日本発ユニコーンを増やすカギが、“潜在顧客マーケティング”──日本の商流の構造的欠陥をつく「市場開拓プラットフォーム」へ、KAENのノンエクイティ戦略
Sponsoredスタートアップ界隈に根強く残る、ある種の固定観念。それは、ベンチャーキャピタル(VC)から巨額の資金を調達し、T2D3と表現される急激な成長曲線を描くことを目指し、最短距離でイグジットを目指すという考え方。もちろん、これだけが正解だと絶対視される雰囲気は和らいできているものの、その呪縛が何かと議論を呼ぶ状況は続いているように感じられる。
この考え方だけに固執してしまえば、時間を金で買い、人を短期的な「リソース」として消費していく状況に陥り得る──そんな厳しい指摘もある。今、本当に強靭な組織をつくっていくために、スタートアップはどう取り組むべきなのだろうか。
そのヒントを今回、FastGrowは「エクイティファイナンスをしていない企業」の事業・組織運営から見つけ出そうと試みた。本記事で取り上げるのは、創業7期目を迎える株式会社KAEN(以下、KAEN)だ。同社についてはFastGrowでも過去に2本の深い記事制作を行っており、ノンエクイティだからこそできるユニークな取り組みと着実な成長に以前から注目していた。そんな彼らはこの2026年、意外な戦略変更を行った。それは、スタートアップらしく取り組んできた新規事業を複数畳む決断をし、事業領域を絞るというものだった。
実はKAENでは主力事業である『TAAAN』を中心に、2023年から2025年の3期連続で年間売上高が平均170%成長という高成長を達成し続けている。この強固な事業基盤と財務的余力があったからこそ、同社は2024年から、さらなる可能性を広げるべく複数の新規事業投資へと踏み出していた。
当初は今期11月末までを検証期間として、ある種の赤字掘りを許容しながら走らせていた。しかし、財務や会計を自ら管掌する取締役・梅木主道氏らの冷徹な規律に基づき、検証期間の途中であっても財務のリアルを直視。「今、最もポテンシャルの高いメインドメインへ全ての投資を再配置すべきだ」と、前向きな『選択と集中』を断行したのだ。
新たに言語化した「市場開拓プラットフォーム」というサービスの総称、そしてその根底にある「潜在顧客へのリーチ」という思想。これが、日本全国に社会変革をあまねく広げていくためのキーになる。
その理由とは?そして、そこにノンエクイティだからこそ実現できた何かはあるのだろうか?
利益を再投資し続け、創業メンバーが熱く燃え続ける「本当に強い組織」を創る。その理想を現実のものとするための緻密な戦略の全貌を、KAEN代表取締役の川田勇輝氏、そして取締役の梅木主道氏の言葉を借りながら、解剖していく。
大きな目的としての「強い組織」と、手段としてのノンエクイティ
スタートアップにおける成長の定石。それは外部資本(たとえばVC)からの巨額の資金調達により時間を買い、短期間で市場のシェアを制圧することだ。とりわけSaaSなどのBtoB領域においては、この手法によってT2D3と呼ばれる急激な成長曲線を描こうとすることが、あたかも絶対的な正義であるかのように語られてきた。
そんな中、創業7期目を迎えるKAENは、初期のエンジェル投資1件を除き、外部資本を一切入れることなく、スタートアップとしての急成長を目指し経営してきた。
なぜ、急成長のエンジンたるエクイティファイナンスをあえて拒絶するのか。その意思決定の根底にあるのは、「会社をどのような状態で存続させるか」という、組織づくりへの強い執着だ。
川田KAENが目指すのは、純粋な情熱を持って集まった仲間が、長く熱く共に挑み続け、事業とともに全員で成長し続ける組織です。
未開拓の市場を開拓・啓蒙し、真のイノベーションを実現していく。私たちが目指しているのは、多くのスタートアップのこうした挑戦と同じです。
