勝てる営業組織とは何か?
連載1回目では、トップ営業マンに依存せず勝ち続けられる営業組織とは?を解剖する。
営業マンの実力が問われる案件の性質、売れる営業マンの3パターンを明らかにしながら、どうすれば組織全員が「勝てる」営業として機能する組織になるのか説明しよう。
接戦ゾーンの案件を受注できる戦略型営業を増やす
勝ち続ける営業組織を作るというと、連戦連勝スーパー営業マンの育成や、圧倒的競争力のある商品開発、秀逸な管理システムが必要と考えられる方がいらっしゃるかもしれませんが、私が提案するアプローチは、上記のいずれでもありません(もちろん、あるに越したことはないのですが・・・)。
まずは一般的に、営業が見積もり提案を出す案件について考えてみたいと思います(図1)。ここでは、案件を大きく3つの種類に分けていきます。
(1)楽勝ゾーン
例えば、お客様が悩みや課題を抱えていて、その解決のために、予算を既に確保して発注先を検討している。そして、幸運にも自社が最初に接点を持ち、他社には声がまだかかっていない。さらに、お客様には付き合いのある既存発注先もない。お客様は商品やサービスに関する知識がそれほどなく、こちらのアドバイスに対して真剣に聴いてくださる。
こんな状況、なかなかあるものではありませんが、ベンチャーやスタートアップでは起こりやすい状況です。例えば、大企業が開発できていないイノベーティブな法人向けサービスを開発できた場合、FacebookやLINEといった巨大プラットフォームの広告枠を他社に先駆けて先行販売する権利を獲得できたような場合などです。
もしこういったケースに遭遇したら、経験の少ない新人営業でも受注が頂けたりします。発生確率としては高くありませんが、いわゆる、「ラッキー」な案件です。
(2)接戦ゾーン
お客様は悩みや課題を抱えているものの、予算の確保ができていない。あるいは、既に声がかかっている、もしくは付き合いのある既存発注先が存在する。
自社にとっては、競合が存在する、あるいは、競合が存在しなくとも、社内の稟議や意思決定をがんばって通していかなければならない。多くのケースはこのような状況に当てはまるでしょう。
やり方次第では受注が頂けますが、やり方を間違えると他社に案件を持っていかれたり、社内の稟議が通らなかったりします。営業としての手腕が問われるゾーンです。
(3)惨敗ゾーン
お客様は既存取引先に対して100%に近い安心あるいは信頼を抱いており、他社にスイッチしたくない。もし仮にスイッチするとなると、かなり膨大な(心理的・経済的)コストが発生する。
このような案件はあまり戦いたくないですね。競合が圧倒的有利な状況にあり、もし仮に自社に提案機会があっても、ほぼ提案内容さえ吟味してもらえない、ただ相見積もりを取るためだけのいわゆる「当て馬」であることもあります。
あるいは、コンペ案件でなくとも、お客様に予算が全くなかったり、外注することに対してまったく意欲がなかったりすると、案件の難易度は飛躍的に高まります。
ここまで、3種類の案件を見てきました。楽勝ゾーンは、ある程度の商品知識さえあればほぼ誰でも売れますが、逆に惨敗ゾーンは、どんなに腕の立つ営業でも受注を勝ち取ることはなかなか難しいでしょう。
ここで私が提唱したいのは、「やり方次第で受注にも失注にもなる接戦ゾーンの案件を、確率高く受注に導けるようにする」ということです。「接戦ゾーン」の商談をモノにできるようになれば、受注率を相当にまで高められます。
組織として、「接戦ゾーンにおける勝ち方」を再現性高く実行できるようにするにはどうしたらよいでしょうか。まずは、「接戦ゾーンで勝てるハイパフォーマーはどんな人材なのか?」を考えていきましょう。
ハイパフォーマーの「戦略型営業」を増やす
接戦で勝てるハイパフォーマー営業は、大きく3タイプに分かれます(図2)。
1つ目のタイプは、豪腕で押しが強く、
自分の信じた道を猛烈な勢いで突き進む「豪腕型営業」です。
まるでブルドーザーのように壁を気にせず突き進む豪腕型営業の、あまりにも突出した努力の量とそれゆえの数々の実績によって身にまとうそのオーラは、お客様にとって「頼りになる」という感情を起こさせます。
彼あるいは彼女は、お客様から断られるなど1ミリたりとも考えません。溢れんばかりの自信に基づいて、「どうだ!」と言わんばかりの提案を出してきます。
