通信も利益も“二の次”で築いた、KDDIのスタートアップとの共創関係──精鋭8人の最若手が語る“感動の土台づくり”とは
SponsoredKDDIと言えば?
思い浮かんだのが「au」「5G」「三太郎のCM」だけだとしたら、あなたはこの企業の本質を捉え切れていない。なにせこの企業は、スタートアップ約1200社によって毎年選出される「イノベーティブ大企業ランキング」で、3年連続の1位にまで輝いているのだ。
確かに、通信インフラを保持しているというのは、この超インターネット時代において大きなアドバンテージとなるだろう。あらゆる業種・業界との接点があることは想像に難くないし、引く手あまたと言えばそうなのかもしれない。しかしそれにしてもなぜ、ここまでベンチャー・スタートアップとの共創が活発なのだろうか。
その取り組みの中心であるKDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)を今回は解剖する。共創の最前線にいるKDDIのメンバーたちは何を思い、どんな願いを胸に働いているのだろうか?
KDDI ∞ Laboのメンバーはわずか10名足らずの陣容で、既に10年に渡り、多数のスタートアップと大企業との間を奔走してきた。そこで、あえて最若手である鈴木彬子氏に聞いてみた、なぜKDDIなのか、何に突き動かされ、何を喜びとしているのかを。
- TEXT BY NAOKI MORIKAWA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
インフラビジネスで「感動の土台づくり」を志す若者
KDDI ∞ Laboは、2011年に事業会社としては国内初のインキュベーションプログラムとして始まった。通信キャリアがスタートアップに投資や支援をする例は、今や国内外で珍しいこととは言えないが、中でもKDDIは特に早い時期から、大規模にアセットを投じて動き、目立った存在になっている。
なぜか?その明快な答えを求めるのなら当然、先頭に立ってその動きを引っ張る高橋誠社長に取材するべきところだろうが、今回はあえて最前線にいるプレイヤーに話を聞いた。登場するのはビジネスインキュベーション推進部所属で、KDDI ∞ Laboの一員として働いている鈴木彬子氏だ。そもそも彼女は何がしたくてこの会社に入ったのだろうか?まずはそこから本音を探ってみた。
鈴木私は理系の勉強をして大学院にまで進んでいました。その一方で芸能事務所に所属しミュージカルの世界に足を踏み入れ、かなり真剣に取り組んでもいました。ですから先のことを考え始めた当初は、本格的に舞台関係の仕事に就く、という気持ちもあったんです。
ミュージカルの舞台に立つことと、大手通信会社の社員になることには、あまりにも大きな違いがある。そう思って入社の真意を聞くと、鈴木氏は意外な共通項を示す。それが「感動」だった。
鈴木舞台に立つというのは、大げさに言えばエンターテインメントの先頭でお客様に感動をお届けする役割です。でも、役者が感動のすべてを担っているわけではなく、背後には舞台や演目そのものを組み立てている人たちがいます。さらにその背後には、公演の存在をお客様に知らしめ、足を運んでもらうための土台を築いている人たちもいます。
私にとって興味があったのは、そういう土台というか基礎となる、プラットフォームを創り出していく仕事だったんです。出来る限り多くの人に、たくさんの感動を届け続ける役目を演じたい。そう考えているうちに気が付けば、通信というプラットフォームや、交通・空間というインフラを創造する会社に興味が絞られていきました。
いわゆるエンタメ業界を目指さなかった理由は、彼女の信念からすれば当然のこと。「感動を届ける上でのフロント領域にいるよりも、もっと基盤の部分で貢献できたほうが、自分は幸せを感じられる」と思ったからだ。そんな就職活動の中で、KDDIのOB・OG訪問で自らの思いを伝えたところ、先輩たちからは楽しげな仕事ぶりや職場環境を聞くことができ、最もフィットするという感覚を得たそうだ。
スタートアップと向き合って知った「人生を賭けるような仕事」
鈴木大きな組織に入るのだから、最初から私が望んでいるような仕事に携われるはずもない。まずはきっとどこか地方の拠点で下積みの仕事をすることになる……そう思っていました。でも、いざ発表されてみると、勤務地はなんと渋谷でした。
今いる部署の前身となるところで、新規事業につながるアライアンスを推進していく仕事を担当することになったんです。事業を創ることもあれば、閉じることもありました。とても濃い日々を過ごさせてもらいました。
