理想のSaaSを創る、7つの条件──Zoom以上のPLGを実践する、Chatwork福田氏の脳内を徹底解剖

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インタビュイー
福田 升二

2004年伊藤忠商事に入社。インターネット関連の新規事業開発・投資業務に携わる。2013年にエス・エム・エスに入社。介護事業者向け経営支援サービス「カイポケ」や介護職向け求人・転職情報サービス「カイゴジョブ」などを中心とする介護領域全体を統括する。2018年に同社執行役員に就任。2020年4月よりChatworkに入社し、2020年7月に執行役員CSO兼ビジネス本部長に就いた後、2022年4月に取締役COOに就任。

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インターネットビジネスの世界では、毎年何かしらのバズワードが世の中を席巻している。最近ならDXやメタバース、少し前だとAIやIoT、シェアリングエコノミーなど。多くのIT関連企業が、これらのトレンドに合わせた事業を始めたり、既存事業の意義を改めて説明をしたりしてきた。

情報に敏感なFastGrowの読者なら、Product-Led Growth(以下、PLG)という言葉を聞いたことがあるかもしれない。日本語に訳すと「プロダクトそれ自体が主導するグロース」。近年のSaaSプロダクトの台頭や競合環境の激化により、新たな理想のグロースモデルとして、PLGが少しずつ浸透し始めている。

このモデルで成長したのはSlackやZoomが有名だが、日本企業でもこの成長の方法を、しかもPLGという言葉が出る前から実践してきた企業がある。それがChatworkだ。独自性の高い戦略と実行の繰り返しにより、PLGを体現する形で現在毎日数千ユーザーが新規登録する状況を作り出している。まさに「理想のSaaS」と呼べるのではないだろうか。

今回はそのPLG戦略を紐解くことで、「理想のSaaSを創る7つの条件」をまとめた。執行役員CSO兼ビジネス本部長福田升二氏の話に、じっくり耳を傾けてほしい。

  • TEXT BY TOSHIYA ISOBE
  • PHOTO BY TOMOKO HANAI
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SaaSビジネスで働くのは、本当に面白いのか。
キーワードはPLG

Chatworkの戦略の話に入る前に、まずPLGの認識の前提を合わせることから始めよう。2021年に出版された、おそらく日本語で書かれた最初のPLG本である『プロダクト・レッド・グロース「セールスがプロダクトを売る時代」から「プロダクトでプロダクトを売る時代」へ』から、その定義を引用する。

PLGとは、米ベンチャーキャピタルのオープンビューが名付けたGTM(ゴー・トゥ・マーケット)戦略の1つで、ユーザー獲得、アクティベーション、リテンションを、プロダクトそのものが担うという手法だ。

引用元:Wes Bush『プロダクト・レッド・グロース「セールスがプロダクトを売る時代」から「プロダクトでプロダクトを売る時代」へ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2021)より

PLGを考える上で、Zoomは一番の好例だ。2020年以降、新型コロナウイルス感染拡大の影響から、瞬く間に世界中で広がったプロダクトの一つ。だが、新規利用時にZoomのセールス担当者に売り込みをされた人は、おそらくほとんどいない。つまり、ユーザー獲得をセールスではなくプロダクト自体が行っているということであり、これがPLGの定型的なユーザー獲得シーンなのである。

PLGと対比されるのはSales-Led Growth(以下、SLG)、つまりセールスが主導してプロダクトの導入を進めていくモデル。いわゆる「THE MODEL」はこちらを意識した考え方だ。代表的なプロダクトには、SalesforceやMarketoなどがある。恐らくほぼ全ての日本のSaaS企業もこのSLGで成長をしている。

Chatworkは、PLGをわかりやすく実践している数少ない日本発SaaS企業の一つである。海外投資家からも「THE PLGだ」という評価を受けた同社のプロダクト『Chatwork』の特徴を深く聞いてみた。

福田PLGでうまく伸びている要素の一つとして、ネットワーク効果の強さが挙げられます。まずはフリー(無料)で使っていただき、価値を感じてもらえたら有料化していただく。その中で、既存ユーザーが常に新たなユーザーを誘い、利用者が増えていくという構造をつくることができているんです。

なぜ、ユーザーがわざわざ別のユーザーを呼んでくるのか?いや、考えてみれば当然のこと。チャットは必ず複数人で行われるからだ。継続的に、ネットワーク効果が働いていく特性を、このSaaSプロダクトは必然的に備えているのだ。

