ファウンダーの“火種”を200億円の“火炎”へ──「キタキタ!」の感覚を事業構造に落とし込む、KAEN梅木氏の「かまど型」経営論【FastGrowジョニーが聞く】

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梅木 主道

早稲田大学卒業後、Uniposでエンジニア/PdMを経験し、起業・事業譲渡を経てリクルートで事業企画に従事。現在はKAEN取締役として、経営全般を幅広く担当。

西川 ジョニー 雄介

モバイルファクトリーに新卒入社。2012年12月、社員数3名のアッションに入社。A/BテストツールVWOを活用したWebコンサル事業を立ち上げ、同ツール開発インド企業との国内独占提携を実現。15年7月よりスローガンに参画後は、学生向けセミナー講師、外資コンサル特化の就活メディアFactLogicの立ち上げを行う。17年2月よりFastGrowを構想し、現在は事業責任者兼編集長を務める。その事業の一環として、テクノロジー領域で活躍中の起業家・経営層と、若手経営人材をつなぐコミュニティマネジャーとしても活動中。

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先日公開した「ノンエクイティ戦略解剖記事」で紐解いた、株式会社KAENのドラスティックな戦略転換。10兆円超とも試算できる巨大な「潜在顧客マーケティング」という市場の創出へと全リソースを集中させるという。その裏には、スタートアップ業界におけるVC投資主導の考え方に対するアンチテーゼも見て取れた。それだけ独自の路線で戦う同社の実態をさらに探っていくのが、この記事だ。

どれほど経営陣が合理的な戦略を描こうとも、それが自動的に組織のモメンタムへと変換されるわけではない。むしろ、多角化からの撤退という痛みを伴う意思決定は、現場に深い亀裂を生むリスクを常に孕んでいる。

KAENは、1億円ものサンクコストを生みながら、かつて信じて走った事業を畳むというタフな意思決定をした。そこで生じる摩擦をコントロールし、再び組織を一つの大きなうねりへと統合していくためには、ファウンダーの情熱と現場の現実を繋ぐ「強靭な結節点」が必要不可欠である。

KAENにおいて、その役割を一身に担っているのが、エンジニア出身の取締役・梅木主道氏だ。その管掌範囲は、プロダクト開発から組織開発・採用・育成、戦略やブランディング、そして同社の成長を支える財務(融資調達・会計など)にまで広がっている。彼のシビアかつ大胆な意思決定の根っこには、常にこの「財務を管掌する経営者としての視点」が息づいているのだ。

代表・川田勇輝氏が直感的に捉えた顧客のインサイトや市場の歪みを、冷静にスケーラブルな事業構造へと翻訳し、実働部隊を力強く牽引する。

本記事では、この梅木氏と、FastGrow編集長・西川ジョニー雄介との対談を通じ、経営の理想を現実に落とし込む「唯一無二のパートナー」としてのあり方、そして、日本の商流を泥臭くハックする戦略の要諦に迫る。

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メンバー一人ひとりが、主体的に向き合った「戦略転換での学び」

ジョニー梅木さんのお話を伺っていて、KAENのノンエクイティ戦略の合理性には何度も唸らされています。

スタートアップ界隈では「ブーストをかけるために、外部からの資金調達は不可欠だ」という声が今も根強いですが、私自身も以前から、常々疑問を持っていたんです。

短期的な成長を急ぐあまり、ドーピングのように資金を注入する。うまくいくケースばかりが耳に入ってきますが、それが本当に強靭な組織をつくる「あるべき状態」なのかと。

梅木おっしゃる通りだと思います。私たちは内部で生み出した利益と、金融機関からの融資、これらのみを活用して戦ってきました。実際にやってみて痛感するのは、VCからの調達資金と、自分たちで稼いだお金あるいは融資の資金とでは、そこで感じる「重み」が全く違うということです。

VCから預かった資金であれば、「10年後に儲かっていればいい」という考え方にもなりがちです。そうなると、目先の利益を軽視してしまう。もちろん、そういう考え方が合う事業/組織戦略もあるとは思います。

