『メルカリShops』は、「メルカリの法人版」に非ず──日本のEC普及率を抜本的に向上させる、ソウゾウの狙い

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インタビュイー
篠原 孝明
  • 株式会社ソウゾウ Head of Product 

フリーランスのWebディレクターを経て、2012年にグリー株式会社入社。2014年に株式会社ビズリーチへ入社し、プロダクトマネージャーとして転職メディア「キャリアトレック」を立ち上げる。2017年9月に株式会社メルカリ入社。Director/Head of CREを務め2020年4月より株式会社メルペイへ異動。2021年より現職。

石川 佑

立教大学 経営学部 国際経営学科 卒業。京セラ株式会社にて、スマートフォンの商品企画・提案営業を経験。その後、株式会社DeNAにてECコンサルタント業務、カテゴリ戦略立案業務を担い、2017年1月にはショッピングモール「Wowma!」の立ち上げ、編成業務を担当する。2017年10月、株式会社メルカリ事業開発(ビジネスディベロップメント)に参画。メルカリチャンネルの法人開放、物流配送、つつメルすぽっと、オフラインUXなどを担当。

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フリマアプリの企業、とあなたは思っているかもしれないが、もはやその範疇を大きく超えている──。そう感じた取材だった。

『メルカリ』といえば、「CtoC型の二次流通プラットフォーム」を提供するプロダクト、という理解をしている人が多いはずだ。その運営会社であるメルカリは、決済サービス『メルペイ』を筆頭に、暗号資産やNFTといった最先端技術を取り入れたビジネスに挑むメルコインなど新たな挑戦を続けている。さらにメルカリUSではGMVが11.7億ドルに達するほど大きな市場を創出。2021年6月期には初めての通気黒字を達成し、時価総額は1兆円規模の、日本を代表するテックカンパニーという評価を得ている。

そんなメルカリで「実は、これまで以上の急展開を見せた」とまで言えそうな動きが、2021年7月にあった。メルカリグループの新会社ソウゾウによる『メルカリShops』だ(グランドオープンは同年10月)。個人だけでなく、企業や事業者も、メルカリのアプリ上に新たなECを開設し、メルカリユーザー向けにこだわりの商品を出品できるようになったのだ。

だが、「メルカリが今EC業界に進出して、どのような新規性を発揮できるのだろうか?競合との差別化はどういった部分にあるのだろうか?」と疑問を持つ人もまだまだ多いようだ。そこで、この事業展開の裏側を詳しく聞いてみた。

今回話を伺ったのは、ソウゾウでHead of Productを担う篠原孝明氏と、メルカリでBizDevシニアマネジャーを務める石川佑氏。それぞれ違ったアプローチで『メルカリShops』に関わる2人を通じて見えてきたのは、『メルカリ』というアプリからまだまだ広がるビジネスポテンシャルの大きさ、そして新規事業特化カンパニーの組織づくりの面白さだった。

  • TEXT BY YUKO YAMADA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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「とりあえずメルカリ」と誰もが感じる世界へ、
加速させる切り札がEC?

読者の中には、ECというビジネスに対して魅力を感じない人も少なくないかもしれない。それは、しばらく前から事業の盛衰が見えやすい領域だったし、その中ですでに市場が飽和しているようにも見えるからだろう。

特に、巨大サービスの発展は留まるところを知らない。Amazonの進化は陰りを見せず、在庫管理やサプライチェーンマネジメントという一見地味な分野にも投資を惜しまずに「欲しいものがすぐ届く時代」を世界中で実現させようとしている。楽天も、ECモールを中心として、決裁やファイナンスという最先端の技術を活用した事業へと展開を進めている。また、『Shopify』が日本進出を本格化しているほか、『BASE』や『STORES』など、ECプラットフォームを謳うスタートアップのプロダクトも多く産まれ、利用は増加している。

そんな中で、フリマアプリ『メルカリ』が、このEC事業に参入した。群雄割拠ともいえる状況の中で、なぜ今この領域に参入したのか?一体どのような将来ビジョンと事業ポテンシャルを見据えているのか?その背景を深く、細かく聞いていくのだが、まずはそこにも通ずる、インタビュイー2人の来歴から見ていこう。

