スタートアップ転職、よくある失敗7パターン──冬の時代に突入?その前に押さえたい勘所

インタビュイー
伊藤 豊

1977年栃木県生まれ。宇都宮から新幹線で高校3年間、東京の開成高校に通学。2000年に東京大学文学部行動文化学科心理学専修課程卒業。日本アイ・ビー・エムを経て、2005年10月にスローガン株式会社を設立し、現職。

志村  麻美
  • スローガンアドバイザリー株式会社 代表取締役 

2001年早稲田大学法学部卒業。同年株式会社インテリジェンス入社。人材紹介事業部においてキャリアアドバイザーとして転職支援に携わる。2006年に株式会社I&Gパートナーズ(現株式会社アトラエ)に参画。Greenの立ち上げに携わるとともに、同社人材紹介事業部を牽引。2011年にこれまでの経験を活かし、独立。株式会社シンクセレクトを設立。クライアントは主にIT、ネット系ベンチャー企業。これまで15年以上にわたり人材紹介事業に携わってきた結果として、転職相談者数は累計5000名を超える。2016年10月、長くパートナーとして外部から一緒に仕事をする中で、その考えに共感をしたスローガングループへの参画を決め、スローガンアドバイザリー株式会社代表取締役に就任。

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スタートアップへの転職を考えるとき、どのような基準で企業を選べばいいのだろうか。

大型の資金調達を実施している、メディアでよく話題になっている、自分の経歴を高く買ってくれる、ストックオプションを付与してくれる…そうした軸だけでスタートアップを選別しているのであれば、残念ながら、その転職は失敗に終わってしまう可能性が高い。

スタートアップ業界にも、いずれ調整局面がやってくるかもしれない。“冬の時代”が到来したら、苦境に陥るスタートアップも増えるだろう。転職者は今のうちに、企業を見極める眼を養っておくべきだ。

本記事では、スタートアップを対象とした採用・転職支援を手がけているスローガンアドバイザリー株式会社の代表取締役・志村麻美と同社取締役の伊藤豊に、スタートアップへの転職者が陥りがちな失敗を訊く。

その後のキャリアを決定的に左右する「失敗例」が、7パターン明かされた。

  • TEXT BY MASAKI KOIKE
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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【失敗パターン1】資金調達の実績だけを見て転職

資金調達額は、スタートアップの将来性を考えるうえで、ひとつの有効な判断材料だ。しかし、調達額の多さだけで転職先スタートアップを選ぶのは危険だという。企業が調達した資金の使い方を誤ると、転職者はあえなく職を失ってしまうリスクすらある。

スローガンアドバイザリー株式会社 取締役 / スローガン株式会社 代表取締役社長・伊藤豊

伊藤資金調達の直後は、事業の成長角度を高めるために「とにかく人を増やそう」という経営方針を採るスタートアップが少なくありません。でも採用を加速させると、売上が想定通りに伸びなかった場合に、リストラにつながってしまうリスクも高まります。

事前にそれを十分に認識しておかないと、企業がリストラを実行せざるを得なくなってしまったときに「こんなはずじゃなかった」と頭を抱えることになってしまいます。

メディアで見かけるスタートアップは、エクイティ調達をしている会社が多い。一方で、資金調達をほとんど実施せず、黒字経営で成長しているスタートアップも存在する。調達額の多寡が、転職先としての望ましさを示しているわけではないのだ。

伊藤スローガンアドバイザリーでは、「大型調達を実施したから、短期間で大量採用したい」といったスタンスのスタートアップさんに出会ったら、じっくり経営陣にヒアリングしてから、お手伝いさせていただくかどうかを判断するようにしています。

そのスタートアップの経営状況を鑑みて、そのタイミングでその人数を採用することが順調な企業成長につながるのか、多角的に検討しているんです。

採用計画は本来、経営課題から逆算して立てられるべきですよね。私たちは採用のプロとして、かつスタートアップ経営を14年間手がけてきた身として、企業の経営陣と一緒に採用計画の妥当性を検討することが重要だと考えています。

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【失敗パターン2】“勝ち馬スタートアップ”に乗りに行く

事業成長が加速してメディア露出も増え、勢いを感じさせるスタートアップに狙いをつける手もあるだろう。ただ、その選択も一長一短だ。

スローガンアドバイザリー株式会社 代表取締役・志村麻美

志村転職先のスタートアップが成長していたとしても、ただそこにジョインしただけでは、ビジネスパーソンとしての希少性は高まりません。“ワンオブゼム”になったら、埋もれてしまうだけ。

