69歳会長、新規事業に「全集中」の裏側──地方発・上場企業アイ・ケイ・ケイに学ぶ、“事業家輩出環境のつくり方”
Sponsored新規事業開発に積極的なのは、東京のIT企業やスタートアップだけではない。歴史ある企業や地方企業の中にも、既存の枠組みにとらわれないチャレンジングな企業は当然存在する。
1945年に創業し、2013年に東証一部へ上場した九州屈指のブライダル大手アイ・ケイ・ケイは、全国19カ所に式場を展開し業界内で着実に存在感を強めてきた。「学生が選ぶマイナビ人気企業ランキング」では、4年連続で九州1位を獲得している。その知られざる「事業家輩出環境」に注目したい。
代表取締役会長CEOの金子和斗志氏が自ら、新規事業の創出に並々ならぬ情熱を注いでいる。「今後10年以内に15人の社長を誕生させ、15社の会社をつくる」と公言し、既存事業よりもはるかに多くの時間を若手の新規事業開発のサポートに費やしてきた。
創業から半世紀を超える同社が、今どのように新たな事業の柱を築こうとしているのか?事業家を生み出し続けるために必要な経営とはどのようなものなのか?アイ・ケイ・ケイの歴史を自らの手で切り開いてきた金子氏に語ってもらった。
- TEXT BY ICHIMOTO MAI
スタッフの相次ぐ退職から、
“人”の難しさを知り、乗り越えるまで
金子経営で大切なのは人です。「人を大事にする」とは、甘やかすことでも厳しくすることでもない。その人の潜在能力をいかに顕在化させるか、なんです。
そう熱心に語る金子氏は、69歳(2021年10月現在)。70代を目前に控えているとはにわかに信じ難い、スタートアップの起業家をも感じさせるような情熱に溢れる若々しさだ。
アイ・ケイ・ケイは、1945年に金子氏の母親が始めた海産物販売の事業に端を発している。両親の商売を間近で見ながら、「もっとこうすればうまくいくだろうに」と思いを巡らせ、折を見て進言していたという。本人曰く“生意気な子ども”だったそうだ。
同社がブライダル事業へと舵を切るのは、「伊万里グランドホテル」がオープンした1982年。ホテルの運営を両親から全面的に任されるようになったこのとき、金子氏はビジネスの本当の難しさを思い知ったと振り返る。
金子ホテルのオープンに向けて、応募してくれる人を片っ端から採用したんです。しばらく経つと、スタッフが仕事中に昼から酒盛りをするようになりました。「何をしているのか」と怒って注意するとそのスタッフはあっさりと辞めてしまい、他のスタッフも次から次へと辞めていき……。
経営者としては当然のことだと感じて注意をしたのですが、結果として事業が立ち行かなくなってしまった。採用の進め方、さらにそもそもの事業の進め方があまりに甘かった。自分の人間としての未熟さを恨みましたね。
「スタッフの離職は自分の責任だ」と痛感した金子氏は、人が変わったように勉強を始めた。著名な経営者たちの本をむさぼるように読み、先輩経営者との積極的な交流を通じて経営学のイロハを学んだ。その結果たどり着いたのが、冒頭で紹介した金子氏の「人」を大切にする経営哲学だ。
金子夢を実現するために必要なのは“仲間”です。その仲間が力を発揮できる環境を作ることによって、会社を成長させるのが、私の「経営者としての役割」です。そして真の力を発揮するために必要なのが、新規事業へのチャレンジでもあります。
「一生、一事、一貫」が、ビジネスパーソンを進化させる
重要なことなので繰り返すが、金子氏が語る「力を発揮できる環境」の最たる例が「新規事業にチャレンジし続ける企業」にあたる。その詳細は一旦、後にゆずり、もう一つの象徴的なエピソードを紹介したい。
金子2歳上の兄が重度の小児麻痺で、長くは生きられないことが幼い頃からわかっていました。兄は常に自分に良くしてくれて、尊敬して慕う最も身近な対象でした。なので、入れ替わってもいいとまで本気で思っていたんです。もちろんその願いは叶わず、兄は34歳で逝去しました。「なぜこんなにいい人間が死ぬんだ?」と、悔しくて悔しくて仕方がなかった。
