INTERVIEW
南 章行
18-02-05-Mon

スキルのフリーマーケットは
なぜ500円均一でローンチされ、
どうやって「ニワトリ卵問題」を越えたのか?

TEXT BY MISA HARADA@HEW
PHOTO BY YUKI IKEDA
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ココナラは、知識・スキル・経験など、
ユーザーが自分の得意分野を気軽に売り買いできるオンライン・フリーマーケット。

20万件近くの出品サービスは、
動画やイラストやHP作成、転職相談、占い、ファッション提案と大変バラエティ豊かなものが揃っている。

有限責任監査法人トーマツが発表したテクノロジー企業成長率ランキング、
いわゆる「Fast50」でも1位を獲得するなど、間違いなく今注目すべき企業のひとつだ。

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「100歳まで生きてしまうじゃないか!」

南は35歳のとき、「俺たちの世代は100歳まで“生きてしまう”」と気づいた。栄養環境もよくなり、医療も進歩して、日本人は長寿になった。しかし、それはけっして希望ではない。

年金制度の破綻や老後の生活資金などを考えると、100歳まで生きることは、もはやリスクでしかないのだ。危機感を覚えた南は、「80歳までどうやったら働き続けられるだろう」と考えるようになる。

20代にして売上1,000億円の会社で役員を務めた経験の持ち主である南。それでも、ファンドマネージャーとしては、世の中にインパクトを与えるトップレベルにはなれず、いち担当者レベルで終わるだろうとシビアに自己分析した。

“80歳まで仕事ができる人”とは、いったいどんな人物なのか?南は考えた末に、「孫さんや柳井さんのように自ら事業を生み出した人なら何歳になっても人脈、情報、お金を駆使して働き続けられる」という結論を出す。

「事業を生み出すとなると、ベンチャーを経験するのが一番ではないか?」そう考えた南は始め、起業ではなくベンチャーへの転職を考えていた。

転職活動を通し、多くの起業家と会ってみた南は、「地力が必ずしも自分と差があるようには見えないが、絶対に勝てない」という感情を抱いた。そこで南は、はたと気づく。「この差は経営トップとしての意思決定をしてきたからではないか。80歳になっても事業を生み出すと言っているわりに、なぜNo.2になろうとしているんだ」と。

「もっと自分で泥にまみれなければ」と考え、会社を辞めることを決めた。加えてその決断には、東日本大震災も大きな影響を与えている。「生きているだけで充分幸せ」という視点を持てた南にとって、起業はもはや恐れる対象ではなかった。

実は、創業当初はヘルスケア事業を構想していたという。現在は随分と事業内容が転換した形だが、南の中に矛盾はない。

もともと企業買収ファンドをしていたのも、リストラから人を救いたいという想いがあったから。それにブラストビート、二枚目の名刺という2つのNPO法人を立ち上げたのも、人が自分らしく生きるためのサポートをしたいという想いがあったからです。私にとって、『1人1人が強く生きていくための手助けをする』というのはライフワークで、その点では、ココナラもヘルスケア事業も共通しています。

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“売る”のではなく“人の役に立つ”というブランディング

“スキルのフリーマーケット”という事業内容は、どのように生まれたものなのか?「これからの時代、スキルを流通させられるんじゃないか」というアイデアを閃いたのは、取締役である新明智(しんみょう さとし)だった。

株式会社ココナラ 取締役 新明智|会社情報 — coconala Inc.より

南は最初、アイデア自体は面白く感じつつも、マーケットが小さいように感じて“ボツ案”にしていた。しかし、ヘルスケアの事業プランニングをする中で出会った管理栄養士が「病院以外でも食事指導の相談に乗ってあげられる場があったらいいのに」と嘆いていたことが印象に残った。

誰かの役に立ちたいと思っている人って、実は無数にいるんじゃないかと思ったんです。直接『ありがとう』と言ってもらう喜びは、意外と仕事で得られないものかもしれない。

一方で、その喜びを得られる場を社会が上手く提供できていないんじゃないかと。それに世の中にある悩みや課題って実際、ちょっと詳しい知り合いが軽く教えてくれたら十分なものが95%ではないでしょうか。

食事指導など、一つ一つは小さいビジネスにしかならない悩みも、仮に1,000種類の悩みカテゴリーでマッチングさせることができたら、それって立派なマーケットじゃないか!と気づいたんです。

そのとき南の頭の中で、新明が提案した「スキルの流通」というコンセプトが蘇った。単純に“スキルを売る”だけではピンと来なかったが、“人の役に立つ”まで意味を広げれば、それは自分のライフワークにも繋がることではないか。1人1人が自分らしく在るために、スキルをやり取りするんだ──。

すべての考えが整理されたとき、ココナラが誕生した。

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大ファンこそがプラットフォームビジネスのキモ

しかし、CtoCのビジネスモデルとなると、気になるのは、需要サイドと供給サイドのどちらから集めていくのか?という“ニワトリ・タマゴ問題”。「ココナラ」立ち上げ時は、出品価格は500円均一にし、普通500円では手に入らないような高クオリティのサービスを提供できる出品者を苦労して集めた。

