著名VCが、SaaS投資過程を大公開。経営者、メンバー、ユーザーへの深掘り内容とは──ALL STAR SAAS FUND前田ヒロ、Eight Roads Ventures Japan村田、Micoworks山田イベントレポート

登壇者
山田 修

20歳で起業し、国内外で店舗経営や卸業等オフライン向けサービスを複数展開。現在は起業3社目として、2017年にMicoworks株式会社を設立し、HRTech領域で2事業を創出し売却。2021年に『MicoCloud』へと事業を一本化し、台湾への進出を皮切りにグローバルでの事業展開も目指す。

前田 ヒロ

シードからグロースまでSaaSベンチャーに特化して投資と支援をする「ALL STAR SAAS FUND」マネージングパートナー。2010年、世界進出を目的としたスタートアップの育成プログラム「Open Network Lab」をデジタルガレージ、カカクコムと共同設立。その後、BEENOSのインキュベーション本部長として、国内外のスタートアップ支援・投資事業を統括。2015年には日本をはじめ、アメリカやインド、東南アジアを拠点とするスタートアップへの投資活動を行うグローバルファンド「BEENEXT」を設立。2016年には『Forbes Asia』が選ぶ「30 Under 30」のベンチャーキャピタル部門に選出される。

村田 純一

2013年 Eight Roads Ventures(旧Fidelity Growth Partners)入社。世界有数の機関投資家のVC部門のメンバーとして、シリーズBおよびC以降の大型ラウンドを中心に、リードインベスターとして17社の投資を担当、数多くの上場実績を誇る。SaaSおよびメディア分野を中心に、複数の会社の社外取締役ならびにボードオブザーバーを勤める。

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世界中で使われているマーケティングSaaS。日経新聞のある記事では「2018年が日本のSaaS元年」とされているが、2000年よりも前から普及し始めたASP(Application Service Provider)などから考えると、ソフトウェアサービスの歴史は長い。

年々加速度的に進化するテクノロジーの影響を強く受けるSaaSの世界。マーケティングSaaSは特にその影響が顕著に表れると言えるだろう。なぜなら、加速度的に変化していく時代の流れに対応するビジネスには、最新技術を駆使したマーケティングが欠かせないからだ。そんなSaaS界の最先端をあなたはご存じだろうか。

今回、SaaSスタートアップ投資・支援に特化したALL STAR SAAS FUND前田ヒロ氏、グローバルネットワークに強みを持つEight Roads Ventures Japanの村田純一氏、そして両VCから直近シリーズAラウンドで12億円を調達したMicoworksの山田修氏の豪華3名を招き、世界的なマクロトレンドからSaaSを知るためにイベントを開催。本記事では2022年3月に開催したイベントの内容をお伝えする。

顧客との長期的な接点が重要なSaaSビジネスを成功に導く鍵はなにか。投資家目線から見た「未来を預けたくなるSaaS」とは、どのような経営者がいて、どのようなチームがつくるプロダクトなのか。SaaSの新潮流を知ることで、新たな気づきが得られるだろう。

  • TEXT BY TAKASHI OKUBO
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顧客LTVに寄り添った使い続けられるプロダクト。
マーケティングSaaSの新潮流とその変遷

いまや星の数ほど存在するマーケティングSaaS。プロダクトの数もさることながら、その機能や用途も幅広い上に、他のSaaSと連携をすることでさらに活用手法が広がる。そんなマーケティングSaaSは今、どのような時代に突入しているのだろうか。まずはVC視点から紐解いていこう。

前田これまでのマーケティングSaaSは「獲得」に集中していました。とにかく多くのリードをつくってコンバージョンさせる。そこに特化したマーケティングSaaSがかなり多かったのですが、ここ数年でLTVを考慮したマーケティングSaaSが確実に増えています。

その背景には、「サービスを生涯提供し続ける要素を持っているビジネスが最も強い」と言われている時代の流れがあります。顧客のLTVに沿うようにプロダクトラインナップを提供していく感じです。そういった概念を持つプロダクトが、様々な業種・業界で展開しているのが今のマーケティングSaaSの流れだと考えています。

そもそもマーケティングSaaSの意味が変わってきているわけですね。大きな転換期にあると言えると思います。

時代の潮流に合わせて変化しているのが、今のマーケティングSaaSだと前田氏は話す。そのような流れの中、国内のマーケティングSaaSが生き残るための可能性について村田氏(Micoworksの社外取締役も兼務)が付け加える。

