安易に調達はしない、でも自己資本を貫くのもエゴだと気づいた──エクイティに舵を切ったユニラボが明かす、堅実で誠実なスタートアップ経営論

インタビュイー
栗山 規夫

1980年北海道生まれ。大学卒業後、三菱商事株式会社を経て、2004年株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。2005年Eコマース営業部長、2007年ECビジネス部長、2009年同社執行役員を経て、2011年に見識を広げる為に独立。専門のIT・インターネット業界に限らず、大企業からスタートアップまで幅広い分野でコンサルティングや共同プロジェクトを経験しました。

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ホームページ制作、システム開発、ネット広告、コールセンター、OA機器、勤怠管理システム、WEB会議システム、税理士や社労士などの専門家……これらはすべて、とあるサービス一つで発注できる。ユニラボが運営する、BtoB受発注プラットフォーム『アイミツ』だ。

『アイミツ』は、ウェブ上で複数の業者を比較し、見積もりを取得できるサービス。要望に合わせて、コンシェルジュが最適な業者をマッチングしてくれる。2014年のリリースから利用者数は増加しつづけ、パンデミック対策を追い風に、オンライン上での受発注ニーズが加速。ユニラボの2020年12月期の売上高は、前年対比約170%まで伸びている。

ユニラボ代表取締役CEOの栗山規夫氏は「確たるニーズがある領域で、着実に事業を成長させることが得意だ」と語るが、彼が創業から約7年間、自己資本だけでユニラボを築き上げてきたことはその証左だろう。「長期的なゴールを見据えたときに、安易にエクイティ・ファイナンスを実施し、上場を目指していいのか?」と自らに問うた結果、創業期はまずは自己資本経営を貫く、という選択をしたのだ。

しかし、2019年、ユニラボは経営方針を大きく転換。総額21億円のエクイティでの資金調達に乗り出した。ユニラボが創業時から築き上げた自己資本経営を辞めたのは、そこに明確な目的と大義があったからだ。本記事では、栗山氏が目指す「堅実で優良な企業」の理想像から、安易に上場ゴールを目指さない、「誠実」なスタートアップ経営手法を考える。

  • TEXT BY TETSUHIRO ISHIDA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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モノタロウやインフォマートがロールモデル

2014年の『アイミツ』リリース後、ユニラボは2019年までエクイティ・ファイナンスでの資金調達を実施せず、外部へのPRも控え目だった。ローンチ当時に話題になったことを覚えている読者は、長い空白の期間があったと感じるかもしれない。

成長に時間がかかる経営方式である自己資本経営を7年間維持してきた背景には、代表の栗山氏が考える「堅実かつ優良な企業」という理想がある。言い換えれば、地に足をつけて着実に積み上げていくビジネスをつくる企業。ユニラボは確たる戦略と信念に基づき、選択的にスモールである姿勢を貫いてきたのだ。

栗山自己資本で着実に成長する経営は、エクイティ・ファイナンスを前提とした経営より難しいと思うことは、幾度となくありました。でも、私は昔からずっと、社員数十人でも効率よく回して、利益を生み出し続ける、サステナブルなビジネスをつくりたいと思っていたんです。創業時から「堅実かつ優良な企業」を目指して、「誠実な会社をつくろう」「インフラをつくろう」と言いつづけて実践してきました。

ユニラボが「堅実かつ優良」な企業として目指しているのは、「日本の商習慣を変える」ことだ。『アイミツ』を通して、日本企業のBtoB取引にはびこる“無駄”の解消に取り組んでいる。

たとえば法人が買い物をするときには、インターネットやパンフレットで情報収集し、一社ずつ資料請求する必要がある。また多くの受注業者は、営業マンと商談しないと見積もりを出してくれない。結果として、各社の見積もりが出揃って価格やサービス内容を比較するまでに、膨大な時間がかかってしまう。

BtoB受発注の市場規模は巨大で、この課題解決で世の中に与えられるインパクトは大きい。経済産業省のデータによれば、BtoB ECの市場規模は344兆円。さらに、「日本経済の数十パーセントはBtoB受発注で出来ている」と栗山氏が語るように、現在ユニラボが取り扱っている相見積もりはこの7年間で15万回程度に留まっており、一年間に何百万回と取られているもののほんの一部だ。

ユニラボが自己資本経営に成功したのは、「明確に存在する大きな課題の解決」に取り組んできたからだ。「明らかに世の中が求めているサービス」だからこそ、資金調達や派手なPR施策を打たなくても、堅実な事業成長を描くことができる。