ですが私たちは、利息を返さなければならない融資を使い、自分たちで血みどろになって「どのようにして利益を稼ぎ続けるか」に向き合うことを決めた。この規律が、目指す組織のかたちを規定しています。

ジョニーその「目の前の利益の重み」を本当に強く意識している様子を、いつも梅木さんの言動から感じ、刺激を受けています。

それに、その意識があったからこそ、1億円という巨額のサンクコストを感じながらも、ドラスティックな撤退判断を下すことができたわけですよね。

もし経験豊富なVCがバックにいれば、そもそも「そんな飛び地での多角化はやめておいたほうが良い」と止められて、失敗すら経験できなかったかもしれない。でも、自分たちで決断して、身銭を切って痛い目を見た。その中でさまざまなことを学習されたと思いますし、今後の事業戦略上、活きることが非常に多くあるのだと思います。

梅木そうですね。その学習に、メンバー皆が向き合ってくれていると感じるのが、今、最もありがたく感じていることです。

まず経営・財務の役割として振り返ると、どれほど優秀なメンバーが揃っていても、飛び地での戦いゆえに採算性が合わない状況が数字から明白ではありました。

常に現場のメンバーの可能性に期待していたからこそ、その異変を経営陣として早期に「一大事」として捉え、向き合うことが遅れてしまった。経営の甘さであり、猛省すべき点です。

投資額が1億円を超えるタイミングで、やはり財務的な観点を中心に、これ以上の投資過多になってはならないと考え直し、メインドメインへ集中するという決断をくだそうと思ったんです。

ジョニー経営陣が「撤退すべきだ」と論理的に判断することと、現場のメンバーがそれに納得することの間には深い谷がありますよね。

経営陣が自らの失敗をオープンに認めるという流れになったのだと思いますが、現場からは当然、強い反発や混乱があったのではないですか?

梅木反発というのとは少し違いました。衝撃を受けて動揺している様子が、一人ひとりの表情から見て取れました。撤退を突きつけられる現場からすれば、それまで自分たちが信じて、気を吐いて走り続けてきたものを、ほかのところから突然ストップさせられるわけですから。

KAENの良さは、徹底してオープンであることです。全ての経営指標を全社員に公開している。だからこそ、撤退の決断を少しでも隠してしまうと、不要なノイズを生んでしまう、そんな状況でもありました。

ジョニーオープンな文化だからこそ、隠されていると感じた時の不信感は倍増するかもしれませんね。

梅木そうなんです。初めは私と川田だけで話すばかりで、事業責任者が集まる会議の場でもなかなか話題に出せずにいました。

ジョニー現場は「まだやれる」という熱量も持っていたのでしょう。そのズレをどう埋め、再び組織を一つの方向へと向かわせたのでしょうか?

梅木単に「儲からないからやめる」という説明だけでは、納得してもらえないでしょうし、その後も一緒に走り続けてもらえるかどうかわからないと感じていました。なので、「目指すべき巨大な未来がある。そのために今、やめるんだ」という戦略的なストーリーを、経営の役割として再整理していこうと思ったんです。

全社員向けの説明会で、過去の検証についての謝罪と反省、そして、事業戦略や目指す世界観についての説明を、セットで一気に伝えました。

加えて、撤退が決まった事業の責任者にも、みんなの前で「今はこういう考えで、前向きにKAENを伸ばそうと思っている」と語ってもらったんです。

このようにして、ネガティブな議論から逃げず、一人ひとりの当事者意識を繋ぎ合わせるよう、真摯に向き合って進めました。

そのおかげか、組織の熱量は下がるどころか、同じ顧客への価値提供に向けて力強く再統合していく流れにすることはできました。

ジョニー自分たち経営陣の非を素直に認め、現場の不安を正面から受け止める泥臭い対話。梅木さんの誠実さを強く感じるエピソードですね。それと同時に、真摯に受け止めて対応したメンバーの皆さんの様子も目に浮かんできます。

梅木はい、本当にさまざまな感情があったと思いますが、皆が落ち着いて向き合ってくれて、感謝しかありません。

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エンジニア出身のパートナーが「市場の90%の潜在層」に賭ける理由

