GOはなぜファンドを作ったか?
クリエイティブカンパニーがVC事業に乗り出す意義
「GOの存在証明のために、ファンド設立が必要不可欠だった」──そう語るのはThe Breakthrough Company GOの代表取締役 三浦崇宏氏だ。
クリエイティブカンパニーとして知られるGOは、2020年4月に『GO FUND』を設立し、VC事業に乗り出した。スタートアップに対する資金提供に加え、GOのクリエイターによるブランディングやPRの支援が提供される。投資先の事業が成長しなければ支援側にもリターンはない。スタートアップの共犯者となり、サポートしていくスキームだ。
会社の売上も伸び、順調に事業を拡大していたというGOは、なぜ今、リスクをとってVC事業に挑戦するのか。GO FUNDの代表パートナーを務める小池藍氏と三浦氏に、その背景を伺った。
- TEXT BY MARINA AOKI
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY JUNYA MORI
反響は想像以上。順調に滑り出したGO FUND
「社会にまだない価値の創造」に挑戦するスタートアップにとって、自分たちは何者であり、どのような世界を目指しているのかを言語化、発信していくことは重要だ。それができるか否かで、仲間や顧客を集めて事業を成長させられるかに、大きな違いが出てくる。
しかし、ブランディングやマーケティングの必要性は理解していても、限られたリソースの中で時間や予算を回すのが難しいケースが多い。GO FUNDは、こうしたスタートアップの課題を解こうとしている。
GO FUNDのファンド規模は約10億円。投資先には、GOのクリエイターによるブランディング、マーケティング支援、それらに関する知見を共有し、出資先同士のつながりを生むためのクリエイティブキャンプ、GOのパートナーとの業務提携の提案などが提供される。
プレスリリースから1ヶ月以上が経過し、どのような反響があったのだろうか。海外でVCの仕事を経験した後に、GO FUNDの立ち上げに合流した小池氏は、初速の手応えについてこう語る。
小池2020年4月のファンド設立の発表以来、出資を希望する100社近くから問い合わせをいただいています。4月末に行ったオンライン説明会も300名ほどの方が参加してくださって、想定以上の反響をいただいています。
反響も大きく、多くの問い合わせがあるなかで、投資が専門でなかったGOが立ち上げたGO FUNDは、どのような条件で出資を行っていくのだろうか。
小池GO FUNDは、出資先の業種、領域、成長ステージなどは問いません。投資条件として決まっていることは2つだけです。1つは提携パートナーの投資家と連携した上での出資になること。もう1つは、GOのサポートによる事業の伸び率がより大きいと思われる企業を選ぶことです。
様々なスタートアップに投資していきたいと考えていますが、GO FUNDのファンド規模を考えると投資できるのは約20社。出資先の基準として、GOが提供するブランディングやマーケティングのサポートが効きやすい、貢献度が大きいところを優先したいと考えています。
GO FUNDは「パートナーと連携した上で投資家として入る」ことを名言している通り、一般的なVCにおけるスタートアップの目利きや発掘には重きを置いていない。完全に既存のVCと同じように立ち回るのではなく、互いの強みを生かして、上手く補完し合う仕組みを作っている。
小池既存のVCがスタートアップのバリューアップを支援する流れももちろんありますが、GOのようにトップクラスのクリエイターを社内に抱えることは難しい。一方で、GO FUNDはファイナンスの専門家を多数抱えているわけではありません。
GO FUNDの強みを活かすためには、VCとしての機能の一部を提携パートナー様に頼る形にする。その代わり、クリエイティブ面のサポートをよりスムーズに、そして強力に提供していく。このあたりは、スキームの工夫のしどころかなと考えています。
GOがブランディングやPRを支援してきたスタートアップは多様だ。事業成長に貢献できるか否かを踏まえた上で投資を決定したとしても、投資先が狭まるということはなさそうだ。むしろ、GOは「スタートアップにこそ支援できる余地が大きい」と感じているという。
小池起業家は決して表現のプロではないので、彼らにしか見えていない理想の世界をうまく説明できないのは当然です。ただ、説明できないからといって、本来の事業価値を伝えることを諦め、わかりやすいプロダクトの機能やテクノロジーの話に終始してしまうのは、非常にもったいない。目指している世界をわかりやすく表現することで、採用や株主へのピッチも上手くいきやすくなったり、初期ユーザーのロイヤリティを高めることもできます。表現への注力が事業に与える効果は絶大です。
スタートアップが成長すると、マスプロモーションに向けた社会との合意形成がより重要になる。広く社会の文脈を捉えた上でのブランディングやマーケティングも、GOが得意とするところだと言う。
