人材輩出企業ではなく、お互いが「選ばれ続ける関係」へ──any清水氏が描く、真の“自律”による強度を持った組織デザインへの挑戦

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インタビュイー
清水 隆太

慶應義塾大学卒、経営学修士。JTBグループを経て、株式会社FORCAS(現・ユーザベース)にてカスタマーサクセス、マーケティング、全社横断プロジェクトによる組織エンゲージメント向上に従事。
2021年にany株式会社へ参画し、同年執行役員に就任。現在は執行役員 TeamWill & Culture室長として、人事戦略・カルチャー戦略を統括。15名規模から等級・評価・報酬制度の設計・アップデートを推進し、組織拡大に伴う権限委譲やマネジメント体制の整備を主導。Unitリーダー制の導入やマネジメントの共通言語化を通じて、経営戦略と人事戦略を接続した組織づくりを推進している。
2025年『Startup Culture Award』最優秀賞受賞。

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スタートアップのセオリーに従えば、事業成長を優先して組織が疲弊するか、組織をいたわって成長が鈍化するかの二択を迫られる。それが避けられないジレンマだと感じている者も少なくないだろう。

しかし、any株式会社(以下、any)はその定石の外側を行く。2025年には、売上高YoY200%成長に加え、四半期の純新規MRR(NET NEW MRR)で前年同期比約5倍と急成長。2026年はその源となった組織強度をさらに高めるための挑戦を続ける。

anyが目指す、「事業を最大・最速で伸ばしていくために、強くなり続ける組織」。その経営論・組織開発論を牽引する執行役員・清水氏の思想と実践に、今回は迫りたい。

前記事で代表の吉田和史氏が掲げた「働くこと自体が成長体験になる」構想。それは決して、衝突のない心地よいだけの環境で叶えられるものではない。メンバー一人ひとりが、時に自己の弱さと向き合う痛みを伴いながら、共に目指すべき組織をつくり上げている、ヒリつくような現場がここにはある。

「働きがいといえば、any」。目指すこの未来は、美しい理想論ではなく、泥臭い自己変容の連続の上にのみ築かれる。この2026年、新たなフェーズを迎えたany。清水氏の言葉から、数字と働きがいを高い次元で両立させるマネジメントの挑戦を、一緒に考えていきたい。

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優しいだけの「心理的安全性」が組織を希薄化させる?MRR5倍成長に直結するカルチャー投資

スタートアップ・ベンチャー企業と言えば「ハードワーク」が当たり前とされていた2000年代、「心理的安全性」の言葉がバズワード化し始めた2010年代。そして時が経ち、スタートアップエコシステムが成熟しながらも、市況悪化により優勝劣敗が明確になってきた2020年代。

さまざまなスタートアップが、創業期から“組織・カルチャー”に意識を傾け、自分たちのあるべき姿を模索し、試行錯誤するようになっている。

清水会社や社会から求められる仕事(価値創出)と、自分自身のWill(「これがしたい」という気持ち)を、重ね合わせる。そうすることができれば、その人の人生は生きがい・やりがいに満ち溢れ、無限の可能性が開けると考えています。

私は、メンバーの一人ひとりに、自分で自分の可能性を信じて、その「主体的な生き方」を取り戻してほしい。その手伝いがしたいというのが、私の根源的な願いなんです。

「心理的安全性」あるいは「人的資本経営」という考えから、「とにかくメンバーの感情に寄り添う、衝突のない優しい環境でなければならない」と誤解する企業やビジネスパーソンは、今も少なくない。

特に、心理的安全性は決してゴールになるような考え方ではない。あくまでも手段の一つであるはずだ。

清水氏らが目指すのは、友人関係のような表面的な「相互理解」から抜け出し、事業を前に進めるためのプロフェッショナルチームとしての「相互信頼」が強化され続ける状態だ。そのための一歩目になるのが「自分を知る(自己認知)」ことである。心理的安全性は、その厳しいラーニングゾーンに居続けるための足場であり、「耳が痛くても、言うべきことを言い合うため」の考え方だ。

