THE MODELに忠実なCSは、もう古い?
急成長企業の独自進化を今、知る

カスタマーサクセスという職種名や役割名はかなり一般化してきたように思う。FastGrowでもいくつかの事例を紹介してきた。今やスタートアップ界隈だけでなく、大企業においても担当部署が生まれ、さまざまな活躍が見られる。

日本でもこのように広がってきた大きな要因が、書籍『THE MODEL』に表された、SaaSビジネスモデルにおける組織体制と役割分担の概念だ。「マーケティング→インサイドセールス→フィールドセールス→カスタマーサクセス」という一連の流れで理解している人も多いだろう。

それが昨今、企業によって独自の進化を見せ始めている。急成長スタートアップにおける実践例をこの記事ではまとめる。

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SaaSのスケールに欠かせない、「支社CS」立ち上げの美技──SmartHR・杉浦氏

ARR100億円を日本最速と思われるペースで突破し、成長を続けるSmartHR。全国的に他業界・他業種への展開を進めることができているからこそ、こうした事業成長が実現されるのだろう。

プロダクト、セールス、マーケティング……と、さまざまな面の強さが光る同社において、今回はCSに注目したい。それも、支社という地方拠点における立ち上げに、である。

この動きを牽引したのが、現在東京本社でカスタマーサクセスグループマネージャーを務める杉浦俊貴氏。そのストーリーから、まさに「ザ・カスタマーサクセスパーソン」である様子を見ていこう。

まず2020年に進めたのが、関西支社の立ち上げだ。そう、「既存の地方拠点におけるCSチーム立ち上げ」ではなく、「支社立ち上げ自体の推進と、その中でのCS設置」を担ったのだ。自ら異動を志願して。

支社を立ち上げるのは、初めての経験でした。やったことがない業務がたくさんあり、最初のうちは苦労しましたね。採用や売り上げに対する意識など、今までとは違う視点が必要な仕事でした。

(中略)

立ち上げのフェーズではとりあえず必要な部分だけを踏襲して、あとは地域特有の課題に対応すべく独自のルールを設定するようなスタンスで進めています。本来CSの仕事は契約中のお客様のサポートがメインですが、商談中の時点でセールスと同席して契約の後押しをしたり、関西でお客様同士のつながりをつくったりと必要だと思ったら進んで行動していましたね。

──PR Table社のメディア『talentbook』の記事「大切なのは“挑戦“と“伴走”──型にはまらない施策でつくるカスタマーサクセス」から引用

その後、地元である愛知県での東海支店立ち上げに参画し、さらに九州支社のCSチーム立ち上げも支援したという。ここまでくると、CSの範疇を完全に超えている。地方拠点のCSメンバーはどんどん増え、2021年6月時点で合計10名、2022年1月には合計20名、2023年3月には27名となっている。

そして2022年には、エンタープライズ顧客を対象としたCSチームを発足させた。ここではCSの活動のあり方や、必要となる組織連携、プロダクトへのFBといった点で、従来とは異なる施策の検討を多く進めている。

このように、国内トップクラスのSaaS企業においては、CSの業務範囲が非常に広く、そしてさまざまな挑戦が進められているということがわかる。

これから杉浦氏を中心に進めていくのは、より大きな課題解決だ。エンタープライズ(ナショナルクライアント)向けのCSでは、いわゆるプロジェクトマネジメントとしての役割が強く求められるようになると明かす。

導入事例のページでは、三菱重工業やイオンといった名だたる大企業の名前が並ぶ。これから一層、導入も広がっていくだろう。だが、「導入して終わり」ではないのがSaaSだ。単に継続していくだけでなく、効果的な支援により課題解決や事業成長に貢献すべく、杉浦氏らがこれからも奔走していく。

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進化したデザイン組織「Experience Group」だからできる、CXという大きな価値創出──AI inside・髙原氏

カスタマーに対して提供すべきことは、サポートか?サクセスか?いや、それらを包括して大きな価値を創出する考え方が、エクスペリエンス(Experience:体験)だろう。そんな考えに基づき、独自の組織開発を進めているのがAI insideだ。

