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連載|Amazonに対抗する「Walmart経済圏」を解剖する
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Amazonに対抗する「Walmart経済圏」を解剖する(前編) ── 4700店舗を活かしたEC拡大戦略

オフラインで成長してきた小売店舗の雄Walmart Inc.(ウォルマート)が、
オンラインで世界最大のAmazonと衝突する時代がやってきた。

本記事では、店舗チェーンの代名詞であるWalmartが、
どのような施策を打ち出してAmazonに対抗しているのか、前後編の2本立てで紹介していく。
小売業の時流を捉えるだけでなく、日本の百貨店やショッピングモール事業者が、
業態を変化させる際の示唆を提供したい。

前編では全米各地の実店舗を活用した配達網強化、およびEC事業拡大戦略について述べていく。

  • TEXT BY TAKASHI FUKE
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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実店舗をフル活用したEC拡大–––Walmart躍進の原動力

Ryan Shea

2018年、Walmartはかつてない規模の成長を達成した。『Reuters』の記事によると、第2四半期の店舗売上高の成長率が過去10年間で最大幅となったという。2019年度においては、過去10年間で最大となる約3%の売上成長率を達成するとも見込まれている

成長の原動力は、事業戦略の軸を、既存店舗をフル活用したEC拡大に置いたことだ。ECで購入した店舗商品が自宅まで配達される事業モデルを拡大させるべく、生鮮食料品の配達エリアを100地域以上増やした。さらに、2018年末までに米国人口の40%へ届けられるよう配達可能地域を拡大させるとのことだ。大手オンデマンド配達サービスPostmates(ポストメイツ)との提携も発表している

また、事前に注文した商品を店舗で受け取れる「ピックアップ拠点」を増やした点も大きな成長要因となった。Walmartはもともと、都心ではなく郊外エリアを中心に出店していた。競合も少ないため商圏を大きく広げられ、大型店舗を出店すれば、その地域に住む消費者需要の大半を獲得できる。

郊外エリアの住人は、基本的に車移動が多い。そのため、送料を払ってまで家に届けてもらうのではなく、店舗で商品をピックアップしたいニーズが高い。この消費者需要を汲み取り、ECで生鮮食料品を予約購入し、専用カウンターで商品を受け取れるサービスの拡大を図った。2018年3月時点で1,200拠点あったピックアップ対応店舗を、年内にあと1,000店舗増加させるとも報じられている

このようにWalmartは、郊外の大型小売店舗として築き上げたインフラを最大限活用し、巧みにECとの連携を進めているのだ。一方でAmazonも、2016年に無人店舗「Amazon Go」を出店して以来、オフラインへの参入を着々と進めている。

『Bloomberg』の記事によると、Amazonは2021年までにAmazon Goの店舗数を3,000まで伸ばす計画があるという。同じく無人店舗技術を開発するスタートアップStandard Cognition(スタンダート・コグニション)も、同社のサービスを3,000店舗に導入する長期戦略を示していることから、これは実現可能性のある数字だと考えられる。3,000店となれば、Walmartの店舗数を凌ぐことになる。

Amazonがオフライン市場へ急速に攻め入ることがわかっている今、Walmartは次なる一手として、Amazonが独占するEC市場への参入を進めているのだ。ここで従来あまり接点のなかったAmazonとWalmartとの間に競争が生まれ、将来的に熾烈な戦いが生まれる可能性がある。

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Walmartは自動運転やドローンを活用し、配達網の強化を目指す

Waymo

配達可能エリアおよびピックアップ拠点の拡大に加え、さらなる事業拡大に向けてWalmartが目をつけているのが、自動運転の分野だ。

Walmartは2018年7月、Google親会社Alphabet(アルファベット)傘下の自動運転車開発企業Waymo(ウェイモ)提携した。Waymoの自動運転車に乗って最寄りのWalmart店舗へと向かい、事前にECで購入しておいた生鮮食料品をピックアップできるサービスの展開を目指すという。

もともとWaymoが配車サービス確立に向けて動いていたことを勘案すると、たとえば「自宅への移動中にWalmart店舗に立ち寄り、買い物まで済ませられる」配車体験を実現したかったのだと推測できる。従来の配車サービスでは寄り道できなかったが、ピックアップサービスとの事業連携を果たすことで、ブレークスルーを突破できる可能性がある。

