連載0→1創世記

「不動産業界は“情報の非対称性”が著しい」
マンションマーケットが描く、
消費者の力を強くする業界変革手法

インタビュイー

立命館大学理工学部を卒業後、株式会社リクルートに入社。 不動産情報サイトの「SUUMO」にて、広告企画営業として、300社以上の不動産会社を担当。集客支援・営業支援を通じて、担当不動産会社の業績拡大および改善に寄与。
2014年5月に、株式会社マンションマーケットを創業し、代表取締役に就任。

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マンションマーケットは、「納得できる不動産取引」の実現を目指し、日本最大級のマンション相場サイト「マンションマーケット」の運営と、不動産仲介サービスを提供している。

代表取締役である吉田紘祐が問題意識を感じているのは、不動産業界にある“情報の非対称性”だ。

同社は、買い手/買い手に適切な情報を与えることで、自分らしい住まいの選択をサポートする。

  • TEXT BY MISA HARADA
  • PHOTO BY YUKI IKEDA
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広告費を抑え、仲介手数料のコストカットを実現

吉田のルーツは、小学校のときに読んだライト兄弟の伝記にある。動力飛行機を創り出した兄弟の物語を読んで、吉田は、自ら生み出したもので世の中に影響を与えることを夢見るようになった。そして、その想いは起業への憧れに繋がっていく。2009年に新卒でリクルートに入社すると、不動産メディア「SUUMO(スーモ)」に配属されて営業を担当。そこで過ごした約3年間の中で感じた不動産業界への問題意識が、マンションマーケットの事業の根底にある。創業からサービス自体は変化しても、根っこにある想いはずっと同じだ。

マンションマーケット|【マンションマーケット】中古マンションの売却・購入・価格相場サイトより

吉田一般消費者と、不動産業者が握っている情報の差が非常に大きいと感じました。非常に大きな金額の買い物であるにもかかわらず、消費者の方は、自分が買おうとしている商品に適切な値付けがされているのかが判断できません。また、中古不動産の売買時の仲介手数料は、物件価格の3%+6万円が法律で上限と定められています。つまり、物件価格によって受け取る手数料が大きく変わるということなんです。そんな状況に違和感を覚えました。

なぜ日本の不動産業界は、情報がオープンになっていないのだろうか?

吉田『お客様が賢くなりすぎるのは困る』と考えている不動産業者が多いのかもしれません。お客様が相場を理解するようになってしまったら、自分たちに都合よくサービス提供できない。そういう考えから、業者側が情報をオープンにしてこなかったという背景があります。加えて、不動産の成約価格は、日本だと個人情報扱いになってしまうのでオープンにしづらいんですよね。そういったいろいろな要因が組み合わさって、どうしても業者の方が有利な状況になってしまっています。

マンションマーケットでは、物件価格に依存した手数料体系ではなく、定額の仲介手数料でサービス提供している。そのぶん成約数を増やすことで収益を高めていく戦略だが、一般的な不動産会社のようにポスティングなどを行わず、広告費がほとんどかかっていないことが、そのモデルを実現させている。

マンションマーケットでは他にも不動産情報メディア「マンションサプリ」も運営。「いずれ不動産を買って/売ってみようかな」という潜在ユーザーに対してアプローチするためだ。だからこそ不動産のプロが監修し、情報の質にはこだわる。オウンドメディアを利用した集客によって広告費を抑えて、仲介手数料のコストカットを実現する。これがマンションマーケットの勝ち筋だ。

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取引量を増やし不動産業界全体を活性化

マンションマーケットでは、結婚や出産といったライフステージに合わせ、カジュアルに家を住み替えられる社会を実現することを目指している。自分らしい住まいの選択ができる世の中を作る。そのために、相場や価格の正確な情報をオープンにして、売りやすさ/買いやすさに繋げていく。実際に「マンションマーケット」を利用して、何度か住み替えをしているユーザーもいるという。吉田は、「うちのサービスが愛されているってことでしたら嬉しいですね」と語った。

情報優位にある不動産会社ファーストな業界から「ユーザーファースト」へ移行させることに挑んでいくつもりだ。

吉田アナログな部分が多く残る不動産領域において業務の効率化も進めていきます。さらに、現在の不動産業界では、物件情報の提供や集客に注力するあまり、“その物件を調査して、契約者に正しい情報を伝え、安心安全な取引を遂行する仲介業務”という部分にあまりフォーカスされていないことも解決したい課題の1つです。

