそういう人なのか、そんな所から見えてくるんじゃないかなと。
岡田観点がユニークでおもしろいですね。
私たちは、面接だと実務経験から深掘りすることが多いですね。全然知らないサービスでPMMっぽい動きをしてきた方もいるので、その提供価値や競合優位性を全部教えてもらって、わかりやすく伝わってくるかどうかを見ています。
いろんな方が応募してくださるので、シンプルにめちゃくちゃ学びになる。「こんなサービスがあって、こういうふうに動いているのか!」といったことを聞けると、私たちにとっても大きな学びになりますよね。
あとはその上で、人を巻き込んだ経験があるかを気にしていますね。PMMの経験がないセールスやCSの方でも、人を巻き込んでプロジェクトを動かす経験がある方はいらっしゃると思うんですよね。
そもそもそういう経験があるのか、ある場合にはプロジェクトの規模やステークホルダーの考え、どうやって巻き込んだかを、具体的に聞いていますね。メンバーは何人ぐらいいたんですか?とか。
上田私も、巻き込み経験については結構似ていますね。
「枠を超えられる人が重要だ」というお話を先ほどしたんですが、どんな職種の方でも、こういうプロジェクトをやってこういう結果を出しました、ここが課題でした、みたいな一連の流れを聞いていく中で、「ここまでが自分のエリア」みたいなのを決めている様子が見えることもあるんですよね。場合によっては、「そこは自分の範疇ではないのでできませんでした」という姿勢が見えて気になることもあります。
PMMって基本的には、巻き込む対象がめちゃくちゃ多いので、「諦めない人」こそが活躍できると思うんです。プロジェクトを進めていくために、人を巻き込んで、一度何かのタイミングで駄目だと言われても、もう一度トライしてみた経験とか、最終的に乗り越えられた経験とか、そういうのは結構聞いたりしています。
PMMとセールスのシナジーは?
商談での価値発揮
社内連携についても質問が届く。「ステークホルダーが非常に多い」といったディスカッションから、参加者も少なからず気になっていたようだ。
神前もう1問、面白いなと思ったのが、「CSや開発チームと連携しながらバリューを出していくことはすごくイメージがわきますが、セールスとの連携は具体的にどんなふうに進めているんでしょうか?」っていう質問があって。皆さん、セールスとPMMが連携して上手くいった成功事例ってありますか?
川村少なくとも新機能においては絶対に、その連携が必要だと思います。
なぜなら新機能ってリードが少ないし、新しいプロダクトともなると商談経験のある人も少ないです。属人的になっても商談に同席しまくって、誰にどう刺さっていて、逆に刺さっていないのかを一人称の情報で蓄積して、いち早く展開するという動きも必要です。
岡田PMMにとって、商談はめちゃくちゃ重要ですよね。
私も、セールスの商談に同席するだけでなく、週2ぐらいは自分でしゃべっています。自分が使う営業資料にフィードバックをもらって改善したり、トークスクリプトを改良したりもしていますね。
フェーズによってはセールスに直接関わっていくべきなんじゃないかと思っています。
上田そうですね、私も今新機能の企画をしていることもあって「セールスが一番一緒に仕事をしている」感が強いかもしれないです。
もちろんお客さまへの価値提供が大前提ですが、加えて大事にしているのが、「セールスのみんなに“武器”を渡したい」という気持ちです。「これ、今すぐ提案したいです!」と言ってもらえるようなものを企画したいですし、常にセールスのみなさんの反応を見ています。
岡田わかります。まだ存在していない新規プロダクトや機能について、「モックはできているから営業資料化して武器にして提案してOK。その代わり、その提案にPMMは同席させてほしい」といったお話をよくしていますね。PMMとして非常に重要な動き方だと思います。
神前なるほど。新規プロダクトとか機能に対して、お客さまと向き合っていて、マーケット解像度が高い人って、やっぱりPMMに向いているんですかね。
川村そう思います。
新しい製品や機能ができた時、あるいはそもそも企業がまだアーリーフェーズの時は、セールスが比較的頑張りやすいと思います。
ですが、SmartHRさんやマネーフォワードさんのように、機能がモリモリになってくると、一つひとつの動きにセールスがなかなか追いつけなくなってくるかもしれません。そうなると、PMMという存在が活きてくるのだと感じますね。
神前みなさん、細かい点までありがとうございました!
最後に、会場の皆さんへのコメントを一言いただいて、クロージングができればと思います。川村さんからいかがでしょうか?
川村この後の懇親タイムでは、お酒とご飯が出るそうですので楽しみましょう!本日はありがとうございました。
上田今日はありがとうございました。マネーフォワードに入ってから職種を点々としていますが、PMMってお客さまや、いろんな部署の方に喜んでもらう、そして事業を前に進めるために、何でもやれる職種だと思っていて、個人的にはすごく楽しいと思っています。
会社は割と大きいんですけど、PMMっていう職種自体はこれから大きくしていきたいと思っているので、一緒に走ってくださる方がいたら、お待ちしています。
岡田正解がない分野だと思うので、私も皆さんのお話を聞ければと思います!
神前3社の中で実践されてきたことを、いろいろ生々しくお伝えいただいて、非常に貴重な機会になりました。改めまして、本当にありがとうございました。
マネーフォワード PMMの募集要項は以下をご覧ください
ピクシーダストテクノロジーズの採用情報は以下をご覧ください
SmartHRの採用情報は以下をご覧ください
こちらの記事は2023年08月22日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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- ALL STAR SAAS FUND Managing Partner
マルチバーティカルSaaSは「Whoを見つける旅」だ──カミナシ、クアンドの事例から、最先端SaaSトレンドをALL STAR SAAS FUNDと共に学ぶ70分セッション総レポート化
- ALL STAR SAAS FUND Partner
「ハイリスクを避けて変革を語るな」──フリークアウト本田とUUUM鈴木に訊く、世をざわつかせるTOP 0.1%の事業家の心得
- 株式会社フリークアウト・ホールディングス 代表取締役社長 Global CEO
「経営とマーケティングのプロになるならECを学べ」──国内Eコマース支援の最大手いつも.CEO坂本とP&Gジャパンによる、“新マーケティング談義”
- 株式会社いつも 代表取締役社長
真のユーザーファーストが、日本にはまだなかったのでは?──「BtoBプロダクトの限界」に向き合い悩んだHERP庄田氏の、“人生の時間”を解き放つコンパウンドHR戦略
- 株式会社HERP 代表取締役