栗山氏は「堅実かつ優良な企業」の好例として、工場用間接資材の販売を手掛けるモノタロウや、飲食店を中心とする受発注プラットフォームを展開するインフォマートの名前を挙げる。両者ともにメディア上でのブランディングは最小限に抑えながら、粛々と売上を伸ばし続け、上場後に大きな成長を遂げ、名実ともにインフラ企業となっている。

栗山「Facebookのようなグローバルユニコーン企業をつくる!」と言うのは、派手でカッコいいと思います。でも、私たちは地味でもいいから、「インフラをつくる」ことに取り組みたい。しっかり地に足をつけて、顧客が困っていることを解決していくことが大切だと思っています。

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創業期のディー・エヌ・エーで知った、上場企業の良し悪し

栗山氏が「堅実かつ優良な企業」を志向する源流には、2004年に入社した創業期のディー・エヌ・エーでの経験がある。

モバゲーができる以前、ディー・エヌ・エーは現在と比べると地味な会社だったという。CEOの南場智子氏は表舞台に出ることも多かったが、それ以外の社員は黙々と仕事に向き合っていた。

その後、栗山氏は入社から5年で執行役員となり、組織規模が100人から1,000人以上に拡大する急成長期を経験した。当時のディー・エヌ・エーは「世界のゲーム市場を過半を取る」を目標に掲げ、圧倒的なスケールで事業を拡大。栗山氏は優秀なメンバーと全力投球で仕事に取り組み、「大切なことは全てディー・エヌ・エーで学んだ」と語る充実した20代を送った。

だが、栗山氏は執行役員という立場で経営に関与するなかで、上場企業の良し悪しをどちらも肌で感じてきたという。一般に、株式による資金調達は、返済義務のない資金を得られる代わりに、株主から経営に関する説明責任を求められる。経営がうまくいっている間は問題ないが、厳しい時期には批判され、経営への口出しにより身動きが取りづらくなる。栗山氏の「選択的にスモールである」志向性は、上場のデメリットを体で理解しているからこそ生まれたといえる。

その後、栗山氏は30歳を節目に立ち止まる。30代という大事な時期に何をすべきかを悩み、「メガベンチャーの執行役員という立場よりも、小さくても自分の会社をやりたい」と考え、ディー・エヌ・エーを退職した。2012年にユニラボを起業。その2年後に『アイミツ』をリリースし、1年半で単月黒字化を達成した。

栗山市場規模と業界の負の大きさを考えたときに、BtoB受発注プラットフォームであれば、地に足をつけて顧客のニーズを満たす、堅実な事業がつくれると思ったんです。

しかし、堅実とは決して「挑戦をしない」という意味ではありません。自己資本経営をしていても、「小さくまとまろう」と考えたことは無いんです。上場しても2〜30億の売上規模で止まってしまう会社もあるなかで、私たちは1,000〜2,000億円規模のインフラ構築に挑戦している。どれだけやってもゴールが見えない、巨大な課題と対峙しているからこそ、チーム全体が「まだまだ全然やりきれていない」と前のめりに事業に取り組み続けられています。

言ってみれば、株主による介入を防ぐことと、大規模なインフラ構築という、一見すると両立が難しいものを共存させようとしていたわけだ。そして、その難題に打ち負かされることなく、彼は順調に事業を成長させてきた。

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エクイティ・ファイナンスを実施する前に、まずは黒字経営を目指せ

しかし、ユニラボは2019年、エクイティ・ファイナンスへと経営方針の舵を切る。2019年、2020年のたった2年間で、シリーズA・Bで総額21億の資金調達を実施。栗山氏の言葉を借りれば、「第二創業期」である。

栗山2018年頃から経営が安定化し、自分たちが何を実現したいのかを考え直したんです。その結論が、現在ビジョンに掲げている「受発注を変革するインフラを創る」です。

ユニラボが目指すのは、あくまで「日本の商習慣」を変えること。会社が成長していても、BtoB取引に無駄が多すぎる現状はほとんど変わっていません。そのことに気づいて、経営ビジョンを考え直しました。そうして目標が定まったとき、ようやくビジョンを実現するための資金調達が選択肢に挙がりました。

スタートアップ業界においては、「起業後はとりあえずエクイティ・ファイナンスで資金調達する」が定石となっているようにも思える。対して、ユニラボは創業直後から数々の投資家から声をかけられてきたにもかかわらず、外部資本を意図的に避けてきた。それでもエクイティ・ファイナンスに踏み切ったのは、先だって自己資本経営によって単月黒字化を達成し、会社としての基盤が固まっていたからこそだ。

