連載bellFace Inside Sales Meetup 2019
新卒社員が2ヶ月以内に初受注を達成。
現場社員が語る、オンラインセールス攻略法【SmartHR×Mtame】
労働人口の減少やテクノロジーを背景に、「生産性向上」が企業活動における定番のトピックとなった。たとえば、マーケティング領域においては、HubSpotやMarketoに代表されるマーケティングオートメーションツールが普及し、業務の効率化が高まっている。そんな中、セールスに関しては未だ「電話」と「訪問」が主流であり、テクノロジーの導入によって改善できる余地が大きく残されている。
そうした状況を打破すべく、2019年1月、オンラインセールスの活用に焦点を当てた営業変革を追求するイベント「bellFace Inside Sales Meetup 2019〜インサイドセールスの先駆者たち〜」が開催された。本記事では、「SESSION #2 現場から営業を変革する」で行われたパネルトークの様子をレポートする。
登壇したのは、SmartHRでオンラインセールスチームの立ち上げを担った正木聡帆氏、Mtameでマーケティングオートメーションツール「BowNow」の商材責任者を務める田中次郎氏、同じくMtameにてオンラインセールスチームの立ち上げを手がけた橋口浩暉氏だ。
オンラインセールスにはフィールドセールス未経験者をアサインすべき理由から、強固な営業組織をつくるための部下とのコミュニケーション、顧客から訪問を求められた際の対応まで、実践的なノウハウがつまびらかにされた。
- TEXT BY TAKUMI OKAJIMA
- EDIT BY MASAKI KOIKE
1回訪問する時間があれば、3回のオンライン商談をこなせる
株式会社SmartHRが提供するクラウド人事労務ソフト「SmartHR」は、リリースから3年でスタートアップ企業から従業員約2万名の大手企業まで使われており、売上は前年比約3倍を達成している。躍進を続ける同社にオンラインセールス部が誕生したのは、2018年6月のこと。それ以前に止むを得ずオンライン商談が設定された際は、フィールドセールス担当者が兼任していたという。
しかし、オンライン商談による成約のノウハウが蓄積されず、オンラインセールスの大きな利点である商談数の増加も体感できなかった。そこで実施されたのが、オンラインセールス専任組織の立ち上げだ。フィールドセールスとの兼任では、うまくいかなかったのだ。
正木フィールドセールスが得意なのは、あくまで対面の商談であり、オンラインでは勝手が違います。お客様の身振り手振りが見えにくかったり、商談の場にいる人数が分からなかったりすると、場の雰囲気が掴めなくなり、混乱してしまう。
本来、訪問に比べて商談時に得られる情報が少なくなるとはいえ、必要なスキルセットは訪問もオンラインも変わらないと思います。しかし、フィールドセールスは経験上どうしても「訪問したい」というマインドが生まれるため、オンラインではうまくいかないケースが多いんです。
これに対して橋口氏は同意を示し、オンラインセールスを担当させる人材について「フィールドセールス出身者ではなく、営業未経験者に任せた方が良い」と考えを明かす。
Mtameでは、営業未経験者から構成されるオンラインセールス部の立ち上げによって、フィールドセールス中心の体制から受注率をキープしたまま、3ヶ月間で平均155%もの商談数アップを達成。また、月間の契約社数は最大記録を更新し、残業時間も大幅に削減されたという。
橋口正木さんのおっしゃる通り、フィールドセールス出身者は、どうしても訪問商談を設定しようとしてしまう傾向にありますよね。一方で営業未経験者は、フィールドセールスに慣れた人と違い、そもそも「訪問したい」と考えないため、オンライン商談による効率化を徹底してくれます。
同氏は加えて、成長人材を見極めるポイントについて、「営業未経験者のなかでも、愚直にスター選手の真似をできる人が大きく成長する」と言及する。それは、オンラインセールスはフィールドセールスと比べて学習機会が多いからだという。
橋口移動時間を要さないオンラインセールスは、訪問商談を1回こなす時間で3回の商談をさばくことができ、経験を積みやすい。さらに、商談への同席や録画による振り返りもしやすいんですよ。実際に弊社では、フィールドセールス配属の新卒社員が初受注を一人でこなせるまでに約7ヶ月かかるのが当たり前でしたが、オンラインセールス配属の新卒社員は皆、1.5〜2ヶ月で初受注を達成しているんです。
まず何よりも、オンライン受注の実績をつくれ
続けて、オンラインセールス組織を管掌する者の視点に議論は移った。田中氏は当初、訪問中心の体制からオンライン商談中心の体制に移行するため、オンライン会議ツール「bellFace」を導入するも、社員にほとんど利用してもらえなかったという。
月間の利用回数が10件にも満たない状況を見かね、社内全体にオンラインセールスを普及させようとするのをやめた。そして、自らが掲げるビジョンに賛同してくれた数人のみを育成する方針にシフトチェンジしたという。