篠原メルカリという企業の一番の魅力は、何と言っても、CtoCの巨大なプラットフォームを有しているということ。利用者数は2,000万人を超える規模になっています。これはつまり、僕自身もエンドユーザーの一人となって継続的に開発していくおもしろさがあるということ。さまざまな想像をめぐらせながら、これまでつくり込んできました。

僕たちのアプリはご存知の通り、UIやUXが極めてわかりやすいものになっています。老若男女問わずご利用してもらうのなら当然のこと、と思われるかもしれませんが、このことも僕が魅力を感じた大きなポイントです。CtoCだからこそ重要な点になる「誰でもわかりやすく、使いやすいこと」を徹底して追い求めている。ここでプロダクト開発をやりたいと強く思って、2017年に入社しました。

株式会社ソウゾウ Head of Product 篠原孝明氏

篠原氏はグリーやビズリーチで、プロダクト開発の中心に立って経験を積んできた人物。転職の際には「他にも引く手あまただったのでは」とも感じられるが、このような熱い想いからメルカリにジョインした。

一方の石川氏は「とにかく大きなビジネスを興したい」という想いから、メルカリを選んだと率直に語った。

石川世の中に大きなインパクトを残す仕事がしたい、と思っていました。それってどういう仕事だろうか、と考えて身の回りを観察すると、Appleとかサムスンのデバイスを持っている人がたくさん目につきました。これらの企業は売り上げ規模で1兆円を優に超える規模ですよね。「これだ!」と。

私も前職時代に売上2000億円規模くらいの事業に携わらせていただくことはできました。でも、2,000億円の規模だと電車に乗って周りを見渡して、自分のプロダクトがちらほら目につくくらい。なんだか悔しくて、「もっと大きなことをやりたい!」という気持ちはどんどん膨らんできました。

そんなとき、メルカリというサービスを知ったんです。C2Cというのは日本でまだ未開拓な市場だったので、他の事業領域では見られないようなビジネスのポテンシャルの高さがここにある。しかも、挑戦している経営陣の本気度というか、熱量というか、そういったものを非常に強く感じたのも魅力的でした。それで、メルカリへ飛び込んだんです。

株式会社メルカリ Business Development Senior Manager 石川佑氏

こうした背景から入社した2人。『メルカリShops』の開発においても、ユーザーに対する想いや、事業インパクトの大きさは、強く感じられているという。

篠原10月にグランドオープンを迎えた『メルカリShops』は、極めて簡単に操作できるUIとUXに、改めてひたすらこだわったサービスです。「ECサイトの運営は、やはり難しくてよくわからない」と感じる人たちに使ってもらいたいと思っています。

僕たちがECプラットフォームとして最も重視しているのが、「売れた!」という体験をしっかり届けられることです。「他のプラットフォームでお店を開いたけど、うまくいかなくてやめた」という声をよく聞きます。そうした方々に対して「スマホ1つあれば、簡単に売れる」というシンプルな体験を提供します。今までの生活やビジネスの選択肢にEC事業がなかった人にも、考えてもらえるようになるわけです。

石川これまでは個人のお客さまだけが出品できるという形でした。これからは事業者や企業も物を出品し、売れるようになるので、数年が経って本格化した頃には、売買する場としての力が今の規模の比じゃなくなるほど大きくなると思います。

篠原事業者側も出品が可能になることによって、アプリ上に並ぶ商品の種類やカテゴリが爆発的に増えていきます。だから消費者が何か買いたい、欲しいと思った時に「とりあえずメルカリを調べればあるよね」というECプラットフォームに近い世界観を将来つくれるはずです。そうしたら、メルカリに対するイメージがガラッと変わりますよね。

確かに今は「欲しいものがあるけど定価だと高いからメルカリで探してみよう」あるいは「もう新品の取り扱いがないからメルカリで探してみよう」といった使い方が多いだろう。しかし、この『メルカリShops』という新たなプロダクトをきっかけに、「フリマアプリ」から、「欲しいものがなんでも揃うECプラットフォーム」という姿に変化し始めているのだ。

こんな未来を考えれば、彼らがこれから実現させていくインパクトの大きさも推し量ることができる。あのメルカリがやるからには「単なる新たなECプラットフォームではない」という所以が、ここにある。