悲痛な出来事が、金子氏の中の何かを変えた。
先述した伊万里グランドホテルのオープン前に、金子氏は自身の過失で交通事故に遭ってしまう。約一ヶ月の入院を終えて退院すると、両親に呼び出され、なんとホテルの計画そのものの中止を言い渡される。想像もしていなかった展開に、目の前が真っ暗になった。
金子確かに、大切な時期に不在にしてしまったのは申し訳なかったです。でも、ここまで十分に準備してきたので、絶対に成功するはずだという自信がありました。これをやらなければ、自分の人生は終わってしまう。そう思って「すべての責任を自分が取るからやらせてほしい」と両親に頼んだんです。
そのとき、なぜその言葉が出てきたのかはわかりません。しかし事故に遭ったことをきっかけに、兄の死がそれまで以上に意味を持つようになりました。それで、自分の人生をこの事業に全て懸けようと決心を新たにできたんです。とにかく、心の底からそうしたいと思った。これが私にとっての大きな転機になりました。
そこまで言うならと、両親は伊万里グランドホテルのオープンを了承。ウエディング事業の柱を担うアセットとなり、その後「ゲストハウスウエディング」という新たな婚礼形式の展開による事業拡大の礎となった。
金子社内でよく伝えている、「一生、一事、一貫」という言葉があります。「一生をかけて、一つの事に、一貫して取り組む」と言える何かを見つけ、それを仕事にできたら最高だろう、というお話です。そう思えるように私もなれたのが、この伊万里グランドホテル開業の仕事だったんです。
そして実際にこのホテルの運営を成功させられたから、いまのアイ・ケイ・ケイがある。この延長線上で、私は一生挑戦していくんです。
リーダーの「絶対に成功させたい」という強い想いが持つ意味を、金子氏は自身の経験から骨身にしみて理解しているのだ。
「新規事業の開発は企業存続の条件」IT部門は1年で5倍へ
そんな金子氏が今、新規事業開発に情熱を傾けるのはなぜなのか。そう問うと、 金子氏は間髪置かず「新規事業は企業が存続する上での条件だから」と答えた。
金子社会は変化し続けますから、企業もそれに合わせて変わらなければ生き残ることはできません。一般に、創業経営者が残っている企業は、新規事業を始めるような“攻め”の決断は比較的しやすいのですが、創業経営者が去った後はなかなかこれができない。これまで多くの企業の経営を勉強させていただく中で、強く感じたことです。
もちろん例外もあります。富士フイルムやリクルート、サントリーなどは、素晴らしい新規事業を成功させ、新たな柱をつくっていますよね。時代に合わせ、時には失敗もしながら新たな事業にチャレンジしてきたから、これらの大企業は今も発展し続けているのです。こうした姿を目指しています。
社を挙げて新規事業に取り組む背景には、ブライダル市場の縮小という切実な影響もある。人口は減り、結婚式を挙げる人が減り、業界の風向きが改善しない中でのコロナ禍による追い打ち……。新たな事業の柱を立てるのは、アイ・ケイ・ケイが存続する上で至上命題でもあるのが本音だ。
金子氏はそうした状況からも目を背けることなく、「新規事業創出カンパニー化」に向けて着実に歩みを進めている。
すでに新規事業として形になっているのが食品事業だ。15年目のベテランと3年目の慶應大学出身の若手がタッグを組んでスタートし、数え切れないほどの試作を経て、2020年11月にグループ会社明徳庵を設立。食品ギフト全般の企画・開発・販売会社を立ち上げた。2021年内の売り上げは1億円を見込んでおり、設立一年未満にも関わらず黒字化を達成しているという。
金子氏はなぜ、この二人に挑戦のゴーサインを出したのだろうか。
金子手を挙げてやりたいと言ってくれた社員を見て、「この二人だったら任せても大丈夫だ」と思えたんです。挑戦する社員の背中を押したいと思ったのが、最終的な決め手ですね。
新規事業に必要なのは、ビジネスモデルと市場は、そして最後まで責任を持つ『人』ですよ。
