社員数10人以下でも新卒を採るべき3つの理由──XTech西條流「新卒採用の始め方」
新型コロナウイルスの影響によって採用市場にも大きな影響が出ているが、どんな時代も優秀な学生の獲得競争は激しい。効率よく優秀な人材を獲得したいスタートアップは、新卒採用市場でどのような戦い方を取るべきなのか。
その手がかりを得るべく、2020年7月、スローガン株式会社はXTech株式会社代表取締役CEO・西條晋一氏を招き、トークイベントを開催した。スローガン代表取締役・伊藤豊が聞き手を務める本イベントには、優秀層の新卒採用に取り組もうとするベンチャー企業の経営者や採用担当者約30名がZoomで参加した。
西條氏は、サイバーエージェント時代からこれまで1000人以上の選考希望者と面談し、現在は起業家としてグループの新卒採用および、投資家としてスタートアップへ採用支援も行っている。それらの経験も踏まえ、ベンチャー企業が新卒採用を行う意義と新卒1期生採用を成功させる秘訣が語られた。
- TEXT BY KOUTA TAJIRI
- EDIT BY MASAKI KOIKE
組織の活性化、ポテンシャル、採用コスト……新卒採用はメリットだらけ
育成コストを理由に新卒採用を躊躇するスタートアップは多い。しかし、西條氏は「スタートアップこそ新卒を毎年採用すべき」と断言する。
西條理由は3つあります。
一つ目は、ベンチャー/スタートアップ企業にとって重要な、カルチャー形成に有効だから。社員数の少ないスタートアップにとって、「誰をバスに乗せるか」、すなわち最初の10~12人のメンバーに誰を選ぶかは、特に重要です。そのメンバーがその後の企業カルチャーを決定づけることになるからです。
この観点から見たとき、新卒は意外にも理想的な人材です。真っ白なキャンバスのように純粋な存在なので、中途社員のように「前職ではこうでした」と疑問を持つことも少ない。ロイヤリティが高く、企業のミッションやビジョンが浸透しやすいんです。
二つ目は、組織の活性化です。イメージの話にはなりますが、古い水が溜まって澱んでいる池より、常にフレッシュな水が流れ込む川のような組織の方が、健全な感じはありますよね。それと同じで、毎年新卒の若手が入ってくる組織というのは、清々しいものです。
そして、新卒はときどき、良い意味で先輩社員の予想を上回る、驚くべき成果を出すことがある。そうすると、先輩社員も刺激を受けて、組織の活性化につながるんです。
あと、新卒社員が入社すると、先輩たちは否応なしに、教える側に回る必要性が出てくる。少し手間はかかりますが、育成のカルチャーが生まれることで、先輩社員たちのスキルアップや組織の活性化につながる側面もあります。
三つ目は、縦横のネットワークが広がることで、事業推進におけるコラボレーションが多く実現される可能性を秘めているから。これは商社が典型的なんですが、新卒は歳を重ねるごとに同期とは「横糸」で、お世話になった先輩・指導した後輩とは「縦糸」でつながりをつくっていくことができる。
そしてこのネットワークが、社内の情報収集や大きなプロジェクトを行うときの根回しに活きてくるんです。この強い糸のつながりは、新卒採用ならではの強みだと思います。
伊藤氏も、「採用コストとポテンシャルの面から見ても、新卒採用をやらない手はない」と言う。
伊藤そもそも中途転職の市場においては、優秀な人はたいてい今の職場で十分活躍していたり、自分で起業しちゃったりするので、そういう人に転職を働きかけて採用するにはとてもエネルギーがかかります。
一方、新卒の市場では、どんなに優秀な学生でも、ほぼ全員が就職先を求めて動いている。これってすごいことだと思うんです。新卒採用市場は、超優秀な人材を獲得できるチャンスがあるボーナスステージ。名乗りを挙げない手はないと思うんですよね。
また、「新卒=教育にコストがかかる」と捉えている人も多いと思いますが、これに関しては、「自分で考えて行動する力のある新卒を採用する」ということがポイントです。自立して動けない新卒を採用してしまうと、余計な教育コストがかかり組織の足をひっぱる事態になってしまうということもあり得るので、採用時のスクリーニングはとても重要です。
SNS、イベント、飲み会…オンライン/オフライン問わず、優秀な学生との接点を増やす
とはいえ、求人媒体や採用イベントを駆使する大企業と、知名度、実績、資金力に劣るスタートアップが正面から戦っても勝ち目は薄い。だからこそ、西條氏は、「SNSをフル活用すべきだ」と勧める。
西條立ち上がったばかりのスタートアップが学生に訴求できる主なコンテンツは、魅力的な経営者と社員、そしてビジョンです。自社の魅力や仕事を自分の言葉で語り、学生に訴求していくためには、SNSでの発信が特に有効と考えています。
伊藤タレント(魅力のある人)を採用するには、まず社員をタレント化せよ、ということですね。