栗山長期的なゴール、実現したい世界を見据えたときに、本当にエクイティ・ファイナンスを選んでいいのでしょうか? よく考える必要があると思います。上場のデメリットを肌で感じた経験があるからこそ、腹を決めるまで時間がかかりました。

本来、上場は目的を達成するための手段です。しかし、スタートアップは一度でも資金調達をすると、上場やM&A自体が目的してしまうことも少なくありません。「起業してすぐにシード期の投資で1,000万円程度を出資してもらい、その代わりに10%の株式を渡す」ことで、短期的なキャッシュフローは回せるかもしれません。でも、その結果「M&Aや上場ゴール」を目指して走り続けなけなければいけなくなる。

創業者は「この会社の目的はなにか?」「上場やM&Aにどんな大義があるのか?」を考えつづける責任があります。エクイティを使って外部資本を入れることで大義を見失うのであれば、安易に資金調達すべきではありません。本当に上場したり高い金額でM&Aされたりするポテンシャルのある事業であれば、売上もしっかり作れるはずです。

ユニラボは『アイミツ』の公開から1年半で単月黒字化を達成したことで、外部資本に頼らずにすみました。やりたい事業によって時間軸は変わりますが、まずは自己資本だけで黒字経営を目指すべきだと、私は考えています。

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資金調達とは「時間をお金で買う」ための選択

ユニラボが経営方針の舵を切った理由は、「受発注を変革するインフラを創る」ビジョンを実現するためだ。しかし、7年間積み上げてきた自己資本経営を辞めるのは、相当な覚悟が必要となるだろう。なにが栗山氏を後押ししたのだろうか。

栗山自己資本経営にこだわるのは、自分のエゴじゃないかと思ったんです。事業がスケールするなかで、「このままいけば、本当に受発注のインフラはつくれる」と手応えを感じ始めました。しかし、問題は実現までにかかる多大な時間です。

創業者は「10年かかっても、着実にビジョンを実現する」で揺るがないと思います。でも一緒に働くメンバーたちは、10年も待てるとは限りません。メンバーたちは会社のビジョンを信じて、貴重な人生を投じてくれている。だとすれば、みんなで高みを見るために、最短距離を走るべきではないかと思い始めたんです。

栗山氏は、社員全体を巻き込んで会議を行った。テーマは、「外部資本を入れず10年以上をかけてビジョンを達成するか」もしくは「資金調達してビジョンの姿を5年程度で達成し、その代わり上場を目指すか」だ。

写真提供:ユニラボ

結論は、「みんなで一緒にビジョンを達成するため、時間をお金で買う」エクイティ・ファイナンスへの方針転換だった。だが資金調達したからといって、闇雲に「上場ゴール」を目指すわけではない。現在のユニラボは、すでにマザーズの初期上場も狙える売上規模だという。しかし、あくまで上場は急がず、堅実に足元を固めている。

栗山資金調達をしたことで、人やオフィスに妥協無く投資できるようになりました。トップマネジメントができる執行役員などの人材が採用できるようになり、組織の強度が格段に上がっています。

とはいえ、その前提条件として、黒字経営をキープできていることに非常に安心感を持っています。自己資本経営時代のカルチャーが根付いているため、お金が入ったから赤字を垂れ流すのではなく、社員一丸となって経営管理に協力してくれるからです。

弊社のビジョンを信じて下さり、投資してくれた株主からもとても良いアドバイスを貰えており、関係性は良好です。資金調達には腹を括りましたが、今はやって本当に良かったと思っています。

2020年、ユニラボは“コンパス”(バリュー)を改定した。新しいバリューは、英語で “sincerely”や “integrity”を意味する、「まっすぐ」だ。この言葉は、栗山氏が創業から語りつづけた「誠実な会社をつくろう」を、正式に明文化したものでもある。かつてユニラボが理想とした「誠実さ」は、会社の姿が大きく変わっても、社員を幸せにする信念へと形を変えて残りつづけている。

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BtoB受発注の本丸、大企業へと攻め込む

2021年4月、ユニラボは上場に向けて、「2本目の柱」となる新サービス『アイミツCLOUD』をリリースした。『アイミツCLOUD』は、「企業を探す」「見積もる」「比較する」といった一連の業務を商談なしで行い、クラウド上で受発注情報を一元管理できるサービスだ。