『メルカリShops』の実際のUI(提供:株式会社ソウゾウ)

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法人向けは待望の展開?2人が過去に感じた葛藤

実はこの2人、過去にメルカリ内で法人向けサービスの展開に携わった経験を持つ。一般的に「『メルカリ』はずっとCtoCサービス」という認識が大勢だろう。メルカリが抱いてきた、法人向け展開のイメージについてもこの際、改めて聞いてみた。

石川ちょうど私たちがメルカリへジョインした2017年は、ライブコマース機能を始めてみた頃だったのですが、法人向けにもこの販売チャネルを解放しようというプロジェクトがありました。このプロジェクトで私はビジネスサイドのオーナーに、篠原がプロダクトサイドのオーナーにアサインされて出会ったんです。

篠原ライブコマースというサービスの特性上、親和性の高いBtoC型も取り入れよう、という話になったんです。あくまでこのライブコマース機能に限っての話ですけどね。

2人で施策をあれこれと議論したり、関西まで出張に行って営業したりと、濃い日々を3か月くらい過ごしました。

石川ライブコマースって、同時にたくさんの人が見ていて、ひとつの商品にまとまった注文が発生するので、在庫が必要なんです。でも、CtoCの売り手さんには、同じ商品を在庫として大量に抱えている人なんていませんよね。だから「法人向けに展開すべきタイミングだ!」と思い、提携や出品を一気に増やすことに成功しました。

2人が意気投合し、1~2カ月という短い期間で順調に実績をつくっていった。しかし、長くは続かなかった。その理由は二つ。

石川当時のライブコマースという業界では、一番と呼べるくらいの売り上げ規模に短期間で成長させられていたんです。でもすでに『メルカリ』もかなり大きな規模になっていて、GMVに占める割合はほんの数%程度。社内で大きなインパクトを出せたとは言えず、継続するだけの成果には届きませんでした。

篠原それから、法人向けの開発をやるのってやっぱり簡単じゃないな、というのも実感しました。取り扱う商品の量が爆発的に増えますし、それに伴って取引量もかなり増えます。そうするとお問い合わせやトラブルの量も増加してしまう。また、個人アカウントと法人アカウントでは想定すべきリスクも大きく異なります。

これらに対応できるだけの体力や組織って、綿密に計算してしっかりつくらないと、なかなか長持ちしないわけです。この観点からも時期尚早という見方になりました。

現場の奮闘もむなしく、この頃には先送りとなった法人向けの事業展開。メルペイやメルコインといった新規事業が目立ちはするものの、メルカリグループ内でも新規事業立ち上げはやはり簡単ではない、ということがよくわかる事例だ。

篠原法人向けに事業を展開していく、というのは僕も個人的に強い想いを持っていましたから、悔しさもやっぱりありました。ただ、プロダクトの状況も現場で見てよくわかっていたので、より大きくグロースさせるには法人のユースケースを想定したプロダクト基盤やオペレーション体制を構築する必要があると感じていました。

そこで、プラットフォームのリスクヘッジや継続利用の阻害因子を削減することに特化したCRE(Customer Reliability Engineering)というチームを立ち上げました。いま思い返せば、自分たちが立ち上げたプロジェクトを離れる意思決定をしたあの時も3時間くらいはモヤモヤしていましたが、気持ちはすぐに切り替えました。

いつか来る本格的な法人向け展開のために、基幹となる『メルカリ』というプロダクトを磨き込もうと改めて気合を入れ直した感じですね。全社的に注力すべきもこっちだろう、と腑に落ちていましたし。

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「ECの常識」を打ち破る、“エモいつながり”を重視する開発思想

篠原氏が話したように、『メルカリShops』の最大の特徴は、「これまで以上に誰でも簡単にECショップを開き、商品を売り続けられる」ということだ。月間2,000万近くにのぼるメルカリユーザーの目に、簡単に触れさせることができる。

しかし、このプロダクトが本当に面白い理由は他にある。それは石川氏が指摘した「他のBtoCサービス開発における王道の、真逆を行っている」という言葉に集約される。「真逆」とは、いったいどういうことだろうか?

