M&A後に自由がなくなるのは、起業家の怠慢──インフラトップが、DMM.comグループ入り後に急成長できた理由

インタビュイー
大島 礼頌
  • 株式会社インフラトップ 代表取締役/CEO 

2014年に(株)サイバーエージェントキャピタルにアソシエイトとしてジョイン。シード期に特化したファンド立ち上げを実施。同年11月(株)インフラトップを創業、代表取締役を務めながら、2015年に(株)リクルートジョブズのIT戦略室でタウンワークのデジタルマーケティング業務に従事。その後プログラミングスクールWEBCAMPを立ち上げて、業界最高水準の転職成功率を実現し、2018年11月にDMM.comにグループイン。

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2019年には1,375件を数えた、日本企業によるスタートアップのM&A。米国に比べ、日本はIPOによるイグジットの割合が多いことで知られていたが、状況は少しずつ変わりつつある。

M&Aを果たしたスタートアップの「その後」を取り上げる連載『M&A後の起業家たちの挑戦』。第3回は、インフラトップ代表取締役/CEO・大島礼頌氏が登場。

2014年11月に創業されたインフラトップは、未経験者向けのプログラミングスクール『DMM WEBCAMP(旧・WEBCAMP)』を運営。2018年11月には、DMM.comグループにジョインした。以降、3つの拠点を立ち上げ、2019年の新規受講生数は昨年対比500%を達成している。

M&A後に急成長できたのは、“親会社マネジメント”に細心の注意を払ったことが大きいという。グループインを決断した背景、そして事業を飛躍的に成長させる、親会社とのコミュニケーション術に迫る。

  • TEXT BY RYOTARO WASHIO
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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バーンレートの高いビジネスは、IPOに不向き?

人生を変える決断をした人のサポートがしたい──プログラミングスクール『DMM WEBCAMP』は、そんな想いから立ち上げられた。

受講者の97%は、エンジニア未経験者。しかし、実践的な学習カリキュラムと手厚い転職支援によって、卒業生の98.4%が新たな職を手にしていると大島氏は胸を張る(2020年1月現在)。

2016年にEast Venturesから3,000万円、2017年にはSMBCベンチャーキャピタル、ベクトルなどから1億6,000万円を調達。2018年頃には、さらなる事業拡大のため、3度目の資金調達を模索していた。

複数社からの申し出が届く中、選んだのはDMM.comグループへのジョインだった。

株式会社インフラトップ 代表取締役/CEO・大島礼頌氏

大島IPOを狙うこともできましたが、急速な事業成長のためには、M&Aがベストだと考えたんです。僕たちのビジネスモデルは、店舗の賃料などが発生します。そのため、WEBサービスを展開する企業と比べてバーンレートが高く、営業利益率が低い。

上場してもPER(株価収益率)は小さく、マーケットから調達できる額は5〜10億円程度だと予測しました。事業をドライブするには、物足りない金額です。

VCとしても、上場時に高い時価総額がつかなければ大きなリターンを得られないため、多額のリスクマネーを投じるモチベーションは湧きません。このままエクイティを重ねても、十分な資金を調達できないと判断し、M&Aに踏み切ったんです。

DMM.comグループを選択したのは、同グループから与えられる裁量の大きさが理由だった。学生時代、サイバーエージェント・キャピタルでのインターンを経験した大島氏は、グループインを経て「何も決められなくなった」と嘆く起業家たちを目にしてきたという。その経験から、「グループインするのであれば、経営のハンドルを握り続けられる環境を選ぼう」と決めていた。

大島ジョイン前に、グループ会社の経営者のみなさんにヒアリングさせていただき、DMM.comがグループ企業に大きな裁量を与えていることを確信しました。

実際、ジョイン後に親会社から伝えられたのは、目標と予算くらい。達成のための戦略立案と実行は、自社の裁量に任されています。

月に一度の定例会議で、事業の進捗状況や今後の計画を親会社に報告している。とはいえ、「インフラトップから提出した計画が否決されたことはない」そうだ。

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グループイン後、受講生数が急増した理由

グループイン後に生じた事業上の最大の変化は、「受講生数の増加」だという。冒頭でも触れたとおり、2019年の新規受講生数は昨年対比500%超をマークした。

急成長を可能にしたのは、グループ内の他事業が持つデータの活用だった。たとえば、同じく教育カテゴリのサービスである『DMM英会話』のマーケティング施策の効果に関する全データを参考に、効率的に施策を選定できた。

また、ジョインを機にインフラトップの取締役に就任した、DMM.comの最高執行責任者(COO)村中悠介氏や最高技術責任者(CTO)松本勇気氏から、事業運営に関する豊富な知見をシェアしてもらえた点も大きかった。

大島松本さんからは組織運営の方法を学びました。ジョイン前は、属人的に業務の進め方や施策を決定していましたが、さらに事業を拡大するためには、属人性を排していく必要がある。現在は松本さんの知見をお借りして、業務の平準化と、データドリブンな意思決定を実現するための体制構築を進めています。

プロダクト開発においても、DMM.comの力を借りているそうだ。松本氏直下のCTO室には、「どの会社でもCTOが務まるレベルのエンジニアが揃っている」と大島氏。そうしたエンジニアに、インフラトップのサービス開発の最前線に立ってもらい、アドバイスを受けている。

データや人など、さまざまな観点から支援するDMM.comだが、グループ会社への要求は少ない。月に一度の定例会議も、「僕が自発的に設定しただけで、要求されたわけではない」。DMM.comが「任せる」姿勢を取る理由の一つは、M&Aに「将来の役員候補の採用」という意味合いも持たせているからだ。