実はこの『Chatwork』、PLGという言葉が生まれる前からPLG的な成長を遂げてきている。Chatwork社内では「セールスモデルとフリーミアムモデルの統合、リソースの最適化」という言葉で推進されてきた。すなわち、今で言うSLGとPLGをハイブリッドさせたグロース戦略により、現在では1社1社へのセールス成果とは別に、毎日数千ユーザーが新規登録する状況を生み出せているのだ。

マーケティングに膨大なコストをかけている企業から見れば、ユーザーがユーザーを連れてくるChatworkの集客方法は夢のような状態だろう。しかし、すべてのプロダクトやサービスが直ちにPLGを実践できるわけではないという。

福田プロダクト特性や顧客の属性上、PLGでのアプローチが実現できるプロダクトと、できないプロダクトがありますね。例えば、電子契約やファイル共有、カレンダー調整などは個人間・会社間の繋がりを前提とするので、ネットワーク効果を取りやすく、PLGを推進できる可能性があります。

一方で、ほとんどのSaaSプロダクトにおいて、ChatworkほどきれいにPLGを取り入れることは難しいと思います。それは「顧客のセグメントがエンタープライズに寄っている」などの理由から、ネットワーク効果が効きにくいためです。社内で完結する業務、あるいは少数のステークホルダーとの間だけで進める業務、そういったものを対象としたSaaSプロダクトでは、PLG的なグロースを推進することはあまり望めないでしょう。

抽象化すると、「会社という垣根を超えて発生する取り引き」に関する課題解決の場合はPLGがフィットしやすいということだ。コミュニケーションというものは、単独では完結せず、必ず他人を巻き込んで発生する。しかもその行為は社内だけでなく社外の多くのステークホルダーとの間でも発生する。つまり、コミュニケーション領域に対するソリューションとしての『Chatwork』は、この「PLGを実践する条件」に見事なまでに当てはまるプロダクトなのだ。

理想のSaaS、7つの条件その1

──ネットワーク効果を働かせ、PLGでユーザーを連続拡大させる

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国内の99.7%は中小企業。SMB向け事業の面白さとは?

PLGを実践して成長をし続けているChatworkは、SlackやTeamsといった、海外発の有名プロダクトがしのぎを削っているマーケットで戦っている。そこでのChatworkの優位性とはどんなものなのだろうか。

それは、プロダクトの対象をSmall and Midsize Business(以下、SMB)、つまり中小企業に特化していること。一般的に、SMBは一社あたりの従業員数が少ないので一社導入したときの売上インパクトが小さいため、SaaSとして成り立たせるためには導入社数を大きく増やしていく必要がある。しかし、その開拓(営業)にはどうしても時間がかかってしまうため、スタートアップやベンチャー企業はSMBに一本化しづらい構造があると指摘する。

福田SMBは、エンタープライズと比較するとITサービス導入に向けたリテラシーや経験値が高いとは言えませんし、そもそも自社の抱える業務上の課題を認識できていない場合も少なくありません。そのため、マーケティングを一気に進められない、「非効率的なターゲット選定」になるんです。

エンタープライズであれば、一社の導入が決まると受注額自体が大きなものになります。従業員数が多い分、契約規模も大きくなるからです。しかし、SMBではそうではありません。カスタマーサクセス も大きな手間がかかる。だから、多くのSaaS企業は「エンタープライズなどの規模が大きいところを攻めて急成長します」というストーリーを描くことが多いのです。

極端に比較すると、一社で300人の従業員がいる企業1社と、一社で3人の従業員しかいない企業100社を営業するのでは、どちらが効率がいいかという話だ。

しかしChatworkは、戦略上非効率とも言えるSMBをターゲットにして、継続的な成長を実現している。その理由は「SMBの人たちの利用シーンに寄り添ったプロダクトだから」だと言える。

福田プロダクトが「チャット」であるのは大きいです。中小企業は社内リソースが潤沢ではない分、他社と協業しながら仕事をするシーンが多いので、チャットが活躍します。他のチャットツールは機能が多すぎたりUIに抵抗を感じたりして、ITリテラシーが高くない大多数のユーザーにとっては、使いこなしにくい面もあります。

SMBに勤める多くの人たちから実際にそういう声を、私たちはよくお聞きしています。

確かにChatworkは、他チャットツールよりもUIがすっきりしている印象を受ける。福田氏いわく、Chatworkは引き算の思想で作っており、プロダクトをシンプルにすることを重要視しています。