ただ、それはすさまじい努力と数々の実績によって支えられており、お客様からすると「断る理由を見つけづらい」雰囲気が漂っています。
破竹の勢いで成長したベンチャー企業の実力ある営業マンが、書籍や各種メディアで脚光を浴びるようなパターンはこの「豪腕型」に分類されることが多い印象です。いわゆる創業者やCOOが自ら営業しているような場合です。
そんな人物の経験談を読んで「スゴイな」とは思いつつも「これは真似できないな…」という感想を抱いたことがある人も多いのではないでしょうか。
2つ目のタイプは、お客様へ徹底的に尽くす
「奉仕型営業」です。
奉仕型の営業はとにかく顧客志向が強く、常にお客様のことを考え、お客様の立場に立ち、お客様がしてくれたらありがたいと思うであろうことを愚直に実行します。
ときには、自己犠牲が伴うこともありますが、「お客様へ徹底的に尽くす」営業の判断基準は、「それがお客様のためになっているかどうか」が全てです。そして実際、お客様の多くはそんな営業に対して、心から感謝をします。そうして、売上が積み重なっていきます。
3つ目のタイプは、どうやったら受注できるかを論理的に考え、
逆算思考でアプローチする「戦略型営業」です。
戦略型の営業は、お客様にとっての目的やミッションを達成するにはどうしたらよいか?そのためにはどのような選択肢が最適か?自社の提案はお客様にとって最適な選択肢になっているか?といった観点から考え、行動します。
営業がどんなトークで話すかよりも、お客様社内での意思決定ルートをきちんと描くことの方が大事であることを理解し、お客様の声に耳を傾け、どうしたら当社の提案を通してもらえるかをヒアリングしながら、そのための要件を揃えていきます。
トークの巧さよりも、お客様から「当社を選んで頂くための材料」をいかにして引き出していくことの方が重要です。
私がコンサルティングや営業の現場でハイパフォーマー営業へのヒアリングを行うと、だいたいこの3つのタイプに分類されますが、豪腕型営業や奉仕型営業は、ご本人が決まって口にされる台詞があります。
それは、「自分は当たり前のことをやっているだけなのですが・・・こんな当たり前のこと、なんでみんなやらないんですかね?」というものです。
要するに、「当たり前にやっていることのレベルが高すぎる」ことに対してご本人が無自覚であり、それゆえに、突出した水準に到達しているというわけです。
また、これから営業を組織化していこうというフェーズにあるベンチャーやスタートアップにおいて、この「豪腕型」、「奉仕型」の営業マンがトップの成績を収めている場合は注意が必要です。
経験の少ない営業マンばかりで構成されている組織の場合、「トップ営業マンを真似る」という思考に陥りがちなためです。前述の通り、本人たちにとっては誰でもできる当たり前のことなのですが、他の営業マンにとっては真似たり学習したりすることが非常に困難なため、営業の仕組み化に成功する可能性は低いと言えます。
では、結局どうしたら戦略的に、再現性高く、勝てる営業組織を作れるのか?そこで注目するのが「戦略型営業」です。戦略型営業は、その思考プロセスを客観化・言語化しやすいので、他の2タイプに比べて「他の人が真似しやすく、再現しやすい」という特徴を備えています。
戦略型営業にとって必要なのは、高度な論理思考力や小難しい言葉を並べる力ではなく、「お客様はどうやって発注先を選ぶのか?」というプロセスや心理状況に対する理解です。
お客様がある会社の営業をなぜ選ぶのか。どうやって選ぶのか。ここをしっかりと押さえていけば、社会人経験の少ない若手営業であっても、結果を出していくことができます。
こちらの記事は2017年10月02日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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連載【TORiX 高橋浩一直伝】 勝てる営業組織の戦略的な作り方
14記事 | 最終更新 2018.01.08おすすめの関連記事
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