マーケターは、事業成長の“起点”であり続けよ──メルカリ、SmartHR、M&AクラウドのCMOと考える、経営×マーケティングのキャリア論
大きなインパクトを創出できる経営者になるためには?そんな答えのない問いに向き合い続けてきたFastGrowがこの2023年8月、「マーケティング」に特化してディスカッションを進めるイベントを実施した。
招いたのは急成長中のプロダクトカンパニーとして有名な3社、メルカリ、SmartHR、M&Aクラウドのマーケティングの責任者たち。「マーケター経営者」になるための考え方とキャリア論を、長時間にわたって考えていった。
なお、イベント全体のレポートはM&Aクラウドのnoteにまとめられているため、本記事ではFastGrowならではの観点で、以下について伝えていく。
・「事業成長」へのフォーカスが、マーケター経営者への近道
・備えるべき知見は「事業価値」の理解力
・マーケター特有の「経営との近さ」を活用すべし?
・波が来るときにビーチにいないとダメ?
マーケターは本来「ボーダレスに考え、動く」もの。
これを突き詰めることが経営者への近道
3名のうち、特に象徴的なキャリアを語ったのが、SmartHRの岡本氏だ。経営ポジションへの階段を登り始めたのは、前職のGMOクリック証券時代のこと。プロダクトマーケティングを担当している頃、突然社長に呼ばれ、マーケティング責任者を打診された。その理由は、担当領域で「成長」にフォーカスした動きを自然と進めていたことだった。
岡本急なアサインだったので、最初は「なぜ自分に?」と感じ、理解できないでいました。
ですが話を聞いてみると何となく理解できてきたんです。というのも私は、担当しているプロダクトを伸ばすため、必要なら組織の壁を超えてボーダレスに動きまくっていたんです。マーケティング部門に近づいてプロモーションについて具体的に話したり、デザイン部門に近づいて見え方を議論したり。こうした動きが、経営陣から良く見えていたようなんです。
この発言に呼応するかのように、M&Aクラウド三井氏・メルカリ永沢氏も、やはり「事業成長へのフォーカス」が新たなきっかけをつくったと振り返った。
三井グリーで1人目マーケターとして活動していた時、いきなり代表の田中さんから「毎月5000万円をかけてテレビCMを打つ。現在のCPAが1500円くらいなので、これを1000円に落としてほしい。それが君の仕事だ」というミッションをもらったんです。
それでCMのパターンを自分でいくつも考えて施策を進めたのですが、なかなか当たりが生まれず、CPAは下がるばかり。悩んだ挙句、CM自体の面白さ、気を引く演出などは一切省いて、具体的にゲームを紹介することに専念するCMを作るということにチャレンジしました。こちらでの試行錯誤がうまくいき、ユーザー獲得数は月30万ほどだったのが100万くらいにまで一気に増え、マーケティング予算が年間100億円ほどの規模になるまで事業を成長させることができました。こうした成果が評価され、その後のウェルスナビでの経営参画などにつながったと思います。
永沢私がマーケティングに本格的に携わったのは社会人留学後(なので若干遅め)です。Amazon Japanに入社して、Amazon Prime Videoのデジタル広告部署への配属になったんです。これは、マーケティングがしたかったというよりも「最も成長しているプロダクトの仕事がしたい」という希望によってのことでした。
インハウス組織だったので、2年間でマーケティング業務のほとんどを経験できました。もともと、数字を見て分析して、というのは好きだったので、しっかりお金を使ってマーケティングを科学するようなところまで実践させてもらいました。
その後にジョインしたbitFlyerでは、マーケティングの経験を活かすというよりもむしろ「ビジネス面はなんでもやります」という姿勢で、事業開発などを担当しました。結果的には、たまたまマーケティングを中心に見つつ、事業成長の責任を負っていたような感じでしたね。
それからメルペイでもマーケティングが管掌の中心になりましたが、あくまで「究極的には、事業が成長するんだったら、自分がやることは何でもいい」というスタンスですね。
3名に共通するのは、「担当領域を狭めることなく、事業が成長するために必要なことを適切に見極め、コミットし切る」という姿勢とその経験だ。単に「成果を残してきたから、CxOになっている」というのではない。その成果の裏に、事業成長へのフォーカスが確実に存在しているのだと感じさせる。