理想のSaaS、7つの条件その2

──解決する課題は、ターゲット企業群の「日常業務」に置く

福田競合他社のプロダクトは、構造が「法人単位で空間が区切られてる」という特徴があります。例えば、A社とのやりとり用の空間にログインする必要があり、会社毎に空間を切り替える必要があります。その場合、セキュリティ設定(2段階認証設定等)も契約単位で設定する必要があります。

それに対して、ChatworkはID構造が一つの空間で区切られています。たとえ異なる会社であっても、IDとIDを繋いで新たなチャットを始めることが容易な設計になっているので、どの空間の設定が漏れているのか等を考える必要がなく、中小企業の方でも安心して利用できる設計になってます。

こうした構造やシンプル性が、毎日数千ユーザーが自動でサインアップする状況であるPLGモデルを可能にしているのです。

実際、国内の99.7%は中小企業で、総就業者のうち7割以上の人がそこで働いている。つまり、Chatworkが対象とするのは世の中のマジョリティなのだ。ChatworkがSlack等の海外のテックジャイアントと、同じコミュニケーションツールであっても本質的に競合していないのは、こういった対象企業のサイズという違いが大きな理由になるのだ。

理想のSaaS、7つの条件その3

──どんなITリテラシーの人でも使えるくらいシンプルな設計にする

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Chatworkが持つ、真のプラットフォーム性・ホリゾンタル性

現在、様々なSaaSがひしめく中、ChatworkはいわゆるホリゾンタルSaaSに類する。それが意味するのは、業界や業種に関係なくどんな業態の事業者であっても利用できるため、リーチできるマーケットは非常に幅広い。同じようにホリゾンタル型で存在感を示しているSaaSは国内にもいくつもあるが、そういったSaaSと『Chatwork』には大きな違いがあると強調する。

福田日本に存在するホリゾンタルSaaSは、一部の業務プロセスや組織の機能に対するベネフィットを提供しているものが多く、換言するとそこがマーケットのTAM(Total Addressable Market)だと思います。しかも、そういったサービス、例えば労務管理や請求管理サービスは、日常的にすべての従業員が使うものではありません。

『Chatwork』は全従業員が日常的に使うサービス。だから、さまざまなITサービスを新機能として付加しやすい、つまり、プラットフォームとしての拡張性がとてつもなく大きいのです。中小企業のITシステム投資全体をTAMと捉えることができるんです。

こう説明すれば、ほかのホリゾンタルSaaSよりも、見ている世界がかなり大きいということがよくわかるのではないでしょうか。

ホリゾンタルSaaSと言われるサービスは、利用するタイミングや担当者が社内ごとに限られているものが多い。一方でチャットでのコミュニケーションは業務中いつでも、誰にでも発生する行為である。故に、チャットを起点に利便性の高いサービスを付加していくと、ユーザーとしてもより業務効率化に繋がることとなる。

例を挙げると、ちょっとしたメモを取ったりタスクを管理したりするのは『Chatwork』上で完結させられる。これは、PCモニターに付箋を貼るかのように、いつも目に入るところに備忘録的な機能を『Chatwork』が持っているからだ。たまにしか開かないサービスにタスク管理機能がついていても、あまり使われなさそうなのは、イメージしやすいことだろう。

理想のSaaS、7つの条件その4

──ホリゾンタルに事業領域を捉え、かつ1企業内での利用ユーザー数を最大化する

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ホリゾンタル+バーティカルなスーパーアプリ構想

Chatworkのユニークな部分として、PLGでの成長とSMB向けであることを挙げてきた。さらに面白いのはこれからの事業展開の拡張性だ。Chatworkは、チャットを中心としたスーパーアプリ戦略を描いている。

福田中小企業の経営改善や業務効率化など、彼らの課題解決ができるサービス群を『Chatwork』の上に載せていく構造がスーパーアプリの構想です。ヒト・モノ・カネ・情報に関わる課題を、チャット起点で解決するサービスを連続的に開発・実装していきます。

Chatwork株式会社 2021年12月期第3四半期決算説明資料より

福田わかりやすい例として、企業向け助成金を簡単に受け取れるように、Chatworkを利用し申請業務コミュニケーションを取れるようになっています。その結果、助成金の取得比率が上がることは社会的に非常に意味のあることですね。