ですが、そのためにも、短期間でメンバーが入れ替わり続けるような組織には絶対にしたくない。一過性のブームで終わるチームではなく、みんなが確実に、長くコミットし続けられる場でありたいんです。
梅木代表の川田が掲げるこの理想の組織像を、絵に描いた餅にせず、いかに現実の仕組みに落とし込むか。それが財務や組織運営を管掌する私の役割です。
自分たちの働きで利益を確実に出し続け、それを再投資していく。この理想を叶えるための「手段」として、外部資本に依存しないノンエクイティという財務戦略を意図的に選択しました。
投資家からのプレッシャーによって短期的な人材消費サイクルに陥るリスクを先回りして排除したい、そう考えて生み出した戦略なんです。
要は、エクイティファイナンスを前提とした組織づくりでは、彼らの目指す企業像に向かいにくいと考えたわけだ。
もちろん、これは解像度の低い妄想などではない。経営メンバーの川田氏・梅木氏いずれも、起業してエクイティファイナンスを実施した経験を持つからこその、先回りした意思決定である。
また、スケールし続ける戦略としても、BtoBビジネスにおける「資金の使い道」という角度から、エクイティファイナンスを活用しない理由は説明できるという。
梅木エクイティファイナンスは、BtoBの事業モデルにおいては組織の複雑性を極端に高めてしまう恐れがあると感じています。
投資家から預かった資金が、BtoCビジネスにおいては広告宣伝費に向くことが多い一方で、BtoBビジネスにおいては採用費や人件費に向くことになりやすい。そうなると、短い時間軸で急激な成長を求める場合、営業・開発それぞれにおいて必要なリソースを短期間で獲得し、成果が出なければ入れ替わっていく。とはいえ解雇規制の厳しい日本では、能動的にそうした経営をすることはできません。
その結果として、新陳代謝が進むような制度設計やカルチャーを組み上げる必要性が生じてしまう。意図せずにそうなってしまう例も見聞きします。
これを、成長のための合理的な戦略だと捉えることもできるでしょう。ですが、本当に永続的に成長する強い会社になるかという観点では、疑問を持っています。
(BtoCでは特にわかりやすい)
取材内容等を基にFastGrowにて作成
敢えて強い表現をすれば、こうなる。短期的な成長率を至上命題とするゲームは、見方を変えれば「金融商品のマーケティング」と同義になりかねない。そこでは「人」が、長期的な資産ではなく、ほんの数年先のイグジットに向けた短期的な消費財として扱われてしまいかねない。
KAENは、ピュアに「永続的に成長する企業」を目指すからこそ、初期から苦楽を共にしてきたメンバーの流出を防ぎ、長期的な複利で組織を勝たせる道を探ってきたのである。
梅木私たちのスタイルに合っているのは、短くないロードマップの中で、みんなが確実に成長していくというアプローチです。
外部資本を入れないからこそ、誰かが入って誰かが抜けていくような短期的な消費サイクルを避け、熱い温度感を保ったまま長くやり続けることができるのだと信じて取り組んでいます。
資本コストがかかり続ける今の時代において、長期的に勝ち切るための方向性として、私たちはこのノンエクイティという選択が最も合理的だと考えているんです。
KAENのノンエクイティ戦略は、決して安全地帯に留まるための守りの姿勢ではない。市場の90%を占める潜在層をハックするための、最も純度の高い組織戦略なのだ。創業メンバーが熱く燃え続ける「内部資本経営」の強さは、いかなる困難にも耐えうる強靭な「見えない資産」となって、非連続な成長を根底から支えていく。
LayerXなど著名スタートアップが、最後にKAENへ「回帰」する理由──顕在層の限界を突破する、潜在顧客マーケティング論
そんなKAENの強みである提供価値とは、どのようなものなのか。それは、「潜在顧客との接点」の的確な提供だ。
川田今、マーケティングの中心はオンラインです。SEOやSNS、ウェビナー、ホワイトペーパーなど、さまざまな施策が生み出され、ベンチャー・スタートアップから大企業まで、それぞれの組織の中で役割分担をしてそれぞれの施策に取り組む形が主流となっています。