大島役員としてグループ全体の経営を担う人は、自走して結果を出さなければいけません。DMM.comとしては、経営を担う一人だと自覚させるためにも、グループ会社に裁量を持たせるようにしているのだと思います。

DMM.comが潤沢な資金を保持していることも要因となる。投資の回収を焦らず、中長期的にリターンを得ることを目指しているため、短期的な業績の好不調を気にしすぎずにすむのだ。

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キャッシュフローに悩まなくなったら、大きく事業が伸びた

グループインは、事業のみならず、組織にも大きな影響をもたらしたという。

大島最も変わったのは、採用ですね。創業以来、採用で失敗した経験も少なくありません。たとえば、スキルはあるものの、カルチャーマッチしない人を採用してしまい、組織が崩壊してしまったり。そういった人が原因で、ある部署のメンバーが全員、一挙に辞めてしまったこともありました……。

ジョインのタイミングで、スキル重視からパーソナリティ重視へ、採用方針を変更しました。スムーズに変えられたのは、DMM.comグループに入ったおかげです。会社の認知度が上がり、年間の応募数が50倍ほど向上したので、厳選して採用できるようになったんです。グループイン前は、応募数が少なく、限られた候補者から選考せざるを得ませんでしたから。

採用での変化は、組織コンディションの改善にもつながった。社員のエンゲージメントサーベイツール『wevox』を導入し、組織のスコアを計測。大島氏いわく「他社の平均スコアは、50〜60ほど」だが、グループイン後のインフラトップのスコアは、80を切ったことがないそうだ。

大島特別な施策を打ったわけではないんです。変化があったのは、採用だけ。応募者数が増え、厳選してカルチャーマッチするメンバーを採用できるようになれば、組織は活性化され、コンディションも良くなっていくと実感しました。

大島氏個人も、経営者としての視座が上がったと感じている。グループイン前はCFOとしての役割も担っていたため、「毎日キャッシュフローのことばかり考えていた」。そのため、投資に対して尻込みしてしまう場面もあったという。

しかし、潤沢な資金を持つ後ろ盾を得た現在は、足元の数字ではなく、中長期的な事業戦略の検討に集中できるようになった。

大島僕がこの会社を作ったのは、「人生を変えたい」と願う人の力になるため。経営者が資金繰りを気にするのは当たり前ですが、すべてのリソースをそこに割いていては、本来の目的は果たしきれないはずです。

現在では「よりたくさんのユーザーの人生を変えるために、1年後にどうあるべきか」「この領域をリードする会社になるためには、何が必要か」といった、より中長期的な思考に時間を割くことができていますね。

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M&A後に自由がなくなるのは、起業家の職務怠慢のせい

ただ、こうした事業・組織上のメリットを、M&Aを経たすべての起業家が享受できるわけではない。インフラトップがグループイン後も成長を続けられたのは、大島氏の周到な「マネジメント」の賜物でもあった。

大島子会社の社長は、親会社をマネジメントしなければいけません。求める環境は、自らつくり出す必要があります。

親会社と綿密にコミュニケーションを取り、成果によって信頼を勝ち得て、求める環境を整えていく──これこそが、M&A後の起業家の仕事です。「自由がなくなった」と嘆く起業家は、この“親会社マネジメント”をやり切れていないケースが少なくありません。

先ほど触れた、月に一度の定例会議も、“親会社マネジメント”の一環だ。事業の定量、定性情報をレポートし、短期的に業績が落ち込んだ際は、その原因と打ち手を提示している。

大島どのような目的を、どのくらいの時間軸で達成していくのか、入念なすり合わせが大切です。

たとえば、VCは3年で10倍、機関投資家や個人投資家は年間で投資額の数%のリターンを求めるのが一般的です。一方で、DMM.comは「特定のマーケットを変革するような事業を育てること」を求めている。短期的な利益を追求するのではなく、常に中長期的な目線を持って議論し、事業を推進しなければいけません。

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成長産業へ飛び込む“チャレンジャー養成所”を目指す

DMM.comという加速装置を得たインフラトップ。目指すのは「異業種転職マーケットにおけるリーディングカンパニー」だ。

大島テクノロジーの発展に伴い、新たな仕事がたくさん生まれていくでしょう。すると、異業種転職もますます盛んになっていくはず。

新たな知識や技能を、独学で身につけるのは簡単ではありません。でも、適切なサポートや教育カリキュラムがあれば、かなり学びやすくなる。

そうして新たなチャレンジに踏み出す人を応援することで、成長産業に携わる人を増やしたい。ひいては、国全体の経済発展にもつながるはずです。

2019年11月には、マーケティング人材を育成することを目的とした『DMM MARKETING CAMP』をスタートさせた。これまでエンジニア領域の人材育成で培ってきたノウハウを活かし、他業種の「新しいチャレンジ」も後押ししていく。

M&Aはゴールではない──口にするのはたやすいが、M&A後に事業を急成長させるためには、親会社との信頼関係を築くための、きめ細やかなコミュニケーションが必要だ。DMM.comグループという大船を“マネジメント”しながら、事業を飛躍させ続ける大島氏の手腕に、学ぶべき点は少なくない。

こちらの記事は2020年06月30日に公開しており、
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執筆

鷲尾 諒太郎

1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。

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藤田 慎一郎

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小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

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長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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