連載FastGrow Conference 2021

プロダクトに差異は生まれない。
2021年のSaaS、成長のカギは「顧客になり切れるか」だ

登壇者
前田 ヒロ
  • ALL STAR SAAS FUND マネージングパートナー 

日本をはじめ、アメリカやインド、東南アジアを拠点とするスタートアップへの投資活動を行うグローバルファンド「BEENEXT」マネージングパートナー。2010年、世界進出を目的としたスタートアップの育成プログラム「Open Network Lab」をデジタルガレージ、カカクコムと共同設立。その後、BEENOSのインキュベーション本部長として、国内外のスタートアップ支援・投資事業を統括。2016年には『Forbes Asia』が選ぶ「30 Under 30」のベンチャーキャピタル部門に選出される。世界中で100社を超えるスタートアップに投資を実行。過去の投資実績は、SmartHR、dely、ANDPAD、HRBrain、POL、Fril、Qiita、Fond、WHILL、Giftee、Viibar、Instacart、Everlane、Thredupなど。

小田 志門
  • カラクリ株式会社 代表取締役 CEO 

1980年京都府生まれ。イー・ガーディアン株式会社(東証一部)の創業メンバーとして、SNS監視・コンタクトセンター事業の立ち上げに携わる。2007年に、取締役として営業部門・情報システム部門を統括。ECやゲームなどのコミュ二ティモニタリングやソーシャルリスニング、コンタクトセンターサービスの提供などに従事。2017年10月にAIビジネス開発を支援するカラクリ株式会社のCEOに就任。

蓮田 健一

青山学院大学 卒業(体育会サッカー部)。株式会社エイトレッドの製品開発マネージャとして、ワークフロー製品 X-point、AgileWorksを生み出す。業界No.1プロダクトへ。2013年7月 株式会社 hacomono(旧社名 まちいろ)創業。b-monster、クリスプサラダワークスなど、業界で話題となる店舗のデジタル化を推進。小さい頃から大学まで続けていたのはサッカー。現在の趣味はランニング・フィットネス・アウトドア。バンタンデザイン研究所 キャリアカレッジ修了。

関連タグ

2018年にSaaS元年と言われ、はや3年が経つ。その勢いは止めを知らず、近年さらに活発化している。

コロナ禍で人々の経済活動に大きな変化が起きた2020年も、名の知れたSaaS企業の多くが業績を伸ばし続けていたイメージが、読者のみなさまにもあるだろう。とはいえ向かい風もあったはず。どのようにして乗り切ったのだろうか。また、2021年はどのようなSaaS企業がビジネスを伸ばすのだろうか。

2021年1月に開催したFastGrow Conference 2021。Day1のセッション「2021年、どうなる、SaaSトレンド──投資家と起業家で語り合う、伸びるSaaS、伸びないSaaS」で、その背景に迫った。

登壇したのは、SaaSに特化した投資を行うALL STAR SAAS FUNDマネージングパートナー前田ヒロ氏、カスタマーサポートやコンタクトセンターの業務効率化を手掛けるAIチャットボット『KARAKURI』を運営するカラクリ代表取締役CEO小田 志門氏、リアル店舗の会員管理・予約・キャッシュレス決済システム『hacomono』を運営するhacomono代表取締役蓮田健一氏だ。

なお今回は、イベントの空気感も味わってもらうべく、文字起こし形式でのレポートとした。

  • TEXT BY OHATA TOMOKO
SECTION
/

非対面・データ活用が、コロナ禍で急成長するSaaS企業の特徴

前田ご登壇いただくお二人の話を伺う前に、2020年に起きた世の中の流れを整理したいと思います。コロナの影響により、人に会うことが難しくなりました。その結果、あらゆる物事がオンライン化し、サービスやプロダクトの消費のカタチが変わりました。とりわけ目立ったのが、ZoomとShopifyです。他にも、リモートワーク、顧客接点、オンライン教育など、様々な分野でオンライン化やクラウド化が起きました。

前田今日お話しいただくカラクリとhacomonoは顧客接点のデジタル化に取り組んでいます。まさにDX推進の波に乗り、成長を遂げているスタートアップです。小田さん、蓮田さんの順に自己紹介をお願いします。

