連載インサイドセールスの極意

「テレアポ部隊」ではない。
FORCASに学ぶ、“事業を率いる”インサイドセールス組織のつくりかた

インタビュイー
田口 槙吾

1984年生まれ 北海道出身。学生時代から人材ベンチャーやITベンチャーで新規事業を立ち上げる。2014年からクラウド名刺管理サービスSansanにてセールスマネジャーとして新規開拓チームを牽引した後、LTV最大化をミッションとしたリニューアルセールスチームを立ち上げる。2016年にユーザベースへ参画し、SPEEDAセールスチームを経て、FORCASの営業責任者として着任し、クライアントのABM(アカウントベースドマーケティング)の実践支援に従事。2018年にFORCAS 執行役員 COO(Chief Operating Officer)を経て、2019年よりFORCAS 執行役員 CRO(Chief Revenue Officer)に着任。

大堀 秋沙

新卒で住友電気工業株式会社に入社。光ケーブルや工具の海外通信キャリア向け営業・企画業務に10年間従事。主にインド他南アジア市場を専門とする。 出産を経て株式会社ユーザベースに転職、2017年10月より株式会社FORCASのインサイドセールス業務に従事している。

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電話やビデオ会議ツールを利用し、遠隔で商談するインサイドセールス。日本でも2010年代半ばから、導入する企業が増えつつある。

しかし、成果を最大化するためのノウハウは、まだ十分にシェアされていない。そこでFastGrowは、インサイドセールスで成果を出している企業に話を伺い、ベストプラクティスを模索する連載企画「インサイドセールスの極意」を立ち上げた。

1社目は、ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)の実践を支援するB2Bマーケティングプラットフォーム『FORCAS』を提供する、FORCASが登場。設立当初は、商談数アップに注力する一方で、受注数が伸びず、インサイドセールスもセールスも疲弊する日々が続いていたという。しかし、ABMとインサイドセールスを組み合わせた戦略を採用したところ、成約率が劇的に改善。MRR(月間経常収益:毎月決まって発生する売上のこと)は前年比2.3倍まで伸びた。

立ち上げに従事したCCO(Chief Customer Officer)の田口槙吾氏、インサイドセールスエキスパートの大堀秋沙氏にインタビューし、組織体と成功のポイントを徹底解剖する。

  • TEXT BY YUKO TAKANO
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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「商談数」はKPIに置かない

2017年5月、ユーザベースが提供する経済情報プラットフォーム『SPEEDA』の自動ターゲティング機能としてリリースされた『FORCAS』。ABMとは、顧客データ分析に基づいて成約確度の高いターゲット顧客を特定し、マーケティング施策や組織体制を最適化するマーケティング手法のことだ。ターゲット顧客からの収益最大化を実現する手法として、注目を浴びている。

『FORCAS』は、ターゲット企業のリストアップから効果測定までサポートする。見込み顧客になる可能性が高い企業を、データ分析をもとに自動でリスト化。自社システムと連携することで、具体的な施策実行から効果測定まで簡単に実現できる。

『SPEEDA』の顧客から受けた要望をもとに開発された背景もあり、早期にPMFの感触を得られ、立ち上げ当初から業績は好調。2017年10月には分社化し、株式会社FORCASが立ち上がった。2018年6月からは自社でもABMを導入して急拡大を遂げ、2019年12月時点でMRRは7,500万円に到達した。

株式会社FORCAS CCO(Chief Customer Officer)・田口槙吾氏

そして、FORCASがABMを推進するうえで、インサイドセールスは重要な役割を担っているという。

一般にインサイドセールスは、予算や導入予定時期、決裁権の有無など、一定の条件を満たした商談の獲得数をKPIに据えている場合が多い。しかし、FORCASは違う。独自の基準で定めた、「導入可能性が極めて高い商談」数、すなわち「パイプライン」数をKPIに設定している。商談数だけを追ってしまうと、フィールドセールスと目線がずれてしまい、価値を届けるべき顧客に最速でアプローチできないからだ。

難易度の高い目標を課す理由を、田口氏は「FORCASのインサイドセールスは、事業部全体をドライブさせる“レベニューエンジン”だから」と語る。

田口当社のインサイドセールスチームは、マーケット状況と社内リソースに鑑みて、アプローチすべき見込み顧客のバランスを調整し、収益を最大化させるために発足しました。見込み顧客数が多すぎても良くないし、成約確度の高さを吟味するあまり、アプローチ先を絞りすぎても意味がない。マーケティングとセールスのハブとして、事業部全体で進むべき方向、取るべきアクションとその実行スピードを決めるのが、インサイドセールスなんです。