具体的には、2006年以来KDDIが業務提携関係を結んできたグリーなどのゲーム事業者とともに事業を創るというのが鈴木氏の最初の職務。相手企業にはベンチャー企業も多かった。
翌年、アライアンスの枠組み自体の見直しがなされ、鈴木氏のミッションも変わった。今度はCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)である「KDDI Open Innovation Fund」を通じて投資したスタートアップとともに、新規事業開発を目指していく。
鈴木前の担当業務と合わせて入社から計3年間、多数のスタートアップの経営者さんと向き合えたことが、本当に大きな学びにつながりました。
ここまで聞いたところで、「スタートアップと向き合ったと言っても、しょせん出資企業側の人間としてゆるく楽しくやっていたのでは?」と、意地悪な視点で質問しようかと思ったのだが、それを察したかのように鈴木氏は当時最も印象的だったという経験談を始めた。
鈴木入社後しばらく経った頃のこと、あるスタートアップの経営陣との会議で、当日になって上司から「都合が悪くなった、1人で行ってきてくれ」と言われたんです。
鈴木会議に先方は4人も来て、技術的な話やKPIに関わる経営上の課題点などを次々に報告されたんです。その上で「KDDIさんとしてはこの点をどう捉えていますか?」と質問が。この頃の私は「ケーピーアイって何?」みたいなレベルでしたから、適切な返答なんてできるわけもありません。
どうしよう、と戸惑ったものの、スタートアップにいる方々が人生を賭けるような思いで仕事に取り組んでいることは既に理解できていましたから、ごまかすなんてしてはいけないと腹をくくったんです。
恥を忍んで、その場の説明で自分には分からない言葉についてその意味から聞いて教えてもらいました。理解の足りなさを正直に伝えることで、なんとかその会議を乗り切りました。
本人としては「やらかした」感しかなかったのだが、正直な姿勢が相手から評価された。「ゲームのことや運営側の経営のことなど知りもしないユーザー側の視点で、素直な意見を聞かせてくれた」と。それ以来、この企業との会議には上司を帯同せず1人で臨むことも多くなったのだという。
鈴木怪我の功名的エピソードのように聞こえるかもしれませんが、実は計画的に仕組まれたことだったんです。上司との間では既に関係性が構築できている投資先との打ち合わせで、わざと当日になって欠席することで、私1人で会議に行かせようとしていたのだと、後になって聞かされました。
それまでの私が、いわゆる優等生的な大人しい「いい子ちゃん」でしかなかったので、なんとか自分事として積極的に取り組むようにさせようとしたのだと思います。
「感動をより多くの人に」という夢を抱いて入社したはずだったのに……と自分自身にショックを受けた鈴木氏。上司の目には「このままでは鈴木氏が成長しない」と映っていたようで、そんな懸念から一計を案じたわけである。
鈴木先方が評価してくれたから良かったものの、それまでの自分の姿勢を心から反省しました。「頭悪そうなことを言って恥をかきたくない」という気持ちも振り返ってみたら少しはあったし、「理解不足の私なんかが変に口を挟んだら、前向きな会議の妨げになるだけ」みたいな言い訳で黙っていることもありました。
その後も、社内会議で先輩から「意見がないなら会議に出るな」と厳しく言われたり、分析レポートを上司にプレゼンした際にも「ここは矛盾している」「ここは意味を取り違えている」と長時間に及ぶダメ出しをもらったり。「KDDIは大企業だし、出資企業なんだから甘くてゆるい」なんてことは、微塵もあり得ないことがわかる。
鈴木誤解されるかもしれないので言っておきますけれど、私はこういう「言葉は厳しめだけれど、愛のある檄が飛んでくるチーム」にいられることが、心底嬉しくもあります。私自身はそれまで「自分は褒められて伸びるタイプ」だと思い込んでいたんですが、どうやら違っていたようで。それを上司や先輩からはあっさり見抜かれて、「アメよりもムチを多めにもらう鈴木」になっていっただけです。基本的には皆、優しいですよ(笑)。
ともあれ、いろいろな経験で鈴木氏は実感した。スタートアップの皆が人生を賭けて取り組んでいるのと同じように、KDDIのメンバーもまたそれに呼応する真剣な姿勢で向き合っているということを。そして、だからこそチャレンジしていく醍醐味もあるし、うまく回り出した時の喜びも破格のものになるということを。
約300のスタートアップと大企業46社、カオスから事業を紡ぐKDDI ∞ Laboの8人
