スタートアップは、いかにテレビCMへ取り組むべきか?
GO三浦崇宏氏が語る、成果にコミットする広告戦略

インタビュイー
三浦 崇宏
  • 株式会社 GO 代表取締役 
  • The Breakthrough Partners GO FUND 代表パートナー 

博報堂・TBWA\HAKUHODOを経て2017年独立。
『表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事』が信条。
日本PR大賞・CampaignASIA Young Achiever of the Year・ADfest・フジサンケイグループ広告大賞・グッドデザイン賞
カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバル
2013 PR部門ブロンズ・2016 ヘルスケアPR部門ゴールド・2017年 プロダクトデザイン部門ブロンズ
2017 ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS イノベーション部門グランプリ/総務大臣賞 インタラクティブ部門ブロンズ

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グノシーやLIPSといったコンシューマー向けビジネスから、SansanやbellFaceといったBtoBサービスまで、テレビCMを活用するスタートアップも珍しくなくなった。

しかし、テレビCMは明確な費用対効果が算出しづらく、最低単価も決して安価とはいえない。手を出すことを躊躇している経営者も少なくないはずだ。

「スタートアップにとって、テレビCMは『多量の出血を伴う手術』。安易に手を出すべきではない」

博報堂で多くのプロモーション施策を手掛けたのち、2017年に独立してThe Breakthrough Company GOを設立した三浦崇宏氏は、そう警鐘を鳴らす。

数々の広告賞を獲得してきた実績を持ち、広告やPRの最前線にいる彼は、テレビCMについてどう見るのか。プロフェッショナルが語る、スタートアップがテレビCMを最大限に活用するために、必ず押さえておくべきポイントとは?

  • TEXT BY RYOTARO WASHIO
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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テレビCMはリスキー。踏み切るべきタイミングがある

テレビCMが持っている影響は、依然として大きい。SNS上の話題も、テレビに端を発するものが多く、デジタルマーケティングでは出せないインパクトの創出が期待できる。

しかし、影響力が大きいからこそ、「安易に手を出すべきものではない」と三浦氏は警告する。

The Breakthrough Company GO代表取締役 三浦崇宏氏

三浦スタートアップにとって、テレビCMは「手術」みたいなものです。膨大な資金の投下、すなわち大量の「出血」を伴うので、取り返しのつかない事態も招きかねない。大きな事業リスクをはらんでいるので、実施判断は慎重に行い、実行にあたっても緻密な戦略設計が不可欠です。

デジタルマーケティングのほうが、テレビCMよりも費用対効果は高いことが多いし、効果検証もしやすい。デジタルでアプローチできる層にリーチしきる前に、安易にCMへ手を出すのはリスキーです。デジタルマーケティングの成長曲線が横ばいになり、なんとかして次の非連続的な成長を生み出したいフェーズになって、はじめてテレビCMに踏み切るべきだと思います。

テレビCMは、toC/toB問わず、さまざまに活用できるが、実施する際に最も大切なのは「目的を明確に設定すること」だという。企業理念やサービスの価値をラディカルに問い直し、ゴール設計に反映すべきだと三浦氏は語る。

三浦GOでも、クライアントからCMやプロモーションの依頼があった際はまず、「この会社が存在することで、社会はどう変わるのか」「このサービスは何のために存在するのか」といったトピックについて、クライアントと徹底的に議論を重ねます。会社やサービスの存在意義を見つめ直した上で、目的設定に反映させてこそ、成果につながる企画が生まれるんです。

GOが携わり、明確な目的設定に基づいて実施されたテレビCMには、どのようなものがあるのか。

クラウドファンディング事業を手がけるCAMPFIREのテレビCMでは、地方の若年層が夢を叶えるために少額のお金を集める案件も手がけていける世界観を表現。その背景は、企業としてのKPIを「売上」ではなく「流通総額」に置いたことにある。「『クラウドファンディング』というカテゴリーにおける第一想起の獲得」を広告の目的に据え、「クラウドファンディングと言えばCAMPFIRE」という共通認識の醸成を目指し、CMを企画した。

