ビジネスチャットすら、浸透率はまだ15%程度──今からでも全然遅くない!伸び続けるSaaS業界キャリアの魅力を、One Capital浅田・Chatwork福田らに学ぶ

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登壇者
浅田 慎二
  • One Capital株式会社 代表取締役CEO, General Partner 

伊藤忠商事株式会社および伊藤忠テクノソリューションズ株式会社を経て、2012年より伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社(ITV)にて、メルカリ、ユーザベース、Box、Muse&Co、WHILL、TokyoOtakuMode、Fab等国内外ITベンチャーへの投資および投資先企業へのハンズオン支援に従事。 2015年3月よりセールスフォース・ベンチャーズ 日本代表に就任しSansan、freee、Visional、Goodpatch、Yappli、フレクト、Andpad、カケハシ、スタディスト等B2Bクラウド企業へ投資。2020年4月にOne Capital株式会社を創業、代表取締役CEOに就任。慶應義塾大学経済学部卒業、マサチューセッツ工科大学にてMBA取得。

伊藤 豊
  • KMFG株式会社 代表取締役社長 
  • 株式会社エルテス 社外取締役 
  • 一般財団法人ルビ財団 代表理事 

1977年栃木県宇都宮市生まれ。2000年に東京大学文学部行動文化学科(心理学)を卒業し日本アイ・ビー・エムに入社。2005年にスローガン株式会社を創業し2022年2月までの約17年間代表取締役社長を務めた。2022年には東京大学出身の上場企業創業者有志を中心に立ち上げたUT創業者の会ファンドを立ち上げ、現在もファンドのジェネラルパートナーを務める。2021年から経済同友会のノミネートメンバーに選出され、教育改革委員会副委員長を務め2023年より経済同友会会員。著書に「Shapers 新産業をつくる思考法」。2023年3月にKMFG株式会社を立ち上げ、スタートアップ向けのアドバイザリー業務を中心に提供開始。また、財団・NPOの立ち上げも準備中。

福田 升二

2004年伊藤忠商事に入社。インターネット関連の新規事業開発・投資業務に携わる。2013年にエス・エム・エスに入社。介護事業者向け経営支援サービス「カイポケ」や介護職向け求人・転職情報サービス「カイゴジョブ」などを中心とする介護領域全体を統括する。2018年に同社執行役員に就任。2020年4月よりChatworkに入社し、2020年7月に執行役員CSO兼ビジネス本部長に就いた後、2022年4月に取締役COOに就任。

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ここ数年の間に、SaaSが仕事のあり方を変えたといっても過言ではないだろう。SlackやZoom、Notionなどは、多くの人にとって日々の仕事を支える重要なソフトウェアではないだろうか。実際に筆者も、日々Google Workspaceをフル活用している一人だ。

そのような状況ではあるが、なぜSaaSがこれだけ仕事に入り込んでいるのか、またSaaSの潮流がどうなっているかを理解している人はそう多くないのではないか?そこで今回はSaaSのアンサーズと題して、SaaSスタートアップに明るい3人をお呼びしてオンラインイベントを開催した。

登壇者は、SaaSスタートアップへの投資と大企業のDXを支援するベンチャーキャピタルOne Capital代表取締役CEO・浅田慎二氏と、カンファレンスの主催でありキャリアサイト『Goodfind』などを展開するスローガンの代表取締役社長・伊藤豊である。また後半にはChatwork執行役員CSO兼ビジネス本部長 福田升二氏にも登壇いただき、具体的なSaaSの在り方や日本市場ならではのSaaSの成長戦略について語ってもらった。

もしあなたが20代ならば、これからのキャリアを考える上でSaaSビジネスのマクロな潮流は、押さえておかなければ必ず損すると言っても過言ではない、そんな領域である。ぜひこの記事をきっかけに、情報を追いかけていってほしい。

  • TEXT BY TOSHIYA ISOBE
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事業成長の安定で、投資を呼び込むのがSaaS

まずは第一部、「SaaSのアンサーズ 〜日本発メガSaaSへの道〜」から。SaaSのビジネスモデルを取っているスタートアップがそれぞれ順調な成長を遂げ、SNSでも「SaaS」の言葉を聞かない日はない昨今。しかし、マクロ視点に立ち、国内のSaaS関連マーケットの状況を捉えられている読者がどれだけいるだろうか?まずはこの点を、多くのベンチャー企業・スタートアップを支援してきた二人に聞いていきたい。