石川実は私、あまり言っていませんが(笑)、前職でECコンサルティングに携わったり、ECモール立ち上げに携わったり、という経験があるんです。そうした背景から見ると、そもそもAmazonや楽天といった大手ECモールと、『メルカリ』とでは、物を買うときにお客さまが抱く期待値が大きく異なるんです。

どういうことか?例えば、Amazonでのお買い物では、最も早く届くものを選びますよね?楽天でもそういう選び方ができるUIになっていると思います。一方で『メルカリ』だと、届くまでの日数は出品者とやりとりするまでわからない。でも「それで良い」と感じて使っていただいているわけです。この前提は急には変わらないと思います。

もちろん今後は、事業者さんがいくつもの商品を発送するオペレーションを組みやすいようなテクニカルサポートも増やしていきます。ただし、優先度を最高レベルにして開発していくかというと、そうではないという点で、他のECプラットフォームとは異なります。

『メルカリShops』のビジネスモデルは一見、他のECプラットフォームと同じだ。ECという事業特性上、値下げ競争は激化し、利益率を高く保つことが難しいため、薄利多売型のモデルが前提となりやすい。そうなると、運用にかかるコストを最小化させると同時に、扱う商品数を最大化する、という戦略をとるのが普通だ。

一方でメルカリを使う出品者の考え方は、全く違うものだ。例えば出品者が、商品について購入者と何度もコミュニケーションを取ったり、他の商品をおすすめしたりする「温かみ」がある。また、先ほど触れたように「発送までのスピードにこだわっていない」という点も大きな特徴だろう。

石川『メルカリ』がベースにあるので、期待されるのは“エモさ”みたいな部分です。たとえば、商品の手作り感や、出品者との間で温かいコミュニケーションが取れるかどうか、といったあたり。

だから、極端に言えば、「自動販売機」のように見えるモール型のサービスをメルカリ上につくっても、たぶん商品は全然売れません。実際に以前、あるプロジェクトで法人が提供する商品を定価で販売してみたことがあったんですが、期待した売上には到達しません。

篠原「売買を通してのぬくもりのあるコミュニケーションがいかに大事か」という話ですね。『メルカリ』のお客さまたちは、「1点ものがある」「どんな物が出てくるかワクワクする」「お得で安い」「やりとりやつながりが楽しい」という印象を抱いています。この点は『メルカリShops』においても外せないな、と。

だからこそ僕たちは「なぜ売るのか」「誰が売るのか」というストーリーや背景を正しく伝えられるプロダクトにしたい。価格や発送スピードでの勝負は必要最小限のものとし、「出品者が持つ想い」を可能な限り尊重していきたいんです。そうでなければ、受け入れられませんし、メルカリらしさもなくなります。

ECビジネスに造詣の深い読者は、こうした取り組みに対して違和感も覚えるのかもしれない。しかし実際に、オープン後すぐに利用を開始してくれた事業者から、この方向での開発要望が相次いだのだという。

篠原『メルカリ』にある取引メッセージは、要するに出品者と購入者でやりとりができるメッセージ機能です。出品内容の確認や値段交渉に使われています。しかし、一般的なECサイトでこうした使われ方は存在しません。メッセージをやりとりするとしたら、注文キャンセルや返品対応といった場合くらいですよね。だから、『メルカリShops』でも、プレオープン(2021年7月)の段階では取引メッセージの機能をまだつけていませんでした。

ところがプレオープン後、思いがけない形でこの機能の必要性に気づかされました。出品する事業者さん側から、「買ってくれたみなさんに感謝の言葉を一言添えたい」という要望を多くいただいたんです。

普通のECではあまり考えませんよね。注文確認のような「手間のかかること」と認識されそうな機能が、逆に喜ばれる。『メルカリShops』では人と人とのつながりが大切なのだと、僕らも改めて気付かされる出来事でした。

BizDevとしてこれまで『メルカリ』の非連続な成長を牽引してきた石川氏も、『メルカリShops』が世の中のEC業界に大きなインパクトを与えうるのでは、と話す。

石川お客さま側も出店者側も、これまでのECと違うんですよ、絶妙に。これまでのECビジネスの延長線上にそのまま乗っかっているわけではない。EC業界の常識に立って『メルカリShops』の開発の意思決定をしていっても、そこには再現性がない、ということでもあります。