西條僕がサイバーエージェントに転職した2000年代初期は、求人誌や雑誌などのペイドメディアで露出を増やしていましたが、今はTwitterやFacebookなどのSNSが普及し、費用をかけずに学生にアプローチできる時代になりました。これを活用しない手はありません。
SNSでの発信には、社長や社員の協力も欠かせない。XTechではSNSでの発信を社員に推奨し、インターン募集の告知を全社一丸となって行うことで、130名の候補者を集められたという。
西條人事に採用を丸投げしてはいけません。SNSで社長や社員の人柄が見えたほうが、会社の魅力が伝わりやすいし、口説きやすい。SNS上のDMがきっかけで優秀な新卒を採用できるケースもあります。
自社に興味を持ってくれた学生が調べやすいように、社員一人ひとりが日頃からSNSのアカウントを充実させ、仕事に関する情報を発信し続けることが大切です。
出会いの場は、SNSだけではない。XTechでは様々なイベントに登壇し、優秀な学生との接点を創出しているという。
西條ハイポテンシャルな学生向けのイベント参加者には、ベンチャー企業への就職を視野に入れている人も多く、会社の知名度だけでなく事業内容や理念、登壇者のスピーチ内容も重視してくれます。先日登壇した『Goodfind』のイベントでは300〜400名の学生が参加し、XTechのLINE@に230名が登録してくれました。
また西條氏は、母校の早稲田大学で、OB起業家であるメルカリ山田進太郎氏らと共に、起業家養成コースの講師を担当。時には受講生の学生たちとイベントや飲み会で接点をつくり会社の魅力を伝えている。
西條飲み会にはうちの社員や受講生が誘った他校の優秀な学生も参加するので、XTechと優秀な学生のネットワークが自然に広がっていく。ほしい人材がいるであろう場所ならどこでも、社員一丸となって顔を出すようにしています。
インターン経歴は重要指標。カルチャーフィットは「表情」で見極める
優秀な採用候補の母集団をつくれたとしても、面接だけで見極めるのは難しい。その応募者が本当に優秀で、自社にマッチするかどうかを判断するには、どうすればいいのだろうか。「ポイントはSNSのフローの情報、インターン経験、表情から読み取れる情報だ」と西條氏は語る。
西條昔と今で違うのは、SNSを活用して積極的に情報発信している学生がいることです。FacebookやTwitter、Instagramを見れば、その人がどんなことに興味を持っていて、どんな人柄か、どんなコミュニティに属しているかある程度わかります。履歴書やエントリーシートなどのストック情報だけではく、SNSのフロー情報に関しても、よく見るようにしていますね。
また、「インターンシップの経歴」も応募者の優秀さを測る一つの基準です。やはりインターン先をセンス良く選んでいる人は、良いコミュニティに属していたり、リサーチ能力が高く優秀なことが多い。イケてるスタートアップやメガベンチャー企業でのインターン経験がある人は、既に基本的な動作が身についていて、即戦力として活躍できる人も多いです。
一方、カルチャーフィットのような要素は、リアルでお会いしたときの表情で見極めています。たとえば「当社は挑戦を後押しする社風で、若手に大きな権限を与えています」と話をしたときに、無理やり興味があるように見せかけて聞いているのか、目をキラキラさせながら前のめりに話を聞いているのか。応募者の目を見れば、だいたいわかりますよね。
ただ、面接で人を見極めるにはスキルと経験が必要なので、「誰に面接を任せるか」は慎重に決めるべきです。もし、社内に適任者がいない場合は、外部の専門家に同席してもらうのも一つの手だと思います。
大手に内定した学生を口説くキラーフレーズとは
採用で優秀な学生を見極められたとしても、そうした学生には既に大手企業からの内定が出ているケースも多い。大手との奪い合いになった場合、スタートアップが応募者を口説き落とすにはどうすればいいのか。
西條やはり、カギとなるのはメンバーです。入社を迷っている学生に「大手とスタートアップ、それぞれの社員と会ってきたと思うけど、直感でどちらの会社のメンバーと働くのが楽しそう?」と訊ねると、入社を決めてくれる場合が多いですね。うちは大手企業から転職してきた人も多いので、その分いろいろな大手企業の情報を知れるというメリットもあります。
伊藤「働く相手を選べる」という時点で大きなメリットがありまよね。スタートアップでは、大企業によくある「配属ガチャ」を引く必要がない。
一方で、スタートアップへの就職に二の足を踏む学生の多くは、「ファーストキャリアの選択を誤ると、将来のキャリアが狭まってしまう」という不安を抱えています。なので、「1社目にスタートアップを選んでも、その後のキャリアの選択肢はいろいろあるよ」という事例を見せると良いでしょう。