KAENの合理的かつ野心的な戦略の裏には、矛盾にも見える部分がある。それは、経営の最前線で事業戦略を牽引する梅木氏自身が、生粋のエンジニアだということだ。

コードによって世界を自動化し、スマートなソフトウェア空間の拡張を是とする思想を持っていそうな梅木氏が、なぜ日本特有の商流を改革するという複雑な挑戦に、自らの人生を賭ける決断を下したのか。

ジョニー先ほどの撤退戦のプロセス一つをとっても、外部資本のプレッシャーに歪められることなく、事業と組織の本質に純粋に向き合えるKAENの環境は、大きな影響を与えていたと思います。そしてこのことは、将来的にビジネスオーナーを目指すハイレイヤー層にとって間違いなく魅力的な環境になると思います。

そこで重要になるのが梅木さんの存在だと、私は感じています。

改めて伺いたいのが、梅木さんご自身のキャリアの選択についてです。もともとはエンジニアであり、ご自身での起業経験もお持ちですよね。いわば、ソフトウェア開発で世界をスマートに変革していくというほうが、考えやすいキャリアなのではないかと感じます。

梅木正直にお話しすると、私は根っからのエンジニア気質なので、いわゆる泥臭いアプローチ自体はもともとあまり好きではありませんでしたし、苦手意識すらありました。

ただ、私自身も過去に起業してうまくいかなかったという挫折が、今の事業戦略につながる原体験でもあるんです。どれだけ美しいプロダクトを「つくる」ことができても、それを顧客に「届ける」ことができなければ、意味がない。この「つくる」と「届ける」の間には、全く次元の違う難しさがそれぞれにあるんですよね。

ジョニーつくるだけでは、イノベーションは決して社会実装されないということを、ご自身の起業経験からも痛感してきたわけですね。だからこそ今では、「届けることの難しさと重要性」を、誰よりも理解しているのだと思いました。

しかし、届ける手段としても、デジタルマーケティングやPLG(Product-Led Growth)、あるいはアドテク関連など、エンジニアリングと相性の良い効率的な方法は存在しており、それらを前面に出すプロダクト事業の現場も多くあると思います。

なぜ、全国の中小企業まで含めたオフラインでのつながりを活用したサービスで戦っているのでしょうか?

梅木おっしゃる通り、Web広告やネットワーク効果などを駆使して、受注率が高そうな「ニーズ顕在層」向けのマーケティングの仕組みを構築するほうが、投資対効果を計算しやすい。でも、それゆえに、みんなが飛びついてそういうプロダクトやサービスばかりをつくっている印象が強い。

そんな戦いでは、イノベーションにはつながらないと、今は強く思っているんです。

なぜなら、市場の90%を占める「まだ課題にすら気づいていない潜在層」へのアプローチができないからです。そのようなサービスを提供しても、私たちが思い描いている「企業間の出会い方を、デザインする」というところには至ることができません。

事実、ARR(年次経常収益)が数十億円の壁を越えようとする急成長中のSaaS企業が、「オンラインで出会える顕在層だけではリード(見込み顧客)が足りなくなる」と気づき始め、大規模なアウトバウンド施策でのマーケティング・セールスに大きく投資をするようになり始めています。

ジョニーそうなんですね。たしかに、ARR数十億円以上の規模になったスタートアップが、そこからさらに毎年30%以上の成長を維持しようとすれば……ファネル進捗率などを考えて計算すると、膨大な数のリード企業を獲得し続ける必要がありますね。

梅木はい。でも、その必要性に気付いている人はほとんどいませんし、そのために動けている人となると本当にごく少数になる。

そもそもイノベーションの実現には、まだ誰も気づいていないことに気づくことが不可欠だと思っています。この「90%以上の潜在層」の獲得が大事だと気づき、それを基に動けることが、イノベーションにつながるかもしれない。

ちょっと極端な解釈で話すと、「未来予測が得意で、賢く立ち回る」ようなビジネスパーソンは、この「90%を獲得するために、非効率に見える泥臭い事業開発」で何年も踏ん張り続けることができないと感じています。もっと効率の良い方法でやりたくなってしまうはず(笑)。