清水個人や組織が成長するための「アンラーニング」や「内省」では、「自分の嫌なところを見つめる」ということが不可欠。向き合えば向き合うほど、「辛い、見つめたくない」と本音では感じるはずのことなんです。

「そういうことに真っ向から向き合い続けていくべきなんだ」という強い想いがなければ、anyには合わない。そのように、面談・面接ではっきり伝えています。

なぜそこまで求めるのか。その目的は当然ながら、スタートアップとして、常に事業を最大・最速で伸ばすためだ。清水氏自身も、組織開発やカルチャー浸透に強い想いを持っているわけではあるが、それらは常に「事業を最大・最速で伸ばし続けるための考え」として整理されている。anyとしてもこの2026年、“既存事業の黒字化”と“新規事業による非連続な成長”という難しい2つの目標を同時に掲げるフェーズへと進み、全社一丸となり追いかけている。

出典:any株式会社コーポレートサイト

清水実は、メンバーが増える中で、言葉の解釈の違いが表面化したり、カルチャーを大事にしてきた流れの理解にギャップを感じ合ったり、そんな場面もじわじわと出てきました。

たとえば、「『any的性格』(バリューの一つ。上図参照)に則ろうとして、全てをポジティブに捉えようとするゆえ、ネガティブなことを言い出しにくい雰囲気が漂っていそう」と発言してくれたメンバーがいました。この言葉が出たこと自体はとてもありがたかった。

でも、本来みんなとつくりたかった組織は、そうじゃない。言いたいことが言えない組織じゃない。伝えなきゃいけないことを伝えられない組織じゃない。そんな組織にはしたくない。

提供:any株式会社(社内イベント『anyDAY』でのスライド)

心理的安全性は、好き勝手に「言いたいことを言うため」にあるのではなく、事業を一歩でも前に進めたいという想いから「言うべきことを言い合い、建設的な議論をするため」にある。

共に信頼し合い、侃々諤々(かんかんがくがく)と議論するからこそ、新しいイノベーティブなアイデアが生まれ、事業を最大・最速で成長させていくことができる。それに相前後して、メンバー一人ひとりがさまざまな挑戦をして、成長していく。

スタートアップは原則として、そこまで多くはない人数で、大きなレバレッジを利かせながら大きな勝負をしていくものだ。だからこそ、個々人の成長スピードは、組織の成長スピードに大きく影響する。そのために、心理的安全性はある。

事業成長という至上命題があるからこそ、経営陣はメンバー全員にタフな自己変容を求め、経営陣を含めた一人ひとりが同様に自身の大きな変容を追求し続ける。そんな状態を、一切の妥協なく永続的に目指そうとしているのが、anyというスタートアップだ。その象徴的なエピソードとして、まず、ある社内異動の例を紹介したい。

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盲目的な愛着を剥ぎ取り、個人の「Will」を明確に──意図的な「揺らぎ」がもたらす深い自己認知の痛み

組織づくりにおけるカルチャー施策への興味関心が強く、anyという会社・組織に愛着を持って仕事に取り組んでいた女性メンバー。所属していたのは、清水氏が立ち上げたTeamship Design室(現TeamWill & Culture室。カルチャー推進や組織開発を担う)という、anyを象徴するようなチームだ。

上長でもあった清水氏は、敢えて本人のWill(やりたいこと)から一旦切り離し、全く毛色の異なる「IPO準備室」という部署に異動してもらうべきと考え、打診した。

清水彼女は、「この大好きなanyという会社で、創業期のカルチャーづくりを自ら推進したい」という強い想いを持ってくれていました。私自身も非常に素敵なことだと感じていましたし、こうした想いを持つメンバーがもっと増えてほしいとも感じていました。

ですが、経営陣として一歩引いて、将来の事業成長から逆算して考えれば、そんな彼女にもさらなる成長可能性がないかどうか、私ももっと考え続けるべき。そう思って対話を重ねていくと、「人生やキャリアの軸の部分にまだまだ伸びしろがありそうだ。もしかしたら盲目的に“カルチャーづくりが大切なはずだ”と感じて突き進んでしまっているのかもしれない」といった部分が見えてきました。