たとえば、先日のイベントで西條さんと一緒に登壇されていたXTech子会社代表取締役の市川龍太郎さんは、新卒で創業期のRettyに入社してから、ボストン・コンサルティング・グループに転職している。
彼のようにスタートアップから大手企業へ転職した事例や、サイバーエージェントの藤田さんなど、新卒で当時ベンチャーだったインテリジェンスを選んで活躍している起業家の存在を教えてあげれば、学生も安心して飛び込んでくれるはずです。
「できる若手には任せ、評価せよ」待遇に天井を設けてはならない
せっかく優秀な学生を採用しても、すぐに辞められてしまっては意味がない。新卒のエンゲージメントを高め、パフォーマンスを発揮してもらうための要点に、西條氏は「本音を引き出すことが大事だ」を挙げる。
西條新卒社員は知識的にも立場的にも社内で思ったことを言いにくい。しかし、「やりたい仕事ができていない」「この待遇では満足できない」といった不満を溜め続けていると、離職につながりかねません。定着率を高めるためには、本音を言える環境をつくり、社員が何を考えているのかを正確に把握する必要があると言えるでしょう。
ただ、新卒社員との信頼関係がない状態で、いきなり「いまの仕事に満足してる?」と聞いても、彼らは「はい」としか答えません。業務中こまめに話しかけてあげたり、会議中「○○さんはどう思う?」と聞いてあげるなど、彼らの心理的安全性を確保する取り組みをしてください。
また、役割と責任を与えることも重要です。かつては「入社何年目で課長に昇格する」といった明確なキャリアパスを設ける企業もあったと思うのですが、そのやり方はもう古い。
それよりも、チャレンジングな業務を任せ、それをクリアしたらさらに高い目標を与える、といったやり方のほうが若手にとってモチベーションになります。サイバーエージェントでは新卒1年目で子会社社長に抜擢されることもありますが、ポジションが人を育てるということもあり、多くの若手がグループ内で素晴らしいキャリアを築いています。
さらに、「定着率を高めるためには適切な評価も必要だ」と、西條氏は続ける。
西條できる人にはそれなりの報酬を支払うべきでしょう。給与テーブルを細かく等級化して一度の査定の昇級幅が決まっているような企業もありますが、それでは急成長した場合に実力と給与が乖離してしまい、他の企業からより高い給与のオファーが出たときに転職してしまいます。
また、賛否両論はあると思いますが、専門的な職種に関しては、年収500万円の社員2人よりも年収1,000万円の社員1人の方が圧倒的にパフォーマンスが高いという実感もあります。
マーケティングでは一度離れた顧客を再獲得するには相当なコストがかかるため、上位顧客を囲い込んでロイヤルカスタマーを育成するのが定石ですよね。採用にも同じことが言えます。転職エージェントに高額なフィーを払うくらいなら、その分パフォーマンスの高い社員の給与を上乗せし、長く働いてもらったほうがよほどいいと思います。
この国の将来は、若い力の活用にかかっている
最後に伊藤氏と西條氏は、改めて新卒採用の意義について語り、セッションを締めくくった。
伊藤優秀な若手と一緒に働いた経験のない人からすると、「やはり新卒は教育コストがかかりそう」と思われるかもしれませんが、それはもしかしたら、本当に優秀な学生とまだ出会っていないからかもしれません。
世の中には、新入社員として手取り足取り指導・育成しなくても自走してくれるとても優秀な学生もいます。それでも不安なら、長期インターン生の採用から始めてみるのも良いでしょう。上手くいけばそのまま社員として入社してくれるケースもあるので、スタートアップやベンチャーの採用ルートとしてインターンは非常に有効だと思います。
西條こちらが予想もしなかったような成果を出してくれる新卒社員に出会うと、「自分が若い頃はこんなこと絶対にできなかったなあ」と僕自身も刺激を受けます。
日本はあと20年もすると高齢者だらけの国になりますが、僕は年を取っても若い人と一緒に仕事がしたい。いつの時代も若者は気づきを与えてくれるから。結局のところ、僕が新卒採用を推す理由はそこに尽きるのかもしれません。
こちらの記事は2020年09月01日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
田尻 亨太
編集者・ライター。HR業界で求人広告の制作に従事した後、クラウドソーシング会社のディレクター、デジタルマーケティング会社の編集者を経てフリーランスに。経営者や従業員のリアルを等身大で伝えるコンテンツをつくるために試行錯誤中。
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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