連載Growth Human Capital Summit

OKRの導入だけでは意味がない!
会社を成長させる運用法を投資家・前田ヒロ×ココナラCEO・南が語る

登壇者
前田 ヒロ

シードからグロースまでSaaSベンチャーに特化して投資と支援をする「ALL STAR SAAS FUND」マネージングパートナー。2010年、世界進出を目的としたスタートアップの育成プログラム「Open Network Lab」をデジタルガレージ、カカクコムと共同設立。その後、BEENOSのインキュベーション本部長として、国内外のスタートアップ支援・投資事業を統括。2015年には日本をはじめ、アメリカやインド、東南アジアを拠点とするスタートアップへの投資活動を行うグローバルファンド「BEENEXT」を設立。2016年には『Forbes Asia』が選ぶ「30 Under 30」のベンチャーキャピタル部門に選出される。

南 章行

1975年生まれ。愛知県立旭丘高校・慶應義塾大学でラグビーに明け暮れ、1年間の休学でアメリカ留学を挟み卒業。住友銀行(現三井住友銀行)に入行後、2004年に企業買収ファンドのアドバンテッジパートナーズに転職。2009年には英国オックスフォード大学経営大学院(MBA)を修了する。帰国後、NPO法人ブラストビートの設立や、NPO法人二枚目の名刺に参加。2011年、株式会社ウェルセルフ(現株式会社ココナラ)を設立し現職。

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2018年9月26日、スローガン株式会社はHR領域のナレッジシェアイベント「Growth Human Capital Summit」を開催。本イベントではHRに関する新しい仕組みについて、すでに導入しているスタートアップ経営者などから成功・失敗談が語られた。

イベントの「自走型組織をつくるOKR」セッションに登場したのは150社以上のスタートアップへ投資活動を行うグローバルファンド「BEENEXT」のマネージングパートナー前田ヒロ氏と、株式会社ココナラの南章行氏。両者はOKRが日本に浸透する前から着目し、自社の事業を通じて運用を行ってきた。

「OKR」は組織とメンバーの達成すべき目標、結果を明らかにする目標管理フレームワーク。インテル社をはじめとする多くのグローバル企業で取り入れられ、日本でも注目が集まっているが、運用の難しさについて声が上がっているのも現状だ。

今回はOKRの導入を検討するにあたり、得られる効果と注意すべきポイントについてセッションの内容をレポートする。

  • TEXT BY MIHO MORIYA
  • EDIT BY TOMOAKI SHOJI
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前田氏が惚れたOKRの3つの魅力

OKRは「Objective and Key Result(目標と主な結果)」の略。前田氏によると、各メンバーが会社から何を期待されていて、何をすべきなのかがわかるパワフルなツールだという。

前田メンバー各々が会社から何を期待され、何をすべきかを理解していると、一人当たりのアウトプットが良くなります。同時に、それがメンバーに共有されることで組織力、連携力も高まり、会社の成長に大きく寄与すると、150社へ投資を行う中で感じました。僕がOKRに惚れた理由は、会社の成長のためにメンバーそれぞれが認識すべきことが全部明確にわかるからです。

目標(Objective)は必ずしも定量的ではなく、野心的でワクワクするような定性的な内容でよい。その代わりに「1つの目標に対し、定量的で客観的な結果(Key Result)を複数紐づけることが運用のポイントだ」と前田氏は続ける。

前田例えばプロダクトチームの今期の目標(O)を『もっとも使いやすいニュースアプリを作る』とします。それを達成するための結果(KR)が3つ。ロードタイムを30%削減、新規登録のパネル達成を20%増、3月10日までにバージョン2をデプロイする、でした。これらはすべて客観的かつ定量化されている結果です。

会社全体のOKRからチームのOKRに落とし込み、それをもとに個人のOKRを作っていく。そのため、会社全体を見れば、OKRが複数存在することになる。すべての整合性をとるのがOKR運用上のポイントだ。引いては、これらは個人の「やりがい」も左右するという。

前田会社でのやりがいは、自分がどのくらい会社に貢献しているかによると思っています。例えば、マーケティングチームのメンバーが自分のOKRを達成すれば、チーム全体のOKRが達成される。また、複数チームのOKRが達成されると、会社全体のOKRが達成される……というように、メンバーそれぞれの行動が会社の目標につながっていることをOKRは明確にできます。

さらに前田氏は、OKRのメリットを2つ挙げた。1つは行動の無駄をなくせること、もう1つは今期の重点が明確になることだ。

前田働くうえでは「やらないこと」を決めるのが一番難しい。OKRがあれば『これは無視していい作業だ』と、自信をもって決められるようになります。また、OKRは全体に共有されるため、ミッションのために動いているのかが明確です。全員のミッションが可視化されているためコミュニケーションが取りやすく、業務も効率化されます。