組織づくりへの貢献は、もちろん重要です。しかしその前に、自分自身の人生・キャリアの軸がはっきりしていなければ、組織づくりや事業成長に本気でコミットし続けられなくなるタイミングが来てしまうのではないか。

だから一旦、「好き」「やりたい」と感じているカルチャー施策の担当を手放してもらい、以前から彼女が持っていたバックオフィス領域に近いポジションで、今後の会社の成長に必要なスキルや経験を積んでもらいたい。そしてその業務に向き合いながら「それでもanyにいる意味は何なのか?」という問いにも向き合ってもらおうと考えたんです。

やりがいと愛着を感じていた担当業務からの、突然の異動打診。ショックで涙も流しながらも、期待に応えたいという葛藤との戦いの末、打診を受け止め、承諾した。そして新しい担当業務に取り組む日々の中で、彼女は強烈な内省を迫られることとなった。

「なぜ今、私はこの仕事をしているのか?」「なぜ私は、こんなにもanyにこだわるのか?」

そんな問いと向き合い続け、やがて彼女は、「まわりの一人ひとりだけでなく、そのさらに先の一人ひとりを笑顔にしたい」という自分自身の根源的な想いに気付く。それはまさしく、anyが掲げるTeamWillと結びついている事実に、誰に言われるでもなく自ら気づいたということだ。

自己変容のステップ例
表面的な好みや、盲目的な憧れ
「会社が好き」という居心地のよい依存状態など
意図的な揺らぎ
あえて未経験・想定外の環境に身を置く
自己認知の痛み
「なぜここにいるのか」「なぜこんなことをしてきたのか」
などの強烈な内省
新たな 気づきからの、真の自律
自分の意志でふたたび、自己の在り方や、
会社への帰属意識・所属事態を考える

取材内容等を基にFastGrowにて作成

盲目的に会社とのつながりを信じかけていたところから脱皮を果たした彼女は、シリーズBラウンドの資金調達活動に数カ月間取り組む中で、多くの成果とやりがいを得た。

清水リスクもあった異動の打診でしたが、この決断に、私自身の迷いは全くありませんでした。なぜなら、彼女がいつか会社を背負うリーダーの一人になると信じていたし、そのために必要なステップだと確信していたからです。

「いつか自分以外でカルチャーの旗を振るとしたら彼女かもしれない」と感じていました。でも、当時のままでは距離があった。だから異動を打診しました。もちろん、ただ突き放すのではなく、異動先の上長としっかり目線を合わせ、組織として彼女を受け入れる体制をつくった上で。すると結果として、それに応えるようにその新しい現場で奮闘してくれた。

こうした“答え合わせ”は、後からしかできません。決断や打診のタイミングで私自身に迷いはなかったものの、どう転ぶかはわからない。私たち会社側は、良い方向に転がるように信じて、しっかり支援し続けることしかできません。だからこそ、相手に向き合うこと、「個人のWillとVMVの重なり」を確認し続けることが大切だと思っているんです。そして今、彼女は改めて、TeamWill & Culture室に戻って活躍してくれています。

一人ひとりの可能性を信じ続けるのがanyという会社だ。だからこそ、コンフォートゾーンにとどまることを良しとせず、時には厳しい場面をつくりながら、深い自己認知やアンラーニングを喚起する。

このカルチャーは、経営陣によってつくられたものではない。痛みを伴う深い内省を経て、自らの意志で会社と新たな結びつきを捉えていったメンバーたちの、強靭な「自律」によってつくり上げられているのだ。

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スキルだけでなく“視座”を変える。成人発達理論で進める「垂直的成長」

ここまでに見てきたような痛みを伴う深い内省を経て、真の成長に向けてもがき続けるのが、anyの経営陣・メンバーたち。

なおanyにおける「成長」とは、単に実務の処理能力を上げることではない。スタートアップにおいて、「成長」という言葉ほど解釈が分かれ、雑に使われているものはないだろう。「成長はすべてを癒やす」と言われるが、その多くの場面で、短期的な売上やわかりやすいスキル獲得ばかりがフォーカスされている。