しかし、KAEN代表の川田は、私が参画するまでの数年間、たった一人で、その泥臭い市場創造のプロセスから逃げず、やり抜いてきた。こんな起業家は、他にほとんどいないと感じています。

ジョニースマートに効率を求めるのではなく、顧客のポテンシャルを解放するために、あえて最も摩擦の大きい現場に立ち続けた。その事実が、梅木さんを惹きつけたんですね。

梅木ええ。表面的なソフトウェアのUIを磨くだけでは、日本社会の根底にある岩盤は打ち砕けません。川田が一人で抱えていた苦労は想像に難くありませんが、彼は自分が信じた道を疑わず、純粋に取り組み続けてきた。

私には真似できないその「純粋性」と、私が最も苦手とする「泥臭さ」。自分にないその強烈な熱量に圧倒的に惹かれているからこそ、私は今ここにいるんです。

スマートに勝負したいという想いを捨てきれないエンジニアが、自らの対極にある起業家の狂気的な純粋性に魅了された。そうして川田氏・梅木氏のタッグは、独自路線で、日本の商流の「構造」を射抜き始めたのだ。

ジョニーなるほど。ただ、ビジネスとしてこの市場に参入する以上、単なるエモーショナルな共感だけでは終わらないはずです。この泥臭いレガシー市場の構造そのものに、梅木さんご自身が、事業としての巨大な勝機を見出しているとよくおっしゃっていますよね。

梅木そうなんです!少しシニカルな見方かもしれませんが、私は美しいソフトウェアが一つ生まれただけで、社会が劇的に変わるとは思っていません。

ビジネスインフラを見渡してみると、本当にモノ・サービスを全国の隅々の企業にまで届けているのは、大塚商会さんやダイワボウさんのような、泥臭く築いてきた大規模な流通網を持っている企業さんの存在なんです。

私は彼らの存在を、生成AIのような一つの巨大なテクノロジー以上にリスペクトすべき対象だと捉えています。

デジタル化の波がどれほど押し寄せようとも、日本企業の多くはいまだにアナログな意思決定のプロセスに依存している。展示会での名刺交換、電話でのアポイントメント、対面でのすり合わせ。このフローをすべて、メーカーやサービスベンダーが自ら進めるのには限界がある。だから、代理店による商流が整備されてきたわけだ。そして、商流としてのインフラこそが、経済の血液を循環させる真のポンプとして機能してきたのだ。

梅木最先端のSaaSやテクノロジーを社会に実装するためには、結局のところ、この国に深く根を下ろしている商流そのものに入り込んでいく必要がある。それは、デジタル施策だけでは決して手が届かない領域です。

だからこそ、我々が泥臭く向き合いながら、その一部からテクノロジーの力で構造を根本からデザインし直す。「潜在顧客マーケティング」という市場を生み出し、誰もなしえたことのない価値提供ができるプラットフォームをつくり出すことに、とてつもない面白さを感じています。

エンジニアとしての美学を捨てたわけではない。むしろ、社会を根底から書き換えるという野心を達成するために、梅木氏は最も難しい「新市場創造」の道を選んだのだ。代表川田氏の純粋な熱狂と、パートナー梅木氏の冷静な構造化の力の組み合わせによって、レガシー市場に眠る莫大なポテンシャルが解放され始める。相反する二つの特性は、いかにして強烈な事業推進力へと変換されていくのか。

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「キタキタ!」の情熱を、いかにロジックへ変換するか

ジョニー梅木さんが川田さんの純粋な情熱に惹かれていることが、改めて非常に強く伝わってきました。

たしかに、私も川田さんと何度もお話ししてきた中で感じているのですが、彼の顧客獲得におけるインサイトの深さと量は本当に凄まじいものがありますよね。極端な話、「潜在顧客マーケティング」という領域の新規事業アイデアを100個出せと言われたら、おそらく日本で一番、圧倒的に早いと思います(笑)。

梅木間違いないですね(笑)。彼が持つ、日本の商流を動かすプレイヤーたちに関する解像度の高さは、本当に圧倒的です。

ジョニーただ、そういう天才的な起業家のインサイトや突飛なアイデアって、組織の視点から見れば「論理の飛躍」を伴うじゃないですか。思いつきで次々と新しいことを始めようとして、現場が振り回されて疲弊してしまうリスクもある。