また、人員不足の企業の受電対応を巻き取って、その内容や要件をチャットに自動で流すといったことも簡単にできるようになっています。

チャットツールは、誰もが仕事中に開きっぱなしにしているプロダクト。だからこそ、そこを起点に、あらゆる業務の改善に繋がるサービスの提供ができる、これがChatworkのスーパーアプリの枠組みだ。新たなサービスの広げ方が、ホリゾンタル的なものにとどまらないというのも特徴的な点と言える。

福田『Chatwork』自体はホリゾンタルなサービスですが、ユーザー顧客は製造業、飲食、介護など様々。それぞれの業界に属する企業で、構造的に課題が異なります。だからこそ、将来、周辺サービスとしてはバーティカル、つまりその業界に特化したサービスを立ち上げるアプローチもできます。

Chatwork自体もそうですが、介護業界であれば利用者や家族とのやり取りに使えますよ、だとか、士業だったらこういう設計ができますよなど、企業の利用シーンに合わせてきめ細かく業務フローを設計しています。周辺サービスも同様の概念を踏襲して支援していく。このきめ細やかさが企業の課題解決になるし、他社が簡単には入ってこれない優位性になると思っています。

実現手法としても、自社開発に留まらず、アライアンス、M&Aなどと手法はさまざまだ。Chatworkとのシナジーが見込める企業に出資をし、Chatworkが持つ顧客基盤を活用してもらいつつ、出資先企業の成長分を上場によるキャピタルゲインや将来のM&Aとして取り込む、という手法もある。

Chatworkはチャットだけにあらず。チャットが業務の起点になるため、業務のほとんどの部分にタッチできるのが、Chatworkの戦略のユニークなところだ。

理想のSaaS、7つの条件その5

──ホリゾンタルなサービス提供を起点に、バーティカルな価値創造を継続的に行う

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世界で勝てるプロダクトの条件

それでは今後、ChatworkはPLG、SMB向け、スーパーアプリ等の戦略を軸に、どんな市場を取りに行くのだろうか?

福田日本は海外に比べてもSMBのDXが進んでいない現状があります。それは、リテラシーに起因するITサービスへの理解や課題認識が足りていないことがボトルネック。逆に言えば、この状況を打破してSMBのDXに特化していく戦略がハマれば、海外のテックジャイアントにも負けない戦いができると思っています。

先程の話に出た通り、『Chatwork』は引き算の思想を徹底して機能開発をしているため、ベンチャー界隈の読者は、“物足りなさ”を感じるかもしれない。しかし、機能の多さや複雑さというのは、SMBを対象にしたときに「使いづらい」という評価になり、かえって導入が難しいのではないかという見立てを、福田氏は持つ。

福田チャットはそもそも、スイッチング・コストが高いプロダクトです。たとえエンタープライズ向けのサービスがあとからSMBマーケットを攻めにかかっても、先にシェアを押さえていればリプレイスは難しくなります。そういった点では、今このフェーズでシェアを圧倒的に押さえることが最重要と認識しています。

理想のSaaS、7つの条件その6

──スイッチング・コストが高い領域を選ぶことで、大手の代替サービスと真っ向勝負しないようにする

SaaSは国境の制約をあまり受けないプロダクトではあるものの、Chatworkの場合まずは日本で圧倒的に勝ちきることを優先していくとのことだ。Chatworkの調査によると、国内でのビジネスチャットの普及率はやっと15%を超えたくらいで、まだ80%以上伸びる可能性があるという事実が、国内マーケットにまだまだ大きいポテンシャルがあることを物語っている。

福田上場後に資金調達を実施した際にも、海外の機関投資家から非常に良い評価をもらっています。各種指標が好調という観点もさることながら、特に印象深いのは「THE PLGだね」という点です。

先行投資を続け営業赤字幅を拡大させながらグロースを重要視する直近の戦略に対し、投資家らからの評価が別れることもあるようだ。だが一方で、PLGというモデルを構築できている以上、中長期的に見て大きな成長の鈍化はないと断言。必要かつ効果的な投資戦略だと強調する。

ここからはスピードをいかに上げていけるかが勝負だ、と語るChatworkは、今後ますます日本や世界を驚かせるSaaS企業になるかもしれない。

理想のSaaS、7つの条件その7

──成長モデルを確立することで、大胆な投資を可能にし、海外の機関投資家からも評価を得る

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次世代の事業家人材は、上場ベンチャーでの“放牧”で育つ

ここまで読んできた読者なら、Chatworkがなぜ継続的に成長をしているか納得できるはず。周辺事業を立ち上げる機会が数多く存在するこの企業には、事業開発を推進していく事業家人材が集まってきている。