前回の代表吉田氏のインタビューでも語られたように、anyでは、スキルの獲得や業務経験を積む「水平的成長」の足し算だけでは、個人や組織は十分に強くならないと考えている。事業がスケールし、組織が複雑化するフェーズにおいて、個人のスキルセットの拡張だけでは、anyが掲げる「TeamWill(チームの成果の最大化)」には到達できない。

清水2023年にβ版として創業して最初の人事制度を施行した際には、まずは“anyらしさ”を敢えて意識せず、ベーシックなもので運用していくことにしたんです。その後の運用の中で自然と染み出て蓄積されたものこそが、本当に制度化すべき“anyらしさ”になる。そう考えてきたからです。

それから2年が経ち、ついに本物のanyらしさとして「ビジョンからカルチャー、そして事業へとつながる一貫性」という強みが、はっきり見えてきました。

【創業期】あえて「型」だけに留める
トップダウンの「嘘」を徹底して排除
▼ 2年間の現場実践で「らしさ」が蓄積 ▼
現場から「本物のらしさ」が染み出す
ビジョン・カルチャー・事業の一貫性を確信
▼ 確信を「独自のOS」へ実装 ▼
【現在】垂直成長を促す独自制度へ
成人発達理論を組み込んだ人事OS

取材内容等を基にFastGrowにて作成

清水事業も明確に伸び始めたことからも、これがanyらしさなのだと確信を持てた。

このように現場から染み出してきたものを、正式に人事制度の構造に組み込もう。そんな順番で考えて、取り組んできました。

「働くこと自体が成長体験になって、それがプロダクトに還元され、社会の価値として循環されていく。」そういう構造をつくっていきたいと考えたときに、「できることが増える水平的成長」だけが評価される組織では、絶対に不十分。

そこに成人発達理論を取り入れて、人としての視座を引き上げる垂直的成長を促す仕組みを入れられると、まさにめちゃくちゃanyらしい制度になると思ったんです。

垂直的成長とは、過去の成功体験を手放し、前提を捉え直し、「見える景色を変える」ことだ。周囲の期待に合わせる他者依存の段階から、自分の明確な軸を持つ自己主導の段階へ。そして、その軸すらも全体の中の一部であると俯瞰し、統合的な意思決定ができる段階へと視座を引き上げる。これは、仕事の主語を「自分」から「チーム」へと強制的に書き換えるプロセスでもある。

売上や行動KPIといった客観的指標で評価を下すのが定石のスタートアップにおいて、個人の内面的な変容を評価制度に組み込んだのだ。

とはいえ、成人発達理論を学問として学ぶだけで、人の視座が上がっていくことなどない。そして、人の視座をアップデートするだけでも事業は伸びない。引き上げた視座を顧客価値へと直結させ、客観的な行動として評価するには、それを血肉にするための現場が必要不可欠だ。その最適な現場の一つとして選ばれたのが、anyにおいて昔から重要販売チャネルに位置付けられていた「展示会への出展」だった。視座を引き上げていく場としての役割が強まるよう、運用方針などのアップデートを図っていった。

清水私たちはもともと、販売チャネルとしての展示会に全員で取り組んでいて、社内ではこれを「ナレッジ・カルチャー・TeamWill」が可視化される“anyの縮図”と呼んできました。

激務が続く1〜3日間ほどの中で、とにかくチームで高速にPDCAを回すんです。振り返りをして直後あるいは翌日にすぐに変えて、また検証する。全員でモメンタムを醸成しながら、一つの目標に向かってひた走る。お客様とオフラインで接点を持てる展示会をとても大切にしてきました。

そんな展示会もこの機会に、改めて個人が成長できる機会としても捉え直しました。

ブースを取り仕切るリーダーをメンバーに任せることにより、展示会を通して内省と実践を繰り返し、水平的にも垂直的にも成長するきっかけをつかめる機会として位置づけています。