梅木さんがそのパートナーという立場で、その強烈な情熱や直感を、事業推進に落とし込んできた。採用含め組織をうまくコントロールしつつ、戦略や計画を練っているんですよね。梅木さんのこのコミットこそ、貴社の強みだと感じています。

梅木大前提として、私は会社全体にとってファウンダーという存在が一番重要だと思っているんです。今のKAENでは間違いなく、彼のテンションが上がり続けることが、組織の最大出力に直結するわけで(笑)。

多角化フェーズは、非常に苦しかったんです。対象顧客もビジネスモデルも異なる「飛び地」では、川田の持つインサイトをあまり活かせなかった。彼自身の体温が上がるテーマじゃなかったんです。

そういう飛び地の事業も立ち上げていける企業になりたいという想いはもちろんありますが、それを目指すタイミングはまだ今じゃなかった。そのように整理しています。

ジョニーなるほど!あまりに距離のある「飛び地」での事業立ち上げでは、創業社長の最大の武器である「インサイト」が不発に終わってしまう。だからこそ今、「潜在顧客マーケティング」という、川田さんの経験やセンスが活かされ、さらに強まっていくようなドメインにリソースを集中させたのですね。

提供:株式会社KAEN

梅木その通りです。その事業群の総称を「市場開拓プラットフォーム」としています。

前の記事でも少しお話ししていますが、川田はお客様から良い反応を得られたり、自社の可能性を感じたりした時、Slackで「キタキタ!」というスタンプを連発して、感情を爆発させるようなコミュニケーションをとるんですよ(笑)。

これが組織に与える影響力、そこから生まれるモメンタムは、非常に強い。

ジョニー想像できます(笑)。まさに、ファウンダーならではの、伝播していきそうな熱狂ですね。

梅木ええ。だから私の仕事が、その熱狂に対するブレーキになっては絶対にいけない。彼が熱量を込めて動き続けられる「正しい戦場」を見極め、そこにスケーラブルな事業構造を設計する「翻訳者」として機能することだと思っています。

彼の純粋な情熱という「最大の成果」を、絶対に絶やしてはいけないんです。

天才の直感を、組織のノイズにせず、推進力のコアに据える。梅木氏が実践する具現化とは、単に社長の指示を作業レベルに分解することではない。ファウンダーが純粋な情熱を燃やし続けられる「土俵」を設計し、そこにエンジニアリングの思考を用いてスケーラブルな仕組みを実装していく、高度な「機能的補完」のプロセスなのだ。

川田氏自身もかつて、経営者として組織の方向性を言語化し、論理的に牽引することに思い悩んだ時期があったという。しかし今は、互いの役割を完全に割り切っている。

梅木ファウンダーの熱狂に対して、冷静ぶって指摘をしてテンションを下げるような存在は、スタートアップには必要ないと思います。冷水を浴びせるような存在ではなく、ファウンダーがもたらす“火種”から、最も効率よく、かつ安全に燃え広がるための“かまど”に私は徹しているような感じですね。KAENだけに。

ジョニーなるほどたしかに、そうかもしれません(笑)。ちなみに、現在立ち上がりつつあるウェビナーの集客支援プロダクト『イベカム』も、まさに川田さんの泥臭いインサイトと、御社の強みが綺麗に噛み合った好例ですよね。

梅木ええ。ただ、この事業に関して私は財務や戦略の壁打ち相手として関わっている部分が大きくて、実際に事業をリードし、形にしてくれているのは現場の「事業開発担当」のメンバーたちなんです。

まず、Web上では広告を絶対に見ないような層をテレアポで掘り起こすという考え方自体が、川田だからこそ出てくる泥臭い攻め方です。そして、オーナーシップを持って推進してくれているメンバーがいるからこそ、このスピード感で形になり始めています。

