これぞ未来の転職活動。
LinkedInの欠点を埋めた、
ブロックチェーンプラットフォームdock.io
昨年は活況だった、日本の転職市場。求人・転職サイトDODAの調査によれば、2018年もこの傾向は続き、転職希望者、求人数共に増加トレンドにあるとされている。
- TEXT BY ATSUSHI YUKUTAKE

転職市場の推移(DODAのウェブサイトより)
これまで転職を経験したことがある人であればおわかりの通り、転職活動に必要であるものの面倒なのが職歴をはじめとする経歴のまとめや整理だ。
転職希望者は複数のサービスやエージェントに登録するのが普通だが、それぞれで求められる情報やフォーマットは異なるため、共通する部分はあってもそれぞれに応じてカスタマイズが必要になる。
さらに、登録情報は各サービス・エージェントの管理下に置かれてしまうため、登録先が増えるにつれて情報漏えいのリスクは増加する。
ケンブリッジ・アナリティカの個人情報濫用が話題になったFacebookと似たような事件は、求人サービスでも十分起こり得るのだ(あるいはより深刻かもしれない)。
転職活動をより効率化したいというニーズとトレードオフで、情報セキュリティに関するリテラシーが必要とされている今、ビジネス系SNSや求人サービスの世界に変革をもたらそうとしてるのが、ブロックチェーン版LinkedInの「dock.io」である。
”ブロックチェーン版LinkedIn” とは?

「ブロックチェーン版LinkedIn」のdock.io(同社のウェブサイトより)
dock.ioの目標は、ユーザーが自分の職歴に関する情報を完全にコントロールできる環境を整備すること。
これは「データポータビリティ」を実現することとも言い換えられる。
データポータビリティとは、一旦どこか(サービスや企業)に手渡した個人情報を本人が扱いやすい形式のデータで取り戻すことができ、さらに他のサービスや企業にそのデータを自由に移動できるかどうかをということを指す。
欧州で今年5月から完全施行されるGDPR(EU一般データ保護規則)もデータポータビリティの実現に焦点をあてている。
そこでdock.ioは、ブロックチェーンと独自の仮想通貨DOCKを通して、ユーザーの経歴とその情報にアクセスしたいアプリケーションをつなぐ橋のような役割を担おうとしているのだ。
イーサリアムブロックチェーン上に実装されたdock.ioでは、登録された経歴がユーザーごとのスマートコントラクト(予め定められたルールに基づいてブロックチェーン上の操作を自動で実行するソフトウェア)として記録される。
さらにユーザーは公にしたい情報とプライベートにしたい情報、さらにプライベートな情報はどんな情報を誰と共有するかといったことまで設定できる。
そして、dock.ioに接続したイーサリアム上の非中央集権型アプリケーション(Dapp)は、DOCKを費用として支払うことで各ユーザーの個人情報にアクセスできるのだ。
LinkedInの欠点は「アプリ間の情報共有」
実際にLinkedInは数年前まではAPIを通じて、サードパーティーのアプリケーションにさまざまなユーザー情報にアクセスする権利を与えていたが、2015年にはその内容が大きく制限されることになった。
これはあくまでLinkedInが自分たちのビジネスを守るためにとった手段であり、ユーザーの利便性や安全性が優先された結果ではない。
つまりユーザーが提供した情報をベースにビジネスが成立しているにも関わらず、ユーザーは自分の情報を自由にコントロールできない状態にあるのだ。
他方dock.ioは、アプリケーション間の情報共有が促進されるような仕組みになっている。
あるアプリケーション(アプリA)が特定のユーザー情報へアクセスできる状態にある場合、別のアプリケーション(アプリB)は独自トークンDOCKをアプリAに支払うことで、その情報にアクセスできるようになるのだ。