限られた時間の中で、顧客の一次情報を得ては、ブースでのおもてなしやトークスクリプトといった体験設計をすぐにつくり変える。役割分担を俯瞰し、全体の雰囲気づくりまで自分ゴト化して取り組む。自分一人の仕事に閉じず、周囲と関係性を構築し、チーム全体の成果に向けた統合的な意思決定を下せるかが試される。

anyは、このような「顧客価値を前に進めるための責任と連携の設計」を、全職種横断の事業OS『FDX(Forward Deployed X)』としても定義している(詳細は代表吉田氏インタビューにて)。そして展示会というタフな実践の場で、視座の転換(人のOS)とFDX(事業のOS)をかみ合わせる試行錯誤を行う。そうした積み重ねが、冒頭でも紹介したNET NEW MRRの前年同期比約5倍といった成長を生んでいるのだ。

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「言いたいことが言えない組織」への危機感から紡ぎ直すカルチャー、そして組織構造デザインという挑戦

個人の痛みを伴う深い内省と、展示会のような過酷な現場で求められる高いアジリティ。anyがメンバーに要求する成長の基準は、極めてタフだ。

それでも、彼らはこの厳しい環境から逃げ出すことなく、高い熱量で会社と結びつき続けてきた。anyがDAY1から徹底して構築してきた「組織の土台」によって、スタートアップが事業を急拡大させるフェーズにおいて、多くの経営者が直面する「30人の壁」も、難なく乗り越えた。

清水正直、壁を突破した感覚はないんです。壁の存在は感じず、気が付いたら乗り越えていたというのが正確なんです。

そもそも壁の存在は、スタートアップに挑戦してくれた先輩たちの言葉でわかっているはず。それなら、ぶち当たらないよう事前に対処したいと思っていました。

anyはそのために、まだ社員数が一桁の頃からカルチャーへの投資を惜しみなく続けてきました。

従業員が40人規模になったとき、1年以上ずっと在籍している古参メンバーと、1年未満の新しいメンバーがちょうど半々でした。でも、社内に分断の空気などはなく、「これが今のanyだ」と自然に捉えている自分に気が付き、「30人の壁を気付かないうちに超えていたんだ」と実感しました。

多くの企業が壁に激突する原因は、明確な設計ミスにある。事業が伸びたからといって、その成長を支えるための機能的補完(スキルマッチ)だけを求めて採用を行えば、当然ながら組織の思想に歪みが生じる。

と、後で振り返るのは簡単だ。その渦中にいる起業家も、CxOも、メンバーたちも、実際に壁にぶつかるまで、その危機に気付くことはほとんどない。

清水スタートアップの“あるある”として、事業を急拡大させるフェーズで、どうしても「事業を回すための頭数合わせ」の採用をしてしまう。そうすると、会社の文化やありたい人物像との間に不整合が起き、後で組織が壊れる。

ここまでは誰もがわかっているはずなのに、対応しきれる例が意外と少ないと感じていました。

「事業を伸ばし続けるため」の「組織」に、並々ならぬ想いを抱える清水氏。「どのスタートアップも躓くから仕方がない」という感覚などはなく、ひたすら「あるべき組織を、どうつくっていくのか」にフォーカスしてきた。

清水他社の事例をまねたわけでもなんでもなく、選考フローの中にカルチャー面談を2回も組み込む設計にしていました。候補者側にも、私たち側にも、負担はかかりますが、こちらの大切にしていることを同じ熱量でお伝えし、それが物語として届き、ビジョンに対して繋がりを感じた人が入ってきてくれるんです。

金銭的な対価や役職をはじめとする条件面を中心に考えをすり合わせても、環境が変化すれば、その中での信頼関係は容易に崩れる。だからこそ、anyは「なぜこの場所で共に戦うのか」の物語を語り、個人の人生と会社のビジョンを強烈に同期させることを常に目指してきたのだ。