ジョインした後に成果を出し、信頼を得て、担う役割や付与される裁量を拡げていくことが重要です。会社の成長にどれだけインパクトを与えられそうなのか、しっかりと検討する必要があります。

伊藤「とにかく伸びている企業だから」と転職する人は、ただ“勝ち馬”に乗っているだけで、キャリアの指針が定まっていない。あるいは、キラキラとしたスタートアップに入ろうとしているだけのこともあるでしょう。

残念ながら、そういった“ファッション思考”で転職して、その人ならではの成果を出せている人は、私が知る限りほとんどいません。

転職をキャリアアップに結びつけるためにも、地に足をつけた自己理解が大切だ。

志村ご自身がどういった価値を実現したくて、そのためにどんなキャリアを歩むべきなのか、しっかりと内省する必要があります。

もちろん、自分ひとりで自己理解を深めていくのは簡単ではありません。

エージェントをはじめ、多くのビジネスパーソンのキャリア選択に関わってきた第三者に伴走してもらいながら、改めて自分が何に動機づけられるのか、どうすれば良い状態で働けるのかを考えていくことも大切です。

伊藤もっとも、必ずしも確固とした指針は見つからなくてもいいんです。方向性に悩んでいるなら、「まだ成功しているとはいえないが、自分がジョインすることで成長しそう」な企業を選ぶと、キャリアアップにつながりやすいと思います。

企業をサバイブさせるためにあらゆる手立てを講じざるを得なくなるので、経営者と近い目線で、さまざまな経験やスキルが身につきやすいからです。

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【失敗パターン3】創業期スタートアップに、経歴を高く買われる

有名大学での実績や一流企業を経ているビジネスパーソンは、特に創業期のスタートアップに、その経歴の輝かしさから猛烈なラブコールを送られることがある。しかし、明確なキャリアプランを考えることなく入社すると、たいていは失敗してしまう。

志村そのスタートアップのフェーズで求められている能力と、ご自身の発揮できる価値がフィットしているか、よく検討してから入社すべきです。

以前、とある優秀なマーケターの方が、マーケティングの知見を活かして経営に携わりたくて、少人数のスタートアップにジョインされたことがあります。すると、直後に事業状況が変わり、当初よりもマーケティングに予算を割けなくなってしまいました。

結局、その方は「経営観点で何をすべきか」よりも「スタートアップでマーケティングに関わる」ことに固執し、経営陣と対立関係に陥ってしまいました。

伊藤スタートアップの経営者は、一部のシリアルアントレプレナーを除き、経営経験は豊かではない方がほとんど。特に創業直後は、無名で孤独な状態が続きます。

だからこそ、初めて資金調達してメディアに取り上げられ、輝かしい経歴のビジネスパーソンが面接に来てくれるようになると、本当に嬉しいんですよ。

今までの苦労が、すべて報われたような感覚すら覚えます。そういうわけで、豪華な経歴の候補者を見ると、深く考えずに採用してしまう。

しかし、そうして採用してしまうと、ミスマッチに陥りやすい。「どんなスタートアップでも一回は通る失敗だ」と伊藤は語る。

伊藤スタートアップを見きわめるときには、その失敗を乗り越えて採用したい人物像がチューニングされ、目が肥えてきているフェーズの会社かどうかを確認したほうがいいでしょうね。

もし、まだその段階に達していないように見えたら、経歴を買われてオファーをもらっても、慎重に考えた方がいいと思います。「本当に私でいいですか?」「見る目ありますか?」と。

こうした視点でマッチングを検討できている転職エージェントは、多くないと思います。安易に「オファー出ました!おめでとうございます」と言って満足してしまう会社が少なくありません。

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【失敗パターン4】大手企業での成功体験を、そのまま活かそうとする