三浦レイターステージではほぼ間違いなく一定数の競合が生まれていて、市場もコモディティー化していく。ビジネスモデルやプロダクトの革新性だけで明確な優位性を持ち続けるのは難しい段階です。
そこで、マジョリティに伝わるクリエイティブや、ブランドを好きになってもらう共感の設計、ストーリー作りができるかで、大きな差がつく。GO FUNDの出資先にはこの部分もサポートしていきます。
VCがスタートアップに提供する価値の1つに、出資先同士のつながりを生み出すことが挙げられる。ファイナンスの支援、バリューアップの支援、そしてコミュニティの支援だ。GO FUNDも、クリエイティブキャンプ等を通したコミュニティ形成にも力を入れる。
三浦クリエイティブキャンプは、投資先の起業家やマーケティング責任者のスキル向上という目的はもちろんですが、同時にコミュニティとしての意義も大きいと考えています。
チャレンジャーに成功してもらうために、孤独にさせないことが大事だと思っていて。「あいつが頑張っているんだから、俺ももうちょっと頑張ろう」と心の中に情熱を取り戻せたり、切磋琢磨できたり、そういった場も提供していく予定です。
GO FUNDには、コミュニティ形成を担当する大長敬典氏がジョインしている。前職の電通では、コミュニティスペース『engawa』の立ち上げ、コミュニティマネジメントなどを経験してきた人物だ。ファンドを運営するためのメンバーも迎えて、スタートアップに必要なサポートを提供する万全の体制を整えている。
GOがGOであるためにファンドを作る、その過程にある苦難
GOにとってファンドの立ち上げは新たな挑戦だ。その過程は決して平坦な道ではなかったはず。GOがそこに取り組んだ背景には、創業時からの思いがあった。
三浦スタートアップがブランディングやマーケティングの支援をプロから受けようとしたときの選択肢の数は、大企業と比べて非常に少ない。スタートアップのクリエイティブ面のサポートを本気でやれるプレイヤーは、ほとんど居なかった。「だったら俺らがやるよ」と立ち上げたのが、The Breakthrough Company GOでした。
先述の通り、スタートアップにとってブランディングやPRの課題は大きい。必要でありながらも内製化は難しく、外部に依頼しようにも相場観が合わず依頼ができないという構造的な課題があった。GOは、こうした課題を解消しようと2017年に立ち上がった。
実際に、創業時はスタートアップとの取り組みが多かった。しかし、GOが手がけた案件が世間に注目されると、大企業からの依頼が増加。予算規模は大きくなっていった。
三浦スタートアップを支援したい気持ちは変わらない。でも、企業によってフィーを大きく変えることもできず、お金が理由でやりたい案件を進められないというジレンマを抱えることが増えました。
会社自体の売上は伸び、順調に成長しているものの、クライアントにおけるスタートアップの割合は相対的に下がっていく。それは、GOが目指す姿とは違った。
三浦GOがGOであるために、スタートアップを支援し続けられる仕組みは絶対に必要。だから、エクイティリターンを得る方法や、ストックオプションをいただく方法をやってみて。それがある程度回りそうだとわかったので、本格的なファンド立ち上げを決意しました。
予算の少ないスタートアップであっても、出資をして仲間として成長にコミットする。そのスタートアップが成長すればリターンが得られる。本来、やりたかったことであるスタートアップの支援ができる構造になるなと。
GO FUNDは、スタートアップとクリエイターがONE TEAMになれる仕組みです。事業が成長しないと支援側にも報酬が入らないとなれば、コミットするしかない。リスクを共にしてくれるプロフェッショナルがいることは、新しい事業を作っている彼らにとってすごい心強い環境になるんじゃないかなと。
ファンド設立に向け、三浦氏はGO代表の福本龍馬氏と共に資金集めに乗り出す。しかし、そこには壁もあった。構想自体には賛同されるが、実際の資金提供になかなか至らなかったのだ。
三浦金融機関やVCの方にGO FUNDの構想をプレゼンすると「いいですね。GOさんなら絶対上手くいきますね」「こういうマーケティングやPRを支援してくれるところ、待ってたんですよ」と言ってもらえるんです。「では1億円ほど出資を」とお願いすると、「うちでは今そういうのやっていないんです」って言われちゃって。
マジかよ、なんでだよって(笑)。個人的には決して遠くはないと思ってますけど、クリエイティブとファイナンスはやっぱり別の世界なんだなと感じて。使っている言語が違うというか。GO FUNDが前に進むためには、どちらの言語もネイティブ並みに話せる人が必要でした。
そこで白羽の矢が立ったのが、現在GO FUNDの代表パートナーを務める小池氏だった。同氏は、新卒で博報堂に入社後、プライベートエクイティファンドへ転職。2016年からは、あすかホールディングスにてインド、東南アジアのスタートアップへの投資活動を行っていた。小池氏の加入がターニングポイントとなり、GO FUND設立に向けた動きは加速。無事にファンド組成を完了した。
クリエイティブカンパニーによるファンド設立は新しい価値をもたらすか?
