湊 雅之
ALL STAR SAAS FUND
パートナー東京工業大学工学部・同大学院卒(工学修士)。米カーネギーメロン大学経営大学院卒(経営学修士)ボストンコンサルティンググループにて国内大手企業の中期経営計画の策定やトランスフォーメーションの実行支援の戦略コンサルティング、独化学大手BASFにてエンタープライズ営業および新規事業開発に従事したのち、VCの世界へ。STRIVE(旧GREE Ventures)、Salesforce Ventures、DNX Venturesにて、日本のB2B/SaaSスタートアップ約40社へのVC投資および成長支援を担当。ロンドン在住。過去の投資実績は、ココペリ、コミューン、イエソド、エンペイ、カウリス、アガサ、Resily、MyReferなど。
創業メンバーの理想的な構成・役割分担があれば教えてください。
投資家への相談はどのタイミングがベストなのでしょうか?
いくつかの業界に興味・仮説があるのですが、具体的なビジネスモデルまでは、まだあまりきちんとした納得できる仮説が立っていません。このような状況でも、投資家へ相談しても構わないのでしょうか。もちろん、事前のデスクトップリサーチ・最低限の想定ユーザー向けのインタビューは実施予定です。
シード投資の場合、何をみますか?
今年の投資テーマを教えてください。また特に注目している領域やビジネスモデル、手法などがあれば知りたいです。
SaaSに関しては、「リモートワーク」、「バーティカルSaaS」、そして「SaaS×フィンテック」のようなトランザクション課金モデルには注目しています(理由はこちらの質問と重複するので割愛)。SaaS以外では、B2Bマーケットプレイスは昔から好きなので、気になります。
それ以外に、事業として儲かる、成長するという視点だけではなく、ビジネスを通して社会的なインパクトを産もうとする起業家の方は積極的に支援したいと思います。例えば、テクノロジー、事業を通して、社会的な弱者を助ける想いを持っていたり、多様性を重視したチーム作りをしているケースはこれに当たると思います。
湊 雅之氏の回答
日本のスタートアップは世界で通用すると思いますか?特にSaaSスタートアップの可能性について、具体的なハードルと合わせてお答えいただけると幸いです。
日本から世界で通用するSaaSスタートアップが出る可能性は、十分あると思います。人材面では、近年では日本のトップタレントが起業するケースも増えていますし、エンジニアも世界に負けないゲーム産業ご出身の方やGAFAの一線で働く日本人の方も少なからずいらっしゃると思います。もちろん米国に比べ、豊富とは言えないですが笑。
日本のスタートアップが海外で戦う上でのハードルは、大きく3つがあると思います。
1つ目は「資金調達力」です。
SaaSは先行する欧米市場に競合となるプレーヤーがいるケースが多く、彼らは欧米の豊富なVCマネーへリーチすることができます。一方、日本はVC市場が欧米に比べると2桁小さく、海外の競合プレーヤーと戦うには、この点を克服する必要があります。
2つ目は「言語力」です。
SaaSはマーケティング、営業、CSのような機能が必要なので、現地の言語に合わせた対応が必要になりますし、そういうチームを作るためにも言語能力は欠かせません。それに加えて、前出の資金調達においても、豊富な資金力を持つ、海外の投資家から集めることがカギになるので、必要不可欠です。
最後の3つ目は「海外へのコミットメント」です。SaaSのようなB2Bは、地域の商習慣やオペレーション、UI/UXの嗜好性などを理解し、市場を開拓する必要があります。従って、経営陣自ら海外を拠点にして、顧客を理解した上でプロダクトを開発し、現地のチームを作ることが必要になります。確かにSlackやZoomのように、Product-Led-Growthで日本を拠点に海外を狙うこともあり得ると思いますが、これらの企業もSales-Led-Growthとのハイブリットの成長モデルに移行することが一般的です。
湊 雅之氏の回答
2021年の国内SaaSはどのような変化、トレンドが生まれそうでしょうか?(SaaS×マーケットプレイスなど)
「リモートワーク」は2020年に続きSaaSの大きなテーマになりますが、私個人が注目しているトレンドは、「バーティカルSaaS」と「SaaS×フィンテック」です。
1つ目の「バーティカルSaaS」は、小売や建設業のように、コロナで働き方や事業運営を大きく変えざる得ないデスクレスワーカー向けSaaSや、ECに代表される、コロナによって急激に成長した産業のバックエンドを支えるSaaSが成長が見込めると思います。
2つ目の「SaaS×フィンテック」は、収入/支出管理とペイメントを組み合わせたようなSaaS、もっと踏み込んで決済履歴データ等を活用したレンディングを提供するSaaSも多く出てくると思います。この点は、政府のキャッシュレスの推進もありますが、コロナによって消費者のキャッシュレスへの意識が変わったことも大きなトリガーになってると思います。
湊 雅之氏の回答
なぜVCになろうと思ったのでしょうか?