しかし、それを人力だけでやろうとすれば、いずれスケールの限界が来る。将来的には、これまで蓄積してきたアナログなインサイトも含めて、テクノロジーと掛け合わせることで、より効率的な市場開拓ができる事業構造をつくり上げていきたいと考えています。

ジョニーなるほど。川田さんが顧客のポテンシャルを解放するためのアナログな「接点」を次々と開拓し、梅木さんやほかのチームがそれをシステムや組織へ定着させていく。まさに機能的な補完関係になっていますね。

これ、改めてお聞きしていると⋯⋯、川田さんが思いついたアイデアを、戦略、ビジネスモデル、開発、組織づくり、実行管理、そして財務……それ全部梅木さんがやっているということですよね。なかなかそんな人はいません。凄すぎませんか?

梅木そう言っていただけるとありがたいですが、やるしかないですし、これが面白いので、全力で取り組んでいるところです。

繰り返しのようですが、賢く立ち回ろうとする人には、この泥臭い熱狂はたぶんつくれません。

私が自分で起業するとしても、KAENみたいな“情熱そのもの”な社名は絶対につけないと思います……。もっとクールな感じの名前をつけたくなる(笑)。

そうして、多くの人が、スマートなやり方をつい、模索してしまう。だからこそ、KAENという少し気恥ずかしくなるようなストレートな名前を冠して、純粋に突き進む彼の姿勢には、今も強烈な憧れがあるんです。この「ファウンダーの情熱という火種を、大きな火炎にしていく」ということ。それが、私がここにいる最大の理由です。

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4年後、120名・売上200億円へ。身銭を切る環境で創る「事業家」のプラットフォーム

「潜在顧客マーケティング」という市場創造の最前線を走り続けるため、組織体制についても新たなイメージを描き始めている梅木氏。最後にそのビジョンを聞いた。

ジョニースタートアップ界隈を見渡すと、エクイティファイナンスを重ねて未上場のまま巨大化し、中に入ってもマニュアルがある一部の機能しか担えない「オペレーター(手足)」のような存在になってしまうケースもある印象です。数年前の界隈はもっと型が存在せず、カオスが広がっていて、個人の裁量が大きかったように思うんです。

梅木たしかにそうですね。

ジョニーそんな中、KAENは川田さんがつくる熱狂と発散するアイデアにより、良い意味でカオスであり続ける稀有な環境だと思います。「マニュアルや正攻法が確立されていない中で、事業家としてゼロから挑戦できる環境」を探しているなら、これほど面白い企業はなかなかないのではないでしょうか。しかもノンエクイティという点も、Day1からの収益性と中長期の成長を同時に考えなければならないという意味で、今こそ興味を引く要素だと感じます。

梅木そう言っていただけるのは本当に嬉しいですね。私たちとしても、まさにこれから自ら事業のミッションとビジョンを描き、P/Lをひいて達成していけるような数多くの事業家人材(ビジネスオーナー)候補を必要としているフェーズにいます。

会社としての目標ですが、4年後に従業員120名、売上200億円という規模になっていたいと本気で計画しているんです。現在の売上規模からすると、およそ10倍の成長。それをこの短期間で成し遂げなければなりません。

ジョニー4年で10倍。外部資本を入れずにその成長角度を描くというだけでも、並大抵のことではありません。しかもそのために、パラシュート人事のように外部から有力・有名な方を採用するのではなく、内部からの人材育成や抜擢で勝っていこうという戦略なんですよね?

具体的には、その200億円という数字をどのような構造で作り上げていくのでしょうか?

梅木私たちの基本戦略は、巨大な単一事業を一つ置いてそれを中心にするのではなく、決裁者と出会えるプロダクト(社内用語で「チャネル」)を横方向に広げつつ、産業・業務領域というターゲット(社内用語で「ユニット」)を縦方向に広げていくようなかたちで、マトリクス型でスケールを考えています。

だから、今の主軸である『TAAAN』と同規模のプロダクトを、少なくともあと7個ほどは連続して立ち上げる計画になります。その最前線を担う責任者がその数の分必要ですが、そういう人材を自社で育成し、輩出できる会社になっていきたい。最初はうまくできなくとも、ときには川田とタッグを組みつつ、私とタッグを組むこともある。そのようなプロダクト立ち上げ〜グロースという一つのプロダクト立ち上げをDay1から経験することで、利益を出しながら事業・組織に再投資し続けてスケールさせていくという、実質的な起業経験に限りなく近い経験と機会を提供していきたいし、そうできると考えています。