GO FUNDが立ち上がった背景は、GOという会社の文脈からも注目だが、スタートアップのエコシステムという文脈、クリエイティブ業界という文脈からも注目だ。
近年、VCはバリューアップに注力するようになった。VCとしての提供価値を高め、投資先の成功確率を高めるために、マーケティングやPR、HRなどを専門的にサポートするチームを持つケースが増えている。
小池資金だけでなく、スタートアップに不足しがちな機能やノウハウなどをVCがサポートするのは有益ですし、実際に北米や中国のVCは、バリューアップを担うチームを持つのが一般的になっています。日本でもこういう動きは少しずつ出てきていますし、GO FUNDもその動きを踏まえた上でチャレンジしようとしています。
こうしたバリューアップの動きは、結果としてスタートアップから選ばれる際の理由にもつながる。一方で、GO FUNDはもともとクリエイティブにスペシャリティを持つGOが作ったファンドであり、出資先への直接支援も行うファンドだ。バリューアップするVCと、専門性をもったクリエイティブチームによるファンド。その重なりが生まれているという点でも注目だ。
GOのような専門家集団がファンドを持ち、スタートアップへ投資しながら支援していく。この新しいスキームが成立することが証明されれば、スタートアップが各領域のプロフェッショナルからのサポートを受ける選択肢はかなり広がるだろう。
また、GO FUNDを通じてGOが挑戦したいことがもうひとつある。それは、クリエイティブが事業成長に与えるインパクトの大きさを証明することだ。
GOは設立当初から、事業成長に貢献するクリエイティブにこだわってきた。世間一般の「クリエイティブ」に対するイメージ ──「かっこいいだけで、自己満でしょ」「売上や利益への直接的な貢献は少ない」などの言説へのアンチテーゼだ。
そのために、「事業クリエイティブ」という軸を打ち出し、プロモーション領域にとどまらずプロダクト、サービスの開発までサポートしてきた。こういった業態では珍しい、コンサルティング込みの半年以上の長期契約や、レベニューシェア型の契約なども実現している。
GO FUND設立は、GOの根底にあるそういった思想と実践を、より明確に形にしたものだと言える。
三浦VCとして関わることで、必要な支援を長期的に提供できる。そうすれば、事業のどのフェーズで、どのような支援によって成長が加速するのかといったことが見えてくる。「事業におけるクリエイティブの力」をより明確に証明できるし、ROIが見えれば、より多くの会社がクリエイティブに投資できるようになりますよね。
スタートアップは、それぞれ社会に対して仮説を持ち、大きな変化をもたらそうとする主人公である。そして、GO FUNDも非常にスタートアップ的だ。
三浦僕らは、クリエイティビティは論理や効率を超えた非連続の成長を促すテクノロジーであって、これから人口が減って資源が枯渇していく日本がグローバル経済を生き抜くための勝ち筋の1つだと思ってるんですよ。これが僕らの仮説。
クリエイティビティが豊かになることで、社会がもっと良くなるという仮説を証明したい。そのために、リスクをとってやっていく。これがGOのやり方です。
この挑戦はまだ始まったばかり。GO FUNDのスキームは思惑通りに機能するのか、クリエイティブが事業成長に貢献することを立証できるのか、その前途に注目だ。
こちらの記事は2020年07月13日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
青木 まりな
編集者・ライター。新卒でマーケティング系のベンチャー企業へ入社。SEOコンサルティング、BtoB領域のコンテンツマーケティングを経験した後、2016年にフリーランスのWeb編集者/ライターとして独立。現在はベンチャー企業の採用広報や、BtoBビジネスのマーケティング領域を中心に活動している。
写真
藤田 慎一郎
1987年生まれ、岐阜県出身。大学卒業後、2011年よりフリーランスのライターとして活動。スタートアップやテクノロジー、R&D、新規事業開発などの取材執筆を行う傍ら、ベンチャーの情報発信に編集パートナーとして伴走。2015年に株式会社インクワイアを設立。スタートアップから大手企業まで数々の企業を編集の力で支援している。NPO法人soar副代表、IDENTITY共同創業者、FastGrow CCOなど。
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