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運用初期は試行錯誤。トライアンドエラーと社員の意識付けで浸透させる

ココナラは、スキル・経験・知識を売り買いできる“スキルのフリーマーケット”を運営している。約50人の社員でサービスを運営している同社は2年ほど前にOKRを導入。クオーターごとにサイクルを回し、今期で9回目の実践に入った。導入に踏み切ったのは「目標設定の形骸化」が課題となったからだという。

各個人の目標が全社の目標と連動しなかったり、隣の人の目標を知らなかったり。それら抱いていた課題は、OKRの導入によりほとんど解決されました。会社として優先度の高い目標が明文化され、共通認識が作られるようになりました。OKRは『今期はこれをやりたい』という経営者の意思を示し、『それを達成するためにあなたにはこれをしてほしい』と伝えるものです。そうして会社として最重要な目標を達成することが可能になるんです。

また、メンバー同士の目標が可視化されることで、協力体制が生まれたとも話す。

Web系の会社だとエンジニアに急な差し込み仕事を依頼することがありますが、忙しいエンジニアは自分の仕事を優先したくなりますよね。けれど『これは私のOKR達成のためにも必要なんだ』と説明すると、優先的に対応してあげようという気持ちにもなりやすいようです。

OKRはクオーターごとに会社で最も注力すべきことにつながっているという共通認識があるので、部門を超えた仕事がやりやすくなるんです。

組織一丸となって働き、クオーターが終わると、OKRの達成度を5段階で評価するという。

評価は簡単に3点が取れない仕組みになっています。自分の責任で失敗してしまったら1点、個人で頑張れば達成できるプロセスを主軸にしたものは2点。3点以降が成果重視で、個人に寄らない要素が入ります。4点、5点はもう世の中のムーブメントを起こすような仕事でないと取れません。最初は設定の仕方が悪く、当人はやりきっても他の人が原因で1点評価にせざるを得ないことが起こり、苦しんだりもしました。

また、マーケティング部門など数値目標が明確なチームはOKRを設定しやすいのですが、経理やカスタマーサポートなど、ルーティンワークがメインの部門はOKRの設定に苦戦しましたね。クオーターごとに最も重要なことを設定するのが基本的な運用方法なので、業務量の8割がルーティンの場合は評価が難しい。その中でも、なんとか特定のテーマを個人別に持ったり、重点項目をクオーターごとに変えるなどの試行錯誤をして、最近は少しずつ課題が解消されてきました。

南氏の経験の通り、1回運用しただけでは企業に合ったOKRの設定を行うことは難しい。最低でも2〜3サイクルは試すべき、と前田氏からも言及があった。

前田メンバーの仕事を考慮しながら設定する必要があるため、1回目で成功する会社はほとんどありません。1回目で課題が見つかり、教訓を得て2回目に最適化、だいたい3回目ぐらいから徐々に把握できるようになっていきます。また、OKRが機能するためには、メンバー全員がOKRを意識することも重要です。1on1ミーティングや全社で話している時、喫茶店に入って雑談している時も、OKRを会話に混ぜて意識づけしていく必要があります。

何度も進捗を確認し、社員全員に意識を根付かせることで、OKRを考慮して動くチームが形成される。ココナラでは一度決めたOKRでも、途中で見直す機会を作っているという。

特にスタートアップは、3か月もあれば会社の状況は変わります。クオーターの途中でOKRに変更がないか確認し、精査が必要な場合は経営陣でチェックして決め直しています。

OKRの決定や評価は全て経営陣が決めるプロセスを踏んでいるので、工数はかかります。最初はどう設定すべきかもわからず、30人分のOKR決定に約半日かかっていました。。「本当に俺たちOKRやれるの?」と思っていましたよ。けれど、慣れればかなり速くなります。

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「OKR導入には会社のカルチャーも考えるべき」独自のルールで成功を導く

一般的に、OKRの決定はボトムアップ形式がとられる。メンバーが当事者意識を持てるというメリットがあるからだが、ココナラでは前述のようにトップダウン形式だ。

経営陣で年間のOKRをざっくり定め、それをクオーターごとに詳細なOKRに落とし込み、各メンバーのOKRを作っているんです。また、KRは1人あたり2〜3個設定しているので、重要度をパーセンテージで定め、どの部門と進めるかなどのプロセスも全て経営陣で決めています。OKRの運用はボトムアップが基本形ですが、それを盲目的に信じるのではなく、自分の会社の事業や組織に合わせて修正することも大事です。