小田AIチャットボットでカスタマーサポートやコンタクトセンターの業務を自動化・最適化を支援する『KARAKURI』を運営しています。2019年10月にALL STAR SAAS FUNDのヒロさんにも出資していただきました。「今までにないカラクリで世の中を豊かに」をミッションに掲げ、AIテクノロジーの活用で誰もがテクノロジーが生み出す価値を享受できる仕組みを作ります。

小田『KARAKURI』が、カスタマーサービスの品質向上に注目する理由に、従来のコンタクトセンターが抱える顧客体験の課題がありました。

これまでコンタクトセンターは、カスタマーが疑問やトラブルを抱えて問い合わせした人に対して、受け身でソリューション提供を行っていた例が多いでしょう。しかし、過去の大規模なリサーチ(GOODMANの法則)によると、困っているカスタマーのうち実際にコンタクトセンターに問い合わせをするのはわずか4%でした。96%のカスタマーは困っているのに、問い合わせすらしない状況です。一方、『不満を迅速に解決する』という体験を提供できれば、そのカスタマーはリテンション(再購入や継続利用)につながっていくことがわかっています。『多くのカスタマーは問い合わせをしない』と『不満解消体験を提供できれば事業成長につながる』という2つの課題を解決したい。そう思ってAIチャットボットのサービスを立ち上げました。

現在はAIチャットボットだけでなく、『技術とデザインで「いつもの顧客体験」をストレスフリーに』をサービスミッションに、AIを活用した様々なソリューション開発やビジネス開発を行っています。続いて蓮田さん、自己紹介をお願いします。

蓮田フィットネスクラブやヨガスタジオなどリアル店舗のCRM・予約・キャッシュレス決済システムを行う『hacomono』を運営しています。

主に、フィットネス系のサブスクリプション型のリアル店舗で利用されていますが、最近はコワーキングスペースや美容室などでの導入も増えています。

2020年8月にALL STAR SAAS FUNDの前田ヒロさんより出資をいただきました。資金調達を行った当時の導入店舗数は50〜80店舗くらいでしたが、約500店舗に増えています。2021年内に1,000店舗の導入を目指すことが目標です。

蓮田『hacomono』は、スタッフが会員管理や予約できる機能が使えることはもちろん、ユーザー自身の端末で入会・予約・決済を完了できることが特徴です。これにより、非対面化が進み、受付員の削減が可能です。また、顧客データも扱いやすい形で蓄積することができるため、ユーザーに合わせた接客ができるようになります。

SECTION
/

顧客接点のオンライン化が急加速した2020年

前田2020年を振り返ってみると、2社とも急成長しましたよね。蓮田さんが、50〜80店舗から250店舗へと一気に伸びたとおっしゃっていましたが、コロナ禍でどのように需要が変わったのでしょうか?

蓮田やはりシステムのリニューアルが増えましたね。フィットネスクラブなどリアル店舗の会員管理を行っている業界では、20年前に作ったフルスクラッチのシステムを使用していることが多いです。特に大手は会員数が多く、システムのリニューアルに対して荷が重くなりがちです。

従来、フィットネスクラブの入会手続きには1時間ほどかかっていましたが、コロナ禍で密を避けるために、手続きのオンライン化ニーズが高まりました。多くの企業がデジタル化をしなければまずいと感じているのではないかと実感しています。

前田非接触型のニーズが高まっているのですね。他にお客様のニーズに変化はありましたか?

蓮田クラウド化のニーズも高まりました。多くの店舗で、スタッフがリモートワークを行う機会が増えましたが、従来の仕組みが残っている企業は未だにインストール型のソフトウェアでデータ管理をしています。出社できない状況で皆が同じデータを共有できないのでは、ビジネスの運営がかなり厳しいです。そのため、時代に合わせてクラウド化に移行する企業が多く見られます。

前田小田さんはコンタクトセンターにおけるお客様の動向やお問い合わせ数の変化など、何かありましたか?

小田大きく3つの変化がありました。一つは、チャットボットやメールなどデジタルのお問い合わせチャネルにお問い合わせいただけるユーザー数が増えました。

2つ目は、コンタクトセンター業界でデジタル技術に投資するトレンドが加速したことです。特に、コロナが蔓延した当初は、コンタクトセンターの3密が問題になりました。感染リスクが注目されたことで、その対策を行う機運が業界全体で起きましたね。それと同時に、在宅でコンタクトセンターをどう実現するかという問題も生まれました。

そして三つ目。コロナ禍で顧客接点が弱まったため、コンタクトセンターのみならず、営業や販売など会社全体で、コンタクトセンターの重要性が高まりました。

SECTION
/

奏功したのは、時代変化に合わせた「迅速なUI刷新」と「インナーブランディング」

前田2020年4月に緊急事態宣言が発表されましたが、経営や開発、販売など方針を変更したものはありますか?

