連載高広伯彦講義「マーケティングの民主化」

マーケティングの主語が変わる~高広伯彦が語るデジタルマーケティングの真実①

2017年4月に開学した日本で唯一の広報・情報学修士を取得できる社会情報大学院大学にて、マーケッター高広伯彦によるセミナーが行われた。

氏は4月から客員教授を務め、2年間ゼミを持つ。

講義テーマは「マーケティングの民主化」。

デジタルがもたらすマーケティングの本質的変化について考えさせられる機会となった。

  • PHOTO BY YUKI IKEDA
  • EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
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デジタルなマーケティングとは

高広もともと今回のテーマについては、一橋大学が発行する『一橋ビジネスレビュー』2016年秋号に藤川佳則先生との共同論文で「デジタルマーケティング マーケティングの民主化」という題で寄稿しています。

デジタルマーケティングがどういう風なものかというのはなかなか定義が難しいんです。例えばデジタルなツール、デジタルなメディアやデジタルマーケティングのソフトウェアや広告テクノロジーを使えば、デジタルマーケティングなのかというと、それはデジタルな技術ツールを使ったマーケティングにしか過ぎない。

ソーシャルメディアが入れば、ソーシャルメディアマーケティング、検索エンジンであれば検索エンジンマーケティング、と○○マーケティングが多い。でも○○マーケティングというものはだいたいプラットフォームやツールを指しているマーケティングであって、概念的なマーケティングを表しているわけではないんですね。

なので『一橋ビジネスレビュー』の論文ではデジタルマーケティングはツールやソフトを外壁的なものとして捉えています。デジタルなマーケティングというのは、マーケティングの根幹にどんな変化をもたらしているのだろうか、という考え方の入り口を書き、デジタルマーケティングというのは実はデモクラタイジング(民主化する)マーケティングと考察しているんです。

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マーケティングが変わる

マーケティングは世界的に見ても変わってきています。いわゆるコトラー的マーケティングとは違う考え方の北欧系のマーケティング一派があり、マーケティングそのものをどういう風に考えるべきかというすごく根幹的な部分が揺れ動いています。本日は、共同論文の中で書いた中からいくつか取り上げて、プラスアルファ触れていないものもお話しできればと思っています。

私の経歴からになりますが、関西学院大学を出て、その後同志社大学で社会学の修士をとりました。その修士論文が「38年目のポケベル」というテーマでポケベルを研究したんです。

当時、新たな消費現象を社会学的に書こうとして、消費の先、ポスト消費社会っていったいなんだろうと思ったときに、ある論文に出合いました。マルクス主義的歴史社会学者アンリ・ルフェーヴルの本『日常生活批判』(1947年)です。

面白いのが、1970年前後にすでに消費者という考え方は正しくないんじゃないかということに言及しているんです。消費ってconsumeということであって、使いつくすというニュアンスでしかない。しかし実際はそれを手にした人々、何か手にした人っていうのは、それを自分たちに合わせて使いこなしているはずだっていうことなんです。これが use。なので、その手にした人々というのは、消費者consumerと呼ぶのではなく、使用者userと呼ぶべきと書かれて入るんですね。

その論文をベースにしながら、ポケベルを論考しました。ポケベルが世に出た当初は、電話番号を表示させるために使われていたんですけど、ユーザー層が変わるごとに、数字のゴロ合わせで使われたりとコミュニケーションのツールとして使われるようになった。

これって消費者と言われているものが、使い尽くすということではなくて、自分たちの文脈に合わせて、作り変えて行くという世界を垣間見せてくれているんですね。

で、その大学院で書いた論文を拡張するというのが、今私がはまっているテーマなんです。

その後の就職で、なぜ今私が「マーケティングの民主化」を考えているかというバックグラウンドにつながるのですが、私は博報堂、電通、Googleとキャリアを積み、その後独立して、現在いろいろなお仕事を手伝っています。

博報堂とか電通の広告主の数って数百社です。実際、1年間で動いている数って200~300くらいじゃないかな。その広告主たち一社一社の広告予算が大きい。でもGoogleに広告を出しているお客さんは、事業サイズが小さく広告予算が少ないところもある。予算が1ヶ月数千円の人も広告主になれるんですね。 電通・博報堂が扱っている広告主とは規模が大分違いますが、中小企業、個人経営であったとしても、広告主になれるんです。これも、誰もが広告主になれるという意味で、民主化ですね。