村田海外におけるマーケティングSaaSは、テクノロジー業界という括りで見ると「老舗」に位置するサービスです。カオスマップをつくると、サービス名が入りすぎて米粒のように小さくなってしまうぐらいに、溢れかえっています。

そんな中、多くのプレイヤーは互いの強みを活かし合併することで生き残っている。それがアメリカを初めとした海外の状況ですが、日本のマーケティングSaaSはまだそこまで混み合ってはいません。

だから、日本のマーケティングSaaSのポテンシャルとして、対応できる業務を横展開して広げていける可能性がまだまだ内在しています。

海外の例のように、他のプレーヤーと連携していく必要がある状況になったとしても、日本なら1社で幅広く展開し価値を提供できる可能性があるということです。

登壇時の村田氏

競争が激化するSaaSだが、日本のマーケティングSaaSにはまだポテンシャルが内在していると村田氏は話す。それだけ聞くと「魅力的な市場」と思ってしまうところだが、数年後には海外SaaSのような状況になることも目に浮かぶ。

そんな日本のマーケティングSaaS業界で急成長を見せているのが、事業会社側として登壇した山田氏率いるMicoworksだ。同社は、なぜマーケティング業界で勝負を仕掛けたのだろうか。

山田そもそも、最初はマーケティングのサービスをするとはまったく考えていませんでした。LINEを活用したHR系のプロダクトをつくり、転職活動に役立つBtoBtoCサービスを提供していたんです。

2017年当時、まだLINEで商売をしている会社はほぼありませんでした。今は当たり前になりつつありますが、LINEはトラフィックが取りやすく、ユーザーのリアクションもかなり多い。そんなLINEに対して価値を感じていました。

HR領域でマッチングサービスを提供していたので、そのまま関連領域で展開すれば立ち上がりは早かったかもしれません。でも、そうはしませんでした。なぜマーケティング領域に事業を拡大したのか、それはシンプルに「市場が大きかったから」ですね。「HR×新卒」というマーケットでは2万社しかいないけれども、BtoCマーケティングで見ると対象企業が何百万社にまで増えます。

当時の市場は恐らくまだ黎明期だといわれるような状態です。そこから全てがLINEに置き換わっていくと想定すると、相当な数の会社に我々のプロダクトが使われる。そう考えたんです。

登壇時の山田氏

山田実際に我々のサービスが使われるようになった理由として、いま明確に感じていることがあります。自社のマーケティングで実際にLINEを活用していたので、ユースケースを深く理解できていたのが良かったということです。いわゆるWebマーケターとしての使い方のほかに、1対1で使いたいケースや、複数拠点で使いたいケースなど、いろいろなパターンを自然に想定できるんです。

一方でSaaSとして難しいのは、ターゲットの企業規模が大きくなればなるほど、セキュリティ管理の細やかさが必要になる点ですよね。立ち上げ期から完璧にクリアするのは簡単ではない、という背景から、ミッドエンタープライズと呼ばれる中堅企業をまずはターゲットにするのが良いだろうと考えました。

その結果、以前は大手SIerが高単価で契約していた企業群に対して、よりリーズナブルかつ高クオリティのサービスを提供する、というポジションが取れました。スタートアップとも競合せず、Slerと比較してもセキュリティ要件も満たしたサービスがリーズナブルに受けられる。それが我々が使われるようになった大きな理由ですね。今も多くの方に継続していただいています。

大きな市場の中で、自分達のポジションを正確に見出したことがMicoworksが成功した秘訣だと言うわけだ。これを受け、村田氏が付け加える。

村田自分達がユーザーとして使い勝手の良いものをつくる。これは本当に大事なことですよね。

想定しているペインが本当にユーザーニーズに刺さっていないと、良いプロダクトはできません。山田さんは自身の原体験から欲しいと思ったプロダクトをつくっているので、そこは投資判断する上での安心材料になりましたね。

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「経営者の巻き込み力」を、VCは徹底的に深掘りする

Micoworksは2022年に、シリーズAラウンドでは大型ともいわれる12億円を調達した。ここではその調達の裏側に迫りたい。数々のスタートアップと向き合ってきたVCが、どのような観点で投資を決めているのか、紐解いていこう。

村田どれだけプロダクトが良くても、どれだけ素晴らしいチームがあっても、経営者があきらめたらそこで終わりなんですよね。だから根本的には経営者の執念や「何が本当のやりたいことなのか」を見ています。

