“スキル偏差値”が、事業創造カンパニーを生んだ──「エンジニアの進化」という期待を一手に背負うファインディを徹底解剖
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IT人材不足やデジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れ。多くの人が「気づいてはいるが、なんとなく見て見ぬふりをしてきた」という状態が続いていると言っても過言ではないだろう。いやもちろん、さまざまな経営者や起業家がこの課題を事業領域として挑戦している事実はあるのだが、世間一般に広く共有された課題意識になるには至っていないように感じられる。
これは間違いなく、日本の産業全体の成長を阻害しかねない喫緊の課題だ。突破口はないのだろうか?いや、ある。そう感じさせてくれるスタートアップの1社が、ファインディ株式会社(以下、ファインディ)だ。
2025年にはドラゴンボールとのコラボでテレビCMを放映。SNSでもその様子を目にした人はきっと多く、認知度がさらに高まったところだろう。だが、もしかしたら、「社名は知っているけれど、実態をまだ詳しく知らない」という読者が、実は多いのではないだろうか。あるいは、「エンジニア向けに、真新しい人材紹介モデルを確立した企業」というようなイメージも多いだろうか。いずれも、非常にもったいない認知だ。そんなあなたに向け、今回、公開情報を基に、スタートアップ・ベンチャー企業の記事を2,000本以上つくってきたFastGrowで独自の考察をまとめた。
この記事を読めば、ファインディは単に人材紹介の新しい形をつくっただけではないとわかるはずだ。もう一歩深く、具体的には、エンジニアの真の市場価値を可視化し、日本のテクノロジー発展を加速させる、まさに「デジタル社会を日本に根付かせる仕掛け人」となっていることがわかるだろう。
今や知る人ぞ知る優良企業となっているファインディの凄さの核心に迫る本記事。間違いなく、スタートアップパーソン必読だ。
累計ユーザー22万人、3,500社超が利用、43億円調達、組織規模も急拡大
ファインディは、日本のIT業界における喫緊の課題へ向き合い、目覚ましい成長を遂げてきた。その成長ポテンシャルは、定量的なデータからも読み取ることができる。
ファインディの成長を支える3つの定量指標
- 累計調達額43億円:2025年5月25日時点で、ファインディの累計調達額は43億円に達している(同社プレスリリースから)。事業開発・技術開発へ積極的に投資を続け、成長を加速させてきた
- 累計会員登録数約22万人、国内3,500社が利用:うち、転職サービス『Findy』の登録エンジニアは12万人を突破、登録企業数は約1,100社(ここまで、直近2025年9月のプレスリリースから)。エンジニア組織の戦略支援SaaS『Findy Team+』は、2021年10月の正式リリース以降、約850社(トライアル含む)が導入(2025年8月のプレスリリースから)
- 従業員数2倍増の急成長:従業員数は2023年の150名規模から、2025年には300名を超えるほど急拡大。この規模になっても衰えぬ拡大基調は、日本のスタートアップでもまだまだ珍しい
これらの数値は、ファインディが市場のニーズを的確に捉え、事業を力強く推進している証左と言えるだろう。
創業者・山田氏の失敗から生まれた「プロダクト開発」の秘密
さて、まずはファインディ代表取締役の山田裕一郎氏のキャリア面にフォーカスしたい(主にFastGrowでの過去のインタビューから抜粋)。
新卒で三菱重工業に入社し、技術への情熱を抱くエンジニアたちが日本の製造業を牽引する姿に感銘を受けた原体験を持つ同氏は、その後ボストンコンサルティンググループを経て、オンライン英会話サービス『レアジョブ』へ転職し、ベンチャー企業のキャリアをスタート。人事・マーケティングを担当する中で、IT業界におけるエンジニアとビジネスサイドの間に「相互理解の溝」があることに強い危機感を抱いた。この問題意識こそが、ファインディ創業の原点となっている。
創業当初の道のりは平坦ではなかった。山田氏が最初に構想したプロダクトは、AIを活用した求人票解析サービス『Findy Score』。「企業の採用担当者が求人票を入力すると、AIが採点し、候補者の応募が増えるようなアドバイスを提供する」という画期的なサービスとなるはずだった。だが、このプロダクトは市場で「全く売れなかった」という苦境に直面する。コンセプトとしては役立ちそうに聞こえるものの、実際に現場で働く採用担当者の立場からは、その必要性が感じられなかったというのだ。山田氏自身、「自身の経験と海外の潮流を過信していた」と後に語っている。ユーザーヒアリングが不十分で、市場のニーズを捉えられていなかったのだ。