Walmartは配達網を強化するために、自社の従業員を活用している。「Associate Delivery 2.0(アソシエイト・デリバリー)」と称された配達プログラムは、帰宅する従業員を1時間12.5ドル(約1,380円)で雇い、帰路のついでに顧客へ商品を配達する仕組みだという。2018年7月末時点で4,700店舗を構えるWalmartは、半径10マイル(約16km)の商圏の中で、全米人口の90%をカバーしている。従業員に配達してもらうことで、住宅地域へ商品をより効率的に届けていく算段だ。

また、自社の従業員だけではカバーできない地域への配達に対応するため、企業向け配達プラットフォームを提供するBringg(ブリング)との提携も発表した。WalmartはBringgのシステムを通じ、配達員をクラウドソーシング型で募集できるようになった。クラウドソーシングで集めた人を通じて、自社配達ネットワークだけでは届かない地域への「ラストワンマイル」問題を解決するのが目的だ。

その解決手段として、ドローン配達事業にも前向きである。2018年9月に、Walmartがドローンの自動配達向けにブロックチェーン特許を出願したことが明らかになった。各ドローンとの通信手段にブロックチェーンを用いることで、やりとりされる配達情報のセキュリティを高める算段だ。ブロックチェーンを活用すれば、配達活動の全履歴が残るため、安全な情報管理下で配達物のトラッキングを行えるようにもなる。

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ロボットを導入し、在庫・物流オペレーションの徹底効率化を目指す

Bossa Nova Robotics

配達網の拡大と並行し、在庫・物流オペレーションの効率化も進められている。

店舗規模が大きければ、多大な人件費がかかり、ヒューマンエラーも続出する。商品の棚卸作業における店頭在庫数のカウントミスや、値札や商品タグのつけ間違えが多発することだろう。

この問題を解決するためにWalmartが導入を進めるのが、Bossa Nova Robotics(ボサノバロボティクス)のロボットである。2018年3月には、全米50店舗に導入された。同ロボットは店舗棚をスキャニングしながら、商品数のカウントや、棚に掲げてある商品タグ情報の照合を行う。在庫管理システムと連携することで、従業員は正確に商品を補充ができるのだ。

また、在庫運用システムの自動化も急ピッチで進めている。2018年8月、在庫管理ロボット「Alphabot(アルファボット)」を開発するAlert Innovation(アラートイノベーション)提携。Alphabotは、在庫を保管しているコンテナから特定の商品を運んでくれる、自動移動カートである。広大な倉庫内を自律移動して従業員の元まで商品を届ける。商品を受け取った在庫管理担当の従業員は店頭に補充する。こうして在庫倉庫から迅速に商品をピックアップすることが可能となる。

在庫管理のみならず、物流網の開発にも手を抜かない。Tesla(テスラ)が開発するEVトレーター「Tesla Semi (テスラ・セミ)」を約30台導入し、トラック配達の効率化を目指しているという。これが実現すれば、オートパイロット機能を使い、混雑の少ないハイウェイを自動運転かつ最適なスピードで移動できるようになる。トラックが小隊を組んで走行することで、燃費や物流速度を最大化させることもできるはずだ。

Walmartは2020年までにカリフォルニア州に新たな物流拠点を建設するという情報もある。他の拠点と比べて40%以上処理スピードが早くなるとも噂されているため、この章で紹介したロボットや自動化技術がほぼ全て実装されているとみて間違いないだろう。物流網と仕入品をさばく拠点の2つを抑えることで、サプライチェーンの最効率化を目指す算段だ。

前編では、配達網から在庫管理まで、サプライチェーン関連の話題を紹介してきた。後編では、店舗モデルの進化や従業員教育、EC事業の拡大といったトピックをカバーしていく。

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執筆

福家 隆

1991年生まれ。北米の大学を卒業後、単身サンフランシスコへ。スタートアップの取材を3年ほど続けた。また、現地では短尺動画メディアの立ち上げ・経営に従事。原体験を軸に、主に北米スタートアップの2C向け製品・サービスに関して記事執筆する。

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。東京大学(教育思想)→某AIスタートアップ(マーケティング・事業開発)→現職。関心領域は、ビジネス・テクノロジーから人文知まで。

デスクチェック

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

こちらの記事は2019年01月22日に公開しており、記載されている情報が異なる場合がございます。