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ABM戦略のオーナーシップは、インサイドセールスに託す

FORCASのインサイドセールスの特徴として、ABM戦略のオーナーを務めている点も挙げられる。全チームのなかで、見込み顧客と対話する機会が最も多く、顧客理解が深まる立場ゆえに、ユーザー起点に立った戦略を描けるためだ。加えて、「ターゲティングのオーナーシップを持たせるのは、セールス組織の歪みを正す意図もある」と田口氏。

田口本来、フィールドセールスとインサイドセールスは対等な立場。ですが、どうしてもフィールドセールスの声が強くなってしまいがちですよね。そこで、インサイドセールスがABM戦略のオーナーシップを持つことで、立場を対等になりやすくしているんです。

チーム構成もユニークだ。マーケティングが獲得した見込み顧客へ直接アプローチするインバウンド担当に加え、ABMのターゲティングリストに対し、アウトバウンドでアプローチする「BDR(Business Development Representative)」も置いている。

株式会社FORCAS インサイドセールスエキスパート・大堀秋沙氏

BDRを担当する大堀氏は、「アウトバウンドといっても、一般的な新規開拓営業とは全く違う」と話す。

大堀アウトバウンドと称してはいますが、代表電話へのコールドコールもしませんし、手紙も書きません。企業名はもちろん、部署名や人単位でアプローチ先を特定しているので、名刺データやSNSでのつながり、パートナー企業などのつてをたどってアプローチしているんです。

もちろん、闇雲に「あの企業を紹介してください」とアプローチしてまわるわけではありません。ファーストコンタクトから『FORCAS』を導入、活用してもらうまでのストーリーを綿密に描いたうえでアクションしています。

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インサイドセールスは“一発逆転”が難しい

先述の通り、FORCASのMRRは右肩上がりの曲線を描いている。成果を出し続ける秘訣はどこにあるのか。

大堀一日単位でKPIの進捗を確認し、ビハインドがあれば、すぐにリカバリーするための動きを取ることが大切です。インサイドセールスは、フィールドセールスのように「月末に大型受注して一発逆転」という勝ち方は難しい。

一日に取れる商談数が急増することはないので、日々積み上げていくしかありません。目標達成に向けて進捗に遅れが出ていても、早期に気づけば取り返しやすい。毎朝集まり、KPIの進捗とリカバリー策を議論しています。

インサイドセールスやフィールドセールのトーク内容を、許諾を取ったうえで録音。チームメンバーは誰でも聞けるようにすることで、改善サイクルを早く回すようにしている。また、誰がどの企業に、どのようにアプローチしたのかという履歴も、CRMシステム『Salesforce』に蓄積。トーク内容や行動量をリアルタイムで確認しながら、営業トークの変更など、具体的な改善策を考えている。

加えて田口氏は、チーム間の連携強化、すなわち「ウィングを広げる」ことの重要性も指摘する。

田口マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの4チームが、互いにフィードバックしあえる環境を築くのも大切にしています。

たとえば、マーケティングには、顧客へアプローチした結果をフィードバック。どのような顧客にスムーズに商談できたか、逆にできなかったのかを伝え、顧客理解の解像度が高まるように促すんです。フィールドセールスには、パイプラインにならなかった案件に対するフィードバックをもらいにいっています。

部分最適ではなく全体最適で考えるため、他チームにどんどん入り込んでいき、その思考をインストールしていくことが大切です。フィールドセールスでどのような商談が行われているのかをインサイドセールスのメンバーが理解すれば、「商談がよりスムーズに進むためにはどうすべきか」を自然と考えられるようになります。

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採用では、経験の有無にこだわらない

他チームの理解を深めるうえで、ロールチェンジも有効だという。社内でトップレベルの業績を挙げていたフィールドセールス担当者に、カスタマーサクセスに異動してもらったところ、「顧客の理解がより深まった。今セールスに戻ったら、以前よりさらに顧客が求めているニーズを汲み取った提案ができる」と語ったそうだ。

成果を出し続けるためには、採用も重要なファクターだ。まだ日本に経験者は少ないが、インサイドセールスの導入を検討する企業は増えており、需要も高まっている。企業としては即戦力が欲しいものの、経験者は取り合いの状況である。

こうした状況で採用を成功させるために、「経験の有無はこだわらない方がいい」と大堀氏は語る。

大堀経験者に絞って採用活動をしたこともありますが、やはり母数が少なくて。企業によってインサイドセールスの役割が違うので、経験の有無ではなく、企業カルチャーへのフィットを重視したほうがうまくいくと気づいたんです。

たとえば、銀行出身でSaaSビジネスの経験は皆無だったものの、活躍してくれているメンバーもいます。当社のカルチャーをしっかり理解したうえでジョインしてくれたがゆえに、スムーズにオンボーディングできたからです。

