連載スタートアップ・ベンチャーへの転職にまつわる真実と誤解

ベンチャー転職時、給与・待遇は下がるわけではない

インタビュイー
伊藤 豊

東京大学文学部行動文化学科卒業後、2000年に日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。システムエンジニアの経験の後、関連会社での新規事業企画・プロダクトマネジャーを経て、本社でのマーケティング業務に従事。2005年末にスローガン株式会社を設立、代表取締役に就任。著書に「Shapers 新産業をつくる思考法」(クロスメディア・パブリッシング)がある。2021年度より経済同友会第2期ノミネートメンバーに選出。

高野 秀敏

1976年宮城県生まれ。1999年東北大学経済学部卒業後、新卒で未上場のインテリジェンスに入社。2005年株式会社キープレイヤーズを設立し、現職。30社以上の社外役員・アドバイザーを務める。

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スタートアップ・ベンチャーへの転職にまつわる真実と誤解。ベンチャー転職界の第一人者・高野秀敏とスローガン代表・伊藤豊が語る本音のトークをお届けする。今回は、給与やストックオプションなど待遇面について語った。

  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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第一部:ベンチャーの待遇の真実
ベンチャーだから給与が下がるわけではない。

日本を代表する転職エージェントの一人と言っても過言ではないだろう。キープレイヤーズの代表・高野秀敏氏がその人だ。

上場前のインテリジェンスに新卒入社し、2005年に独立。一貫して転職領域に関わり、スタートアップ・ベンチャー企業への転職支援に特化した活動をされてきた。

創業期のスタートアップに関わることも多く、エンジェル投資家としても活動。30社以上の社外役員、アドバイザーに就任するなど、日本のスタートアップ・ベンチャーの発展プロセスにおいて重要な役割を担ってきた人物だ。

一方、スタートアップ・ベンチャーの新卒採用領域でこの10年で実績を伸ばしてきた会社が、スローガンだ。スローガンの代表・伊藤豊と高野氏はともに、スタートアップ・ベンチャーを支援する立場として、これまでも情報交換しながら親交を深めてきた二人だ。今回あらためて昨今のスタートアップ・ベンチャーへの転職の現実について対談形式で語りあった。

先月、スローガンの伊藤の記事(「ベンチャー転職で失敗しないために知っておきたい10か条」)が、大きな反響を生んだ話題から対談はスタートした。

伊藤思いのほか、あの記事がバズりました。共感も多かった一方で、人によって認識・解釈が違うのかなと思わされる反応もありました。

高野あの記事の内容自体は、すごくごもっともな内容で、スタートアップ・ベンチャーに転職したいって人向けには、私も口頭で何度も話している内容なので、あ、伊藤さんまとめてくれたんですね、って感覚でした。

伊藤高野さんにも概ね同意いただけていると知って安心しました。ベンチャーへの転職を語る上で、報酬の考え方は関心も高そうです。

高野報酬の考え方に関しては、伊藤さんが記事に書いていたとおり、大手からベンチャーに転職する場合には、下がることを覚悟した方が良い、って話は大筋としてはそのとおりであることが多いのですが、いくつか補足したいです。

10年前に比べて1社あたりの資金調達額が増えましたよね。それに伴って、ベンチャー企業での採用時の給与水準も上がってきてはいますよね。

特に、CFO候補には高い給与でオファー出すことは増えています。外資金融で年収2,000万円以上の人にさすがに700万円でお願いします、とはなかなか言えない。ベンチャー企業でも1,200万円ぐらい出す会社が増えたんじゃないですかね。

伊藤あのブログ記事で「最初からストックオプションも給与アップも期待しない方が良い」と書いたところ、ベンチャーだからって給与が下がるとか低いってわけじゃないだろ、という反論や、そんなだからベンチャーはダメなんだ、的な指摘もありました。

私が言いたかったのは、大企業在籍時の給与を前提にするのは無理があるのではないか?ということでした。今大企業で1,000万円もらえているから、ベンチャーに転職しても1,000万円以上は欲しいというのは無理がありますよね、と。

勿論、その後、活躍してポジションも上がるにつれて、1,500万円にもなる可能性はある前提で。

高野例えば、大手コンサルティング会社からほぼ同じようなコンサルティングビジネスをやっているコンサルベンチャーに移るみたいな転職の場合は、前職の経験が活きる分野への転職になるので、給与水準を維持できる可能性はありますね。