とにかく吉田がまだ不動産領域で課題に感じている部分は多いのだ。

しかし吉田は、不動産業界が抱える問題点について熱弁するときも、あくまで控えめな態度を崩さない。保守的な業界で、ITを武器に立ち上がったスタートアップとなれば、「古い体質の会社を打ち破る」といった威勢のいいことを言いたくなるはずではないか?そう問うと吉田は、「壊すとか変えるとかは、おこがましくてなかなか言えませんよね」と苦笑した。

吉田確かに中古物件の流通においては、ルール違反に近いことを平気でやっている会社もあります。それを弾劾することは簡単ですが、言って終わりにしないためには、まず私たち自身が信念を持ってサービスを提供し、消費者に支持されなければなりません。業界の仕組みとして、他の仲介業者さんと共同仲介として一緒に仕事をすることもありますし、むやみにトラディショナルな会社を攻撃したところで、自分たちが苦しくなるだけだと思っています。自分たちが不動産業界にインパクトを持てるようになるためにも、“強い言葉を言わない”というのは、むしろ心がけている部分ですね。

「他の企業を負かしたい」でもなく、「旧体制の会社を壊したい」でもなく、吉田が抱いている思いは、「業界全体をより良くしたい」だ。

吉田日本の人口が減ってくる中で、現状の売買件数のままだと、不動産の取引量は減る一方。業界全体が衰退していきます。情報やサービスを提供することによって、業界の活性化の一助となればと考えています。不動産業界のためにも、もっともっと新しいことにチャレンジしていきたいんです。

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エンジニアが“お客さんとの距離の遠さ”を感じない環境

マンションマーケットで働くメンバーの仕事内容は、不動産の仲介業務と、メディアの運営やプロダクト開発を行うIT業務と、大きく2つに分けられる。しかし、どちらにも共通して求めているのが、“業界に一石を投じたい”という想いを抱いている人材だ。

吉田不動産業界に対して思うところがある人はもちろん、もっと広く、古い業界をより良く変えたいという思いがある人は歓迎します。実際、まだそれほどITと結びついていない業界ということに魅力を感じてマンションマーケットにジョインしてくれたエンジニアも多いんです。あとは、社員が今25人程度なので、それくらいの小規模のところで自分の裁量を持って仕事をしたい人にも向いている会社だと思います。

マンションマーケットで働くエンジニアには、“ビジネス側と距離が近い”という魅力がある。同じ社内で生々しい不動産の売買交渉が行われるため、多くのエンジニアが“臨場感”を感じているという。

今後はビッグデータの解析やAIの領域にも参入していきたいと吉田が話す同社には、大手不動産ポータルサイト運営企業や、有名ベンチャー企業でテックリードエンジニアを務めていたような優秀なエンジニアのジョインも相次ぐ。

不動産×ITで勝負をしかけ、優秀なエンジニアも集まりだしたそんなマンションマーケットだが、実は吉田自身はITに関しては「ズブのド素人」という状態から事業をスタートさせた。創業メンバーでとにかく本を読んで勉強し、なんとか開発できるレベルに成長。それほどの苦労を乗り越えたモチベーションは、やはり“業界をより良くしたい”という想いだ。

吉田不動産業界の現状って、やっぱり私個人の感覚としておかしいと思うんです。なので、『もっとこうあるべきなんじゃないか』という想いが原動力になっています。あとは、生きているからには何か社会に爪痕を残したい。1人でも多くの方に使っていただけるサービスを生み出せるのは非常に幸せなことだと思いますから、そこに向かって今後も走り続けていきます。

世の中に新しい何かを創造したい──。少年時代、ライト兄弟を夢見た気持ちは、今も吉田の心の中に息づいている。

こちらの記事は2018年02月14日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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池田 有輝

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兼久 隆行
  • TFHD digital株式会社 取締役執行役員 
  • 東急不動産ホールディングス株式会社 グループDX推進部統括部長 
  • 東急不動産株式会社 DX推進部統括部長 
公開日2024/03/29

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