難しそうですよね、でも、それを逆手に取って一つずつ覆していくことが面白いわけですし、ECトレンドを大きく変え得るプロダクトになっていくのではないでしょうか。だからこそ、ECで経験を積んでいればいるほど、新たな面白味を感じることができるサービスなんじゃないかと感じますね。

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GMVはKPIではない。
“ECが苦手な事業者”が売上を作れることを最優先

特異性はよくわかったところだが、それでも改めて整理しておきたいのが、「BASEやSTORES、Shopifyあるいは楽天などと、近いうちに競合するのでは?」という疑問だ。“ECビジネス”がこの世に産まれて久しい。毎年のように新たなプロダクトやソリューションが産まれていく中、『メルカリShops』はどのようなグロースの道を描いているのだろうか。

篠原他社さんのEC関連プロダクトとは、競合というよりも、協業していこう、というスタンスで共存していくと思っています。ですから、各社のサービスはネットショップを持ちたい人の選択肢の1つとして見てもらえればいいかなと。

石川同じく、私も競合とはとらえていませんね。『BASE』や『STORES』などで開設したサイトの商品を、将来的に『メルカリShops』で販売できるのであれば、どんどんやっていくべきだと個人的には思っています。

両氏ともに他社のECプロダクトは、競合ではないと口をそろえる。たしかに自社のECサイトが増えれば、それだけ多くの顧客にリーチできる。当たり前だが出店者にとってはその方がメリットが高い。

現在長引くコロナ禍によりEC事業は一気に拡大したが、日本のEC化率を見ると現実は10~20%に留まる。この現状を打破できるポテンシャルが、実は『メルカリShops』に明確にあるのだ。

石川すでに比較的簡単にECショップを開くことができる時代ですが、やっぱりまだ、ほとんどのサービスが「ネットリテラシーをある程度持つ人向け」に見えます。やはり私たちが向き合っている事業者さんたちの中には「ECサービスをうまく扱えなかった」と話す人も多いです。

一方で、そうした事業者さんの中にいる方で「個人的に『メルカリ』を利用して物を売った経験がある」という事例はけっこう多いんです。そういった方たちが「法人でも使ってみよう」と、チャレンジを気軽に考えることができるというのはありますね。

篠原ですが、もちろん、ECショップが簡単につくれることがゴールではありません。売れなければ、ショップをつくった意味がないですから。

開設した人の想いを成し遂げるためには、「売れるという体験」まで確実に届けていく必要がある。繰り返しになりますが、ここは僕たちがすごくこだわりたいところであり、特に他社さんのプロダクトとの違いを生み出せるところです。

この点を深掘りすると、『メルカリShops』の最もストイックな一面が見えてきた。「それでも立ち上げ期だから、確実に売れる事業者の出品を多くして、GMVの拡大をしっかり追っていくんですよね?」との質問に対して、篠原氏ははっきりNOと答えるのだ。

篠原GMVや購入回数といった成果指標はもちろん追っていますが、意味のない近道はしないつもりです。これまでオンラインをやってこなかった事業者さんたちが初めて得る売上や販売によって、こうした数字をつくっていきたい。プロダクト開発においても先ほどから触れているように、極めて簡単に操作できるUIとUXを最優先にしている理由は、ここにあります。

すでにECをやっている事業者さんたちの利用を拒否しているわけではありません。優先順位の話です。例えば「他のECプラットフォームで販売している商品群を『メルカリShops』に一括で掲載する」という機能の開発優先度をあまり高くしていません。

また、アプリ上で見える商品群についても気にかけていますね。「一般的にECで売れやすいもの」が一気に僕らのプラットフォームに流れ込んでくるという事態は防ぎたい、という考えがあるからです。まずは『メルカリShops』というサービスの人格をしっかりつくり込む時期として、最初の1年くらいを定義しています。「このサービスではどのような商品がどのように並ぶのが最適なのか」というのを今は探っているんです。

そもそも、「お客さまに返すべき価値」というのが、GMVに返ってくるわけですよね。結果としてはGMVの変化によって事業の評価もしていくのですが、その内訳を、EC事業が上手な少数の事業者さんによってほとんどが構成されるようにしたくはないんです。