一番の理由は、テクノロジーで新しい産業を創ることを支援できる最高の仕事だと思ったからです。子供の頃から、アインシュタインのような科学者や本田宗一郎のような技術者は自分にとってのヒーローで、強い憧れを持っていました。なので、テクノロジーで世の中を変える、産業を創り出す起業家の方々と一緒に仕事ができるVCほど、贅沢な仕事は無いと思っています。
また、VCは、自分の信じた起業家を、苦しい時も嬉しい時も長く支援し続けられる点も大きな魅力です。昔コンサルティングファームにいた時、経営者や事業家の相談役として寄り添える仕事の楽しさを覚えたのですが、コンサルティングはプロジェクトが終わってしまえば、それまで。どんなに支援し続けたいと思っても、支援し続けられなかった悔しさもありました。VCは、よく「離婚できない結婚」とも言われますが、エグジットまで長期にわたり、経営者を支援できることは何ごとにも代えがたい価値だと思ってます。
あと、幅広い情報を収集・分析することやイシューを考え抜くことで価値を産むスタイルも、研究肌の自分には性にあってたこともあります笑。
湊 雅之氏の回答
投資先にすることが多いアドバイスや指摘で、普遍的に意味がある(投げかけるだけでも価値が出やすい)と思われる発言や投げかけがあれば教えてください。いわゆるキークエスチョン的なものです。
「今一番狙いたいお客様は誰ですか?」といった、顧客ターゲティングについての質問は一番多いと思います。B2Bなので、具体的には、顧客の企業規模、業種・業態、部門、ポジションといった粒度で聞きます。SaaSの成長においてよくある課題は、顧客の課題の定義がぼやけているため、プロダクトの提供価値もぼやけていて、セールス/マーケの仕組みの磨き込みもできないことの原因になるケースが多いように感じています。課題の定義がぼやける要因は、そもそも顧客像が複数あったり、ぼんやりしているケースが多いです。従って、可能な限り顧客像を詳しく問うようにしています。
その他には、「このお客様は、SaaSによってどういった経済価値が出てるのですか?」や「お客様の活用状況はどうなってますか?」といった、導入後のインパクトやCSに関わる質問をするケースが多いです。起業家の方は、どうしても早く実績を作りたいと「売る」ことばかりに気を取られがちです。これは真剣に事業をやっている起業家の方は当然だと思います。しかし、SaaSは売ってからが勝負のビジネスモデル。意識的に「売った後」に経営として目を向けてもらうように、質問をしています。
湊 雅之氏の回答
マーケット選定において、「勝てる領域」と「好きな領域」のどちらを選択するべきでしょうか?市場自体の成長性や自身のキャリアバックグラウンドなどを考慮して、勝つことができそうな領域を狙うのがセオリーでしょうか。
VCの皆さんは未来に投資していると思うのですが、どのように「これから伸びるマーケット」を見つけているのでしょうか?非現実的な未来予測の話ではなく、よく言われている「半歩先」のイメージです。事業をつくるにあたっては、この半歩先を見据えることが大事だと思っているので、参考にさせていただきたいです。
マクロ視点とミクロ視点の両方を意識的に情報を取って、投資仮説を作ることが多いです。
マクロ視点は、国内外の一般紙(日経新聞やEconomist)で話題になってることや、法規制の変化等を見てます。加えて私の場合、SaaSがメインの投資テーマなので、国内外の資金調達のニュース、欧米のSaaSに強いキャピタリストのブログやポッドキャスト、レポートを乱読するのに、週3-6時間位使ってやっています。
ミクロ視点では、B2Cテクノロジーで流行っているものは無いか、なぜ流行ってるかを考えるために、サービスを使ってみることを意識的にやっています。当たり前ですが、SaaSの利用者は、ワーカーであると共に一般消費者です。そのため、コンシューマで流行っているテクノロジーやUI/UXは、長い目で見てB2Bにも活用されることが多いと思います。Slackの絵文字や非同期ビデオメッセージのLoomが良い例です。もう1つは、色んな人と話をすることです。起業家の方々やVC仲間もそうですが、投資DDを通してお話する、企業のユーザーの方や、スタートアップ業界とは関係ない友人・知人に、世の中でどういう変化が起きてるかや最近何を感じているかをざっくばらんに聞くことが多いです。
湊 雅之氏の回答
起業家はどの程度「リサーチ」をするべきでしょうか?
スタートアップは、よく行動力や行動量、またスピードが重要だと言われていると思います。しかし、世の中で検証済みの仮説や市場の有無などはリサーチである程度調べられると思うので、事業を正しいレールに乗せるには重要だと思っています。ここまではスタート前に調べるべき、という要素はありますでしょうか。
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