会社の特性を考えずに設定してしまうと、失敗を招くだけでなく、途中で修正しようものにも時間がかかってしまう。OKRは会社のカルチャーと照らし合わせて導入を検討するべきだと南氏は言う。

企業には、バリュー重視とミッション重視、2つのタイプが存在すると思います。バリュー重視は、会社のカルチャーを作りたいという思いが強い。例えば、サイバーエージェントさんやリクルートさんは、社員のパーソナリティがイメージ出来ますよね。社員にチャレンジさせて、成功したビジネスを事業として伸ばす。まさにバリュードリブンの会社だと思っています。若手にも裁量があり、実力があれば活躍できる。そういう環境が好きで入ってくる社員ばかりですよね。日本だとマーケットが小さい分、バリュードリブンの方が会社としてはいろんな事業を展開できて、大きくなりやすい。

一方で、ミッション重視だと、「ミッションを達成するために会社がある」という意識の人が多いです。ココナラの社員はみんなミッションに共感して入社しますから、OKRでも企業のビジョンを明確に伝え、ミッションに対してトップダウンにしたほうがうまくいくと思いました。

会社のカルチャーに加え、ビジネスモデルでも状況が変わると南氏は言う。

BtoBビジネスは合理性を持ってクライアントと向き合い、事業を伸ばしていくのが特徴だと思っています。なので、論理的な人が集まって合議制やボトムアップで進めても問題になりにくい。反対にBtoCは一見すると不条理な、特定の機能に特化したエッジの効いた意思決定が必要です。合議制では凡庸で特徴のないサービスになってしまう。そのためにはプロダクトオーナーに意思決定をぐっと委ねるのが大事だと思うんです。ココナラはミッション重視のBtoCビジネスなので、トップが強い意志を持ってやらないと絶対に事業が伸びません。

どんなメンバーがいるかで組織の特徴も変わってくる。それぞれの会社に合わせ、OKRの制度を見直すことも気を付けるべきポイントだ。しかし、トップダウンによる運用の場合「当事者意識」は保たれるのだろうか。前田氏から質問が飛んだ。

全く問題ないとは言わないが、それはOKRと強く関係するわけではないと考えていて、当事者意識を持つカルチャー作りを会社として心がけています。クオーターごとに行われるMVP表彰では、いつも当事者意識の高い人を評価しているので、その重要性を自然と全員が認識しています。「当事者意識とは何か」を僕自身が直接説明することもありますね。

また、社内には戦略や数年先の方向性は経営陣が示すものだという空気感があります。それを決めてしまえば、HOWの部分はメンバーがすごく意識を高く持って取り組んでいますね。

OKRは目標管理のためのツールであり、個人の評価や業績に直結するものではない。人事評価制度とも「直結しない」ことをココナラでは明確に伝えているという。

OKRはあくまでも『そのクオーターで達成したいこと』を割り振っているので、評価が1点でもプロセスが良かったり、OKRに設定されていない業務のクオリティが高ければ昇進・昇給することもあります。OKRの評価がその人の評価に直接繋がっているわけではありません。とは言ってもOKR達成までのプロセスは見ているので、結果として相関は一定程度ありますが。

個人の評価やスキルアップに繋がるものは、人事制度を別途設けて評価を行う。ココナラでは仕事の進め方やプロセスを評価対象として、目標達成とは異なる軸を置いたことで独自のOKR運用を可能としたそうだ。

OKRは会社のミッションにおける業務内容の集中と選択、全社メンバーの目標共有を実現し、業務効率やコミュニケーションの円滑に貢献するツールとなる。注意すべきポイントは、自社の特徴に合わせた運用を繰り返し行い、改善し続けていくこと。

セッションを通じて、多数の投資先へ導入を進めてきた前田氏の観点と、実際にOKRを運用し、様々な課題にぶつかりながらも軌道に乗せてきた南氏の視点から、実践的な方法を広く学ぶことができた。自社に合うルールは何かを考え、会社の文化に合わせてカスタマイズしていくことが、OKRによる効果を最大限引き出すために必須となる。

OKRのメリットを享受するには、自社にどのような人材がいて、どういった特色があるのか深く知ることも必要だろう。

こちらの記事は2018年12月14日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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総合ITベンダーで6年間勤務したのち、訪日観光客向けメディア「MATCHA」の編集者にキャリアチェンジ。ビジネス・観光領域など複数メディアでライターとしても活動中。

編集

庄司 智昭

ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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