ダイレクトに「やめないよね」と聞いたところで、誰でも「やります」と答えます。だから「マーケットをどう考えているのか」「どういう経緯でこのプロダクトが生まれたのか」「どういう課題解決をしているのか」 などの話をするんです。こういった問いに、しっかり考えて答える経営者ならば、粘り強く事業に取り組むでしょう。

山田さんに投資した理由は、業界にかける想いに加えて、背水の陣を敷かれたその覚悟を強く感じることができたからです。HR Techで稼げているのにも関わらず、その事業を捨ててまでそれ以上の成功を得るための状況に自ら飛び込んでいます。その執念に対して、投資することを決めさせてもらったとも表現できますね。

「経営者の執念」。抽象的に聞こえるかもしれないが、言い換えれば「覚悟」とも言える。どれだけ立派な理想やプロダクトを掲げたとしても、やりきれなければそこで終わってしまう。前田氏もSaaSに特化した投資基準について話しながら、最後は村田氏と同じく経営者の“底”を見ていることがわかる。

前田私たちは投資検討する際に、ARR(Annual Recurring Revenue)100億円の事業になれるかどうか、起業家と一緒にイメージづくりをします。ARR100億円がイメージできる事業にはいくつか共通点があるんです。

そのひとつが、多くの人を巻き込んで、メンバーを活躍させられるようなカルチャーや組織をつくれること。SaaSのプロダクトを少数で運営することは難しいので、ARR10億円だと100~150人ぐらい、ARR100億円まで積み上げようとすると少なくとも300~500人ぐらいは必要です。それぐらいの規模のメンバーが活き活きと成長を実感しながら働けること。そのような環境をつくれるかどうか、問いかけて確かめています。

そのためには経営者のコミットメントが必要不可欠です。経営陣が「メンバーが活き活きとしながらARR100億の組織をつくりたい」というモチベーションを当たり前に持っていること、そしてそのための巻き込み力を備えていることは、必ずしっかりと確認します。

山田さんはこのうち、特に巻き込み力がすごい。かなりレベルの高い方々が、社内外で巻き込まれています。チームメンバー一人ひとりとお話をさせていただく従業員インタビューの中でも、「成長が実感できる環境をつくりたい」という意欲や、「カスタマーファーストで物事を考えるカルチャー」が培われていることを感じます。本当に素晴らしい組織になるポテンシャルがあると思い、投資を決めました。

登壇時の前田氏(右上)

山田氏の執念や巻き込み力に大きなポテンシャルを感じた両氏。だがMicoworksや山田氏に魅力を感じていたのはALL STAR SAAS FUNDやエイトローズだけではなかった。山田氏はどういった観点でパートナーとなるVCを決めたのだろうか。

山田今回の調達の前まではVCの方としっかりと話し合う機会が少なかったので、初めはかなり身構えていたんです。そんな中で前田さんと村田さんにお願いしたいと思えた要素はいくつかあるのですが、 もっとも大きかったのはどんな時でも「同じ方向を見て、同じチームの一員として関わっていただける」と強く感じたことですね。

相談していた起業家の先輩方からも「パートナーとなったVCの方との関係はずっと継続して切れないから、慎重に考えるべき」と言われていました。中には、株式数の話になればなるほど自分達の話をしたくなる方もいらっしゃいました。そんな中、お二人はどこまでも私や私たちの会社を尊重したお話をしてくださったんですね。

例えば村田さんは、自分が考えているものよりも何倍もクオリティの高いロードマップを考えてくださいました。純粋に自分達の能力を高めることをしてくださるので、お二人にお願いすることを決めたんです。

自社の利害を超えた「思想」が一致したとも言えるこの3名。特に印象に残っているエピソードを村田氏が披露した。

村田私がもっとも驚いたのは、Micoworksのほぼ全てのメンバーが「自分ではなく会社を主語にして話していたこと」です。若い人も多数いらっしゃったのですが、皆さんが自分のポジションよりも、会社にとってベターな判断を優先されていました。

例えば、創業期から携わってきたあるメンバーさんの話。部門のリーダーになっていたのですが、最近になって、後から入社したメンバーとリーダーを交代したそうなんです。

普通、頑張って手に入れた自分のポジションはキープしたいと考えるはず。それで、思い切って本人に聞いてみたんです。「リーダーのポジションを、本当は手放したくなかったのでは?」と。すると、「会社が成長するためには、今の自分にはないものを持っている彼の方がリーダーに向いている」と言いました。このように考えているメンバーばかりで、本当に驚きました。