壁を作らせない「物語(ナラティブ)」の先行投資
【一般的】スキル補充型
● ● ●
機能重視で思想がバラつく
30人規模で分断の
「壁」が出現
VS
【any流】物語同期型
意味的報酬で意志を統合
DAY1からの投資で
壁を無効化

取材内容等を基にFastGrowにて作成

清水「金銭的報酬」だけで誘うのではなく、ビジョンやカルチャーに共感してもらうという形での「意味的報酬」こそが、何よりも重要です。その可否は、結局のところ、「いかに企業の物語を語るか」に尽きます。

ロジックが通った説明ができることと、人の心を動かす物語を語ることは、まったくの別物です。その物語を語れる人が多くいる組織こそ、メンバーや採用候補者から深い意味的報酬を感じてもらえる。そうして、社内外に強烈なエンゲージメントを生むのだと考えています。

この“物語”への先行投資により、すでに50人規模まで順調に拡大。そして今、次のマイルストーンとなる「100人の壁」までの拡大において、事業成長を続けながらもカルチャーを薄めず、むしろ濃くしていこうという挑戦をしている。

「人数が増えるとカルチャーは希薄化していく」。一般的にはそう言われる。しかし清水氏は「カルチャーフィットした人が増えれば、火はどんどん大きく、熱く、明るくなるはずだ」と信じている。

まずは組織拡大に向け、外に向けてanyの魅力を発信し、素晴らしい仲間が集まり続けている手ごたえを感じてきた清水氏。しかしその一方で、組織が約2倍の規模に拡大する中、自身のエネルギーの方向が外向きになりすぎていたかもしれないという気付きも得る。

清水改めて今、ここにいるメンバーと「どういう組織をつくりたいか」の意識をすり合わせ続けたい。これが、大切にしてきたカルチャーを50人や100人という規模でまた紡ぎ直していくことでもあると思うんです。

拡大した人数が一枚岩になって事業を最大・最速で進められれば、大きなインパクトを出していくことができる。でもそれを頭で理解しているだけでなく、毎日、高い強度で実行を続ける組織になっていっている必要がある。

もしかしたら、「anyは大丈夫」という気持ちがあったのかもしれない。気を引き締めなおして、事業成長にもさらに向き合っていこうとしています。

清水氏はすぐに、月に1回の全社オフラインMTG「anyDAY」でメンバーに問いかけた。「今のanyで、『anyらしくない』と思うところはある?」と。すると、驚くほどたくさんの意見が出てきた。本記事セクション1で紹介した「ネガティブなことを言い出しにくい雰囲気が漂っていそう」という声もその一つだった。

そしてさらに「どうなっていきたいか」を聞いたところ、それを上回る熱量のアクションプランがメンバー自身から次々と提示されたのだ。

清水こちらが問わなくても、ちゃんとありたい姿との差分を提言し、自分たちで自分たちをアップデートし続けられる。そんなanyを今いるメンバーとつくっていけると確信しました。

ここで大事なのは、カルチャー構築を目的にしないこと。事業を最大・最速で伸ばしていく過程の組織行動を明確にデザインしていき、強度高くそれを続けることで、事業も組織も理想状態にどんどん近づいていく。そんな挑戦がまた始まったところなんです。現在anyでは、「20名の絆を40名で紡ぎ直し、60名へと繋ぐ」を掲げ、全社一丸となり取り組んでいます!

提供:any株式会社(社内イベント『anyDAY』でのスライド)

組織の壁を恐れるのではなく、正面から受け止め、自分たちの手で壊し、つくり直す。この泥臭い実行強度と熱量こそが、anyの成長を支える最大の武器なのだろう。

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経営陣が「組織の天井」であることを認め、自ら壊し続ける──自律した個がanyを選び直す「意味的報酬」の極致

事業を最大・最速で伸ばすため、メンバーに自己認知の痛みを伴うタフな変容を求める。しかし、もちろん、他者に求めるばかりではないと、清水氏は強調する。要求水準が引き上がり続けるこの環境において、最も強い危機感を抱いているのは常に、他ならぬ経営陣自身だ。