2018年に入り、鈴木氏は入社から3つめのミッションを渡された。それがKDDI ∞ Laboチームの一員となって、他社を巻き込みながらイノベーティブな新規事業を確立だ。そこで、改めてKDDI ∞ Laboがいかなる存在なのかを鈴木氏に教えてもらった。
鈴木そもそもは2011年に、シードからアーリーステージのスタートアップ向けインキュベーションプログラムとして、KDDI ∞ Laboはスタートしました。当時は今のようにスタートアップのためのインキュベーションやアクセラレーションのプログラムがあちこちに存在してはいなかったようなのです。
そんな早いタイミングでなぜKDDIがスタートアップとのつながりを深めたのか、そこにはちゃんと理由があったのだと聞いています。
2011年というと、iPhone4発売の翌年で、世界的に従来の携帯電話からスマートフォンへのシフトが本格化した年。国内でもauによるiPhoneの取り扱いが始まり「これからはスマートフォン」の時代となった。
それはつまり、機種本体からOSなど諸々のサービスまですべてをキャリアが用意して提供していた時代が、ここで終わりを迎えたということ。多様なサードパーティが、アプリという形で特徴のあるサービスをそれぞれ付加することを狙い、スマートフォンの可能性を複数の企業が拡大していく。そんな時代へと変化していった。
つまり、KDDIにしてみれば、上から目線で潤沢な資金を投じて「スタートアップを育ててやる」などと言っている場合ではないのだ。「斬新なアイデアと技術を持つスタートアップの力を借りながら、ともに成長していく」ための取り組みが必要となり、その一つとしてKDDI ∞ Laboは立ち上がったのだと鈴木氏。
鈴木やがて、スマートフォンは本格的に世界で浸透し、技術も劇的に進化。そうしてビジネスシーンも変化する中で、KDDI ∞ Laboもその役割を少しずつ変えていきました。
「KDDI対スタートアップ各社」という図式から「複数の大企業によるパートナー連合対スタートアップ」という図式に変化したのが2014年。そして2016〜2017年あたりからは、この図式が定着する中で、単にスマートフォンを軸にした新サービスや新事業を追求するだけでなく、もっと広いステージでイノベーションを追求する枠組みへと進化したんです。
おのずと、対象となるスタートアップもシードからアーリーステージというよりは、成長プロセスを経て、一定の成果を上げているところが中心になり始め、今に至っています。
鈴木氏が参画した2018年には、上記のような拡大した枠組みのKDDI ∞ Laboがすでに動いていたわけだが、まずそのスケールに驚かされる。2020年現在、スタートアップとともにイノベーションを起こそうと動いているパートナー連合はKDDIを含め46社。年間約300社のスタートアップとパートナー連合のマッチングを促しているのだが、単にお見合いをさせて終了というわけではないようだ。
鈴木KDDI自体が、このKDDI ∞ Laboを通じて「既存の産業や事業の枠などを破壊するような取り組みでイノベーションを生み出す」姿勢でやっています。パートナー企業の皆さんも、スタートアップの力を借りながら、前例のない新しいチャレンジを一緒に創出しようとしています。
誰もが「何から手を着ければいいかわからない」状態からのスタートになっってしまいがちな中で、KDDI ∞ Laboのこれまでの経験値に期待をかけていただくケースも多くなるんです。
つまり、KDDIは直接関わらないようなマッチングの場合でも、スタートアップとの協業を進める上での課題解決にKDDI ∞ Laboのメンバーが呼ばれ、携わってもいくのだという。いわば「大企業×スタートアップ」によるオープンイノベーションに特化したコンサルティング的な機能も、メンバーは果たしているようだ。
鈴木KDDIはこれまでに、スタートアップとの共創や協業の歴史を積み重ねてきました。ですから、例えば素晴らしいアイデアと技術に基づいたビジネスモデルを発進させようとしても、実務上関わってくる他の事業部門との連携でつまづいたり、意思決定に時間がかかってしまってスタートアップ側に負担をかけてしまったり、といった課題に何度も直面してきました。その1つひとつを乗り越えて、ノウハウを蓄積してきたわけです。
ところが、パートナー企業の中には、まだまだそうした経験が十分ではないところもあるので、大企業側の担当者が自社とスタートアップとの板挟みで苦悩する場面もあるんです。私たちKDDI ∞ Laboのメンバーは、そうした局面にもコミットするのがミッションなんです。