浅田SaaSマーケットの概観として、国内のSaaS企業に流れているお金がどんどん大きくなっています。5年前には100億円くらいの規模だったのが、2019年で800億円ほど、2020年は800億〜1,000億円ほどにまで膨らんだと言われています。ベンチャーキャピタル全体のマーケットからすると15~20%に過ぎませんが、「成長している」という観点で最も注目すべきセグメントです。

また、これまでは、上場後90日間で株価が騰落するのが日本のマザーズ市場の特徴だったのですが、SaaS企業の多くはこれに当てはまりません。なぜか?それは、ストックビジネスという形で、すでに継続的な売り上げ構造を構築できているため、上場後も好決算を続けることができ、市場の評価も乱れにくいからです。2020年度という節目で見ても、SaaS企業は総じて対昨年で高い成長率を生み出しています。

ほかにも、SaaSビジネスモデルをとっている上場企業は、9社が1,000億円以上の時価総額をつけていたり、マザーズ上場企業の時価総額TOP10のうち5社がSaaS企業だったりといったファクトがあります。

非上場マーケットでも注目度は高く、国内のファンドによる投資はせいぜい半分ほど、残りの半分を海外の機関投資家が占めるようになってきたという現状があります。

投資家目線でマーケットの概観から、日本のSaaS企業へ注目や期待が集まっている事実を淡々と紹介してくれた浅田氏。「投資」という観点だけでも、これだけの興味深いファクトが揃っているのである。

SaaS業界の魅力その1──成長期待が大きく、投資が集まり続ける

ここから、そこに伊藤が切り込み、その期待感を一般の読者にもわかりやすいように紐解いていく。

伊藤海外投資家が入ってきているというのは興味深いですね。日本でデジタル化が進んでいないため、SaaSのポテンシャルが大きいと思われているということなのでしょうか?

浅田その通りだと思います。実際、先進諸国の中でデジタル化の進行度や労働生産性は相対的に低く、OECD加盟37カ国の中では生産性指標で21位というその通りのデータが出ています。もう、デジタル後進国ですよね。読み書きのレベルは高いのにデジタル化が進んでいないことについて「なぜなんだシンジ⁉」とSalesforce時代によく言われていました(笑)。

私は、このデジタル後進国が生まれてしまった原因を、IT人材の多くが事業会社ではなくSIerと呼ばれるITベンダー側にいるという点にみています。日本ではソフトウェアエンジニアの約4分の3ほどが、ベンダーに勤めているといわれています。つまりシステム開発を発注する側は、ベンダーの言いなりにならざるを得なかった。ベンダーは自社が最も儲かるモデルを作る思考で動いている上、構造上のミスアラインメントにより、決して使いやすいとは言えないオンプレミスソフトの大量生産に繋がり、今の残念なIT環境が出来上がりました。

一方で今は、導入すればすぐに使えるSaaSがたくさんある。これまでの状況を大きく揺るがす地殻変動が起きています。

伊藤ソフトウェアを開発するエンジニアたちがITベンダー、いわゆるSIer企業に偏っていたわけですよね。つまり開発依頼をする発注側企業にはIT人材が少なかった。その結果、SIerに過度な依存をする構造になってしまったということなんでしょうね。

浅田数億円単位の金額をかけて社内オリジナルの社内システムをあらゆる領域で作る。ありえませんよね。多額の投資を行うのであれば、自社の売り上げに直接つながるものに振り向けたい、と思うのが自然な考え方です。「生産性の低い国」というデータがはっきり出てしまっているので、さすがに変わらないといけない。

2人の指摘はこうだ。日本企業が扱うソフトウェアのほとんどが、SIerによる受託開発によって整備されてきた。以前は、各企業の基幹システムにソフトウェアが入り込むだけで十分だったため、値が多少張ろうとも、自社に合った形でゼロから開発してもらうように発注することができた。

この構造が、ソフトウェア開発人材すなわちITエンジニアの偏在を生んだ。「開発は外注すれば良い」という時代が長く続いたことにより、ITエンジニアを抱える事業会社はかなり少ないのだ。このため、昨今叫ばれる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」はおろか、デジタライゼーション(デジタル化)すらもなかなか進まず、海外から「デジタル後進国」と見られるようになってきたというわけだ。

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メンバーの成長と愛着が、否応なく生まれるのがSaaS

DXが叫ばれる中で、企業活動のほぼすべてにソフトウェアが入り込むようになった。すでに浅田氏が指摘するように、全てをSIerのような受託会社に発注するわけにはいかない。費用が馬鹿にならないというだけでなく、品質の観点でも新たなSaaSを取り入れたほうが高いパフォーマンスを発揮できるためである。そうしたビジネス的な合理性から、SaaSを使っていこうという流れが生まれてきている。

しかし、これだけSaaSの有用性が話題に上がる一方で、SaaS企業で働くことについての魅力は、まだなかなか理解されていないという現状がある。サービスの成長に対して人が足りていないという話もよく聞く。「SaaSに関わるキャリアの価値」は、一体どうなのだろうか?