基本的には、ニーズが顕在化している層に向けたマーケティングが優先されます。受注までのリードタイムが短いわけですから、当然、そうなるでしょう。
ですが、それで出会える「見込み顧客の数」は限られています。「同じ企業から何度も問い合わせが来る」という場面が脳裏に浮かぶ読者さんも多いでしょう。
その顕在層の向こう側に、潜在層という存在がいます。顕在層の10倍以上もの規模の「見込み顧客」が、そこに眠っていると言われています。私たちKAENは、この“潜在層”への的確なリーチを多く提供できる、唯一無二の企業になり始めています。
梅木誰もが重要だと分かっていながらも、アプローチの手法が確立されていないがゆえに「後手になりがちである」巨大な潜在層。KAENはこの領域にダイレクトにリーチする。この概念的な事業の根幹を、社内では「潜在顧客マーケティング」と呼んでいます。
すでにPMFしたと言えそうな『TAAAN(ターン)』、そしてPMFに近づいている『UNIIINC.(ユニーク)』を中心に、新たなプロダクトを周辺領域で連続的に立ち上げながら、一気にスケールさせていく。
そして、事業の総称としては「市場開拓プラットフォーム」という表現にリブランディングします。PMF後、大きな成長を遂げていくためには、潜在顧客も含めた大きな市場開拓に踏み出し続ける必要があります。その難しい部分を多面的に支援していく、唯一無二の存在になっていこうという戦略です。
すでに高い市場評価を得ている『TAAAN(ターン)』、そして急速に成長を遂げている『UNIIINC.(ユニーク)』をはじめ、提供する複数のサービスの集合体を、同社は新たに「市場開拓プラットフォーム」という事業総称として定義した。
営業代行サービスや顧客マッチングツールなら、以前から存在していた。そうしたものと一線を画すのは、「誰に、どのような文脈で、どう出会えるか」という市場開拓のチャネルそのものを泥臭く開拓したうえで、テクノロジーと仕組みでデザインし直している点にある。
このリアルなアプローチ資産とテクノロジーの融合こそが、他社には決して真似できないKAEN独自の強み(プラットフォームの価値)なのだ。
ほとんどの企業がここしか攻めない
→そこにイノベーションを起こすのが、KAEN
取材内容を基にFastGrowにて作成
現代のスタートアップシーンには、急成長を遂げるための洗練された仕組みが存在する。たとえば、プロダクトの価値を起点にユーザーを拡大するPLG(Product-Led Growth)や、緻密に計算されたデジタルマーケティング、あるいはインサイドセールスとフィールドセールスの分業体制。これらを駆使してスマートに、そして圧倒的なスピードでARR(年間経常収益)を数十億円規模へと押し上げる企業が、近年の日本のイノベーションを牽引してきたことは、紛れもない事実だろう。
しかし、彼らが大きな規模──たとえばARR100億円以上、そしてさらに非連続な成長を続けていく──という、日本にまだほとんど前例のないようなメガスタートアップへの階段を駆け上がろうとしたとき、例外なく共通の「見えない天井」にぶち当たることになる。
それは、オンライン空間やWeb広告を通じて効率的に獲得できる「ニーズ顕在層」にアプローチし尽くしてしまうという限界だ。
どんなに優れたプロダクトであっても、自社の課題を認識し、自らソリューションを探しているような「見込み顧客(≒ニーズ顕在層)」は、市場全体のわずか数パーセントに過ぎない。残りの90パーセント以上は、いまだ自社の真の課題にすら気づいていない「潜在層」である。成長の踊り場に直面したメガスタートアップが、さらなる非連続な成長を描くために至る結論は、常に一つだ。この広大な「潜在顧客」層に対して、確実にアプローチする手段を確保することである。