ゲームアプリ『神の手』のテレビCMは、ダウンロード数を獲得しつつ、企業に対する社会的な期待値を高めることを目的に実施された。インパクトのあるCMをフックに100万ダウンロードを達成し、アプリランキング1位になったタイミングで、即座にプレスリリースを打つ…PR戦略まで統合した緻密な設計により、株価を大幅に上昇させることができたという。

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BtoBサービスがテレビCMを打つべき理由

また、BtoBサービスを手がけるスタートアップにとっても、テレビCMは強力な武器となる。

三浦氏は「社会的な信頼のステージを一段上げたいBtoBスタートアップは、CMを利用すべき」と主張する。世間的に馴染みのないサービスを売り込む場面で、見込み顧客がそのサービスのテレビCMを見たことがあれば、信頼度は向上し、成約率にも変化が現れる。

その他にも株式上場が近い企業、ナショナルクライアントを獲得したい企業なども、社会的信用を獲得する目的でテレビCMを検討するべきだと、三浦氏は語る。

三浦BtoBサービスのテレビCMは、費用対効果が悪そうな印象を受けます。しかし、大企業のマーケティング本部長だって、家でテレビを観るわけです。究極的に言えば、その人を動かせればいい。その1人を動かせれば、何万もの顧客に影響を与えられるんです。テレビCMにおいては、マーケティング戦略さえ適切に設計すれば、BtoCとBtoBの境界は軽々と超えられるものです。

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2億円しか出せないスタートアップが「良いCM枠」を奪うには?

テレビCMは、大きく分けて2つの要素で構成されるという。「どの枠で」「何を流すのか」、すなわち「メディア」と「クリエイティブ」だ。そして、実際に広告プロジェクトを推進し、効果を最大化するには、まずはメディアと良好な関係を築き、「良いCM枠」を獲得するのがポイントだという。

三浦CM枠を販売している大手広告代理店にとっては、どうしても普段から大きな取引をしている大企業との取引を優先することが多いわけです。スタートアップがただ「テレビCMをやりたい」と頼んでも、深夜や早朝など、高い効果が見込めない枠をあてがわれてしまうことがある。大企業は、年間で数百億円規模のお金を投下しています。スタートアップが「2億円出します!」と言ったところで、ちょっと優先することは難しい。

だけど、スタートアップの経営者にとって、その2億円は命を削って作り出したものですよね。良い枠を手に入れるためには、誠意を一生懸命伝えながら、交渉するしかないんです。属人的な話にはなりますが、売っているのもヒトなので、担当者の誠意を引き出すしかない。

一方で、下手に出るだけでは交渉はうまく進められない。交渉を有利に進めるために大切なことは、「なめられないこと」だと三浦氏は語る。

三浦なめられないようにする。つまりね、情報格差があることを感じさせないことが大事です。「良い枠がどれくらいの金額で買えるのか」を知っていることは武器になります。「あそこの企業が、この枠を買った価格を聞いた」と伝えることで交渉の局面は一気に変化する。

そして、その武器を与えてくれるのは「枠を安く買い付けている仲間」です。テレビCMを打っている起業家仲間や先輩から、「あの広告代理店の担当者から、いくらで枠を買った」といった情報を入手することで、交渉を有利に進められるでしょう。

ここで注意しなければいけないのは、前例を元に担当者の弱みに漬け込んでいいというわけではないことだ。三浦氏が「担当者の誠意」と言うように、自らのサービスの存在意義を伝え、誠意の名のもとに進めていく。いわば、味方づくりの一貫としてのエビデンスを仕入れよ、ということだろう。

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CM知識ゼロでも、「信用できるクリエイター」を見分ける方法

次に、クリエイティブ面で成果を最大化するためには、「信用できるクリエイター」を見つけることが重要だと三浦氏は言う。

とはいえ、テレビCMの実施を検討するスタートアップに、CM作りの専門職たるクリエイターと同じレベルでクリエイティブの知識を持つメンバーがいることは稀だ。そうした状況で「信用できるクリエイター」を見つけるためには、どうすればいいのだろう。