消費者から使用者という考え方に、デジタル世界はどんどんシフトしてきていて、企業側がマーケティングしたのとは違う使い方が生まれたり、ないしは大きなマーケティング予算を持った企業だけじゃなくて、小さな予算の企業であっても広告主になれるというのは、マーケティングというものがいろんな観点から、デジタルテクノロジーによってどんどん民主化されていく、民主化は誰もが使えるというニュアンスにもなりますが正に誰もが使えるようになっているんじゃないかと思うんです。

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マーケティングは誰のもの?

アメリカのマーケティング協会では、マーケティングの概念がすごく変化してきています。

1960年代では、マーケティングとは生産者から消費者または使用者の中で、製品およびサービスの中に統合しつづけるビジネス活動の追求である。と定義されています。

1985年になると、マーケティングとは個人や組織のなかの目的を満たす交換を創造するためにアイデアまたは製品を概念・価格づけるプロモーション・計画実行することと位置付けられます。このあたりでもう交換、ないしは4Pとか4Cの公式的な概念というのがどんどん普及していく。

2004年くらいになるとマーケティングとは顧客に対し価値を創出し、価値を提供し、また組織やステークホルダーに利益をもたらすやり方で、顧客関係を管理するところの組織的機能であり一連のプロセスである。ということで、ここになると「価値」という言葉が重要になってくる。

価値という言葉が出てきて、そこで顧客関係が出てくるんです、2004年の背景の中にはCRMが普及し、ものを売っているのではなく、価値を売っているんだ、ということがあります。しかし、この価値に対しても、今マーケティングの先端では疑いの目を向けられています。

少し触れると、この2004年の定義の顧客に対して価値を創出っていうのは、この価値は誰が作るの?って話なんですよ。2004年の定義における価値っていうのは、これは企業側が生み出した価値を中心に考えられているんですね。

サービスデザインの世界で考えていくと、企業が生み出すだけでは価値ではなくて、価値を認める側がいて初めて価値が成立するというのが今マーケティングの先端では普通のこととしてとらえられている。なので価値は企業が先、お客さんが先、そのどちらかでもなくて、企業と消費者の関係性の中で生み出される価値を上げていくという考え方が最近のサービスドミナントロジックと言われる概念では主流です。

そして2007年・2013年の定義として、マーケティングとは「顧客、得意先パートナー、そして社会一般にとって価値ある提供物を伝達し交換する活動であり、一連の制度でありプロセスである」ってなります。

私自身はこの定義に惹かれるんですね。私は以前ボストンにあるマーケティングソフトウェア企業HubSpotのビジネスパートナーを務めたことがあって、そこのCEO兼創業者がこんな言葉を言っていました。

People don’t want to be marketed to.

People want to be advertised to.

人々はマーケティングされたくないし、

広告されたいとも思っていない。

この言葉が出てくる背景というのはですね、マーケティングとは誰のためのものであるものなのかということを表してるなあと。マーケティングというのは基本的に企業のためのものだった。そこに疑問の余地は無かった。でも消費者、ユーザー、オーディエンスと呼ばれる人たちが自分たちにとって良い情報・良いものが欲しいと思って自らが行動できる時代に、マーケティングって企業側が一方通行的に行うものでいいのか?というと、違うわけですね。

つまりマーケティングというものがより、企業とオーディエンスとの双方向性に基づいて成立していないといけない。この成立というのが、求められているし、基本的にこのdon’t want to be marketed toというセンテンス通り、マーケティングやアドバタイジングという言葉が消費者側を主語にしたときには、受動態になってしまうということは企業側のロジックに基づいて行われているものであると。

しかし、デジタルなマーケティングによって、PRと情報を主体としたビジネスやマーケティングというサービスや価値を中心にしたものに対して、主語が変わる時代に入って来ている。

なので、もしかしたら企業も消費者もみんな主語かもしれないし、時代が進めば、消費者が主語かもしれない。この先は分かりませんが、現時点で消費者がマーケティングの主語として担えない、マーケティングモデルというのはやはり相当辛いんじゃないのか、ということですね。

こちらの記事は2018年04月28日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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池田 有輝

編集

海老原 光宏

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