EVENTREPORT
林 千晶 樋口 泰行
18-01-05-Fri

日本人の完璧主義が成長スピードを遅らせる
パナソニック樋口氏×ロフトワーク林氏の働き方の考え方

TEXT BY REIKO MATSUMOTO
PHOTO BY YUKI IKEDA

11月10日、東京。渋谷100BANCHで企業トップの2人が“働き方”について語り合った。

対談したのは、パナソニック株式会社 代表取締役・専務執行役員/コネクティッドソリューションズ社社長の樋口泰行氏と
株式会社ロフトワーク代表取締役の林千晶氏。

新卒でパナソニックに入社後、日本ヒューレッドパッカード(以下、HP)、
ダイエー、日本マイクロソフトなどのトップを務め歩き、
今年25年ぶりに古巣に復帰した樋口氏と、
グッドデザイン賞のフォーカスイシューディレクターとして
「働き方の改革」を担当する林氏はそれぞれ、
これからの働き方についてどう考えているのだろうか。

樋口まずわたしの経歴についてざっとお話します。

新卒ではパナソニックに12年お世話になったんですが、当時は閉塞感が強くて、「何も考えずに同じ戦略で突っ走って長時間労働するのが正しい」みたいなカルチャーがまん延していたんです。

そんな中、「もっと自由にやれたら最大限に能力を発揮できるのに!」という思いが膨らみ、社費でハーバードのMBAに留学させていただきました。

樋口そのあとは、ボストン・コンサルティング・グループ、アップルを経て、HPを皮切りに3社で社長を経験したのですが、中でもダイエーは強烈でした。

ファイナンス的に苦境の中で、食料品、衣料品、日用品の3本を柱として扱っていたのですが、その分野のみにコミットしている企業には到底太刀打ちできません。

最終的に、差別化できるのは生鮮品と惣菜だろうと思い、それ以外はテナントで入ってもらって、野菜の鮮度向上プロジェクトを始動させました。

HPもダイエーも勤務期間は2年だったので、その次のマイクロソフトは長くやろうと10年間がんばりました。外資系企業のプレッシャーは日本企業の10倍くらいありまして、退任する頃にはとにかくヘトヘトになりました。

そして今年2017年にパナソニックに戻りました。様々な職場を経験したことで、日本企業の常識がグローバル視点で見ると非常識であることがよくわかったため、パナソニックの常識を近代化していくことに責任を感じたからです。

ちょうど来年は創業100周年を迎えるので、さらに100年続く企業にするための施策も考えているところです。

わたしは94年に花王に入社して、スキンケアや化粧品のマーケティングに携わることからキャリアをスタートさせました。そのとき、ダイエーさんにこの業界の厳しい側面を学びました(笑)。

「価格破壊」を打ち出してたからマージンの交渉も難しく、流通は厳しい世界だなと思っていました。当時はものづくりに一生懸命でしたが、97年頃、働き方に疑問を持ち始めたことをきっかけに、「働く」をテーマにしたジャーナリストになろうとアメリカに留学しました。

現地では経済記者として起業家に取材していたのですが、次第に自分も起業に興味を持ち始め、ロフトワークを立ち上げるに至ります。

樋口起業というだけで尊敬します。わたしは会社にしがみついて生きるしかないタイプ(笑)。

あと、ロフトワークではいろんなことを両立しながらやってらっしゃるけど、わたしはそれもできない。遊びと仕事の両立もできないタイプだから、人生のトータルでワークライフバランスがとれたらいいと考えています。つまり、引退してから遊べばいいと思ってるんです。

わたしから見た樋口さんは、多くの人が憧れている経営者。日本の起業も外資系も知っているだけじゃなく、それぞれの会社で成果を出してる稀有な存在ですよね。

樋口さんがパナソニックにもどられたとき、「日本の大企業がこれから変わっていくぞ!」と熱量があがった感覚を覚えています。そんな樋口さんから見て、日本の企業とアメリカの企業にはどんな違いがありますか?

樋口まず、12年間勤めたパナソニックを辞めたときは、「今までいた世界はなんてあったかい世界だったのか」と思いました。元上司に電話して「戻させてもらえないだろうか?」と相談したくらいです。

妻が「留学までさせてもらったところを自ら出ていったのに、なんて情けないことしてるの!」と尻を叩いてくれたおかげで次の会社でがんばろうと思えました。

パナソニックから転職した会社は、社員の70%が東大卒だということで足がすくんでしまいました。それまで「もっと自分の能力を使いたい!」であった悩みは、「自分はなんて能力が足りないんだろう」に入れ替わった。そこからまともに頭を使えるようになるまで3、4年かかりました。

それは大変な思いをされましたね。でも、いま振り返ってみるとその経験こそが考える力を伸ばしたとも言えるのではありませんか?