田中オンラインセールスが受け入れられる土壌をつくるためには、いきなり利点を社内に訴えかけるよりも、まずはどんな形であれ実績を上げることが大切だと考えています。僕の場合、「商談にかかる時間を削減し、浮いた時間をお客様へと還元したい」といったビジョンを発信し続けました。賛同してくれる数人のメンバーに限定して育成を行ったところ、訪問商談と同じ成約率をオンライン商談で達成してくれました。
ひとたび実績が生まれると、途端に「訪問していないのに、受注率が変わらないのは凄い」と社内で話題になり、オンラインセールスへ注力する気運が高まっていったんです。
田中氏の意見を受け、橋口氏はオンラインセールス組織の作り方について、「立ち上げ時はトップダウンで進め、拡大フェーズではボトムアップで推進するのが良い」と付け加える。
橋口社内でオンラインセールスの実績が乏しい状態であれば、田中がそうしたように、まずはトップダウン体制で組織立ち上げを推進するのが良いでしょう。受注のノウハウが社内に蓄積されていないと、未経験者は「本当にオンライン商談で受注できるのか?」と半信半疑になってしまう。それを打破するためには、どうすれば受注できるのかを上司が丁寧に伝え、「受注できる」と信じさせる必要があるんです。
導入が進み、より強固な組織をつくっていくフェーズに入ってからは、現場の意見を積極的に吸い上げるボトムアップ体制へと移行した方が良いと考えています。なぜなら、お客様と接している現場のメンバーのほうが、商談における課題を把握しやすいからです。こちらが意見を求めている旨を伝えれば、彼らも積極的に報告してくれます。たとえば僕の場合、インターン生たちが業務についての改善案をチャットで報告してくれるようになったおかげで、自社の課題解決につながっています。
訪問商談は、正面から断るべき
続いて、訪問商談を求められた際の対応について議論された。オンラインセールス中心の営業体制を敷く両社だが、顧客が訪問を希望することも少なくないという。そういったとき、「プロダクトの魅力を伝えることでオンライン商談へと誘導できる」と正木氏は語る。
正木SmartHRでは、顧客企業の規模と所在地によって商談の形式を明確に区別しているため、訪問商談を求められてもオンラインでしか対応できないケースもあります。その場合は、訪問は難しいと伝えたうえで、プロダクトの魅力を丁寧に伝えるようにしています。
またオンラインセールスとは別に、商談を創出する専任のチーム(SDRチーム)も、商談化・ナーチャリングのプロとして存在しています。SmartHRの開発状況、法改正や働き方改革に対する企業動きなどを日々キャッチアップし、SmartHRをご検討いただく意義をお客様にお伝えしているんです。
プロダクトの良さを理解してもらえれば、訪問かオンラインかといった形式を問わずに「話を聞いてみたい」と思ってくださり、オンライン商談が受け入れられる場合が多いですね。
対して田中氏は、「訪問できない理由を正直に明かすようにしている」と話す。
田中訪問を求められても、正直に理由を述べた上で「行けない」と伝えれば問題ありません。僕たちの場合、「安価な商材を提供しているため、コストの観点から訪問は難しい」と話すと、お客様も納得してくれるんです。
イベント終盤、オンライン商談でクロージングするためのコツについて問われた田中氏は、「クロージングにコツはなく、商談における一つひとつのプロセスをやり抜くしかない」と持論を語った。
田中成約直前だけ気合いを入れても結果は変わりません。クロージングできるか否かは、すでにそれ以前の商談で決まっていると感じます。ときどき「自分たちの業種や商材は特殊だから、オンライン商談でクロージングは難しい」と言われることがありますが、どんな領域であっても関係ないと考えています。ツールを導入して満足するのではなく、オンラインセールス組織が自走できるまでやり抜けば、次第に結果はついてくるはずです。
訪問時間の削減によって高い生産性が見込めるだけでなく、画面録画による振り返りやマネージャーの商談同席によって成長機会を得やすいオンラインセールスは、ますます広まっていくだろう。
オンライン商談は訪問商談と異なり、顧客の身振り手振りや表情の機微が見えないため、場の雰囲気を掴みにくい面はあるかもしれない。しかし、「適切なプロセスが描ければ成約に至り、そうでなければ至らない」という原則に変わりはないはずだ。二社と同じく比較的安価な商材を提供しており、CACの削減に苦悩するスタートアップは、ぜひオンラインセールス組織の立ち上げを検討してみてはいかがだろうか。
こちらの記事は2019年03月05日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
岡島 たくみ
株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
連載bellFace Inside Sales Meetup 2019
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