ここまで挙げてきたポイントに、田口氏と大堀氏は、一つだけ前提を付け加えた。「すべての企業にとっての最適解とは限らない」というのだ。

田口企業のカルチャーを前提に考えるべきです。当社は組織が常に変化し続けるカルチャーがあり、変化を楽しめるメンバーが集まっているからこそ、現状のインサイドセールス体制が構築できたと感じています。

「この手法をやっておけば間違いない」という“正解”はないんです。自社の文化を理解したうえで、ミッションを達成するためには必要なことを逆算し、最適解を模索していくしかないと思います。

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「ランチすら食べられなかった」疲弊期。脱せたのは、ABMのおかげだった

今でこそ「体制を構築できた」というが、当然に模索の日々はあった。

2017年5月に『FORCAS』がローンチされた際は、田口氏を含め、フィールドセールス担当者が数名しか在籍していなかった。マーケティング担当がいなかったので、『SPEEDA』の既存顧客や他社のセミナーにスポンサーとして参加することで、見込み顧客にアプローチし、商談につなげていたのだ。

導入企業数が数十社に達した時点で、本格的に事業をドライブさせる方針を確定。より効率的に売上を伸ばすため、2018年1月にマーケティングとインサイドセールスの合同チームが発足した。インサイドセールス側の立ち上げメンバーとして、大堀氏がジョイン。立ち上げ当初は、ホワイトペーパーの無料配布や展示会出展など、見込み顧客数を増やすことを最重視していた。ターゲット像も「ぼんやりとしか作っていなかった」という。

大堀インサイドセールスは商談数をKPIに設定し、とにかく数を稼ぐことに注力しました。でも、商談数は順調に増えたものの、思ったほど成約率が上がらない。それでも商談の数はどんどん増えていき、セールスチームは徐々に疲弊していきました。あるフィールドセールス担当者からは、「ランチを食べる時間もないです」と言われてしまうほどでしたね。

事業成長の限界を突破するため、ABM戦略を強化することを決定。その第一歩として、まずはリファラル施策を実施した。ターゲット企業を選定し、セールス活動をおこなったところ驚くほどスムーズに受注できたという。

大堀ABMの威力を実感しましたね。「ターゲット(優先的にアプローチする企業)」を明確に定めることで、マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールスの3チームで共通認識が持てる。

それまでは、3チームが描くターゲット像が、微妙にずれることもありました。マーケティングチームとセールスチームで齟齬があると、連携がうまくいかず成果に繋がりにくい。ABM導入により、全員が同じアプローチ先に向かっていけるようになったので、一気に成長が加速しました。

初期は数を増やすことに振り切り、質を重視する戦略にシフトする──お手本のような立ち上げプロセスにも見えるが、田口氏は「もっとうまくやれた」と振り返る。

田口当社の場合、マーケティングとインサイドセールスが立ち上がる前に、数十社に契約していただいていました。顧客の傾向は、ある程度見えていたはずなんです。もっと早くABMを実行していれば、もっと急成長できたと思います。

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進化し続けるFORCASのインサイドセールス、その先に見据えるのは

ABM導入を経て、インサイドセールス組織を洗練させてきたFORCAS。しかし、田口氏は「今がベストだとは全く思っていない。より高みにいけるはず」と意気込む。

田口インサイドセールスに限らず、当社はかなりの頻度で組織体制が変わります。目標を達成するための最短ルートを探り続け、柔軟に改善を繰り返すからです。もちろん、強制的にメンバーを異動させることはしません。当人の強みやWillを聞きながら、最適なフォーメーションを組み立てています。

現行でも生産性はかなり高いインサイドセールスチームだと自負していますが、今後もさらに進化させていきます。直近だと、ABMのターゲティング精度を高めるため、部署間の連携をさらに強化し、「全メンバーが全チームを深く理解している状態」に引き上げたいですね。

一方、大堀氏は、インサイドセールスでの経験を新たなフィールドに持ち込み、新たなシナジーを生み出そうとしている。

大堀2020年7月中旬に、新プロダクト『FORCAS Sales』をリリースする予定です。インサイドセールスを進化させてきた当社のノウハウを活かして開発した、インサイドセールスと営業活動に新たな進化をもたすプロダクトです。

私も開発段階から携わっています。インサイドセールスを実践してきた人間が開発に加わることで、現場の課題を細かく理解した視点を、タイムリーに取り入れられます。インサイドセールスのキャリアの可能性を広げていく意味でも、面白い挑戦だと感じていますね。

こちらの記事は2020年07月06日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

高野 優子

フリーの編集、ライター。Web制作会社、Webマーケティングツール開発会社でディレクターを担当後、フリーランスとして独立。

写真

藤田 慎一郎

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

連載インサイドセールスの極意

1記事 | 最終更新 2020.07.06

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