浅田 私も以前、SIerで3年ほど金融系の事業会社にサーバー等のインフラ機器を販売していたことがあります。やっていて思ったのは、SaaSよりも、オンプレミス型で売り切りのものをたくさん売ったほうが、少なくとも短期的には儲かるんですよ。

SaaSの場合は契約後、常にアップデートし続け、きちんとお客様の業務改善や売り上げ向上に貢献していく必要があります。できないとすぐ解約されてしまいますから、短期の売り上げには不安が残りますよね。でも逆に言えば、貢献できれば追加のライセンス購入といったアップセルを期待できるし、長く使ってもらうことを見越せるようになるのでLTV(Life Time Value・顧客生涯価値)の形で売り上げやプロダクトの価値を認識できます。

要は、SaaSって嘘がないビジネスモデルなんですよね。だから長期的には儲かるだろう、という見立てで、注目と期待が集まっている。

そしてこの特徴が、SaaS企業におけるメンバーのエンゲージメントの高さにつながると指摘する。

浅田 メンバー一人ひとりが、嘘なく顧客に向き合い、オンボーディングさせ、どうしたらサクセスできるかを考える。営業、マーケティング、ファイナンスなど、どの役割の人も同じ目線を持っています。

そういった特性からか多くの場合、社員のエンゲージメントスコアが高いのですよ。多くの人が仕事に対して大きなやりがいを感じているようです。ぜひ、SI業界から大移動をしていただきたいですね(笑)。

伊藤 「これからどこが伸びますか?」とよく聞かれますが、実際どの業界かどうかというより、浅田さんも指摘したように、あらゆる産業にSaaSが入りDXが進んでいます。SaaSに関わること自体に市場価値がついてくる時代です。この点に着目してキャリアを作っていくことも重要だと思っています。

ただ、カスタマーサクセスなど他業界からはまだ耳慣れない職種があることでキャリアイメージを持ちにくい側面もありますよね。

浅田 SaaSといえど、商売の構造はどの仕事とも一緒で、仕入れて加工して売るだけです。開発したプロダクトにキーメッセージを込めてマーケティングし、インサイドセールスでニーズのあるお客様へのアポをとって、フィールドセールスが嘘なくご説明し、カスタマーサクセスが使い方のご指南を通じてオンボーディングする。例えばSIer企業などで働いていた経験は、100%活かせますよね。

また、サブスクリプションモデルは、お客様との関係を長期で築き、事業の成功を後押しできるビジネスなので、感謝を受ける機会が多いというのも良いところだと思っています。

先ほど「オンボーディング」という言葉を使いましたが、ちゃんとしたSaaS企業であればお客様だけでなく転職者の「オンボーディング」もしっかりとしているところが多い印象があります。

既存の業界の括りではなく、あらゆる領域にSaaSが入ることでデジタル化そしてDXが促進されようとしている現在。今後もこの流れは進んでいくと想定される中、SaaSでキャリアを築いている人はマクロで見るとまだまだ少ない状況だ。異業種からでも転職しやすいタイミングだと言える。SaaS企業に興味を持つなら、今が最大のチャンスといっても間違いではないだろう。

SaaS業界の魅力その2──事業成長に伴い、メンバーのエンゲージメントが向上しやすい

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中小企業に広がり、日本のDXプラットフォームになり得るのがSaaS

続いて第二部「Slack,Teamsなど海外Tech Giantに負けない国内SaaSの意外な戦略を徹底解剖」に入る。日本においてDXがなぜ進まないのか、どうすれば進むのか。伊藤忠商事やエス・エム・エスで事業開発を担ってきたChatworkの福田氏が、浅田氏らの話を受け、日本におけるSaaSとDXについて課題を指摘した。

福田 日本の全事業者に対する中小企業の割合は、なんと99.7%にのぼります。労働人口でみると、71.4%が中小企業で働く人たちです。なので日本のDXを推進するということは、中小企業のDXを推進することであるといっても過言ではありません。