「事業価値」がわからなければ、最適な意思決定などできない
といっても、フォーカスさえすればうまくいくものでもない。3名の実践をさらに深く聞いていこう。ここでは三者三様の答えが見えた。
永沢「事業価値とは何か」を理解しなければならないと思います。事業価値や企業価値の決定要因を明確にイメージし、そこにマーケティング活動を結び付けていく思考は不可欠ですね。
そのために、特にファイナンス知識は重要です。P/L(損益計算書)やB/S(貸借対照表)におけるインパクトの大きさがわからないようでは、最適な意思決定のための情報も見えてこないでしょう。私はMBAを学んだので当然理解していますが、そうでなくても今は学ぶ機会をつくれますので、どこかのタイミングで集中して理解することは必ず活きると思います。
岡本私は常に、半年から1年くらいの時間軸で「次に何が起こるのか」ということを創造しながら仕事をしていますね。より具体的に紹介すると、「私の組織が求められる価値はどの部分になるのだろうか」と考え、その姿から逆算して今すべきことを決めています。
マネジメント層になる前から、組織の将来像を考えるような癖がありました。早めに準備を始められるようにしていて、いざそういう未来が来たときには「よし来た!準備できてるぞ」という感じで取り組めるようにしています。
三井「事業」についての理解は大事ですよね。「マーケティング」の専門家として、事業部の各メンバーが抱えている課題に対して真剣かつ具体的に話し合えるようになるべきです。そうすることで、「マーケティングでやるべきこと」と、「マーケティングでは解決できないこと」がしっかり見えてきます。
若い頃、私も「自分がいくらがんばっても、良い成果にはつながらない」ような取り組みをしてしまっていた時期がありました。もったいなかったですね。
三井氏が語った「自分がいくらがんばっても、良い成果にはつながらない」という状況に陥ったことが、ビジネスパーソンなら多少なりともあるのではないだろうか。この“あるある”を経験し、自ら学んで乗り越えてきたからこそ、CxOという立場につながったのではないかということも見て取れる。
また、読者も感じているかもしれないが3名のマインド面ではいずれも「マーケティングへの強い想い」が作用しているわけではないという点も印象的だ。あくまで一人の事業家・経営者として、企業あるいは事業を伸ばしていくことに主眼を置いている。この姿勢が、中長期的なキャリアを形成しているのだろう。
マーケターには、そもそも「経営に近い」という特権がある?
ここまでは、あくまで「事業家」としての3名の声を捉え、その共通点や相違点から学ぶべきことを探ってきた。だが、あくまでも今回のイベントはマーケター向けであった。
ここからは、切り口をより鋭く、「事業家」ではなく「マーケター経営者」としての言葉をまとめていきたい。
まず、三井氏が語った金言がこれだ。
三井「これくらいの売り上げを生み出したい」というミッションが、真っ先に自分のところに来るのが面白みです。顧客獲得に必要なコストを各事業で試算し、事業毎の目標を出発点から設計できるんです。
言い換えるならば、「事業成長をかたちづくる起点は、マーケターの手元にある」。既存事業でも新規事業でも、成長のためには顧客の獲得が不可欠だ。新規リード獲得のためのプロモーションだろうが、既存顧客開拓のためのナーチャリング施策だろうが、いずれもマーケターがその手腕を発揮すべき部分である。BtoBだろうがBtoCだろうが、その重要性に違いはない。
三井氏はまさにこの点でやりがいを覚えているのだと強調した。ほかの二人も、事業成長や経営との距離感について語る。
永沢BtoCのインターネットビジネスでは、マーケティングというのが事業成長に対して最も大きなインパクトを及ぼし得る仕事です。最重要のドライバーだと思います。良くも悪くも、極端に言えばマーケティングとはすなわち経営です。相当近いところにあります。そう考えて取り組んでいますね。
岡本売上計画を立てる際に、まず一番最初に計算しなければならないのがマーケティングの投資対効果ですよね。各事業部からも「これくらいの売上をつくりたい」という問い合わせが僕のところによく来ます。そうして予算をつくっていくわけなので、責任重大だと感じます。
マーケティングが、事業の売上や利益に直接大きな影響を及ぼす。このことを理解していないマーケターはいないだろう。だが、経営との距離の近さを、この3名と同じ感覚・同じ言葉で捉えているマーケターは、そう多くないのではないだろうか。
