ブロックチェーンによる「中抜き」が始まった。
iTunes、スポティファイ・・・マーケットプレイス、終焉の予感
- TEXT BY GEN HOSOYA
2017年は特に後半にかけて、ビットコインの価格急騰・急落を受け「仮想通貨」「ブロックチェーン」がバズワードとしてメディアを賑わしていた。
一方、2018年に入り、これらのワードは鳴りを潜め、メディアではあまり見かけなくなった。この状況はグーグルトレンドのグラフにも如実に現れている。「ブロックチェーン」というワードへの関心は2017年12月をピークに下降の一途をたどっている。
このグラフを見ると、世間のブロックチェーンへの関心が低くなっており、このままいくと技術そのものが忘れさられてしまうのではないかと思ってしまうが、実はそうではなさそうだ。
米国のIT調査・コンサル大手のガートナーが唱える新興技術の成熟度を示す「ハイプ・サイクル」という視点と、ブロックチェーン技術を活用した実用的なサービスの登場を鑑みると、ブロックチェーンはハイプ(過度の期待や興奮)フェーズを終え、次のフェーズに向かっているように見えるのだ。
ブロックチェーンはサプライチェーン管理やフィンテックなどさまざまな分野に導入されているが、今回は消費者にもっとも身近な存在と言えるメディア/エンタメ分野における最新動向を紹介したい。
メディア/エンタメ分野では、ブロックチェーンを活用した新サービスがスポティファイ、アマゾン、アップル、シャッターストックなど大手テクノロジー企業を脅かす存在になる可能性が指摘されており、その動向に注目が集まっている。
マーケットプレイスの終焉?ブロックチェーンで改善されるクリエイターの収益率と著作権問題
写真、音楽、書籍、映像などのデジタルコンテンツを普段どこで購入しているだろうか。書籍はアマゾン、写真はシャッターストック、音楽はiTunesやスポティファイ、映像であればネットフリックスやフールーなどが多いかもしれない。
これらはコンテンツアグリゲーターやマーケットプレイスと呼ばれ、消費者側から見れば、多様なコンテンツが揃い、選択肢が増えることから非常にうれしいサービスといえるだろう。
一方、コンテンツを製作するクリエイターにとっては好ましい状況ではない。収益率や著作権に関して不利な立場にあるからだ。
たとえば、アマゾンで書籍を販売するとき作者は収益の30〜75%を失い、iTunesで音楽を販売するときミュージシャンは30%の収益を失っているという(DECENT調べ)。また、ストックフォトで写真家に支払われる平均収益率は15〜20%ほど(Wemark調べ)といわれており、たとえばシャッターストックでは写真1枚購入されるごとに写真家に支払われるのは数十セント~数ドル(数十円~数百円)のみだ。
著作権に関しても取り扱いが不透明で、著作権を侵害されたとしてこれまでにいくつかの訴訟が起きている。2018年1月には、楽曲を無許可で配信していたとして有名ミュージシャンらがスポティファイを相手取り16億ドル(約1700億円)に上る賠償金を求める訴訟を起こしている。
訴訟という形でクリエイターの不満が顕在化する場合もあるが、それは氷山の一角。大半のクリエイターたちは大手企業に太刀打ちする術を持たず、しぶしぶこの状況を受け入れている。
しかし、この状況をブロックチェーンが一変させる可能性が出てきたのだ。
イスラエル軍エリート部隊発の企業など、業界ディスラプター続々登場
Wemarkはブロックチェーンを活用した次世代デジタルコンテンツ・マーケットプレイスだ。このほどサービスを開始したばかり。第一弾としてストックフォトのマーケットプレイスをローンチした。
ブロックチェーンを活用することで、写真家は直接ユーザーに写真利用のライセンスを付与し、管理することが可能となる。それにともない価格設定も自身で行うことができるようになるという。
Wemarkはブロックチェーンプロトコルの利用手数料として写真販売価格の15%を徴収、残りの85%が写真家の収益となる仕組み。これまでの相場が15〜30%を考えると、写真家の収益率はかなり改善されることになる。
ブロックチェーンの性質である「不変性(データの書き換えが不可能であること)」を生かすことで、ライセンス付与の価格設定、利用規約、手数料、紹介料にかかる契約内容を改ざんされることなくセキュアに保管できる。
また支払い受け取り、ライセンス付与、収益分配が自動で実施されるため、キャッシュフローを促進することが可能となる。これまではマーケットプレイスが支払いの方法・時期・条件を決めていたが、それらの制約がなくなる形だ。
Wemarkはシリコンバレーでも活動しているが、開発本拠地はイスラエル・テルアビブ。Wemarkの開発チームに、イスラエル軍サイバーセキュリティ精鋭部隊「8200部隊」の出身者が数名いることは特筆すべきであろう。
8200部隊はイスラエルでもエリート中のエリートを集めた部隊として知られているが、それ以上に多くのテクノロジー起業家を輩出している部隊としても知られている。これまでは部隊で培った知識を直接生かせるサイバーセキュリティ分野の起業が多かったようだが、Wemarkの登場でブロックチェーンを生かしたサービスが今後増えてくる可能性が見えてきた。
ブロックチェーンを活用し、クリエイターとユーザーを直接つなぐサービスはWemarkのほかにも数多く登場している。
Publicaは作家と読者を直接つなぐサービスだ。ブロックチェーン上のトークンを活用することで作家が読者から直接代金を受け取れる仕組みになっている。現在取り扱っているのは書籍のみだが、将来的には論文や調査レポートなどもサポートする計画があるようだ。
また、映像コンテンツに特化するSingularDTVやiProdoos、音楽コンテンツに特化するUjo Music、デジタルコンテンツ全般をカバーするDecentなど、メディア/エンタメ分野ではクリエイターたち活動を後押しするブロックチェーンベースのネットワークが続々登場しているのだ。
ストックフォトのグローバル市場は現在40億ドル(約4300億円)、メディアのグローバル市場は2019年までに2兆ドル(約200兆1600億円)に達するといわれている。ストックフォト市場ではシャッターストックとゲッティイメージズによる寡占状態、メディア市場もアマゾン、アップル、ネットフリックスなど数少ない大手企業による寡占状態だ。
収益率と著作権に関する状況を改善したいというクリエイターたちの切実なニーズを汲み取るブロックチェーン企業が、これから市場にどのようなディスラプションをもたらすのか、今後の展開が非常に楽しみである。
こちらの記事は2018年06月21日に公開しており、
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シンガポール在住ライター。主にアジア、中東地域のテック動向をウォッチ。仮想通貨、ドローン、金融工学、機械学習など実践を通じて知識・スキルを吸収中。
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