「nice to haveではなく、must haveを生み出せ」
カンカク松本氏&クオン水野氏はいかに事業案の成否を見極めるのか?〜U-PRODUCEパネルトーク〜
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数十億円単位の資金調達も珍しくなくなり、低コストで起業直後の経営管理を支援するSaaSサービスの誕生によって起業のコストも減少した。しかし、環境が整ったとしても、事業を成長させられるのは一握りの起業家だけだ。では、その“成功素養”とは何だろうか。
幾度も事業を成功へ導いた連続起業家の思考をたどり、成功法則を見つけるべく、2019年10月にユナイテッドとFastGrowは「シリアルアントレプレナーの思考を紐解く。事業家3名に学ぶ、『急成長する事業アイデア』の見つけ方」を共催。ユナイテッドの役員陣に加え、元メルペイ取締役で現在はカンカク代表取締役の松本龍祐氏、クオンCEO・水野和寛氏が集まった。会場には、起業志願者も数多く参加した。
本記事では、松本氏と水野氏が登壇し、フォッグの関根佑介氏がモデレーターを務めたパネルトークの様子をレポートする。テーマは「事業アイデアをいかに発見し、成長させるのか」だ。
- TEXT BY KOHEI SUZUKI
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
「インターネットとリアルをつなぐ」ことが、事業づくりの軸だった
2019年7月にメルペイを退職した後、カンカクを立ち上げた松本氏。現在は完全キャッシュレスのカフェ「KITASANDO COFFEE」を運営し、自社で決済アプリを開発するなど、試行錯誤しながら、新しいテクノロジーと生活のあり方を探っている。
メルペイという決済周りのプラットフォームを立ち上げていた松本氏は、退職後、「インターネットとリアルをつなぐ」ことを軸に、新しい事業の構想を練った。
松本リアルとインターネットを組み合わせるビジネスを選んだ理由は、市場の可能性です。インターネットの白地が少なくなっていくなかで、リアルな業界がインターネット化していく領域に、巨大なマーケットが眠っているのではないかと考えたからです。
副次的な狙いとして、複雑なサービスを構築して、参入障壁を高める狙いもありました。最近では、本日集まったみなさんのように、若くして起業する方も増えていますからね。
それに、実際にモノと触れる体験のほうが、ディスプレイで見るだけより、ユーザーにも共感してもらいやすい。いまD2C(Direct to Consumer)サービスが注目を集め伸びているのも、モノが届いたときに触れる感動が大きいからだと思うんです。SNSで思わず誰かに拡散したくなってしまうのではないかと考えています。
そう話す松本氏は直近でもスーパーマーケット事業を構想したこともあったが、仮に小さな店舗であっても商品数は1000を超える。そこで、より小規模で、商品数が少なく始められるカフェの経営にたどり着いた。
対してクオンの事業は、SNSで使われるスタンプのキャラクタービジネス。起業後、水野氏が最初に挑戦したのはチャットアプリだったが、続々と大手競合が現れ、思うようにグロースしなかった。
次に挑戦する領域として「コンテンツ」に目をつけた水野氏は、“グローバル×オフライン×オンライン”を軸にしたサービスをつくることを決意。そして選んだのが、低資本で始められ、言語の制限を受けずに海外展開できる「キャラクター」だった。
水野今は日本と中国、タイを拠点に活動しており、世界中のさまざまなチャットアプリで弊社のキャラクターを使ってもらえています。ニッチな領域ではありますが、世界で最もキャラクターをダウンロードしてもらえる会社に成長しました。
社会の流れを先読みし、ニーズを拾わなければいけない
現在でこそ起業家として活躍する二人だが、意外にも「起業には興味がなかった」という共通点があった。
松本氏は学生時代に主催していたイベントをきっかけにカフェ経営をはじめ、紆余曲折からの起業。水野氏は大学生時代に音楽雑誌で編集者のアルバイトを経て、大学卒業後にそのまま入社し、子会社社長を経験した後にクオンを立ち上げた。
つまり、きっかけ一つで起業家の道を歩むことは、誰にもあり得るという後押しともいえる。では、いかに事業アイデアを生むのか。関根氏からも「事業の立ち上げで意識していることは?」という質問が投げかけられた。会場の起業志願者たちにとっても、注目したいトピックだ。
松本氏は「市場が大きいこと」「自分がワクワクできること」を条件として挙げた。しかし、たとえ市場が大きくとも、BtoC事業のほうがワクワクするため、BtoB事業は立ち上げない方針だ。
以前は「ビジネスアイデアは他所から持ってくる」と考えていた時期もあったが、現在は社会の流れを先読みしてニーズを拾うという。「社会の流れが早くなっているから」だと話す。
松本他にも、最近気になっているのは、ハードウェアとサブスクリプションをかけ合わせたようなサービスですね。