村田氏のエピソードを聞き、いったいどのようにして今のチームをつくってきたのか山田氏に聞いた。

山田先に本音を言うと、そこまで意図的にメンバーに働きかけてきたわけではありません。それよりも採用を意識してきた感じです。

困っている人がいる際に、「自分の利益になるかどうか、天秤にかけるような人」よりも、「迷わず助けようと思う人」と仕事をしたいんです。そのような考え方もあって、私たちは3期目以降、どれだけ人が足りないことがあっても、「この人と仕事をしたい」と思える人しか絶対に採用しない、と徹底するようになりました。

自分も含め若いメンバーが当初は多かったのですが、キャリアのあるミドルやシニア層の方々にマネジメントしていただく体制をつくろうとしてきました。

また、意思決定をできるだけほかのメンバーに任せるようにしています。例えば採用活動においては、面接はもちろんしますが、セールス職の採用なら、セールスのリーダーがオファーするかどうかを決めます。「自分の身のまわりのことは自分でやろう」とリクエストしているんです。そういう中で仕事をしたいメンバーを集めているので、必然的に今の環境ができたのでしょう。

村田Micoworksがさらに成長していく上で、本当に重要なことですね。

経営者マインドを持つ、すなわち自分で考える人がたくさんいる組織、言い換えるなら大きな組織の中に小さな集合体をたくさん内包している、そんな形は、それこそARR100億円の会社になる上で絶対的に必要な条件になってきます。私や前田さんはそこに魅力を感じたのでしょうね。

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意外と難しい「拡張性のあるポジショニング」

イベントは第2部へと進行。広大なマーケットが存在するホリゾンタルSaaSを勝ち抜くための視点やマインドを掘り下げていく。

HR領域でSaaSプロダクトを運営していたMicoworksは、もともと、複数のプロダクトを運営していた。しかし今は『MicoCloud』一本に集中している。いわば「選択と集中」を選んだわけだ。なぜその道を選び、そしてその後どのような成長を遂げたのかに迫る。

関連記事:前田ヒロ氏、福島良典氏、深津貴之氏ら引き寄せる300%成長の、業界インフラとなるプロダクト──Micoworks山田が目指すはアジアNo.1のマーケSaaSカンパニー | FastGrow

山田サービスを拡大していく中で、初めは少人数でも上手くいっている感覚を持っていました。「こうしたら面白そう」ということがあれば、どんどん拡大させていきましたね。その結果、事業が増える中で、各事業のリーダーになれる人がいないという事態に陥りました。

例えば、プロダクトのことを考えられる人をリーダーにしていたら、セールスがまったくできず数字が伸びず鈍化し、反対にセールスの人にするとプロダクトの開発がおかしくなるといったことです。

そんな中、HR業界には次々と資本のあるプレイヤーが参入します。私たちスタートアップの競争優位はスピード感にあるはずなのですが、結局、彼らにも優秀な人がいるので、優位性がなくなり、焦ってきました。

本来であれば、経営をするなら5年、10年と長期的な目線をもって、「どのようにして偉大なプロダクトをつくるのか」という問いを立てるべきです。しかし、当時の私は半年後や1年後しか見えなくなっていました。その結果、投資効果も悪くなってきたので、結果として他の事業をやめることにしたんです。

事業が拡大するにつれ、強い競合と戦い続けることの厳しさを体感した山田氏。愛着を持っていたプロダクトを手放し、大きな変化を感じたのは自分達のリソースだ。

山田辞める前は、プロダクト開発に占めるリソースが全体の2~3割しかありませんでした。それでも260%ぐらいの成長率はあったものの、1つにフォーカスすることで今は300%以上の成長率をキープできるようになりました。明らかに良くなっていますよね(笑)。

ようやく、「1つの会社」になってきたという実感がありますね。まったく違うビジネスを複数抱えていたので、「1つの会社が3つのカンパニーを持っている」ような形になっていたんですね。それがようやく、統一されてきました。

選択と集中によって活路を見いだしたMicoworks。そこからの躍進は言わずもがな、シリーズAで12億円の資金調達にまで至っている。しかしあえて掘り下げたいのだが、シリーズAといえば投資ラウンドでいうアーリー期、もしくはこれからミドル期に入ろうというタイミングだ。