エピソードの詳細はこちらの記事にて
この失敗が、山田氏そしてファインディにとって大きな転換点となった。ユーザーヒアリングの重要さはもちろんのこと、そこからどのようなインサイトを得つつ、本質的なニーズを見極めるべきか──。プロダクト開発の根幹ともいえる部分の学びを、実践から深めた山田氏らの快進撃が、ここから始まっていく。
非連続な事業拡張と、それを支える資金調達、そして競争優位を生んだ「スキル偏差値」
具体的なプロダクト戦略を見ていく前に、戦略的な資金調達について触れておきたい。
公表時期 | ラウンド | 調達額 | 参考リンク |
---|---|---|---|
2019年6月 | シリーズA | 約2億円 | プレスリリース |
2020年8月 | シリーズB | 総額7.7億円 | プレスリリース |
2022年4月 | シリーズC | 約15億円 | プレスリリース |
2025年5月 | シリーズD | 総額20.5億円 | プレスリリース |
2019年6月の調達リリースでは『Findy 転職』と『Findy Freelance』を提供サービスとして紹介し、「スキル偏差値」の紹介がメインだった。2020年8月の調達リリースでは『Findy Team+』β版のローンチを伝え、人材紹介にとどまらない事業展開を進め始めた。
2022年4月発表のシリーズCラウンドでは、さらに外国人ITエンジニア採用を支援するサービス『Findy Global』提供開始(現在はサービス終了)を伝えつつ、「世界共通のプラットフォームづくりを推進」すると強調。そして2024年にはインドで『Findy Team+』を提供開始すると、2025年5月発表のシリーズDラウンドでは、韓国・台湾へ進出することを公表した。
このように、調達した資金によって全く新しい挑戦を常に始めてきたことが、ファインディの特徴だと言える。
そんなファインディの事業といえば、多くの読者の頭に真っ先に浮かぶのが「スキル偏差値」だろう。
7年前に公開した「スキル偏差値」がX(旧Twitter)で拡散され、広がったのがFindyの始まりです。
— ふぃりっぷ/山田裕一朗@Findy代表 (@yuichiro826) September 5, 2025
というわけで、めちゃくちゃ嬉しいです!!
X Corp. Japan、日本での新機能開発を加速!ソフトウェアエンジニア採用強化に向けて「Findy」を導入 https://t.co/NJnlsIhnDd @PRTIMES_JPより pic.twitter.com/fagjcTOU2b
この独自技術は、GitHubの活動履歴をAIで解析し、エンジニアのスキルを客観的に数値化するという画期的なもので、たびたびSNS上で話題になってきた。
この「偏差値」の可視化がキャッチーという点はもちろんのこと、従来のエンジニア採用における課題感に適切にアプローチする施策でもあった。
この施策・技術を基盤として、複数のサービス展開を軌道に乗せてきたわけだ。
たとえば『Findy 転職』や『Findy Freelance』。これらのような転職・副業紹介サービスといえば、エージェントが労働集約的・属人的にコミュニケーションをとるか、ダイレクトリクルーティング型でデジタルなマッチングを促すか、のどちらかを想像する読者が多いだろう。ファインディもそうした価値を否定するわけではなく、取り入れているわけではあるが、「スキル偏差値」を始めとした独自の新しい価値提供により、圧倒的な差別化を実現してきたわけだ。
また、この「スキル偏差値」は、採用・転職のタイミングでのみ役立つわけではない。一人ひとりのエンジニアにとって、いつもの仕事でどう成長していけるのか、そしてキャリア形成をどう進化させていけるのか、そんな点でも大きな影響を与えている。
ファインディも引き続き、この「スキル偏差値」に磨きをかけており、2024年12月にはver.3として大きくアップデート。Ruby、Python、Go、PHP、JavaScript、TypeScriptの6言語に新たに対応した。
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— Findy(ファインディ) (@findy_code) December 16, 2024
スキル偏差値がver.3にアップデート!
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2017年以来、多くのエンジニアにご活用いただいてきた「スキル偏差値」をアップデートしました!