栗山これまでの『アイミツ』では、まだまだ属人的なプロセスが残っていました。というのも、発注者と受注業者がマッチングしたあとに発注者が見積もりを取るためには、結局商談を行う必要があったからです。『アイミツ』は、「受注業者から紹介手数料を取る」モデルで運営されているため、受注業者の「対面で営業したい」要望を尊重せざるを得なかったんです。

『アイミツCLOUD』が導入を想定しているのは中堅・大企業だ。これまで、ユニラボの取引先は零細・中小企業が中心だった。なぜなら、大企業は昔から契約している特定の業者としか取引しないことが大半だからだ。

しかし、栗山氏はリサーチを重ねるなかで、大企業こそBtoB受発注の課題が山積みだと気づく。ユニラボが目指しているのは、「日本の商習慣を変える」こと──栗山氏は、大企業ともしっかり関係構築し、受発注の最適化に取り組むべきだと考えた。

栗山大企業の購買部は、ものすごい件数の発注を行っており、発注内容を精査しきれていません。また稟議、決裁者と担当者の違い、会社規定、与信調査など、業務が煩雑で負荷が大きい。

これまで、コンサルティング会社が「購買調達改革」を掲げて、個社ごとにBtoB受発注の最適化に取り組むケースはありました。しかし、まだSaaSでのBtoB受発注を管理できるシステムは例がない。受発注の業務フローやデータを整理し、大企業の中枢でしっかり動くSaaSをつくれれば、日本の生産性向上に大きく寄与できます。

大企業向けシステムの開発は、ステークホルダーが多く業務が多岐にわたる困難な仕事だ。だが、これまでのBtoB受発注の経験を活かしつつ、資金調達で集めたキャッシュを新たな事業開発への投資に回すことで、ユニラボはより大きな課題に取り組めるようになったのだ。

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サステナブルな成長には「人」こそ重要

ユニラボは資金調達前後から人材採用を強化。マネジメントの層が厚くなったことで、組織体制の確立に着手できるようになった。

栗山いま、ようやく上場できる会社になりつつある手応えがあります。とくに影響が大きかったのは、2018年にディー・エヌ・エー時代の同僚の柴田大介(代表取締役COO)が入社したことです。彼はディー・エヌ・エーの創業期から10年間、広告事業やHR・経営企画・社長室等で執行役員を担った人物で、上場企業のトップマネジメント経験が長く、非常にハイレベル。私と共同代表を務めています。

柴田以外のマネージャー陣も非常にレベルが高く、2021年春には執行役員制度とCxO制度を導入し、取締役・執行役員6名体制で上場に向けた体制作りを急ピッチで進めています。

今後2年間で採用を大幅拡大する予定なので、それぞれの分野のプロフェッショナル、優秀なマネージャーの下で働きたい人は、ぜひ話を聞きに来てください。

またユニラボは着実に上場へと歩みを進めているものの、「まだまだサービスは発展途上」だと栗山氏は語る。とくに『アイミツ』は、もっと売上を伸ばす余地があるが、人手が足りていない。

栗山まず『アイミツ』の発注者と受注業者のマッチングは、理想から逆算すれば、未だ完成度は高いとは言えず、誰もが満足する精度に達していない。『アイミツCLOUD』も、しっかり大企業に浸透するまで時間をかけて、完成度を高める必要があります。

近い将来の上場を見据えて、いまはもっと堅実に、サステナブルで価値がある事業づくりを進めたいと思います。

栗山氏は、ユニラボが求める人物像を「堅実であることをポジティブに捉えられる人」だと語っている。巨大なテーマを前にして、「まだやり切れていない」という想いを社員と共有し、少しずつ改善のアイデアを出しつづけられる人が必要だ。

明確な目的意識を持ち、簡単に資金調達はしない。上場を目指すならば、事業がサステナブルになるまで堅実に取り組みつづける。そして、上場やM&Aにどんな大義があるのか責任を持って考えつづける。

テック企業に倫理性が求められる現代だからこそ、ユニラボの目指す「堅実かつ優良な企業」の理想は、これからのスタートアップ経営の一つのロールモデルとなりうるだろう。

写真提供:ユニラボ

※本記事メイン写真提供:ユニラボ

こちらの記事は2021年07月09日に公開しており、
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執筆

石田 哲大

BizDev/ライター(モメンタム・ホース所属)。国際基督教大学(ICU)卒業後、ITコンサルティング企業を経て、ロボット系スタートアップの創業期に参画。スマート農業分野の商品開発にPdMとして従事。関心領域は、政治思想、文化人類学、環境学、カウンターカルチャーと音楽史。

写真

藤田 慎一郎

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

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