「経営視点を持て」とはマーケターに限らずよく言われる。とはいえ実際に経営に近い立場になってみなければそうそう理解できるものでもない。しかし、もしあなたがマーケティングを実際に推進しているのならば、想像してみると良いかもしれない。経営や予算策定に、自分の業務がどのようにつながっているのかを。
この3名の言葉を踏まえて想像すれば、「意外と近いのでは……?」と錯覚できるかもしれない。その錯覚が、自身を新たに成長させる一歩となる。
「波が来るときに、ビーチにいないとダメ」
永沢「“嫌なこと”にもきちんと向き合っている経営者(リーダー)」と一緒に仕事をすることで、幸せになれると思います。
マーケターから経営者になっていくためには、どのような環境に身を置くべきか?という問いへの永沢氏の答えがこれだ。事業成長や顧客に本気で向き合っていれば、“嫌なこと”に多かれ少なかれ直面するはずだと同氏は言う。そんな経営者のそばにいることで得られる学びは、やはり多いのだ。
三井氏は少し違った視点で「経営者から学んだこと」を語り、岡本氏も賛同する。
三井まだグリー時代の田中さんとのエピソードになりますが、よく「波が来るときにビーチにいないとダメなんだ」とおっしゃっていました。
世の中の大きな動きを捉えたら、しっかりその現場にいられるようにするんだと。第一人者になるために、今後盛り上がるであろう産業やビジネス潮流があるところに早く飛び込むべきと常に言っていました。
この考え方でキャリアを積んでいくことは、非常に合理的な考え方だと感じます。
岡本そうですね。伸びている産業とか事業とかで仕事をするのは、マーケティングという職種としてとても大事だと思います。伸びているからこそいろいろな機会があって、経験を積んでいくことができるので、やはりマストな考え方かなと。
では今こそ身を置くべきはどのような環境だろうか……という文脈で、各社からアピールするかのようにそれぞれが採用に向けたメッセージが紹介された。もちろんFastGrowとしても、まさに急成長・急拡大中でマーケターの採用も加速している3社をあえて招いたわけなので、その特徴や共通点、相違点について最後に確認していきたい。
永沢当社もマーケターを絶賛募集中で、一言で言えば「事業を伸ばせます」という人に来てほしいですね。マーケティングをやった結果として事業の数字を伸ばせるという方に。
私はキーポイントとして、「知的好奇心に従う」というのを大事にしています。マーケティングにおいても、もっと知りたいことがたくさんあります。たとえば今はやっぱり生成AIが気になっていて、マーケティングや経営やどのように変わるのか、必死に追いかけていますね。
なので、メルカリにマーケターが新たにジョインしてどんな経験ができるかというと、「知的好奇心次第」つまり「その人次第」です。事業機会が拡大し続けていますから、チャンスは無限にあります。
岡本SmartHRに今ジョインして何ができるか、というのを考えていたのですが、メルカリさんと答えが同じですね(笑)。キャリアっていうのは、その人自身がどのように考えて取り組むのかによって、切り開き方がぜんぜん変わってくると思うんです。逆に言えば「レールが敷かれている」ということもありません。
組織は大きいですが、権限移譲が比較的多いと思うので、専門性もマネジメントもいずれも意識的に伸ばせるところがあると思います。
三井M&Aクラウドはまだまだ立ち上げフェーズの事業ばかりなので、幅広くさまざまな経験ができます。僕も“よろずや”みたいに、マーケティングに限らずいろいろなことに取り組んでいます。そんな立場も良いですし、新たに生まれる事業の責任者になるという道も多くあります。
たとえて言うなら「オフロードを走る」みたいな環境だと思います。整地されていないところに魅力を感じる方がフィットしそうですね。
3社の企業フェーズには差があるものの、いずれもマーケターにとって魅力的な事業機会を多く持つという共通点があることが感じられる。自分をさらに伸ばせるような環境を探したい、あるいはまずは自分の成長のためにヒントを得たい、そんな思いが少しでもあるならば、マーケターを絶賛募集中の3社に対するアクションを検討してみるのがいいだろう。
こちらの記事は2023年10月11日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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