ビジネスモデルは、参考になる事例が多く存在し、勝ち筋を見つけるのはそう難しくない時代と言われる。市場も同様に、今はあらゆる手段を駆使した市場調査が可能なので、スキルさえあれば開拓余地のある市場を見つけることはできるだろう。だからこそ、金子氏も「人」にこだわる。
金子細かなスキルよりも、人を見る際に大事なのは先ほども言った「一生、一事、一貫」につながる強い想いを持っているかどうかです。
ビジネスモデルと市場は、私の経験や社員のスキルによってある程度精査できますから、最後のピースである「人」がいるなら、「やってみなければわからない」「やってみよう」と考えてゴーサインを出します。結局、事業というのは始めた後のトライアンドエラーによってしか前進しませんから。
ちなみに「時代に合わせた変化」も金子氏は意識を強めている。確度がより高い新規事業を次々と生み出す組織づくりの一環としてIT部門の体制を強化しているのだ。元カブドットコム証券IT戦略部門シニアマネジャーの小田豊氏を取締役CIOに抜擢したうえで、中途エンジニア人財を何人も採用してIT部門の人数をこの1年で5倍に拡大している。しかも、その拠点を東京にも設ける。2022年中に20名規模にまで拡大させることを目指しているという。
新規事業専門の部署もすでに設置。ブライダルとの近接領域の事業はいくつも芽生えており、事業化が現実味を帯びていると金子氏は語る。
自分と同じ失敗をしても構わない、
自らぶつかる失敗を恐れるな
「金子会長は今アイ・ケイ・ケイの主力事業となっているゲストハウスウエディングにいち早く目をつけて、当社を東証一部上場企業に導いた人物です。そんな金子会長と、このダイレクト感、スピード感で会話ができる。経験も実績もない自分がこうした環境を与えてもらえるのは、本当にありがたいと思っています」
そう語るのは、入社3年目の長坂壽太郎氏。入社後はブライダル事業で営業を担当しながら、新規事業のアイデアを積極的に発想し、自分が出したプランについて金子氏から何度も直接指導を受けてきた。
アイ・ケイ・ケイでは、既存事業は社長以下が推進する。だから会長の金子氏は、その頭と時間のほとんどを、若手メンバーとともに新規事業を考え、推進することに充てることができているのだ。ここに、大きな違いがある。
アイ・ケイ・ケイが採用上の競合として意識しているのは、IT系プロダクトの新規事業を継続的に立ち上げようとしているメガベンチャーたち。しかし、会長という立場で新規事業にフルコミットする企業はそう多くない。経営トップ(社長)が既存事業と新規事業いずれも担当することはあるだろうが、アイ・ケイ・ケイの金子氏と比較すれば、新規事業への直接的な貢献が大きいものにはなっていかないだろう。
金子氏が、そうした企業経営のかたちを実践しようとしているのは、繰り返しになるが「新規事業の主役は人、特に若手」と認識しているから。
金子新規事業は、若い人たちに存分に頭と時間を使ってもらわなければ成功しません。私の役割は、若い人が「これがやりたい」と言ったことに対して、それをどうしたら実現できるかを一緒に考えていくことです。いわば専属コンサルのような形で、若手を支え続けていきたいと考えています。
長坂氏のような若手メンバーと一対一で対話をする場面では、自身の失敗経験を伝えることもあるという。しかしそれは、「長坂さんが失敗しないように」伝えているわけではないそうだ。
金子自分の失敗を口で伝えたところで、本人が100%吸収できるわけではありませんよ。パナソニック4代目社長の谷井昭雄さんも「教える人にいくら失敗経験があろうと、本人が失敗しないとわからない」と言っていました。
教えることで失敗の2、3割はカバーできると思いますが、それでも自分が経験した分の半分以上は同じ失敗をするでしょうね。でもそれでいいんです。その分、本人に得るものが、私が教えるよりもはるかに多くありますから。
できるだけ失敗せずに成功したいと思う人は多いかもしれない。そして、そうした甘い考えでは事業を新しく立ち上げることなどできない、ともよく言われる。ではどのような場合において、失敗を恐れずに事業立ち上げに挑み続けられるのだろうか?