また、大手企業で積んだスキルと経験が、創業期スタートアップでも活きるとは限らない。

志村大手企業で人事として活躍していた方が、アーリーフェーズのスタートアップに入社したことがありました。

でも、大手企業では既成のルールに則った業務がメインだったので、スタートアップでゼロから仕組みをつくり上げる役割は果たせなかった。

しかも、過去の経験をアンラーニングしたり、経営者や周りの人たちに「ちょっと助けてください」とオープンにコミュニケーションを取ることもできませんでした。

もちろん、大手企業の出身者がアーリーフェーズのスタートアップに転職すること自体が悪手というわけではない。大手企業で培えるスキルと、創業期スタートアップで求められるスキルの違いを把握し、その前提を理解して、採用した側、された側がお互いに対策を講じれば、問題は防げる。

志村発生しうるミスマッチを前もって予想し、選考時から候補者と綿密にすり合わせていくことが大切です。意思決定の情報が不足しがちなスタートアップ転職では候補者だけでなく、企業の受け入れ体制も整えなければいけません。

企業ごとの採用力やフェーズに合った人を採用し、適切にオンボーディングしていけるようにアドバイスすることでミスマッチを減らしていけると思っています。

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【失敗パターン5】一流企業出身者が、謙虚さを欠いたスタンスでジョイン

一流企業の出身者は、華やかな経歴ゆえに自己評価が過剰に高まり、謙虚さに欠けたスタンスに陥ってしまうケースがある。その場合、たいていはポジティブな転職にならない。

伊藤高学歴で、コミュニケーション能力や年収も高い一流企業の出身者が、「わざわざ入社してあげる」感覚でスタートアップにジョインすることも少なくありません。

でも、0→1フェーズでの実績がないのであれば、活躍できるかどうかは未知数です。自身のプライドや企業からの期待値を過剰に高めてしまうと、思うように活躍できなかったときに大きな不和が生まれます。最初は、謙虚な姿勢で学びにいくべきです。

志村過去の成功体験に縛られて、新たな環境に適応するスタンスが欠けていると、活躍できませんよね。

さらに、最悪のケースでは社内で派閥を形成してしまい、思わぬ分断を生んでしまうことすらあるという。

伊藤まだ世界に存在しない価値を生み出そうとしている起業家は、良い意味で“偏っている”方が多い。コンサルティングファームや一流大手企業の出身者は、その偏りをロジカルな正論で批判しちゃうんですよ。「あの社長は全然賢くない」といったように。

批判している人たちは、たいてい代案を示せないものの、一見は頭が切れるように見えるので、下手をすれば社内に“信者”が生まれてしまう。ブランド力の強い企業出身だと、それだけで若手からは「すごい人だ」と思われがちですしね。

結果として、“社長派”と“反社長派”に派閥が分かれ、会社は完全にバラバラになってしまいます。

志村“批判者”に終始してしまう人は、何の成果も残せずに不和だけを生み、数年で辞めていくケースが多いです。経営者と同じ視点で、当事者意識を持って事業成長にコミットできなければいけません。

課題のない組織はなく、欠点のない経営者もいない。その課題や欠点と向き合う経営者のスタンスに共感し、補い合うことで、事業としてより大きな価値を生みだしていけます。

スローガンアドバイザリーでは、一流企業の出身者の方を支援する際には、カルチャーや人柄が合致する起業家とのマッチングを大切にしています。

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【失敗パターン6】ストックオプションを入社時に求める

スタートアップにジョインする魅力として、ストックオプションの存在が挙げられることも少なくないだろう。しかし、ストックオプションは上場しなければ何の価値もないうえ、M&A時に無効化されてしまうケースもある。

そもそも、ストックオプションの資産価値は、中央値で700万円前後とする分析もある。さらに言えば、ストックオプションを発行できるのは未上場スタートアップに限った話ではなく、場合によっては株式上場済みの企業のほうが多くの利益を手にできる。

伊藤東証マザーズ市場に上場している企業の公開時の時価総額は、平均で100億円以下です。まだまだ伸びる余地が多分に残されている。

上場企業であっても新株予約権は発行できるので、未上場スタートアップにジョインするより、多分にアップサイドが見込めるケースもあるんです。

外資系の上場企業では自社株によって報酬を支払うケースも珍しくないですし、日本もグローバルなコーポレートガバナンスに合わせていく潮流があるので、そうした事例が増えていくと思います。