実際に、LayerXを始めとした著名な急成長スタートアップが複数社、一時はマーケ・セールスの効率性を求めてアウトバウンド施策を絞ったものの、再びKAENのサービス利用へと「回帰」してきているという。
スタートアップとして、スマートなマーケ・セールスを追い求め、効率化を進めることは、もちろん重要なことだ。だが、それができたとしても、トップライン(売上高)の高成長率を維持することにはつながらない。そのためには、また別の角度から、多くの見込み顧客や商談を獲得し続ける必要に迫られる。
梅木氏は、そこに「イノベーションの社会実装論」があると捉えている。
梅木そもそも、顧客がまだその価値に気づいていないからこそ、イノベーションになり得る。そしてそれを世間にあまねく広げることで、社会を変えるイノベーションとして評価されることになる。スタートアップが目指すのはそういう世界線ですよね。
これまでにない全く新しいパラダイムを持ち込み、時代を大きく変えるようなプロダクトで勝負をしたいと考えているのなら、東京の最先端企業だけでなく、全国の中小企業やレガシーな産業の隅々にまで提供を広げていかなければならない。そのためには、アナログな手法も駆使した「出会い、気づかせる」ためのアプローチが不可欠になります。
全国の部長クラスに必ず対面で会える『TAAAN』や、首都圏の役員層・決裁権者に深く切り込む『UNIIINC.』といった私たちのサービスは、単なる営業代行ではありません。誰もがアプローチを諦める、あるいはスマートなデジタル手法では決して手が届かない、そういうマッチングを生み出します。
これは、日本の深い商流そのものに入り込み、出会い方をテクノロジーと仕組みでデザインし直す「セールスインフラ構築への挑戦」なんです。
このインフラの上でこそ、各企業が自社のプロダクトを巨大な市場全体へと行き渡らせることができる。私たちが取り組んでいる「潜在顧客マーケティング」が、日本のイノベーションを社会実装する力強いポンプになっていくんです。
KAENの強みは、単一の営業手法に依存している点にはない。彼らは「誰に、どのような文脈で、どう出会えるか」という独自の「チャネル」を次々と開発し、それを標準化された「ユニット(組織・仕組み)」へと落とし込むことで、再現性高く市場を拡張しようとしている。デジタル広告のCPA(顧客獲得単価)が高騰し、オンラインでのリード獲得が限界を迎える中で、KAENが保有するオフラインのリアルなアプローチ資産は、競合が容易に真似できない圧倒的な参入障壁となっている。
この「潜在顧客マーケティング」という、一見すると労働集約的でレガシーに見えるドメインに戦略的フォーカスを絞り込んだことが、KAENという組織の地力を高める結果となった。多角化の誘惑を断ち切り、全メンバーが「同じ顧客、同じドメイン」の潜在課題を深く見つめ続けることで、社内のナレッジは驚異的なスピードで濃縮されていく。顧客すら言語化できていないニーズを先回りして捉え、潜在顧客との出会いを多方面で次々と生み出していくプロセスを通じて、社内のメンバーの視座と世界観は広がり始めている。
多角化の反省と、1億円の「サンクコスト」を捨てる決断
そんな潜在顧客を開拓する「強い組織」を創る。その理想を追求するノンエクイティの道のりは、決して平坦なものではなかった。
KAENは創業以来、「挑戦者を支援する」というミッションのもと、新たな産業への貢献を模索し続けてきた。そして2024年、彼らは会社としてのモメンタムを最大化するため、事業の多角化に着手した。
優秀なメンバーたちが集まる中で、ピラミッド型の硬直した組織ではなく、フラットに挑戦を許容する環境をつくる。そのためには、単一の事業に依存するのではなく、次々と新しい事業領域を開拓し、ポストを生み出し続ける必要があった。
彼らは、メインドメインであるオフラインマーケティング・市場開拓領域とは異なる、いくつかの「飛び地」領域への新規事業投資へと乗り出した。メンバーに大きな裁量と事業責任を任せ、積極的な投資を行ったのだ。