そして、こうした方向性や意思決定は、メルカリ社内において自然となされるものなのだという。「いやGMVをまずは追うべきだ」「販売数が増えるための商品も多く扱えるようにすべきだ」といった意見はあまり出ず、同じ方向を見て進んでいるのだ。

篠原そもそも「メルカリという企業全体でのGMVのトップラインを押し上げるためにこのプロダクトをつくったわけじゃない」というのがあります。目の前に多く存在している「コロナ禍で困っている事業者さん」への支援が、まずは大切だという共通理解のもと、メンバー全員で開発に向き合えていますね。

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メルカリグループCEO山田氏は、
今でも「真のユーザーファースト」の体現者

BizDev・PdMとしてそれぞれ活躍の場を広げる両氏。ここで、読者に向けて参考になりそうな、彼らが持つマインドを聞いてみた。成長角度を最大化させるために、どのような意識でプロダクト開発に取り組むことが望ましいのだろうか。

石川スキルセットとマインドセットの2つがあります。まずスキルセットは、前提としてビジネスの基礎総合力があること。ファイナンス、マーケティング、営業、プロダクト知識などです。また特化型の事業の場合はドメイン知識。そして人脈。ただ、これらは努力次第で後天的に身につくものです。

一方、マインドセットで重要なのは、Willとスタートアップマインド。経営陣でさえ解を持っていない状況下で新たな施策をいくつも推進していく力が求められるため、自分が何をしたいのかという意思(Will)を持つこと。そして自分事として勝負をしていけるかどうかというスタートアップマインドは欠かせません。

篠原PdMとしても近い考えを持っています。その中でも特に、僕は「胆力」を大切にしているタイプですね。基本的にPdMは「今までになかった体験」を通してお客さまに価値を届けていきます。ですから、価値を届けるための必要なアクションに特化して、すべて主体的に動くべきだと思うんです。

開発で対応できるならPdMとして、オペレーション設計でクリアができるならBizDevとして、内容によってはカスタマーサクセス(CS)やQA(Quality Assurance)として。課題のソリューションによって、職種を越えて自らやらねばならぬことを「胆力」を持ってやっていますね。

篠原氏が語る通り、メルカリグループの中でも特にソウゾウでは、職種という枠組みを超え、各々が躍動しているという。プロダクトの立ち上げやグロースに必要な動きが溢れかえる中で、各々が率先してボールを拾っていく。こうした動きの詳細は次の記事(後日公開予定)に譲るが、プロダクトチームのヘッドである篠原氏もかなり意識している動き方である。

そんな現場の動き方に影響を与えているのが、他でもないメルカリ創業者であり代表取締役CEOの山田進太郎氏だ。意外にも、今回のプロダクトにおいても現場近くで存在感を発揮したという。

篠原進太郎さん(山田)はあくまでメルカリグループのCEOですから、ソウゾウでCEOを務める石川佑樹のカウンターパートとして、大きな戦略についてやりとりをするのがメインの関わり方です。

ですが、『メルカリShops』をプレオープンする直前に、実際にプロダクトを触ってもらう機会があり、かなり驚ろかされました。現場のプロダクトチームに勝るとも劣らない熱量で、徹底してユーザー視点に立ち細かな指摘をいただきました。例えば「コピー」と表記している部分のうち1か所だけが「Copy」と英字になっているだとか、「LPのドメインネームとして最適なのは○○なのでは?」「UXはこうしたほうがわかりやすいのでは?」といった指摘だとか。

そうではなく、もっと大きな話を期待していたので、驚いてしまったんです。例えば「こんなMVPなら初期のアライアンスをどうするのか」のような、ビジネス観点での指摘が来るものだと思っていたので。ただ、もらった指摘のほとんどが「確かにそのほうがお客さまは喜ぶ」「この点はもうちょっと優先度を上げて取り組まないといけない課題だ」と現場で考え直す必要のあるものでした。

今でも進太郎さんからは「真のユーザーファーストとは何か?」を教わっている感覚ですね。

メルカリはグループ全体で1,700人を超える規模になっている。多くの企業ではこの規模にもなれば、創業代表は事業現場に細かく口を出さなくなっていくだろう。しかし、単純にそうはなっていないのが、メルカリという企業の面白いところだ。