ストックオプションの相場観についても、あまり正しい情報がシェアされていないと感じます。

入社時にストックオプションが付与されるのは、前職で役員や事業部長レベルだった人がほとんど。

「僕ってストックオプションもらえないんですか?」と聞かれる方も少なくありませんが、スタートアップで要職を務めた経験がないのに、大手企業やコンサルティングファーム出身というだけで、入社時に付与されるケースは珍しいですね。

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【失敗パターン7】スキル重視の即戦力人材として転職

これまで培ってきた知見を活かそうと、スキル重視の採用を実施しているスタートアップに入社したことが、裏目に出てしまうケースもある。

志村即戦力人材がほしくて、スキル重視で大量に中途採用を実施しているスタートアップは、離職率も高くなりがちです。もちろん、中途採用を重視することで大きな企業成長につながることもあります。

でも、人を大切にしているスタートアップは、数十人規模の段階から新卒採用も行い、じっくりと人を育てている印象があります。

伊藤伸びていく企業は、創業初期から「学生であろうが何であろうが、優秀な人には、いい仕事を任せる」といったスタンスを貫いていると感じます。

無条件に「新卒は採りません」と掲げている企業は、人材の見方に対するバイアスが強いこともある。だから、そうした会社は、人材に対する見方に柔軟性がない可能性が高く、入社してもミスマッチが起こりやすいと思います。

志村「良い」企業は、中長期的に、人の未来に投資しようとするスタンスを持っていることが多いですよね。

短期的な頭数合わせではなく、将来的に中核を担ってくれる人材を、時間をかけて育てていく。そうしたスタートアップの方が、転職者さんのことも大切にしてくれる可能性が高いです。

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スタートアップ出身者が、大企業の経営陣にも食い込む時代に

本記事で紹介した7ポイントは、あくまでも「よくある失敗」にすぎない。結局は転職者自身の頭で考え、自己分析をしたうえで、判断する必要がある。

当たり前に聞こえるかもしれないが、転職先企業についてのリサーチを怠ってはいけない。あえて無名のスタートアップに飛び込もうとするときこそ、入念な下調べが必要だ。

伊藤最低限のリスクヘッジとして、Googleで会社名を検索することも意外に有効です。

関連キーワードに「詐欺」といった怪しげなものが出てきたり、スクープ系のメディアで不穏な噂が取り上げられていたりすることもありますから。

もちろん、検索結果を鵜呑みにしてはいけませんが、ひとつの判断材料にはなります。

とはいえ、口コミでしか伝わらない情報も少なくない。「スタートアップ業界はジャーナリズムもまだまだ未発展」と伊藤は語る。だからこそ、信頼できる知人や、スタートアップ経営を本当に理解しているエージェントから、生の情報を集めていくアクションが必要だ。

ここまで懸念事項ばかりを伝えてきたが、スタートアップへの転職は、大きな可能性を秘めてもいる。

伊藤これからの時代は、スタートアップのみならず、大企業もDX(デジタルトランスフォーメーション)に限らず、新規事業創出やイノベーションへの取り組みにますます本腰を入れていくはずです。すると、スタートアップで0→1で事業をつくってきた人材は重宝されるようになるでしょう。

新規事業を立ち上げる際にも、スタートアップ出身者にどんどん声がかかるようになるでしょうし、大企業のCDO(Chief Digital Officer)やCIO(Chief Innovation Officer)といった経営ポストに就くケースもたくさん出てくると思います。

すでに、ヤフーの経営陣はスタートアップ出身者が多くいらっしゃいますよね。私の知る限りでも、新卒でスタートアップに入り、今は大企業の役員を務めている人もいます。

もちろん、コンサルタントとして独立するなど、大企業以外にも活躍の場はたくさんあります。自分の腕一本で生きていけるスキルを身につけることを目指して、スタートアップにジョインする選択はアリだと思います。

志村キャリアの命運を分けるのは、「市場に出たときに、座れる椅子がどれくらいあるか」だと思うんです。今後は、テクノロジー系の領域で「座れる椅子」が増えていくことは明白です。そのためスタートアップへの転職は良いキャリアの積み方のひとつだと思います。

仮に転職先のスタートアップが倒産してしまったとしても、成長領域における尖った経験は武器になります。伊藤が言うように、あらゆる企業でDXが推進されていくなかで、泥臭く事業を生み出していける人材は重宝されていくでしょう。

こちらの記事は2020年02月28日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

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執筆

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

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藤田 慎一郎

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長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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