ここまで話を聞いただけでも、どれだけ重要な職務を担っているかがわかる。しかも驚かされるのはKDDI ∞ Laboが総員8名で、これらの重責を果たしているというのだ。46社vs300社の図式である以上、当然のことながら全員が複数の新規事業開拓案件をかけ持ちで担っているとのこと。それでも、鈴木氏はニコリと笑ってこう語る。
鈴木はい、忙しいです。でも、すごくやりがいのあるチャレンジばかりですから、面白くてしょうがないです。8人と少数なことも活かし、週に1回以上、全員で意見交換会をしています。パートナー企業さんの課題や、実際に打った施策について共有した上で、KDDIとしてやりたいことやサポートすべきことを検討しています。顔の見える関係ですから、それぞれのメンバーがどのようなスタートアップと関係を築いているか、というのまでみんな分かっていますよ。
とはいえ巨大企業。冒頭で話題に出たように地方配属も多い。社員のほとんどはスタートアップと直接の接点を持たず、無縁のままの社員も当然いる。
鈴木実は私が入社した時と違って、今ではビジネスインキュベーション・コースという採用枠があって、私たちが所属するビジネスインキュベーション推進部が独自に人材採用を行っています。だから今後は「通信には興味がなくとも、KDDI×スタートアップの共創には興味がある」という仲間をどんどん増やしていけたらいいなあ、と期待しています。
Withコロナだからこそ進んだKDDI独自の共創チャレンジ
他方、気になるのは2020年に世界を震撼させたコロナショックの影響だ。KDDIをはじめとするパートナーの大企業群も少なからずダメージを受けたはずだが、スタートアップは一層深刻な事態を迎えたはず。
鈴木はい、スタートアップが被った影響は甚大でしたから、パートナー各社と連携して「MUGENLabo支援プログラム 2020」という取り組みを7月30日からスタートしました。もちろん、従来通りに新サービスや新規事業を共創していきながらも、コロナに立ち向かうスタートアップ企業に対して、パートナー連合の46社が保有施設や専門データなどのアセットを提供していく、という内容です。
スタートアップが受けたダメージは、意外なほどに報道されていない。しかしこのプログラムの支援を知れば、その見えない実態が明らかになる。スペースの確保や基本的な企業活動の継続が困難となった多数の企業が、利用を申し出た。
このように、大企業側が“連合”となり、このプログラムを例に挙げれば計101ものアセットを同時に提供できるスケールの大きさが、KDDIによる支援の大きな強みの一つだろう。他企業がCVCやアクセラレーションプログラムを行うのとは全く異なる価値を提供している。長い時間軸で関係値を築いてきたからこそ、このような特異性を持つに至った。
さらに、コロナショック下だからこそ真価を発揮できるスタートアップを巻き込んだトライを、KDDI自らが先陣を切る形で始めてもいる。KDDI直営店舗において、紫外線照射ロボットやAIカメラ、画像認識技術を持つスタートアップがコロナ対策に乗り出し、端末類の消毒・除菌、店舗内の3密空間検知、検温自動化などで貢献している。
鈴木KDDI ∞ Labo採択企業の1社であるVR会議システムの技術を持つSynamonも、Withコロナの働き方改革の潮流の中で、ひときわ注目されるようになりました。KDDI本体の法人営業チームと連携し、ソリューションビジネスの形で発展させようとしています。
今後もピンチの時には助け合い、逆にピンチをチャンスに変える機会があれば、ともにプッシュしていく。そんな態勢を固めていきたいと思っています。
このように、コロナ禍での大企業とスタートアップの関係性を見ても、KDDI ∞ Laboが独自路線で築き上げてきたパートナーシップの絆には、他のアクセラレーションプログラムとは異質の密接さがあることを感じさせる。だが、素朴な疑問も残る。本来通信会社であるKDDIにとって、ここまで幅広くなったイノベーションのプラットフォームを存続・拡大していくメリットは、実際のところいったいどこにあるのか、という点だ。
鈴木そのあたりは、上司の言葉を借りてお答えする形になってしまいますが……。
KDDIはもともと「通信ビジネスありき、5G活用ありき」でこのプラットフォームをやっているわけではありません。コロナショックがあろうとなかろうと、ビジネスシーンや社会や生活のあらゆる場面で常に大きな変革は望まれていますし、実際、少しずつニューノーマルと言われるような新しい発想や挑戦がビジネスの形になったり、社会課題の解決に役立ったりし始めています。