ただ、大手コンサルティング会社からCtoCのベンチャーに転職する場合などは、新しい領域の勉強も必要だし、給与水準が下がっても仕方ないのではないでしょうか。

伊藤たとえば、総合商社で資源部門にいて1,200万円もらっている人を1,200万円で採用するITベンチャーはないという話ですよね。

網羅的に整理すると、このような図になりますね。

大企業からベンチャーに移る場合には、候補者の前職給与額が適切なのかどうかわからない、というケースが多く、企業の体力問わず、まず下がることが多いという話かと。

高野そのとおりですね。これはベンチャーだからではなく、そもそも業界が違うから、前職の経験が活きないから下がるとも言えると思います。

ほとんどの高給の人に言えることだと思いますが、今の会社だからこそ、それだけの給与をもらえている、ということを自覚した方が良いと思います。

大手からベンチャーへの転職はほとんどの場合、分野違いになることが多いですし、分野が近くても、企業のフェーズは違うし、カルチャーも違うでしょうから、活躍するかどうかは未知数なわけで、その分、給与は現職よりも相対的に下がることになります。

あと言えるのは、伸びている企業に入社して活躍すれば、入ってから給与はどんどん上がりますね。

伊藤それがあるべき姿かと思います。最初のオファー額が現職よりも低い場合でも、入社後、活躍してくれたらもっと払うよ、というベンチャーは多い印象です。

高野ベンチャーの上場にまつわる話題として、もう一つ。ストックオプションもえらますか?という質問も多いですね。どれぐらいもらえるものなのか?とかどのくらいの範囲の社員までもらえるものなのか?気になっている人がいますが、「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」に書いてあるから調べてみたら?と思います。金融系の人以外でちゃんと調べている人に会ったことがほとんどありません。

ちなみに一般的には、ストックオプションを入社時にもらっている人はごくごく少ないですよ。入社後に活躍したら、しかるべくタイミングでストックオプションの話があるはずです。

ベンチャーに転職するタイミングでは、ストックオプションや報酬よりも、仕事を面白いと思えるか?を大切にした方が良いと思います。

伊藤入社時にストックオプションをもらえるのは、既に他社ベンチャーで圧倒的な実績がある人が幹部ポジションで入るときぐらいなものですよね。どれくらいの株数(比率)でもらえるのか?みたいな相場観は、いろんな会社の有報を見てないとわからないでしょうね。

高野あと、ベンチャーにいくなら役員で入りたい、というポジションの話を言う人も一定います。しかし、いきなり役員で採用するのは相当難しいですよ。

まずはポジションや給与を下げてから入社して、活躍して、やっぱりすごいね、と社内で認めてもらってから役職を上げてもらった方が全員にとって良い形です。

伊藤ある上場企業の創業者も言ってました。幹部採用の要諦としては、本人に足りないかもしれないけど期待でポジションを用意するのではなく、近い将来に期待するポジションより1つ下のポジションで入ってもらって活躍とともに周りの信頼を獲得してから昇進してもらうのが鉄則だ、と。

候補者側としても、自分がもし経営者だったらという想像ができて、今の企業の状態ならこれぐらいの条件が適正で、その後会社の業績拡大とともに自分が貢献した結果として年収や役職もついてくるものだと思えていることが大事ですね。

新しい産業であるその事業が成功し、組織が拡大していく中で貢献してくれたら給与も役職も上がるはず、という話自体を受け入れられない人は、活躍して貢献する自信がないか、もしくは、相手の経営者を信頼できていないかのどちらか、かもしれません。

その場合、どちらにしても、転職を決意する前に、もっと経営者と話し合った方が良いかもしれない。

高野まさにその通りですね。ポジション云々よりも、実績を出した人が偉い。ビジネスとはそういうものですよね。高いポジションで入社して、結果が出せないときは相当やりづらいでしょうし。

伊藤でも、あまりにも相場や他社のオファー金額より低い条件で提示されていたら、企業側と交渉しますよね。「採用する気ありますか?」と。

高野それはそうですよね。適正な給与を払えないと、採用してもすぐに転職してしまいますからね。オファー金額も大事ですが、その後の昇給も含めた待遇面で一定の競争力を持たないと厳しくなります。「うちはベンチャーだから」という理由で、いろいろと我慢させるのは良くないです。

こちらの記事は2017年04月17日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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藤田 慎一郎

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