三浦なんか、当たり前のことをいうようですが、成果を出すために、とことん、とことん話し合うことが大事です。スタートアップだとCMを担当するのは経営者かCMOだと思うので、その企業の未来の構想もふくめ、クリエイターと議論をする。その議論のなかで「クリエイターとして信用できるかどうか」を見極めるしかないと思います。ただし、ここで言う「信用する」とは、「委ねる」ではありません。

議論では、過去の仕事の「成果」を問いかけることが試金石になるという。三浦氏によると、代理店の仕事のシステム上、クリエイターは営業部から案件の成果、すなわちクライアントへどれくらいの利益をもたらしたかなど、広告が生み出した成果を聞かされないケースも多いそうだ。だからこそ、「自らの仕事の成果を、失敗も含めて素直に語れるクリエイターは信用できる」と三浦氏は考える。

三浦広告クリエイターは、仕事について語るときによく「作品」という言葉を使います。「このCMは、僕の作品なんです」と。でも発注者がそれを「作品」としてだけ見てしまうと、「カンヌの広告賞を取ったんですか!すごいですね!」で終わってしまう。でも、そこで終わらずに、広告としての効果を聞いてみることが大切です。

「いや、あの作品はカンヌを取ったし、業界で話題になったのですが、実は目標に届いてなくて。クライアントさんのビジネスには寄与しきれなかったから、反省していますね」と素直に返ってくるクリエイターは信用できます。アウトプットを作る過程で、お互いが正直に全力で意見をぶつけ合う必要があるからこそ、「人として信頼できるかどうか」が致命的に重要なんです。

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成果にこだわるからこそ、「面白さ」が何よりも大事

三浦氏はテレビCMが「ビジネス上の目的達成に寄与するか」を重視している。しかし最後に、「とはいえ、CMは面白くなければいけない」とも強調した。

三浦ここは絶対に勘違いしてはいけない部分ですが、CMを「作品」として考えなくていい、というわけではありません。世の中に変化を起こす現象を生み出すためには、類まれなクリエイティビティ、徹底的なこだわりが必要なのもまた事実。「成果にこだわる」とは、作品主義の否定ではありません。むしろ作品主義を前提にして、その先を目指すという意味です。

つまらないテレビCMが、ビジネス上の成果を出すことはないんです。感動して泣けるもの、旬のアイドルがかわいい衣装を着て踊っているもの、表現として斬新なもの…いずれにせよ、「面白い」と感じるものでなければ、視聴者がCMに目を留めることはありません。芸能スキャンダル、国際紛争、人気のドラマ、そして他社のテレビCMなど、前後に強烈なコンテンツが流れるなかで視聴者に記憶してもらうためには、圧倒的な面白さが必要です。

視聴者としてテレビの前にいるときは誰しもわかっていることなのに、テレビCMをつくる側になった瞬間、「サービスについて全て説明したい、企画なんてどうでもいい」と思ってしまう。伝えたいメッセージを15秒で表現することに必死になるがあまり、「面白さ」を軽視してしまうのだ。

三浦こうした視聴者目線の欠如こそが、広告枠だけ買い、社内で制作したCMが絶対にうまくいかない理由です。

新しい市場を開拓するビジネスのテレビCMなら、そのサービスが解決する世の中の課題を明らかにする。すでに存在する市場なら、先行サービスより優れている部分を連呼する。それらの制作のセオリーはもちろん存在します。だけど何よりも大事なのは、「面白いこと」です。

人さまの意識に勝手にお邪魔するものだからこそ、テレビCMが「面白いこと」は、最低限のモラルだと思います。

三浦氏が率いるGOは、9月2日にラクスルと提携し、国内で最高ランクの実績を持つ一流のクリエイターたちが、適切な価格でテレビCMを作り、スタートアップの急成長を支援する新サービス「はじめてのTVCMプラン」と、ブランディングからテレビCMまで企業のマーケティング戦略を全面的に担う「CMO代行プラン」の提供を開始した。これまで資金面の制約などで、テレビCMを打つことができなかった企業を対象としたサービスである。

提供:The Breakthrough Company 株式会社 GO

こうした支援にも後押しされ、スタートアップがテレビCMでより大きな成果を出せることを期待したい。

こちらの記事は2019年09月02日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

鷲尾 諒太郎

1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。

写真

藤田 慎一郎

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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