もちろん単純に、「いい売り手がいれば、買い手は自然と集まる」という話ではない。南が目論んだのは、“ニワトリとタマゴの境界をなくす”ことだった。

彼が見抜いたのは、出品と購入の両方を行うユーザー率が高ければ、サービスの成長は早まるということ。現在ではその最たる例が「メルカリ」である。

南は、「Airbnbで部屋を貸している人は、自分も旅行するときAirbnbを使おうと思いますよね?」と説明する。売り手と買い手の転換が多いものは、ニワトリ・タマゴ問題の悩みを抱えなくて済む。“売る人をいかに買わせるか”が設計の肝だ。

そのためサービス開始時に行っていたのが、500円均一という安い値付け、そして、「スキルで儲けよう」ではなく「スキルで人の役に立とう」というブランディングだった。

最初の売り手は、小遣い稼ぎや儲けを期待するのではなく、「自分が社会の役に立てるなら」と、安価で高いスキルを提供してくれた人々。「人の役に立とう」というコンセプトを大々的に掲げたサイトであれば、そういった売り手たちが「きっと自分以外の売り手も善意で出品している高いスキルの持ち主だろう」と、安心して他の出品スキルを購入できるというわけだ。

ただ、CtoCのマッチングという、ある程度クオリティをユーザーに委ねなければならないサービスにおいて危惧されるのが、悪用の可能性だ。

ユーザーが運営の意図しない使い方をしたことが原因で、クローズせざるをえなくなったサービスはいくつもある。ココナラではもちろん、NGワードを登録したり、出品物を毎日目視ですべてチェックしたりなど、クリーンなプラットフォームを保つための仕組みを設けている。

そしてもうひとつ、面白いエピソードがある。

実はココナラのスタートより少し早く、他のベンチャーが、ほとんど同じコンセプトのサービスを立ち上げていたというのだ。

もちろん、結果的にはそちらは失敗したという。良い売り手をそろえず、良質なコミュニティ構築を怠ったことが原因で、売り手がふざけあってしまい“出品サービスが大喜利状態”に陥ってしまったからである。

ココナラはリリース時、本当にクオリティの高いモノを集めました。

皆が一生懸命にいいものを出品する場になれば、後から来る人もマジメに出品するし、変なユーザーが入ってきても、元からいた人たちが諭したり通報したりしてくれて、コミュニティの自浄作用によって場のクオリティが守られるんです。

その考えのもと、ココナラでは単純な売り買いではなく、“コミュニティを作ること”を重視しており、出品者交流会も開催している。

イベントで社員と知り合いになった人や、他の出品者と仲良くなった人って、ずっとココナラに残ってくれるんです。そうやってココナラを愛してくれる人たちが、いい文化を醸成する。

場の空気感まで設計するというのは、プラットフォームビジネスにとって、本当に重要なことなんです。

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新しい経済インフラを目指して

現在ココナラでは、オンラインでやり取りできる内容に出品物を限定しているが、ここには重要な戦略が影を潜めている。

まずは物理的・時間的制約のないオンラインという場でマッチングを積み上げていき、サービスが全国に広がったら、電話やビデオチャットのような「時間がマッチすればできる」同期系サービスの出品を解禁する。そして最後に、実際に会うサービスを分野を見極めながら解禁するという戦略だ。

南は、「インターネットサービスだからこそ、この順番を間違えると広がらない」と指摘しており、タイミングの見極めはあくまで慎重に行う。出品者や購入者の属性を分析しながら、サービスの領域・提供手段・クオリティを拡大していく心づもりだ。

シェアリングエコノミーがバズワードを越え、世の中になくてはならない新しい経済の形として定着した昨今。メディアで取り上げられる機会も増え、急成長した印象のあるココナラ。意外にも成長率自体はほとんど変わっていないという。

しかし、どんどん売り上げが大きくなる中で、一定の成長を保ち続けているというのは充分称賛されるべきことだろう。

南が「ココナラはビジョン・ドリブンの会社なんです」と語る通り、組織診断を受けた際、「ビジョンや戦略の納得・理解度」の項目において、他社対比でも自社内の多項目対比でも非常に高い点数が出た。

同社で求められるのは、“自分らしく在ることを素敵だと感じられる”人材。いくら優秀でもそれを否定する人間に入られては、組織が濁ってしまうと南は考えている。

他のマネジャーがスキル面をしっかりみてくれるので、自分は面接でも仕事の話はほとんどせず、個人の価値観や意思決定プロセスを訊いていき、自分らしくある素晴らしさを知る人間ばかりを集めていったところ、自然と社内には、「何か好きな物を極めようとした経験がある」、もしくは、「自分の人生を切り開くために、ぐっと舵を切った経験がある」メンバーが集まるようになった。

何かを自分の意志で選んで頑張れる人間は、対象が変わっても頑張れるんですよ。それに、“自分らしさ”を追及したゆえに頑張ったことのある人間は、生き方そのものが、うちのビジョンに共鳴しています。

もう日本では、企業や自治体が個人を支えていくのは財政的に難しくて、個人同士が助け合う世の中を再設計するしか道がありません。個人が自分らしさを活かしながら支えあっていく社会は絶対に訪れます。

そのために新しいインフラを作ることにわくわくできる人と一緒に仕事がしていきたいですね。

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