しかし、検証を進める中で、顧客層もビジネスモデルも異なる領域での戦いは、既存のアセットを活かし切ることができず、想定以上の痛みを伴う試行錯誤となった。投下資金が1億円に達しようとするタイミングで、同社は早期の「投資の再配置(選択と集中)」を決断する。
梅木綺麗事に聞こえるかもしれませんが、私たちは今回の新規事業投資を単なる「失敗」ではなく、組織の地力を高めるための「必要な投資・経験」だったと捉えています。検証期間の途中ではありましたが、財務の現実を直視し、最もポテンシャルの高い手元の領域へ全力を注ぐべきだと判断しました。
スタートアップを支援するという大きな方向性は合っていました。しかし、実際に相対する顧客層も違えば、ビジネスモデルも全く違う。
既存事業の強みやアセットを活かすことができず、顧客開拓もビジネスモデル構築も、実質的にゼロからやらざるを得ない状況に陥っていました。
挑戦を推奨する文化が、結果としてサンクコストの増大を招いてしまう。新規事業が停滞し、多角化戦略が壁にぶつかる一方で、彼らの足元では既存事業が着実に成長し続けていた。2025年にはまだKAEN社内でも「潜在顧客マーケティング」という言語化ができていなかったわけだが、すでに、「まだ会えていない見込み顧客に会える」という価値への期待が高まり、要望が絶えず寄せられていたのだ。
新しい市場を開拓しようと闇雲に全く違う顧客へ向かうのではなく、すでにポテンシャルを解放しつつある手元の顧客と領域にこそ、真の勝機がある。この冷徹な事実確認が、彼らにドラスティックな意思決定を促した。梅木は、それまで投じた1億円という巨額のサンクコストを切り捨て、新規事業からの完全撤退を決断する。
梅木本当にうまくいかないとき、どれほど優秀なメンバーが揃っていても、全てが逆回転してしまうことがあります。
志を同じくして集まった仲間たちと、心から信じられる道を歩み続けたい。私たち経営陣のふがいなさで、不十分な成長角度の挑戦が続くキャリアになってほしくない。そんな想いからの決断でした。
この撤退は、単なる敗北ではない。ノンエクイティだったからこその失敗と経験、そこからの大胆な「選択と集中」へのピボットだった。もし身近に経験豊富なVCがいれば、そもそも飛び地での新規事業など「やってはいけない」と早々に止められていたかもしれない。しかし、彼らは外部の理屈で止められるのではなく、自らの血を流すことでしか得られない「本質的な事業づくりの規律」を学んだのだ。
梅木VCから預かったお金で失敗して「次は別のやり方で頑張ろう」となるのと、自分たちで稼いだ利益や金融機関からの融資を使い血みどろになって撤退戦を経験するのとでは、学びの深さが全く違うのではないかと感じます。
私たちは自分たちの意思で飛び込み、痛い目を見た。だからこそ、もう二度とあんな中途半端な失敗はしないと、組織全体が心底理解してくれていると感じます。
失敗から逃げず、事実に基づき、最も勝率の高い戦場へとリソースを再投下する。一連の試行錯誤は、決して無駄な遠回りではなく、巨大市場に挑むための高い解像度と組織のガバナンスを極限まで高めるためのプロセスだった。「自らの稼ぎで戦う重み」を知るこの強靭なチームは、いよいよ10兆円のレガシー市場を面で取りにいく次なるフェーズへと駒を進める。
返済義務のある「数億円の融資」を糧にした成長。お利口さんなスタートアップには決して溜まらない「無形資産」の正体
外部資本を入れない「ノンエクイティ(内部資本経営)」を貫くということは、企業の命運を握るすべての資金を、自分たちが実直に稼ぎ出した営業利益と、そして未来において金利を払い、短期で必ず全額を返済しなければならない「数億円規模の金融機関からの融資(プロパー借入)」によって賄うことを意味する。