その一つの答えが、金子氏の言う「一生、一事、一貫」だ。その「事(コト)」に、人生をかけて一貫して立ち向かおうと思えるかどうか。このことを、アイ・ケイ・ケイでは常に試されるのだ。
「地方発・世界企業」を標榜、
新規事業にアツい舞台がココに
先述した通り、「学生が選ぶマイナビ人気企業ランキング」では4年連続で九州1位を獲得しており、この8月には「女性の成長環境があるランキング」で7位に輝いた。働く人にとっても魅力的な会社であることはお墨付きだ。
また、本社の所在地は九州だが、全国から応募を受け付けている。東京を含む各地に拠点があるため、候補者に合わせて柔軟なワークスタイルを検討する用意があるとのこと。新規事業創出カンパニーへの脱皮に向けた金子氏らの本気度が窺える。
そんなアイ・ケイ・ケイは2035年までに達成したいビジョンとして「世界への挑戦」を掲げている。同社が求めるのは、その目標を一緒に目指してくれる頼もしい仲間だ。
金子入社した暁には、どんどん挑戦してほしいし、どんどんぶつかってきてほしいですね。繰り返しのようですが、そのために私の時間も頭もたくさん用意していますから(笑)。この点における私個人の強い想いは、どこのベンチャー企業にも負けないと思います。
多くの企業も「自ら課題を発見し解決する力のある人」を求めているのが今の時代。その中で重要なのは、そうした力を存分に発揮できる環境はどこなのか、という点です。
確かに、いわゆるITベンチャーをその舞台として選ぶことが、あなたにとって最適かもしれません。でも、そうではないかもしれません。人によって、最も合う環境というのは異なるはずです。
「自分が持つ力を、地に足を付けて試し続けられる」という点で、アイ・ケイ・ケイは最高に楽しい職場です。新規事業を通じて皆さんが潜在能力を発揮できる経営、これこそが私の信条だからです。そのための組織づくりをこれからも続けていき、「九州から世界企業をつくる」という前例のない大きな夢に向かっていきます。
IT系のベンチャー企業やスタートアップには、「AmazonやGoogleのような世界的プロダクトをつくりたい」という野心を持つ若者が少なくない。一方で、アイ・ケイ・ケイが目指す「世界への挑戦」は、まだまだ解像度が高いとは言えないのが実情だ。「一体どのような姿を目指すのだろうか?」という疑問が生まれるのも想像に難くない。だがそれはむしろ「目指す姿をゼロから創造できること」とも言い換えられる。
アイ・ケイ・ケイという地方発の新規事業創出カンパニーの舵取りを担い、躍動していく若者たちが、日本や世界でどのような価値を創出していくのだろうか。金子氏が見る未来は、きっと、ものすごく明るい。
アイ・ケイ・ケイでの挑戦に興味が湧いたら
こちらの記事は2021年10月28日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
フリーライター。1987年生まれ。東京都在住。一橋大学社会学部卒業後、メガバンク、総合PR会社などを経て2019年3月よりフリーランス。関心はビジネス全般、キャリア、ジェンダー、多様性、生きづらさ、サステナビリティなど。
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