「中小企業のDX」というと、一層ハードルが高そうだ。むしろ、「世間の変化についてこれず生産性を上げられない企業は、淘汰されていってしかるべき」と考える読者もいるかもしれない。しかし福田氏はそういった考えを持たず、中小企業の支援こそが日本において重要だと述べる。

福田 実は日本の付加価値(売り上げ-原価)の過半数は、中小企業から生まれているという統計データがあります。これは世界的に見ても高い比率であり、産業の裾野が広い。ですから、日本の競争力を維持・拡大するためにも中小企業のDXを推進することがテーマとして重要であり、だからこそ私たちChatworkのターゲットの中心も中小企業なんです。

浅田 ちなみに、このイベントを聞いている人たちにとっては、ビジネスチャットなんてもう当たり前のものに思えますよね。どれくらい利用しているかと聞かれたら「半分以上くらいなんじゃないの?」と答えるでしょう。でも実際には10%台の前半くらいだと言われていて、これも先程述べた中小企業が多いという産業構造に起因しています。まだいわゆる「イノベーター」や「アーリーアダプター」にしか浸透していないんです。

浅田 こうした状況のなか、SlackやTeamsがテック系×エンタープライズ寄りのポジショニングをとっているのに対して、『Chatwork』はノンテック系×中小企業寄りとしています。今は31万7,000社以上(2021年5月末日時点)、416.7万ID(2021年3月末日時点)の規模になっています。

中小企業向けSaaSプロダクトは『Chatwork』以外にもいくつも存在している。市場としては確かに大きいだろうが、ITリテラシーが高いとは言えない点から、導入ニーズが立ちづらく、マーケティング的の難易度は高そうだ。どのような戦略で攻めていくのか、気になるところだ。

そこで浅田氏と福田氏がキーワードとして示したのが、グローバルで注目を集めるProduct-Led-Growth(以下、PLG)という戦略だ。

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SaaS好きなら知っておきたいPLG

PLGはまだ、日本ではそれほど馴染みのない言葉だろう。その意味合いと効果について聞くと、浅田氏が分かりやすい解釈を披露してくれた。

浅田 PLGはプロダクトの魅力を軸に、人が介在せずに伸ばそうというものです。そもそもは世界中でエンジニアが不足している問題に対する解決策がPLGなのだと解釈しています。DropboxやZoomなどを、皆さんの会社は営業マンから買っていないですよね。PLGを取り入れようとする企業は増えています。

つまり、プロダクトそれ自体の魅力が購入や新規導入を呼び込み、営業コストをかけずとも事業がグロースしていくような仕組みを整える、ということだ。確かに浅田氏の言うように、あなたの会社がZoomを使っていたとしても、それはZoom社の営業を受けて検討を始めたわけではきっとないだろう。

ではこれをどのように取り入れるのか?ここで福田氏がChatworkの事例を示した。

福田 これまでは、いわゆる“THE MODEL”とフリーミアムの2つの成長モデルを持っていました。これらのモデルは、イノベーターやアーリーアダプターなど、新しいプロダクトに興味を持ちやすい人たちを相手にするならば、効率的な戦略だと思います。

一方で、ITリテラシーが必ずしも高くなく、裾野が広い中小企業をターゲットとした場合には、効率が大きく落ちてしまいます。膨大なマーケティングコストを投下してセールスで捌く形だと、無駄が大きくなるんです。そこで、より戦略の中心に置くことを決めたのが、PLGというわけです。

福田 PLGは我々にとっては新しい概念ではなく、すでにPLGの仕組みが回っており、毎日数千ユーザーが新規登録してくれています。こういったところは他のビジネスチャットが持っていない『Chatwork』の強みで、中小企業マーケットで勝つために必須な要素だと思っています。

「数千」と聞くと派手な数字に思えるが、簡単に実現できたわけではないはず。どのようにその仕組みを整えてきたのだろうか。

福田 プロダクトとしてオープンな思想を大切にして開発を進めていて、会社という枠組みを超えて簡単にチャットでつながれるようにしています。中小企業は自社だけで完結できない仕事も多いので、他社の巻き込みやすさは重要です。その結果として、巻き込まれる側の新規ユーザーがどんどん増えるという構造を作り出しました。数千の新規ユーザーのうち7割くらいが、この招待というかたちで入ってくれています。

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HorizontalとVerticalは、対立ではなく融合すべし

SaaSプロダクトがPLGを取り入れることで、どのようにユーザーを広げていくのか、イメージすることができただろう。しかし、無料で使用する招待ユーザーが増えるだけで、事業自体がグロースしていくのだろうか?