小田いろいろと変えましたね。もともとコロナ前からチャットボットのブームがあったのですが、とりあえずチャットボットを導入するお客様が多かったんです。しかし、コロナ禍で「どうしたらデジタル活用して生産性を上げられるのか」という本質的な課題解決に取り組む流れに向かっていきました。

そこで我々の訴求ポイントも、チャットボットのみならず、「あらゆるデジタルの顧客接点で24時間AIが回答できる」というプロダクトメッセージに切り替えました。コンタクトセンターのデジタル化の観点において、チャットボットは1つの選択肢でしかないため、他にもFAQや各種CRM連携など、さまざまな打ち手を素早く実行していきました。

前田蓮田さんは、いかがですか?

蓮田非対面で予約や決済ができることを訴求しましたね。コロナ前からアメリカやオーストリアなど北欧の状況を観察していました。フィットネス業界やスパ業界では、お客様が自身の端末で予約から決済まで済ませる仕組みが浸透しているのを見て、日本も2~3年後にこうなるだろうと確信していました。

我々のビジネスは、業界での認知度がまだそこまで高くありません。だからこそ、コロナ禍で役に立てることが多いのではないかと思い、業界のセミナーに参加したり、リアル店舗のDMを強化したりと、セールス施策を行って認知度アップを図っていました。

前田僕も投資先のSaaS企業を見ていると、伸び続けた会社もあれば、伸びが鈍化した会社もありました。そのなかで2社は、環境変化への適応能力が高いと感じています。コロナ禍で伸び続けられた大きな要因はあります?

小田2020年は、組織作りと営業戦略の二軸で戸惑いながらも取り組んでいました。

組織作りに関しては、もともと新規採用をアグレッシブに行う計画でしたが、コロナ禍のため新規営業の獲得具合や既存メンバーのリソースなどを見て柔軟に運用していました。

また、営業戦略では、2020年前半はリモートの商談に適応するのに戸惑いがありました。なので後半は、自分たちが届けるべきお客様を戦略的に探して営業する活動に切り替えました。それにより、限られたリソースでパフォーマンスを上げることに繋がりました。

前田蓮田さんはいかがですか?

蓮田インナーブランディングを強化していました。我々の事業は、業界特化型かつデジタルに対するレガシーな部分があるため、セールスの際にプロダクトを顧客目線で語れるように顧客解像度の高いチーム作りを意識しました。

また、リモートワークが前提の働き方になったことで、メンバーの連携力がより必要になりました。そこで、カルチャーの浸透や情報の透明性なども高めるようにしました。同時に、人事制度も整え直しましたね。

前田2021年に入り、二回目の緊急事態宣言が発令されましたが、前回の緊急事態宣言と比べて、捉え方に変化はありましたか?

蓮田お客様の大半がリアル店舗のビジネスを行っているため、一回目の緊急事態宣言に比べて、ダメージはより大きいのではないかと感じています。しかし、我々はただプロダクトを作って提供するのではなく、どうやったらお客様の売り上げを向上させられるかということを指標にしているため、お客様が少しでもビジネスに明るい希望を持てるようにしたいと思って事業に取り組んでいます。

前田SaaS企業としてお客様の課題を把握し、寄り添った上で一緒に未来を創る姿勢は非常に大事ですね。小田さんはいかがですか?

小田2回目の緊急事態宣言ということですが、我々のお客様の様子を見たところ、あまり焦りを感じているようには見えませんでした。ただ、今後もこのような事態が起こる可能性はあるので、コロナ禍でカスタマーサポートをどう実現していくのかを検討しています。

SECTION
/

リアル店舗でのデータ取得が当たり前になる

前田各業界でDXの取り組みが進んでいますが、お二人はオンラインとオフラインの体験を今後どのように良くしていきたいか考えていらっしゃいますか?