よりコードの中身を重視する新しいスキル偏差値をぜひご確認ください#Findy#スキル偏差値https://t.co/CRGty1DDYW pic.twitter.com/9U0YvhUh17
他にも、開発ツールに特化したレビューサイト『Findy Tools』のβ版を2024年1月に、AI関連職種の転職・採用に特化した『Findy AI Career』を2025年7月にそれぞれリリース。次々とプロダクトを増やし、エンジニアプラットフォームとしての地位を確固たるものにしていこうとしている。
優秀なマネジメント層と、“超多様”な全社メンバー
ここまではスタートアップらしく、「資金調達」と「事業戦略」にフォーカスしてきた。だがそれ以上の貢献があると言っても過言ではないのが、ファインディ社内の「人」と「組織」だ。
マネジメントレイヤーはまさに、超がつく優秀なメンバーが揃う。創業時から開発を牽引する取締役CTO佐藤将高氏は、2010年代にグリーでフルスタックエンジニアとして腕を磨いてきた人物。2人目社員の執行役員・扇谷勇多氏はマイナビを経てi-plugで『OfferBox』などの事業の最前線に立ってきた。同じく執行役員の西澤恭介氏は、リクルートで海外事業長、Sansanで執行役員を歴任してきたほどの人物だ。
こうした優秀なマネジメントレイヤーの存在に加えて、社全体の多様性も魅力的だ。スタートアップや大企業でバリバリ働いてきたメンバーばかりかと思いきや、意外なキャリアを持つメンバーもいる。詳しくは同社がまとめている社員インタビュー一覧で確認してほしい。

Findyをめぐる「ヒト・モノ・カネ」まとめ
ファインディという急成長スタートアップについて、今回も「ヒト・モノ・カネ」という観点を網羅するように意識してまとめてきた。
やはり印象的なのは「ヒト」という観点だ。セクション2で伝えたように、創業代表の山田氏の失敗や、そこからの奮闘が、今のファインディの力強さを形成しているように思う。そしてセクション4で見たように優秀なマネジメントレイヤーの存在と、多様性豊かなメンバーたちが今のファインディを牽引している。
そんな組織で蓄積してきた事業の成果を「カネ」に近い文脈で見ていくと、多くのユーザーが生まれていることは明確であり(セクション1)、常に新たな挑戦ができるような投資を受けてきたという調達実績がある(セクション3)では触れた。
そしてファインディが生み出してきた「モノ」として、さまざまな事業・プロダクトがあるというのも印象的な部分だろう(セクション3で詳述)
最後におさらいのように、同社を取り巻く主要な出来事を時系列でまとめた。
時期 | 出来事 | 内容 |
---|---|---|
2016年7月 | 創業、ファーストプロダクトを開始 | ファインディ株式会社を山田氏が創業。AI求人票採点サービス「Findy Score」をリリース |
2017年5月 | 今のメイン事業をリリース | エンジニア向け転職サービス『Findy』(現『Findy 転職』)をリリース |
2018年2月 | 新プロダクト『Findy Freelance』をリリース | フリーランス・副業エンジニア向けマッチングサービスを開始 |
2020年8月 | シリーズA資金調達(約2億円) | グローバル・ブレイン株式会社から資金調達(プレスリリース) |
2020年4月 | 『Findy Team+』β版を提供開始 | エンジニア組織の生産性自動診断・生産性向上サービス『Findy Team+』をβ版として提供開始 |
2020年8月 | シリーズB資金調達(総額7.7億円) | グローバル・ブレイン、ユナイテッド、SMBCベンチャーキャピタル、KDDI(KDDI Open Innovation Fund 3号)、JA三井リース、HAKUHODO DY FUTURE DESIGN FUND(博報堂DYベンチャーズ)、みずほキャピタルから調達(プレスリリース) |
2021年3月 | 『Findy0→1』提供開始 | エンジニア組織の内製化支援サービスをワンストップ支援する『Findy0→1(ゼロ・トゥ・ワン)』提供開始(プレスリリース) |
2021年10月 | 『Findy Team+』正式リリース | エンジニア組織の生産性向上SaaSを正式リリース |
2022年4月 | シリーズC資金調達(約15億円) | グローバル・ブレイン、SMBCベンチャーキャピタル、JA三井リース、みずほキャピタル、KDDI Open Innovation Fund、Carbide Venturesから資金調達(プレスリリース) |
2024年1月 | 『Findy Tools』β版リリース | 開発ツールに特化したレビューサイト『Findy Tools』のβ版を提供開始(プレスリリース) |
2024年12月 | 「スキル偏差値」ver.3にアップデート | Ruby、Python、Go、PHP、JavaScript、TypeScriptの6言語に対応し、言語ごとのスキル可視化が可能に(スキル偏差値ver.3アップデートについて) |
2025年5月 | シリーズD資金調達(総額20.5億円) | JPインベストメント、韓国のLB Investment、米国のCarbide Ventures、台湾のDarwin Venture Management、SMBCベンチャーキャピタル、ゼンリンフューチャーパートナーズ、インベストメントLab、オリックス、KDDI Open Innovation Fund 3号から調達。累計調達額43億円に到達(プレスリリース) |
2025年7月 | ドラゴンボールZとコラボ | ファインディとして初めてのテレビCMでのマーケティング施策を開始。ドラゴンボールZとコラボ(プレスリリース) |
2025年7月 | 『Findy AI Career』α版提供開始 | 生成AI関連の職種やプロジェクトに挑戦できる機会に特化したマッチングサービス『Findy AI Career』のα版をリリース(プレスリリース) |
いかがだっただろうか?プロダクト開発や海外展開の勢いもあり、「エンジニアの人材紹介会社」といったようなイメージは薄れてきたのではないだろうか?
そして今も採用を加速しており、ビジネスサイド・プロダクトサイド・コーポレート問わず、非常に多くの募集がオープンになっている。もし、新たな挑戦機会を探そうという気が少しでもあるならば、覗いてみてほしい。
こちらの記事は2025年09月11日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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2記事 | 最終更新 2025.09.11おすすめの関連記事
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