もちろんそこには、別の成長戦略がある。『Chatwork』を例に、SaaSがより広く使われるための展開手法を、福田氏の説明から学んでほしい。

福田 キーワードはHorizontal(ホリゾンタル)×Vertical(バーティカル)です。SaaSは、業界に関係なく使えるホリゾンタルと、特定の業界に特化したバーティカルの2つに分けて議論されます。ビジネスコミュニケーションツールである『Chatwork』は前者にあたります。

ホリゾンタルSaaSでイメージが湧きやすいのは、「紙で行っていた契約を置き換える電子契約プロダクト」など、すでに行われている行為を代替するようなサービスですね。でもそのようなものばかりではありません。例えば『Chatwork』は、何を代替するでしょうか?それはメールかもしれないし、日々の雑談かもしれません。もし、頻繁にホワイトボードを使う企業がいたら、それ自体の代替をすることも可能でしょう。

もし、顧客のITリテラシーが非常に高いという状況なら、ビジネスモデルや業務プロセスに合わせたビジネスチャットの利用方法の設計が可能です。しかし先ほど浅田さんが述べたようにデジタル後進国である日本においては、この「設計」を自社で行える企業はそう多くありません。

なので私たちは、ホリゾンタルなプロダクトを提供しながらも、中小企業の顧客が直面する課題を解決するノウハウまで、合わせて提供していきます。介護業界の顧客ならこう導入する、建設業界ならこう導入する、小売業界なら……というかたちで、ホリゾンタルSaaSを、バーティカルすなわち、課題解決的に導入していくんです。

これをテックタッチで実現していくという少し難易度の高い事業ですが、実現できれば大きなグロースにつながると思っていまし、我々が開発含めて日本に根差した企業だからこそできるアプローチだと思っています。

福田 日常的にかつ全社員が使うようなSaaSのサービスは少なく、ビジネスチャットはその数少ないサービスの一つです。こういう特性を持つサービスはプラットフォームの基盤となりうる特性をもっています。我々がビジネスチャットとしてのシェアを拡大させることで、中小企業のプラットフォームとして振る舞い、様々なITソリューションをこのプラットフォームで提供できるようにすることで、中小企業のDXを多面的に推進していくという戦略も描いています。

よく言われるTAM(Total Addressable Market)の考え方でいえば、「ビジネスチャットの潜在市場規模」は6,000億円ほどになり、そこから「国内中小企業のIT支出」にまでターゲットを広げると4.1兆円になると計算しています。

ホリゾンタルSaaSを、複数のバーティカルな戦略で広めた上で、そのプラットフォーム性を活かしてスーパーアプリのような多機能・大規模なサービスを構築していくというわけだ。ベンチマークとしてSalesforceが存在する。4兆円の市場規模といえば、食品通販(EC含む)と同程度の大きな規模になる。なるほど、SaaSのグロースやスケールの例として、非常に分かりやすい。

SaaS業界の魅力その3──日本の産業を進化させる「DXプラットフォーム」として、多大なインパクトを持ち得る

浅田 私たちは、ビジネスチャットといえば第一想起だったSlackを導入していました。そんな中で『Chatwork』を試しに利用してみると、ユーザー登録がとても簡単だったのがすごく印象的だったんです。

正直、PLGというと、ITリテラシーが高い人たち向けプロダクトの戦略というイメージがありました。第一人者はITエンジニア向けソフトウェアを開発しているAtlassianだと言われていますから。なので、なぜPLGが実践できているのか不思議でした。

福田 ちょっと自虐的になってしまいますが、Slackに習熟してしまうと『Chatwork』は機能不足に感じます。ただ、先程も述べたようにマジョリティはビジネスチャットを知らない・使ったことがない層なので、言ってしまえば「ITリテラシーの高いマイノリティの人たちが使いにくいと言っている」ということなんです。

私たちは、プロダクトをマジョリティが使いやすいものへと進化させることを意識しています、このことが、中小企業の中で広がる原動力になっているのだと思います。「スレッド機能つけてくれ」とよく言われますよ(笑)、でもマジョリティの人たちにとって、相対的に価値が低い機能は短期的には対応しないと思います。

浅田 使いやすさという、引き算の法則でいわれるようなシンプルさが、PLGで伸びている要因だったんですね。

投資家としてシリーズAラウンドに特化して投資しているのですが、個人的に一つの機能で勝負しているスタートアップにわくわくする傾向があるんです。なぜかというと、特定の層に対して一つの機能で刺さらなかったら、それから広げて総合力でやっても結局刺さらないと思うからです。面で壁は打ち破れないけれど、尖っているものであれば奥まで入るイメージです。御社にもそういった魅力を感じています。

とはいえ組織規模も大きくなり、キャッシュも持たれていますよね。機能開発も進むのでは?と思うのですが、例えば「@メンション」とかもやるんですか?