データの流れを表した概要図(筆者作成 出典:ホワイトペーパー)
この仕組みのおかげで、dock.ioネットワーク内のアプリケーションは、ユーザー情報を他のアプリケーションと共有することでDOCKトークンを手に入れられるため、積極的に情報を共有するインセンティブが生まれる。
そしてもっとも重要なのが、ユーザーには情報の対価としてトークンが支払われないため、金銭的なメリットを目的に情報を共有するインセンティブがないということ。
たとえばFacebookと連携したアプリを利用する場合、必要情報へのアクセスを許可しない限りそのアプリを使うことができないため、仕方なく情報を共有しなければいけなくなってしまう。
何かしらの目的(アプリを利用できる権利や金銭的なメリット)を達成するために、ユーザーに個人情報を半強制的に共有させるような仕組みが、ケンブリッジ・アナリティカのような問題が生まれる要因のひとつになっているため、dock.ioは仕組みの根底から、データポータビリティを意識していると言えるのだ。
LinkedInのような既存サービスが抱える問題のひとつは、ユーザー情報の質・量がLinkedInのプラットフォームとしての価値を決めるため、自分たちが持っている情報を他のサービスやアプリケーションと共有しようとするインセンティブが生まれづらいという点だ。
ユースケースから考えるdock.ioの特徴
それではdock.ioのユースケースについて考えてみよう。
転職を考えているあなたは、まず学歴や職歴をまとめ、dock.ioのアプリケーションから情報をアップロードする。
しかし、まだ現在の勤務先で働いているため、職歴の中の企業名(もしくは携わった仕事の具体的な内容)を隠しておきたい。さらに現在の給与額や希望給与額は、具体的な話に入ってから個別に開示したいと考えた。

1)そこであなたは、略歴や資格情報など基礎的な情報のみを全体公開とし、dock.io上にある転職アプリ(アプリA)に勤務先を含む詳細な職歴や希望職種・業界、希望給与額などそれ以外の情報を共有。
2)しばらくすると、アプリB・アプリCからあなたの詳細情報にアクセスしたいというリクエストが送られてきた。
これらのサービスについて知らなかったあなたは、サービスBとCにはAよりも絞った非公開情報を共有するとスマートコントラクト上に設定。すると、先述のように関連情報が、サービスAを経由してサービスB・Cの手にわたる。
3)その後、サービスBからは有用な情報が入ってくるが、サービスCからは音沙汰がなかったので、あなたはCとの情報共有をストップさせることに。逆にBに対してはAと同じレベルの情報も共有することを決める。
ここまでの流れを図に表すと以下のようになる。

既存のサービスでは情報を全体公開するか否か、または特定の企業や業界で働く人からのアクセスを拒否する機能はあっても、ここまで詳細に情報公開が設定できるものはなかった。また共有される情報はすべて予め準備したものなので、登録アプリが増えるごとに同じ情報を別のフォーマットに入力し直す必要もない。
さらに、ユーザーが新たな情報をアップロードした際には、すでに情報を共有しているアプリに通知が送られるため、複数のアプリに掲載されている情報を常に最新の状態に保つことができる。
個人情報に対する意識の変化が成長の原動力
これまでのソーシャルサービス同様、dock.ioも登録者が増えるほど利便性が高まるため、同プラットフォームの成長にはいわゆる「ネットワーク効果」が大きく関わっている。
これまでのところ、月々の新規登録ユーザー数は今年初旬のローンチから右肩あがりで伸び続けており、4月中旬時点ですでに35万人を超えているほか、すでに3つのサービスと連携しているなど好調な様子だ。
さらに今年2月に行われたICOでは200万ドルを調達しており、今後さらなるマーケティング施策を通してユーザーやパートナーシップの数が増えてくれば、転職だけでなくフリーランス同士のコラボレーションツールやネットワーキングサービス、さらには企業が直接採用活動にdock.ioを利用しだす可能性もある。
ただし、ユーザー情報はイーサリアムブロックチェーンとリンクしているため、情報更新の際にはガスと呼ばれるシステム利用料のようなものをイーサリアムで支払わなければならない。
そのため、dock.ioの成長にはデータポータビリティを含めた個人情報の取り扱いに対する消費者の意識の変化が欠かせないのだ。
近年さまざまな分野で散見する情報漏えい事件の様子やdock.ioが好調なスタートを切ったことを考えると、すでに意識の変化は始まっているのかもしれない。
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