蓮田5年後、10年後を見据えると、リアル店舗でデータ取得が可能であることが前提になります。そのうえで、どのようにビジネスを回すのかが重要だと思っています。現状、ECサイトはお客様が何をどれくらい買ったのかなどのデータが取れています。そのうえで、カスタマージャーニーを回しているので、リアル店舗も同様にデータを扱えるかどうかが業績向上に向けたポイントになっていきます。

また、これまでのデータ取得は、PCやスマホなどの操作状況から読み取ることが一般的でしたが、リアル店舗はハードウェアやセンサーがデータ取得のカギになります。顧客にストレスを与えずにデータが取れるインフラを、低コストで作れることが、ここ数年のトレンドになるのではないでしょうか。

小田我々が考えるオンラインとオフラインには、2種類あります。一つは、顧客チャネル。顧客体験の場所は、店舗とECの2つがあります。もう一つはコンタクトセンターの現場。職場で行うことが多く、基本はオフラインですが、直近はリモート(在宅)での実施も増えてきています。その場合でも、品質を担保するためのナレッジ管理の仕組みが必要となってきています。

加えて、顧客チャネルに関して、お客様情報の一元管理が重要になっています。なぜなら、お客様にとっては、オンライン・オフラインのどちらにお問い合わせをしても違いはないからです。

しかし、カスタマーセンターがオンライン・オフラインで情報を一元管理できていなければ、オンラインではデータがあるのに、オフラインではデータがない状況が起きてしまいます。そこで、リアル店舗とカスタマーセンターの連携が重要になります。オンラインとオフラインをどう活用していくのか。これらを解決していくことが我々の目標の一つです。

SECTION
/

「顧客と同じ業務フローができる」くらいに寄り添うべし

前田これまでコロナ禍における事業成長についてお伺いしてきましたが、2021年に伸びるSaaSスタートアップの特徴は何だと思いますか?

小田顧客との向き合い方ですね。SaaSとは、要するにカスタマーサクセスです。顧客の問題に真摯に向き合って、一緒に課題解決を行うことが必要な素質だと思います。

蓮田私も、お客様と真剣に向き合うことだと思います。社会的なマイナス面が増えた世の中では、机上の空論でプロダクトの企画を作ることは比較的簡単です。ところが、実践となると、顧客解像度の高さが求められます。お客様の業務フローを自分でもできるくらいじゃないと、本当に良いプロダクトはできません。SaaS企業としてお客様と向き合う以上、前提条件として兼ね備えておくべきだと思います。

また、プロダクトの品質がイマイチなのにやたらと広告を出したり、営業を頑張っても、バケツに穴が空いた状態で走っているようなものです。だから、プロダクトを磨き込むことも非常に重要です。

前田SaaS企業において、近頃はプロダクトの技術的な差別化はあまりないかもしれません。プロダクトのコモディティ化が進む中で、お二人はどのようにSaaSの差別化を捉えていますか?

蓮田『hacomono』を作る前に、3~4つのプロダクトを作っていましたが、あまり事業を大きく伸ばせずにいました。その時に学んだことは、実行を担うメンバーが腹落ちしていて、本気で好きでやっていないと続かないということです。常に業界にいるお客様と対話できる熱意があれば、良いプロダクトを作れるのではないでしょうか。

小田我々は、カスタマーサポート部門にいるお客様のみに向き合っているのではありません。営業や開発など、あらゆるお客様を解像度高く見据え、意思決定をしています。チャットボットの会社は、一時期100社近くありました。しかし、技術的側面に目を向けるのではなく、いかに必要としているお客様に届け、プロダクトを利用したお客様が成果を上げて事業成長することに寄り添えるかが大事になります。お客様と向き合う姿勢こそがSaaS業界をより良くすると思います。

前田最後に、2021年における事業の見通しは加速・減速・変化なしでいうと?

小田加速です。

蓮田加速です。

こちらの記事は2021年04月20日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

次の記事

記事を共有する
記事をいいねする

執筆

大畑 朋子

1999年、神奈川県出身。2020年11月よりinquireに所属し、編集アシスタント業務を担当。株式会社INFINITY AGENTSにて、SNSマーケティングを行う。関心はビジネス、キャリアなど。

おすすめの関連記事

会員登録/ログインすると
以下の機能を利用することが可能です。

When you log in

新規会員登録/ログイン