今のKAENが取り組むのは、潜在顧客マーケティングという共通の基盤の上で次々とチャネルを立ち上げる「連続的な市場創造」だ。単一事業の拡大ではなく、「チャネル×ユニット」の掛け合わせで事業を連続で立ち上げる。つまり、本当に「0→1の事業立ち上げ(起業と同義)」の打席が社内に無限に生まれ続ける環境であることを意味する。

ジョニーなるほど、『TAAAN』規模のチャネルをあと7つ。それなら、事業の数だけ責任者のポストが生まれ、経営の視座を持ったリーダーが育ちますね。

しかも、ノンエクイティだからこそ、短期的な利益・売上やキャッシュの動きには、より敏感になるべき構造になる。日々、言い訳の利かないシビアな環境でもありますね。

梅木おっしゃる通りです。加えて、金融機関から毎年数億円規模の「融資(借入)」を実行し、フル活用しています。

実はここがすごく重要で、VCマネーと融資とでは、お金の性質が全く違うと私は感じています。

ジョニーどのように違うイメージですか?

梅木VCから預かった資金であれば、極端な話、「5~10年後に大きく儲かっていればいい」という考え方が結局残りますよね。そこに引っ張られてしまい、目先の赤字を不要なほどに許容してしまう恐れがある。

でも融資は違います。利率分は必ず、短期のスパンで利益で取り返して返済しなければならないし、元本も返済し続けなければならない。会社の存続にも直結します。

融資をベースに戦う私たちは、金融機関が最も気にする「赤字」や「債務超過」の恐れを最小化するということを第一に考えているわけです。

だからこそ、「儲け(利益)」には敏感なんです。本来、事業をやるのであれば当たり前のことではあるのですが。

自分たちで年間数千万の利益を必死に出し、融資と掛け合わせて事業に再投資し、短期サイクルでも絶対に利益を出し続ける。赤字を垂れ流しながらシェアだけを取りにいくような戦い方は許されません。

ジョニーまさに、事業のプロフェッショナルとしての「コトに向かう厳しさ」ですね。外部資本のプレッシャーがないからといって、決して「ぬるい環境」ではない。むしろ、市場からのリアルなフィードバックとしての利益と、融資の返済という現実に向き合い続けるからこそ、本当の意味で事業を作れる強靭なビジネスオーナーが育つ。

梅木ええ。中長期的に考えがちな人には、耐えられない環境かもしれません。短期の成果を出し続けなければなりませんから。

でも逆に言えば、社会の負という岩盤を打ち砕くような事業の手触り感を求めている人にとって、これほどヒリヒリする面白い環境はないと確信しています。「やりがい」や「成長実感」を求めている方には、資金調達で知名度を獲得したスタートアップよりもまず、KAENを見てほしい!と切実に感じています。絶対に面白い環境だと思います。

スタートアップの定石に背を向け、自らの利益と融資でスケールしていく道を選んだKAEN。その中で、泥臭いインサイトから次々と未開の地を開拓し、「火種(0→1)」を起こし続ける川田氏。その火種を、単なる思いつきで終わらせず、持続可能な利益を生む「仕組み」へと構造化し、次の0→1への再投資を生み出し続けるプラットフォーム(かまど)の設計を担い続けるエンジニア出身の梅木氏。

この二人の役割の相互補完こそが、実働部隊を強烈に牽引し、短期での利益創出を着実に進めながらも、長期的なインパクトをも実現する、真のスタートアップらしい戦略を可能にしているのだろう。

従来のJカーブ型の成長戦略でこの先も戦っていけるのかどうか、疑問を持ち始めている者も増え始めているはず。KAENの挑戦手法は、これからの時代の事業開発・組織開発における新しいロールモデルになるかもしれない。そんな期待を持って、FastGrowも引き続き注目していきたい。

こちらの記事は2026年06月10日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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