コカ・コーラやヴィトンも活用。
「バーチャル・インフルエンサー」とは何者か?
ソーシャルメディア上で大きな影響力を持つ「インフルエンサー」。
企業のマーケティング活動に欠かせない存在になっている。
このインフルエンサー、通常は実在する人物であるが、いま実在しない架空の人物がインフルエンサーとして活躍するケースが出てきている。
今回は「バーチャル・インフルエンサー」と呼ばれる架空の人物たちの実態をお伝えするとともに、今後どのように進化していくのか、その可能性を探ってみたい。
- TEXT BY GEN HOSOYA
プラダなど大手ブランドが乗り出す「バーチャル・インフルエンサー」マーケティング
「バーチャル・インフルエンサー」として最も有名な1人が、Miquela Sousa(ミケーラ・ソウサ)だ。コンピューターグラフィックス(CG)でつくられた3D女性キャラクターで、1998年生まれ、カリフォルニア在住、スペイン系ブラジル人というプロフィール設定となっている。
2016年にインスタグラムに登場、2018年4月時点のフォロワー数は87万人以上。ツイッターやフェイスブックにもアカウントを持っており、ソーシャルメディア上では「Lil Miquela」と名乗っている。Miquelaを作成した人物は、まだ明らかになっておらず、謎めいた部分も注目を集める理由になっているようだ。
Miquelaのインスタグラムアカウント
インスタグラムにはシャネルやシュプリームなどのファッションを身にまとい、実在するセレブと一緒に写った写真が多くアップされている。それらの写真から影響を受ける若者は多く、ファッション分野の「バーチャル・インフルエンサー」として認知されている。
2018年2月には、世界的に有名なメイクアップアーティスト、パット・マクグレイス氏が自身のインスタグラムアカウントでMiquelaを紹介。さらに、プラダが2018年秋コレクションのプロモーションに起用するなど、ファッション業界の大物、大手企業が無視できない存在になっている。
また、Miquelaはスポティファイで楽曲を発表しており、音楽分野にも活動範囲を広げている。2017年8月に発表した「Not Mine」はYouTubeオフィシャルチャンネルでも視聴可能。YouTube上では42万回位以上再生されている。
Miquelaと並び注目されている「バーチャル・インフルエンサー」がもう1人存在する。
英国の写真家、キャメロン・ジェームス・ウィルソン氏がCGでつくったShuduはインスタグラムアカウントで9万人近いフォロワーを持つ仮想ファッションモデルだ。インスタグラムのプロフィールでは「世界初のデジタル・スーパーモデル」を謳っている。
CGのクオリティーはMiquela以上で、本物の人間のように見えるという声が多い。米国の有名歌手リアーナ氏の美容ブランドFenty BeautyがインスタグラムでShuduの写真をリポストしたことが話題となっている。
Shuduのインスタグラムアカウント
このほかにも、ルイ・ヴィトンが2016年にファイナルファンタジーⅧのキャラクターを起用したり、コカ・コーラがサッカーゲームのキャラクターを起用したりと、ブランドによるバーチャル・インフルエンサー起用事例は枚挙にいとまがない。
広告代理店ジェイ・ウォルター・トンプソンは、デジタル・インフルエンサー人気の高まりは、非現実や仮想の世界でも感情的な強いつながりを持てる若い世代の特徴を反映したものだと指摘している。
将来は自律的に動くバーチャル・インフルエンサーが出てくる?
バーチャル・インフルエンサーはこの先、どのように進化していくのだろうか。
仮想現実やヒューマンコンピューティングなど、現在研究開発が進むテクノロジーを鑑みると、少なくとも2つの可能性が考えられる。1つは自律的なバーチャル・インフルエンサーの登場、もう1つは過去の有名人がバーチャル・インフルエンサーとして蘇る可能性だ。
1つ目の可能性について。Miquela、ShuduともにCGであるが、まだ静止画の状態でしか見ることができない。しかし、ニュージーランド・オークランド大学のマーク・サガー准教授が研究するヒューマンコンピューティング技術を活用すれば、自律性を持ち、自らの意思で動くCGキャラクターをつくることが可能となる。
サガー准教授が開発したバーチャル神経システムは、CGキャラクターに自律性を持たせることができるだけでなく、感情的なインタラクションを実現することができる。CGキャラクターはインタラクションに応じて感情を表情で示せるため、あたかも本当の人間と会話しているような感覚になれるという。
サガー准教授は自身が研究する技術を広めるためにSoul Machines社を設立。同社はすでに企業や政府向けにデジタルアバターやバーチャルアシスタントの提供を行っている。CNBCのインタビューで、サガー准教授は今後5年でVRゲームのなかに登場するキャラクターに意思を持たせることが可能であると語っている。その頃には、バーチャル・インフルエンサーも自律性を持ち、ソーシャルメディア上でさまざまな活動を行っているかもしれない。

もう1つの可能性は、すでに亡くなってしまった人物など過去の有名人がデジタル上で蘇り、デジタル・インフルエンサーとして振る舞うことだ。
バーチャルヒューマンの研究に携わるナディア・マグネナット・テール教授によると、現在すでに3Dスキャンなしでも過去の映像からバーチャルヒューマンをつくりだすことが可能という。
ハリウッドではこの技術を活用し、バーチャルアクターをつくりだし、本物の俳優の代わりに出演させることもしばしば行われている。映画『Fast and Furious 7』では、映画制作中に俳優ポール・ウォルカー氏が亡くなってしまったが、ウォルカー氏のバーチャルアクターを使い、残りのシーンを撮影、映画は無事完成している。
ここでいうバーチャルアクターとは自律的に演技ができる存在ではなく、CGでコントロールする必要があるが、前出のサガー准教授が開発する技術を組み合わせると、自律的に動くバーチャルアクターをつくりだすことも不可能ではないだろう。もちろん、映画俳優だけでなく、過去の偉人、政治家、スポーツ選手などもデジタル上で蘇らせることができるはずだ。
これらが実現するには数年以上かかるかもしれないが、実現すればバーチャル世界はリアル世界以上に賑やかになり、バーチャル・インフルエンサーの重要性もますます高まっていくことになるだろう。どのようなバーチャル・インフルエンサーが登場するのか、今後の展開に注目していきたい。
こちらの記事は2018年04月23日に公開しており、
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シンガポール在住ライター。主にアジア、中東地域のテック動向をウォッチ。仮想通貨、ドローン、金融工学、機械学習など実践を通じて知識・スキルを吸収中。
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