それらが仮に、通信と直接的には無関係なものだったとしても、必ずどこかで必要とされる局面は来ます。社会や産業や生活が新しく生まれ変わって、そこで通信が必要とされてお金になるまでには、ある程度の時間がかかる場合もあるでしょうけれど、それでもかまわないというのがKDDIのスタンスです。
夢の達成度合いは30%くらい。「感動の届け方」を磨いていく
ところで、鈴木氏は最近、具体的にどのような事業に携わっているのだろうか。聞いてみると、例に挙げたのは、「∞の翼」という「5G時代に向けた新しい事業共創プログラム」。「5G×スタジアム」「5G×商業施設」など、5Gを融着材としたスタートアップと大企業の新たな事業共創創出を推進しているという。これはまさに「5GのKDDI」だからこそ可能になるチャレンジの一つだろう。
この取り組みも、売り上げや利益といった企業経営の面で分かりやすい成果がすぐに出るようなものではないという点が特徴的だ。繰り返しのようだが、自社にすぐに成果が返ってくる挑戦が全てではなく、多くの大企業やスタートアップとパートナーシップを進めていった先にリターンがあればそれでいい、というのが今のKDDIなのだ。
それにしても、KDDIは大企業だ。多種多様の事業を営み、多くの事業部門を抱えてもいる。皆が皆、鈴木氏のいるKDDI ∞ Laboと同じではないだろう。そう尋ねてみると、鈴木氏はあっけないほど簡単に、こう答えた。
鈴木そりゃあたくさん人がいますし、事業部門ごとに異なる課題も抱えていますから、皆がビジネスインキュベーション推進部と同じ温度感だとは言いません。でも、外にいる方々が思っているよりもはるかに「解きほぐせる可能性」を全員が共有している実感は持っています。
例えば、私がスタートアップとの共創で「こういうことがしたい」と関係する事業部門に相談をしに行って、最初は硬い表情ではね返されたとします。それでも、周囲の関係者としっかりコミュニケーションをとって説明を続けたり、話の持って行き方を変えてみたりと工夫することで、協力者が増えていくといった形で、扉が開いていくことがあるんです。
社長の高橋からも「 ∞ Laboが手に入れた知見や情報をもっと全社内に行き渡らせて広げてくれ」との指令をもらっています。社内のムードとしても「 ∞ Laboと協力して新しい挑戦がしたい」という空気が出始めています。ですから、これからKDDIに参画しようと思う人には、「どんな部署に入ったって、やりたいことがあればできる」と伝えたいです。
お約束の「どんな人材がKDDIでは伸びると思うのか」を聞いたところ、鈴木氏は「ビジネスインキュベーション推進部に直接採用されようと、他の事業部門に採用されようと変わらない条件がある」と答える。それは何かと尋ねると「普段から上司が私によく言う言葉なんですが」と前置きした上で、「保身に走って縮こまるのではなく、やりたいことがあるならそれをとことん追求しろ」とのこと。
最後に、冒頭聞かせてもらった鈴木氏の志、夢である「感動を広く多くの人に届けたい」がどの程度達成できているかも聞いた。
鈴木そうですね、たぶん30%くらいは達成できている気がしています。もちろん、まだ道半ばなんですが、「感動」という漠然とした言葉を具体化することはできてきたように思います。
その答えはおそらく、インタビューの端々で登場してきた「既存の枠や常識を(創造的に)破壊する」ということだろう。この前提なくして、感動は生まれない、との確信がどうやら、鈴木氏にはあるらしい。
鈴木他企業のCVCやアクセラレーションプログラムの成功例を見ていて「羨ましい」と思ってしまうこともまだまだあります。もちろん、KDDIにはない強みを活かしていれば、簡単には真似できないので、羨んでもしょうがないのですが……。ただ、私もまだやれていないことがたくさんあるのだと思って、またがんばろうと考えています。
KDDI ∞ Laboとしても、やっているけど知られていない取り組みがまだまだあります。一番の強みが通信領域の支援という裏方的な仕事なので、目立ちにくいですよね(笑)。発信力や拡散力には課題も感じています。でもこれからチャレンジできることがたくさんあるということでもあるので、まだまだワクワクしてますね。
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こちらの記事は2020年10月05日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
森川 直樹
写真
藤田 慎一郎
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