こう表現したところで、あなたは、「まあそうだよね」と感じるだけで終わるかもしれない。だが、今のKAENの面々はそうではない。「日々のアクション一つひとつが、未来の成長のために、どのような営業利益を生むのか?」といった視点で考える切迫度合いが、段違いに高まっているというわけだ。
改めて振り返ると、ノンエクイティで戦うKAENにとって、新規事業への投資で被った1億円の損失は、会社の存続をも揺るがしかねないリアルな危機そのものであった。しかし、そんな出来事を乗り越えてこそ、組織に「他社には絶対に真似できない強固な無形資産」が刻まれていくものでもある。
梅木撤退を決めた時、代表の川田と私が全社員の前に立って発した最初の一言は、「ごめん。本当に申し訳ない」でした。ですが、経営陣の謝罪だけで丸く収まるほど、現場も甘くはありません。何度も言いますが、一番辛かったのは最前線で走ってきたメンバーたちです。KAENは一方通行の組織ではないので、この決断の後も、さまざまな議論をしてきました。
その過程で感じたのは、メンバー一人ひとりの強さです。自分たちが稼いだお金、そして返さなければならない借金だからこそ、失敗の重みは全員にとってリアルな学びとなっていることをひしひしと感じました。
「どうやって本当にお金を稼ぐべきか」「自分たちの強みが活きる真のドメインはどこか」が、組織のB/S(貸借対照表)には絶対に載らない、強固な「地力(無形資産)」として蓄積されたイメージです。
痛みを伴う学習を経て、KAENは事業領域を再考。そうして今、行きついたのが、先ほども紹介した「市場開拓プラットフォーム」という事業戦略だ。このドメインを定義し、経営資源を集中させていく。
提供:株式会社KAEN
その中で新規プロダクトとして、既存顧客の深い課題(顕在層を刈り取った後の集客難)から逆算し、オフライン集客の強みを活かして新たに立ち上げた、BtoBウェビナー集客支援の『イベカム』(位置づけは上図を参照)。事業着想からわずか3週間足らずで著名なスタートアップ複数社からの口頭受注に至り、正式ローンチ前ながらPMFしかけていると言っても過言ではない。営業相手も既存プロダクトと同じ担当者である場合が多いため、GTM(Go To Market)も進めやすい見通しが立っている。まさにわかりやすく「シナジー」をイメージできる展開だ。
ここで重要なのは、1億円のサンクコストのもとで撤退した過去の新規事業と、今回の新規プロダクトとの決定的な違いである。
過去の多角化は、自社のケイパビリティを非連続的に広げることを意図し、対象顧客もビジネスモデルも異なる「飛び地」へと向かった挑戦だったわけだ。
しかし今回の新規プロダクトは、そうではない。「潜在顧客」をどのような経路で提供するのかという観点で、生み出す価値を連続的に大きくしていこうという挑戦になる。要は、同じ事業ドメインの上で、既存顧客に対して追加で大きな貢献ができそうなところから立ち上げているのだ。
梅木以前の多角化フェーズでは、同じ企業を相手にしていても、相対する部署や担当者が異なるケースが多かったんです。「シナジーが生まれるだろう、クロスセルを期待できるだろう」と考えていた当時の自分たちがどれだけ浅はかだったか、今では反省ばかりです。
今の新規プロダクトは、まったく違います。既存事業で向き合っている担当者様と完全に一致しています。
だから、「そういえばこのお客様、こういうことで困っていたよ」というインサイトが直接活き、プロダクト開発面でも、営業戦略面でも、良い意思決定をどんどん進められている感覚があります。
新たなクロスセルを生む、泥臭いアナログ領域への再挑戦
KAENが足場として定めた「市場開拓プラットフォーム」という、新たな事業戦略。生み出す価値は「出会うのが難しい潜在顧客に、新しく会い続けられる」という独自のもの。まさにKAEN自身が、存在すらしなかった市場を開拓していくと言って良いだろう。つまり、競合もいないに等しい。だが、KAENの試算では10兆円にのぼる規模がある巨大市場だ。