篠原誤解してもらいたくないのは、僕ら現場のメンバーが「代表の進太郎さんが言うからやらなきゃいけない」と感じているわけではないということ。僕らも徹底してユーザー視点に立って開発をしていたつもりでしたが、進太郎さんも同じくらいの熱量で見てくれた結果、チームとして新しい発見がいくつも産まれたというわけです。現場だからこそ起こるマヒもあるのだと気付かされました。

その後、プレオープン直前に300くらいの修正を一気に進めるというのをやった中で、実際に山田の指摘が活きているものもかなり多くありましたね。

石川これが今のソウゾウの面白さでもあると思います。進太郎さんは創業期からずっとこのプロダクトのこと、そしてお客さまのことをひたすら考え続け、その上で事業運営の成功も失敗も経験してきた。今ではエンジェル投資やD&I財団といった活動も行っており、私が言うのも何ですが、並みの起業家じゃありませんよね(笑)。

そんな進太郎さんをはじめとする経験豊富な経営陣と近い距離で接することができ、しかも篠原が話したような現場起点のフィードバックも非常に多く受けられる。さらに、その言葉をフラットに受け入れて議論し、より良い動き方をチームで模索できるメンバーがそろっている。

つまり、山田氏がプロダクトやユーザーに対して今も高い熱量を持っているという点も大切だが、そんな山田氏の意見を単にうのみにせずにチームとして咀嚼できるメンバーがそろっていることも大切なのだ。そんな組織を、この規模になっても維持できているからこそ、創業代表も適切な距離感でプロダクトに携わることができ、結果としてより良いユーザー体験が提供できるようになっている。

石川新しいプロダクト開発では、チーム構成や置かれた環境も間違いなく重要ですよね。こうした点においても、メルカリが総力を挙げて新規事業に特化させた組織としてつくりあげた今のソウゾウは、最高の環境だと思います。

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こんなスタートアップ、他にはない──ソウゾウの魅力は“経営陣からのフィードバックのスケール”

そんなソウゾウに今ジョインすることで、どのような稀有な経験を積むことができるのか、何が魅力なのかを最後に語ってもらった。

篠原僕らのプロダクトはまだまだ未熟なので、メンバーの一人ひとりが自分で責任を持って意思決定できるタイミングが多くあります。その結果、どう転んだのかという原体験を血肉にできるのが一番のメリット。人間は、誰かに相談して決めてもらうよりも、自分で考えて決めたことがどう転んだのか、そのフェーズスタディを貯めていくことが成長につながります。ただ、これだけなら他のスタートアップにもありそうですよね?

大きく違うのは、「意思決定の後に返ってくるフィードバックの規模が大きい」という点、これは大きなアドバンテージになります。フィードバックとは、先ほど話した経営陣との対話で出てくるものももちろんですし、世の中に機能として出したものに対してのユーザーの反応という点でも非常に大きなものです。

僕たちはスタートアップとしてソウゾウを運営していますが、開発するサービスや機能はすべて『メルカリ』という巨大なプラットフォームの上に出ます。つまり、開発やCSなどの観点において、メルカリ本体やメルペイとも足並みをそろえる必要があるということ。ここが難しいのですが、逆に言えば「こんな経験ができるスタートアップなんてないでしょ?」と思いながら、僕自身めちゃくちゃ楽しんでいます。

石川私がソウゾウを横で見ていても、そもそも組織も体制もやることも、進め方が固まっているものが何一つありません。言いかえれば、自分で何もかもを新しくつくることができて、意思決定もできる。かつ、ソウゾウの人たちってみんなでそれをすごく楽しみながら一つずつ乗り越えていっています。この雰囲気も魅力ですよ。

「新規事業を創出していく」とうたうスタートアップは数多く存在するが、メルカリグループが本気で作った、新規事業に特化するソウゾウはやはり、ひと味も二味も違う。プロダクト面からも組織面からも、そう思わされた対談だった。単なる後発のECプラットフォームではない『メルカリShops』が、どんな新しい価値を生み出していくのか、今後が楽しみだ。

こちらの記事は2021年10月25日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

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執筆

山田 優子

写真

藤田 慎一郎

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