福田サービスを設計して、集客をし、PMFできるかどうかを最速で検証していくのが事業開発。その中で、集客がボトルネックになり、検証フェーズまで行きつけないというケースも多々あります。Chatworkでは顧客基盤があるので、最初のフェーズが比較的乗り越えやすく、筋の良し悪しの検証をスムーズに行えます。

資金調達や上場審査のプレッシャーを受けずに、本当に価値のあるものをピュアにユーザーに届けたいという人にとっては、事業創造に集中できる環境だと思います。

たしかに、事業家スキルを高めていきたいベンチャーパーソンにとっては、上場後も成長し続けるベンチャーという環境はとても魅力的と言える。そのリーディングカンパニーとも言えるChatworkでCSOを務める福田氏から見て、これからのベンチャー/スタートアップ領域で活躍する事業家人材とは、どんなビジネスパーソンなのだろうか。

福田日本全体は人口減少が進み、社会構造や労働市場の再編が次々と起こります。終身雇用が形骸化したり、ジョブ型雇用が進んだりするのが、その典型ですね。そういった劇的な変化の中で活躍できる人とそうじゃない人の差は、戦略脳と実行能力の両方を備え持っているかどうかでしょう。

未知なことが多い中でも、自律的に質の高い仮説検証を行えるかどうか。それを現場ではもちろん、チームや会社といった範囲に広げても進めることができるかどうか。この力が鍵となります。

福田氏からすれば、戦略のみを描くことだけでは不十分。なぜなら戦略は仮説に過ぎず、仮置きのスタートポイントでしかないからだ。実行が伴って初めて、戦略が正しかったかどうかわかるため、戦略と実行のバランスを持ちながら結果に向かっていける人に、事業家の素養があるのではないかと福田氏は強調する。

そして、こうした人材になるために、どのような経験をどのような環境で積めばいいのかと問うと、「事業ポテンシャルがあって、変化の大きい環境」という答えが返ってきた。

福田その上で、戦略の範囲内における自由度が許容されている環境はなお良いと思います。そういった環境を備えている企業を見極めるには、経営陣やマネージメント層が素直であるかが意外と重要なポイントです。間違っていたらそれを素直に認められるかどうかが、この変化の激しい時代に成果を出し続けられるかどうかを分けると考えています。

Chatworkでも活躍している人たちは、ビジョンや到達イメージだけを伝えてあとは一定自由に躍動していますよ。私がやっていることは放牧に近いですね(笑)。コミュニケーションの仕方も壁打ちが中心で、手取り足取り指導するシーンは多くありません。そういう人こそスピード速く、事業を進捗させています。

優秀な人材が不自由なく活躍できる環境があるChatwork。それは、事業の伸び幅や課題解決の幅も広く、マーケットの中でのポジショニングが明確であるといった、奇跡のような条件が揃っているプロダクトを有しているからだろう。

「自ら起業することで、のびのびと事業に専念できる」と考える人が多いかもしれないが、もしかしたらそれは間違いかもしれない。こういった環境でこそ、本当にのびのびと事業に向き合える、そう感じさせるような話だった。

つまり、7つの条件を実践することで、このSaaSビジネスをさらに長期的に成長させ得る事業家メンバーをそろえることができるとも言えるのだ。

理想のSaaS、7つの条件

──ネットワーク効果を働かせ、PLGでユーザーを連続拡大させる

──解決する課題は、ターゲット企業群の「日常業務」に置く

──どんなITリテラシーの人でも使えるくらいシンプルな設計にする

──ホリゾンタルに事業領域を捉え、かつ1企業内での利用ユーザー数を最大化する

──ホリゾンタルなサービス提供を起点に、バーティカルな価値創造を継続的に行う

──スイッチング・コストが高い領域を選ぶことで、大手の競合サービスと真っ向勝負しないようにする

──成長モデルを確立することで、大胆な投資を可能にし、海外の機関投資家からも評価を得る

既存のホリゾンタルSaaS事業を成長させる、人を集める、プラットフォーム上で新規事業を創造する、こうしたサイクルを回し、唯一無二のSaaS企業へと拡大していくChatworkの戦略。SaaSのみならず、ITプロダクトに携わる読者全てにとって、参考になる部分は少なくないのではないだろうか。

こちらの記事は2022年02月01日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

磯部 俊哉

写真

花井 智子

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