組織の限界は、メンバーの質で決まるのではない。メンバーがどれほど成長しようとも、それを受け止める側の器が小さければ、組織はいずれ行き詰まる。清水氏は、経営陣が成長の限界(≒アッパー)になることを何よりも危惧している。

清水たとえば、いざ上場するだとか、今とは全く異なる事業展開を始めるだとか、そういうタイミングが来た時の経営陣として、今の自分たちが十分な存在かと言えば、全然足りていない。

つまり、私たち自身がこの会社の成長のアッパーになり得るんです。だからこそ、誰よりも成長しなければならないと強く思っています。

私は組織を常に逆三角形で捉えています。トップである吉田が一番下にいて、私たち経営陣がどれだけの度量(器)を持っているかで、上に乗せて支えられるメンバーやその挑戦の数、さらには想いの総量が決まっていく。

メンバーが成長すれば、その分だけ重みも増すわけです。私たちが器を広げ続けなければ、みんな安心して成長できないですよね。

メンバーの挑戦を支える「逆三角形」の構造
支配・管理の形
一般的な組織
経営層
▼ 管理
管理職
▼ 管理
メンバー
・経営層が具体的に指示できる内容が、管理職の仕事の中心になる
・管理職が具体的に指示できる内容が、メンバーの仕事の中心になる
・上意下達による管理・指示による組織運営となる
天井を壊し続ける支援型
anyの組織
全メンバー
高い目標に向かって日々挑戦し続ける
▲ 力強い支援・拡張
any的マネージャー
接続し、変化し続ける
▲ 土台となる度量
経営陣
器を広げ続ける
◎経営陣は、最底辺で、器を広げ続けることが至上命題になる
◎メンバーは、マネージャーや経営層のイメージを超えて挑戦し続ける
◎メンバーが限界を感じず、安心して大きく成長していける

取材内容等を基にFastGrowにて作成

経営陣が自らの限界を認め、ビジネスオーナーとしての責任において組織の天井を壊し続ける。その覚悟があるからこそ、メンバーに厳しいラーニングゾーンを提示できるのだ。では、彼らはこのタフな生態系を通じて、どのような人材を育て、どこへ向かおうとしているのか。どこでも通用する優秀な人材を輩出する会社を目指すのかと問うと、清水氏は明確に首を横に振った。

清水ある時、吉田から「私たちはリクルートやサイバーエージェントのような人材輩出会社になろうとしてるんでしたっけ?」と聞かれたことがあります。私は「違うと思います」と答えました。

視座が上がり、自律していくということは、自分の人生を選ぶ力がつくということです。私たちが目指すのは、その選ぶ力がついた人たちから、何度も「やっぱりanyで大きな挑戦をし続けたい」と選び続けてもらえる会社になることです。

メンバーが成長していけば、会社に求めるものも変わります。それでもanyが良いと感じて選び続けてもらうためには、会社側も大きく成長し続けなければならない。

同じく会社が成長していけば、メンバーに求めるものも変わります。フェーズに合わせた強度に自らをアップデートしながら、WillとVMVの重なりを確認し続け合うことが大切。

この相互作用が働くから、個人と組織が共に成長していける。そんな会社を目指したいし、そうしていく責任を感じています。

「数字を追うか、働きがいを取るか」という古びたトレードオフに甘んじるのは、もう終わりにしよう。anyが証明したのは、妥協なき規律で事業を圧倒的に伸ばすヒリつくようなプロセスそのものが、個人の「本気の働きがい」へと昇華されるという事実だ。

提供:any株式会社

衝突のない生ぬるい環境に、真のエンゲージメントは宿らない。痛みを伴う深い自己認知を越え、自らの意志で「このチームで戦う意味」を掴み取るからこそ、メンバーは何度でもanyを選び直すことになるのだろう。

本物の働きがいとは何か。その答えを探すなら、anyの実践から学ぶべきだと言えよう。今日も彼らは泥臭く自身の器を広げ、「働きがいといえばany」というスタートアップの新たな理想を体現しようと奮闘している。

こちらの記事は2026年06月30日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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