数々のスタートアップへ投資を行ってきたVCから見たこの「選択と集中」は、どう映ったのだろうか。シリーズAは広げるフェーズなのか、それともMicoworksのように狭めることが正解なのかVCの二人に聞いた。

前田私は広げるか集中するべきかでいうと、集中した方がいいと考えています。まず根本的な話をすると、PMFを達成することが本当に重要なフェーズです。そのために、セグメント、ユースケース、バリューなどはできる限り絞った方が良い。セグメントやバリューが多様にあったり、機能が山ほどあったりする状態だと、ユーザーに何が刺さっていて何が刺さっていないのかがわからないんですよね。

とはいえ、狭めた方がいいのですが、マーケティングSaaSだとこれが難しい。ツール系のサービスであれば比較的簡単なんです。例えばZoomであれば、簡単にリモートでコールができるバリューがあるので、このバリューに対して検証するのは、比較的やりやすい。

一方で、「エンタープライズのマーケティングを効率化する」という定義になってくると複雑です。この定義をどこまで小さくできるか、尖らせることができるか、できる限りそのバリューとセグメントを絞って検証していくことが重要になります。

シリーズAにおいて重要なのはPMFを達成することであり、そのためには検証材料を絞ることが重要だとした。そしてVCとしてもう一つ重要視しているポイントがあると話す。それが市場でのポジショニングだ。

前田「プロダクトのポジショニングが魅力的かどうか」という点も、投資を決定する際に見ている重要なポイントです。強いプレイヤーがすでに存在していたり、競合に挟み撃ちされていたりするプロダクトは、仮に何かしらのセグメントやユースケースに刺さったとしてもその後の拡張を望みにくい。

先ほどお話ししたように、SaaSは特にARR100億円、200億円、300億円と拡大を狙っていくわけですから、そのたびごとに機能やセグメントを拡張していく必要があります。そうでなければ、ユーザーの深い課題を解決していくことはできません。

その点、Micoworksはかなり素晴らしいポジショニングを狙いに行っています。ユーザーとブランドの間のコミュニケーションを押さえることで、ユーザーのデータを活用したり、LTVを上げる施策を展開したり、ユーザーとのタッチポイントを増やしたりと、様々な方向に展開できるんですよね。

PMFと良いポジショニングがあれば、そこにリソースを集中すべき。まさにMicoworksが辿ってきた道であり、HRよりも拡張性の高いマーケティング領域へ全集中したことが当てはまる。

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広大なSaaS市場で勝ち抜く鍵は「顧客の必然を自らつくりだすこと」

イベントは最後のディスカッションに移る。ここまでの話を踏まえて最後は「未来」の話をしよう。広大なマーケティングSaaSの市場で、勝ち抜くために必要なことはなにか。どうすれば勝ち抜き1千億、 1兆円企業になれるのか。様々な失敗と成功を見てきたVCの視点から、未来を切り開く術を学ぶ。

前田SaaSの鉄則になりますが、勝ち抜くには「カスタマーオブセッション」しかありません。誰よりもユーザーに寄り添う。それが初期のSaaSの勝ち筋ですね。

例えば大手や先行しているプレイヤーは、様々なセグメントがあると全てを満たそうとしがちです。そのため、中途半端なプロダクトになってしまうということが、SaaSにおけるイノベーションのジレンマとしてあります。

そんな中、スタートアップにできることは、他のプレイヤーにはできない戦略として「徹底的に特定のセグメントに寄り添う」ことでしょう。

そして次のフェーズに必要なことがオペレーションエクセレンスです。セールスも、カスタマーサクセスも、そしてプロダクトもですが、洗練されたオペレーションにして拡大させていく。ユーザーにとって、どこよりも高品質なサービスを受けられるような状態をつくり拡大しなくてはなりません。ユーザーに寄り添い、オペレーションを磨いた後にブランド力がついてきます。

レイトマジョリティのセグメントに入ってくると、もはや機能比較でプロダクトを選ぶわけではなくなります。わかりやすい実績があることや、信頼できるブランドがあることなどを強く意識しているセグメントです。