たとえば、遠隔で猫を見守るサービスの「Catlog」。首輪型のデバイスを使い、猫がどこで何をしているのかスマホで確認できるサービスを、サブスクリプションで提供しているんです。首輪を売った後も継続的な利益につなげられる上、熱狂的なファンがいる「猫」領域にサービスを提供しているのは、とても秀逸だと思います。
日本の強みである「キャラクター」は、さらに拡大できる
一方、水野氏が意識しているのは「サイクルを早く回すこと」。なぜなら、コンテンツ事業は顧客を獲得できず、芽が出ないまま死んでしまうケースが多いからだという。
そこで水野氏はテストマーケティングをせず、できる限り早くコンテンツを世に出す。そして、ユーザーからフィードバックをもらいながら、サービスを磨き上げていくのだ。
これまで主にデジタルコンテンツを扱ってきた水野氏は、元々リアルな商材を扱うのは億劫だった。だが、最近はモノを売るビジネスにも大きな可能性を感じているという。
それは、海外ではデジタルコンテンツを元にしたキャラクターグッズの売れ行きが好調だからだ。たとえば、シリーズBで約16億円の資金調達を実施した、中国企業の北京十二棟文化伝播有限公司は、国中の至るところにUFOキャッチャーを配し、デジタル発のキャラクターグッズを販売している。
水野海外に目を向ければ、キャラクタービジネスにはまだまだチャンスが眠っています。本来、日本はキャラクター分野に強い国ですから、さらにこの分野のビジネスは拡大できるはずです。
相談相手をつくり、1,000のアイデアを出す。二人が語る「起業の心得」
関根氏に「起業のリスク」について問われると、松本氏は「起業にリスクはない」と答える。「死ぬ」と思うことはあっても、実際に死ぬことはない。「もし生まれ変わったとしても、僕はまた起業する」と、松本氏は力強く言葉を並べる。
松本「失敗したらどうしよう」と起業に踏み込めない方も多いようですが、「起業して失敗した経験」を持つ人は、サラリーマンの全体数より圧倒的に少ない。希少価値がある人材といえます。よほどのことをして悪名を広めていなければ、起業して失敗したとしても、どこかの会社に雇ってもらえるはず。
そもそも今はお金がないとビジネスを立ち上げられない時代でもありません。クラウドファンディングを活用してもいいですし、予約注文制にすれば先行投資も必要ない。やり方を工夫すれば、少資本で誰でも起業はできるんです。
一方、起業ではなく「事業づくり」が好きな水野氏にとって、起業はあくまで手段でしかない。「会社にいながら事業をつくれるなら、社内起業のほうがリスクを避けられる」と語った。
水野後ろ盾がなく起業すると、資金調達から何から、すべて自分で行わなければいけません。社内で事業をつくるほうが、ずっと楽です。事業をつくることに興味があるだけなら、必ずしも起業する必要はないでしょう。
ただ、起業したほうが圧倒的に自由度は高い。同じビジネスをするにも、全力で仕事を楽しみたいなら、起業をお勧めします。
パネルトークの最後には、来場した学生たちへアドバイスが贈られた。二人はともに、事業について相談できる人間関係をつくる重要性を説く。
水野良いメンターや相談相手が近くにいるだけで成長が早まりますし、人に教わるだけで避けられる失敗は結構あります。だから、まずはすぐに相談できる相手が近くにいる環境をつくりましょう。そういった意味では、U-PRODUCEのような機会をうまく活用するのは、とてもおすすめです。
松本ビジネスのアイデアは「nice to have」では駄目で、「must have」なサービスでなければ成長しません。つまり、ユーザーが「あったらいいな」と思うものではなく、「これがなければ生きていけない」と思うものです。
しかし起業家は、自分のサービスを贔屓目で見てしまうことも多く、自分のサービスがユーザーにとってどのような存在かを、客観的に判断するのは難しい。的確な意思決定をするためには、相談相手になってくれる起業家のような大人を探すことが大切だと思います。
これから起業する人は、まずはたくさんのアイデアを出して、人にぶつけてフィードバックをもらうことから始めましょう。ビジネスは1,000個のアイデアを出して、3つのアイデアが成功する世界ですからね。
こちらの記事は2019年11月11日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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フリーライター。1989年、青森県八戸市出身。新卒で人材紹介会社に入社→独立して結婚相談所を立ち上げた後ライターに転身。スタートアップ、テクノロジー、オープンイノベーションに興味あります。
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藤田 慎一郎
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
特別連載UEP:事業が連続的に生まれ成長できる仕組み
5記事 | 最終更新 2019.12.06おすすめの関連記事
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