この市場を新たに創出し、リーディングカンパニーとして大きなシェアを取り切る。そのためのモメンタムがまさに今、社内で最大化しているという。
日本の商流には、いまだに分厚いアナログな壁が立ちはだかっている。美しいソフトウェアを開発するだけでは、真のイノベーションを社会の隅々まで行き渡らせることはできない。
大塚商会やダイワボウといった巨大な流通網を持つ企業が担ってきた泥臭いセールスインフラに入り込み、人と人との出会い方をテクノロジーでデザインし直す。これが、KAENの見据える世界観だ。
梅木私はもともとエンジニアなので、泥臭い営業手法などは正直なところ苦手です。しかし、だからこそ、モノをつくることと、届けることが全く異なる次元の難しさだということは分かっているつもりです。
日本社会において本当にモノを届けているのは、泥臭い流通やセールスのインフラなんです。この巨大な仕組みに直接関わり、テクノロジーの力でハックしていくことには強烈な面白さがありますし、これほど直接的に社会的インパクトを生み出せる領域は他にないと確信しています。
この現場で、戦略を描きながら自らも刀を振るって戦う武将のような存在を増やしていくのが、梅木氏らの目指す組織戦略だ。
梅木全国にイノベーションが広がるようにしたいと考えたとき、昔遊んでいた『信長の野望』というゲームを思い出しました(笑)。スタートアップビジネスを戦のゲームに例えるのが良いのかどうか悩ましくはあるのですが、織田信長が全国統一を目指し、戦略と実行の試行錯誤を進めた姿にはやはり刺激を受けます。
その全国統一に向けて進む過程で躍動したのが、武将たち。そういう存在として、KAENの事業責任者たちは躍動し続け、いつまでもこの会社で頑張ってほしい。
そのためにも、ノンエクイティという財務戦略こそ、非常に重要なものだと考えています。この意思決定が間違っていなかったと、長く急成長し続けるという成果をもって証明していきます。
川田私たちが目指しているのは、多くのスタートアップと同じ、未開拓の市場を開拓する真のイノベーションです。だからこそ、一過性のブームで終わる組織ではなく、純粋な情熱を持った仲間が、長く、熱く、共に成長し続けられるプラットフォームでありたい。
梅木が設計してくれるこの強固な仕組みの上で、既に躍動してくれているメンバー全員とどこまでも遠くへ、長い挑戦を続けていきます。
常識や前例に囚われず、まったく新しい挑戦を──と、スタートアップに身を置くものなら誰もが考えているだろう。財務面も事業面も、まさにそれを突き詰めている存在の一つがKAENだと言えそうだ。
まず財務面ではノンエクイティ、すなわち、スタートアップがまず考えるエクイティファイナンスを敢えてほとんど実施せず、創業初期から利益と融資によってスケールさせていく戦略をとった。これだけでも難しいはずなのだが、事業面でもまったく前例のない「市場開拓プラットフォーム」を生み出し、大きくしようとしている。
「スタートアップとは、エクイティファイナンスによって資金を確保し、積極的な投資で赤字を掘りながらもその先の急成長を実現する起業形態だ」という考えが広く理解されているわけだが……そうではないKAENこそがむしろ、最もスタートアップらしいスタートアップだとも言えるのではないだろうか?
そんな戦略をつかさどる存在としての取締役・梅木氏に、さらに迫っていきたい。FastGrow編集長・西川ジョニー雄介と、梅木氏との対談記事を追って公開予定だ。KAENの真にユニークな魅力を掘り下げたので、ぜひ、合わせて読んでいただきたい。
こちらの記事は2026年06月09日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
連載ノンエクイティベンチャー、攻めの成長戦略
3記事 | 最終更新 2026.06.09おすすめの関連記事
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- 株式会社KAEN 代表取締役