福田 やりませんね(笑)。「@メンション」とか「既読」とかは、思想的にやらないと思います。ミッションとして「働くをもっと楽しく、創造的に」と掲げていて、日本的なヒエラルキーの構造を嫌がっている節があります。既読があることによって「読んだよね?」といった圧力のかかるコミュニケーションを生みたくなく、フラットで心地よいコミュニケーションにしていきたい気持ちがあります。

『Chatwork』では@ではなく、Toをつけると名前の最後に“さん”がつくようになっているのですが、こういう細かいこだわりは中小企業の方々には刺さっている部分のひとつですね。

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SaaSはどこも、まだまだ人手不足

第一部に続いて、第二部においても「人」観点での話に移った。やはり気になるのは、「SaaS業界での人手不足」だ。

福田 第一部で伊藤さんと浅田さんの話にもありましたが、我々だけではなく、SaaSって盛り上がっているけどまだまだ人材不足なんです。他業界からの転職はウェルカムです。SaaS業界で転々とするキャリアがあるといいと思うのですが、まったくもってそんな状況ではありません。

浅田 日本って長寿国なだけでなく、企業の継続年数も長いんですよ。私は、SaaSというビジネスが馴染みやすい国民性だと最近考えているんです。同じ製品を、長く使い続けて、しかもそれが進化し続けるって、まさに長寿国に合っていると思いませんか?

そんなビジネスなので、絶対にもっと広がっていくと思います。Chatworkをはじめとして、SaaS企業での新たなチャレンジを考える人が増えていくことを期待しています。

福田 なおChatworkはありがたいことに、順調に採用人数を増やしています。上場企業で役員をされていたような方々も入社を決めてくださっており、非常に順調です。でも転職される方々に聞くと「今からChatworkに?なんで?」って周りから言われたりするみたいですね(笑)。採用する人がいわゆるリテラシーが高い企業にいる人が多く、競合サービスを使っている人が多いからですね(笑)。

「中小企業のマーケットで伸びている・そのポテンシャルが大きい」「スーパーアプリ構想」というのを魅力に感じてもらっていますね。このことがあまり知られていないので、認知を広げていかなければと思っています。私たちはこの1年で人数が倍くらいに増え、M&Aをしてそこの責任者を担ったり、周辺事業を立ち上げたりするチャンスもあります。

SaaS業界の魅力まとめ

その1──成長期待が大きく、投資が集まり続ける

その2──事業成長に伴い、メンバーのエンゲージメントが向上しやすい

その3──日本の産業を進化させる「DXプラットフォーム」として、多大なインパクトを持ち得る

イベントの終わりに、視聴者から寄せられた質問へ2人が回答し、幕を閉じた。

ChatworkのライバルはLINEだと理解していますが、実際はどうですか?

福田 ほとんどの場合、機能面で競合となるとメールです。たしかにプライベートのLINEを使っている中小企業もいますが、ビジネス向けではないですし、そもそもセキュリティリスクもありますので、ビジネスにチャットを使おうとしている時点でリプレイスできる可能性のほうが高いと思っています。

「PLG=シンプルな機能でプロダクトアウトな広め方」だと思ったのですが、ある程度までいくと機能を増やすなど作り方や売り方は変わるのでしょうか?

浅田 そうですね。ZoomもZoom RoomsやZoom Phoneなどが売れているみたいですが、まずはシンプルなものから商品は増えていきます。ただしそれは複雑になってはいけなくて、複数化していくことが大事です。

新卒でインサイドセールスかフィールドセールスを選べる場合、どちらが良いでしょうか?

福田 圧倒的にインサイドセールスですね。フィールドセールスであれば1日の商談数って4件前後だと思いますが、インサイドセールスであれば数十回のチャンスがあります。数が多いためそれだけ仮説検証の数をこなすことができ、お客さんのこともプロダクトのことも知ることができますよ。

こちらの記事は2021年06月29日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

磯部 俊哉

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伊藤 豊
  • KMFG株式会社 代表取締役社長 
  • 株式会社エルテス 社外取締役 
  • 一般財団法人ルビ財団 代表理事 
公開日2021/10/29

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