顧客は、一番信頼できるブランドを選びたいと考えるもの。これがSaaSの一連の流れであり、目指すべき勝ち筋です。

前田氏が言うSaaSの鉄則には村田氏も同意する。そして更に一歩先の視点を付け加える。それはプロダクトを扱うユーザーの状況にまで、想像力を働かせることの重要性だ。

イベント中の様子

村田私たちは「スター」という言い方をするのですが、プロダクトを導入した人たちが社内で感謝される「スター」になることが大事だと考えています。導入を決定した人が、社内で賞賛される立場になるイメージが湧くかどうか。顧客企業の現場のイメージが湧くかどうかが、初期のプロダクトにはとても大切です。

「どれだけ売れていますか」という話をよく聞きますが、大事なのは売れていることよりも、実際に使われていることです。100人に売れていても1人しか使われていないよりも、10人に売れて10人が使っているプロダクトの方が絶対にポテンシャルは高いですよね。

使われることによって、オペレーションのデータが溜まっていくので、次のステップとしてビジネスを拡張する上での武器になってくるのは間違いないでしょう。

前田氏も村田氏も顧客に寄り添うカスタマーオブセッションの重要性を主張する。しかし、「ユーザーの声に寄り添い課題を解決したい」というのは誰もが思っていることだ。それが提供側のエゴではなく、真に寄り添っているのかを見極めるにはどうしているのだろうか。例えばMicoworksへの投資の際にどのようにして検証したのかを聞いた。

前田正直なところでいくと、ユーザーと話すしかありません。そんな中で私が必ず聞いている質問の1つが「このサービスがなくなったら、どのぐらいがっかりしますか」です。

実際にユーザーインタビューでこの質問をしたところ、Micoworksのサービスがなくなったら相当がっかりするという答えが返ってきました。「Micoworksがない世界は想像できない」と答える程に、前の世界には戻りたくないというのです。これこそまさにトランスフォーメーションを起こしていると感じますよね。

プロダクトが導入される前の世界に戻りたくないという状態をつくること。ある意味PMFに近いですが、ユーザーへの刺さり具合を現わす要素ではないでしょうか。

村田ユーザーにヒアリングするのは私たちも同じです。私たちの場合は質問というよりも、そのプロダクトを使っている中での「不満」を聞くようにしています。

なぜわざわざ不満を聞くのかと思われるかもしれませんね。もちろんあってはいけない不満もあるのですが、使いこなした上でしか見えてこない不満もあります。「機能の拡張に対する欲求」というのは、逆に言えばしっかり使っていることの裏返しです。そのようなリクエストが出てきた時に、プロダクトの伸びしろを感じるんです。

「導入前の世界に戻りたくない」というユーザーの声は、プロダクト開発者にとって嬉しいだけでなく、投資家が未来への可能性を感じる効果も絶大だ。Micoworksが新しいSaaS時代を引っ張っていく可能性を持つプロダクトであると、前田氏と村田氏はユーザーの声から確信したのだ。

そして最後は山田氏に、今後の戦略とどのようにして1兆円企業を目指していくのかを聞いた。

山田そもそも論として、スタートアップが強みを語っても、資本力のある企業なら簡単に真似できてしまうのが現実としてあります。ただ「使い始める必然性と使い続ける中毒性は、そう簡単に真似できない」と考えています。

私たちの中長期的な戦略としては、特に「使い始める必然性」をどれだけ強く、そしてその範囲を広げることができるのかが鍵です。そのためには、自分達にとって耳が痛いことでもユーザーの声を聞き向き合い続ける姿勢がもっとも重要になります。

こういった姿勢は10~20人くらいならすぐに共有できるんですよね。ただ300~400人といった大きな会社だと、チームで取り組み続けられるカルチャーがあるかどうかが全てです。私たちはまずそのようなカルチャーをつくっていこうとしています。

そしてどこまででもユーザーに向き合い続けることで、ユーザーの皆さんにとって「使い続ける必然性」となるものをつくる。少し抽象度が高いですが、思想としてはそのように考えていますね。

ユーザーにとって「使い続ける必然性」を提供する。Micoworksが目指すカルチャーを実現するには、ブレない思想と実際に価値を提供するプロダクトが欠かせない。

山田プロダクト的な観点で行くと、私たちはLINEの活用に限定していくつもりはありません。あらゆるBtoC企業のビジネス全ての課題を解決したいと考えています。メールやInstagramとの連携は当然のこと、ターゲット企業もミッドエンタープライズから拡張させていきます。

私たちの今後は、様々な方向に「拡張」させていくことが大きなテーマですね。

こちらの記事は2022年04月26日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

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執筆

大久保 崇

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