樋口パナソニックはパナソニックで、経営哲学や、日本の文化・文脈の中でのマネジメントを学ぶことができました。一方、アメリカは正反対の文化。両方の経験があってよかったと思っています。

仕事におけるスピード感の違いはあるんでしょうか?

樋口もちろんあります。アメリカは会社全体として、ステークホルダーや競合からのプレッシャーが強い。

強いプレッシャーがかかるから、勝つためには速く走らせないといけません。それが社員個人にものしかかりますし、なおかつそこでパフォーマンスが落ちたら雇用が保障されないため、働いている彼らの目の色が違いますよね。

確かに、日本にいると当然のように「1つのプロジェクトの立ち上げに2年かかる」と話す企業もあります。

日本はものづくりで、アメリカはソフト中心という違いがあるかもしれないけど、2年に1回の刷新となると成長スピードが全然違います。

樋口日本人は完璧になってからサイクルを回しがちだけど、そうすると成長が遅れる。英語の勉強も、まだものになっていないうちから口に出してしゃべる人達のほうが、習得スピードが断然速いですよね。

これから先は、日本の働き方って変わっていくんでしょうか?

樋口時代は変わってもいろんな価値観は存在するでしょうね。起業するもよし、一生懸命働くのはナンセンスだと思うならそれもよし。

特に我々くらいの歳になると、仕事ではなくて個人の生活を追求しようという人達が増えてきていますが、全員が個人のことばかり考え出したら企業も国もダメになる。

そういう意味で、この国をなんとかするためにがんばらないといけない。がんばることによって貢献して、貢献できたことに喜びを感じる部分があれば、どういう仕事かということにはこだわらなくていいのかなと思っています。

最近は、たとえば残業はよくないことだっていう風潮が広まっていますよね。「苦しまなくていいんだよ」というアティチュードだけだと、能力が育つためのプレッシャーもなくなってしまいます。

理想としては「なんとしてもこれがやりたい。そのためには辛いこともがんばれる」という状態ですが、実際は、やりたくないことをやらないといけないことのほうが多いのかもしれませんね。

樋口人間は幸せになるために生きてるとして、幸せの考え方って2つあると思うんです。

ひとつは目の前の幸せを追求することで、もうひとつは将来の幸せを追求するために今努力すること。

一番幸せなのは両方をうまく織り交ぜながら進んでいくことだと考えていますが、年齢を重ねるほどに、目の前の幸せを追求するウェイトのほうがあがっていきますよね。

でも樋口さんは今年になって古巣に戻りましたし、未来のみんなのために働き続けてるじゃないですか。

樋口わたしはゆっくりできない体質になっているんですよ。

例えば、会社でのランチ1つを取っても、食べることだけに集中できない。MTGやメールをしながら食べています。食べるものも「片手で食べられるもの買ってきて」とお願いして買ってきてもらっているくらい、ゆっくりできないんですよね。

貴重なお話、ありがとうございます。最後に、参加者からの質問を受け付けようと思います。

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【質問】留学したことで価値観や考え方に変化はありましたか?

樋口留学ではないですが、年齢を重ねるにつれて変わってきたところはあります。

30代のころは「もっと給料ほしい」とか「人より活躍したい」とかそんなことばっか考えてたけど、40代後半になって、働く仲間と喜びを分かち合いたいと思うようになった。

今でも、仲間と一緒に働いて成果を出すことが好きで、そのために仕事してるといっても過言ではないくらい。

日本の外に出て初めて気付けた、自分たちが持ってるもののよさってありますね。

外からの視点を持つことって簡単じゃないけど、日ごろからそういう視点の違いは意識するようになりました。

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【質問】僕は学生団体を運営してるんですが、みんなのモチベーションを高めることの難しさを感じています。「この人のためならがんばれる」と思ってもらうためにはどうすればいいですか?

樋口以前の会社で、本部から離れた店舗ほど適当にやってるという実態をみてきました。

学生のとき、先生がいたら一生懸命掃除するけど、先生がいなくなったら掃除しない人がいたと思うけど、あれと一緒。

でも、内なるモチベーションがあれば、先生がいなくても一生懸命がんばれる。例えば、ダイエー再生のとき、弁護士だとかアナリスト、元コンサルタントとかたくさんの再生のプロがアドバイスをくれた。けど、現場の人間の仕事に対する姿勢は変わらなかった。

樋口一方で自分たちと一緒に苦労してきた本部長から言われたら、「それならやります」とがんばった。

後者のようになるために何が必要かというと、たとえば「同じだけ苦労しているか」「共鳴できるか」「その道において並々ならぬ知識があるか」といったリスペクトされる要素があるってこと。そういうものを強く持ってる人であれば、おのずとそこについてくる人数も増えてくると思います。

[文]松本 玲子
[撮影]池田 有輝

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