1人目デザイナーとして入社し、CDOではなくCXO(Chief Exprience Officer)に就任した保坂浩紀氏が管掌するExperience Groupの中に、同社でCS関連業務を担うCustomer Experience Unit(CXを担う組織)は置かれている。なお、ほかにUX(User Experience)、EX(Employee Experience)、PX(Partner Experience)といった体験設計による価値創出がこのGroupの担務となる。

このCustomer Experience UnitでManagerを担うのが髙原楓氏。AdTechスタートアップでメディアセールスを経験した後、AI insideに入社してCS職にキャリアチェンジする。主にテックタッチのかたちで、エンタープライズを含む多くの顧客企業に対して、支援を行ってきた。

提供:AI inside 株式会社、Photo by Kento Hasegawa

以前はBusiness Group内に、Customer Onboarding UnitやEnterprise Customer Success Unitなど、CSとして対峙する対象企業の属性ごとに組織を分割していた。その中で2021年春に立ち上げたCustomer Growth Unitは、横断的にテックタッチでのカスタマー支援を行うチームだった。髙原氏はここで、組織化・仕組み化をメインで推進してきた。

以前は「テックタッチ型のCS」の仕組み化・型化をメインに活躍

次のステップとして、Experience Groupの中に場を移し、名称もCXと改めた中で追及するのが、文字通り「体験(エクスペリエンス)の洗練」だ。髙原氏が強調するのは、「ミッションの“AI inside X”実現に必要な環境であるツールや運用基盤、きめ細かなサポート、有機的なコミュニティ、さらに技術者の育成といったさまざまな支援を含む“体験”を、的確かつ持続的に提供していく」という見通し。

また、「エモーショナルコネクション」というキーワードも強調する。顧客の本音を理解し、できるだけ近くに寄り添い、新たな事業成長や新規事業の創出、さらには社会変革までも実現する。

最新のnoteはこちら

Experience Group のミッションは、「AI inside のステークホルダーとのあらゆる接点で一貫して期待を超えるエクスペリエンスを提供する」。ここでいうステークホルダーとは、従業員、顧客、取引先、株主など、あらゆる関係者を含む。その中でも顧客体験・CX領域をリードするのが髙原氏であり、Customer Experience Unitであるのだ。

提供:AI inside 株式会社

これからこのCustomer Experience Unitは、さらなる強化を図る。差し当たって増強するのは、テクノロジーの知見を活用してサポート体験の向上を担う、Tech Supportのポジションだ。

今後はCS職の技術理解・技術活用力を高めつつ、ビジネスコミュニケーションの洗練も進めることで、「より良いエクスペリエンスの提供」を進めていく狙いだ。

「グローバルNo.1のAIプラットフォームを目指す」と掲げているからこそ、いわゆるCS職においても先端技術の理解と応用は欠かせない。サポートでもなければ、グロースでもサクセスでもなく、エクスペリエンスの設計。この考えを突き詰め、独自の進化をさらに続けることを期待したい。

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顧客を味方にする。そんな「カスタマーサクセスの概念」とは──Asobica・奥村氏

顧客が製品やサービスを最大限に活用できるように支援するカスタマーサクセス。しかし、どうしても、収益成長率やアップセル率、チャーンレートなどの分かりやすい指標を追いがちになってしまう。もちろん、それも大事なことではあるが、そもそも「カスタマーサクセスとはなんのために存在しているのか」を思い出させてくれるのが、Asobicaの奥村 達也氏だ。

奥村氏は元々、上場前のまだ200名程度の規模であったマネーフォワードに入社。クラウド事業推進本部にて企業へのクラウド導入及び実行支援を担い、北海道支社立ち上げや直販チーム立ち上げに従事。セールスを中心にカスタマーサクセス、カスタマーサポート、インサイドセールスの経験を持つなど、SaaSサービスを知り尽くしている人物と言える。

Asobicaにはセールス1号社員として入社してからは、前職での経験を活かしてThe Model型組織の構築、CRM構築、営業標準化を行い、カスタマーサクセス部の事業開発グループでマネージャーとして活躍。現在では新規事業開発室のマネジャーを務めている。

同氏がAsobicaに入社した2020年7月当時は、Asobicaはまだ正社員4名の“ド”がつくスタートアップ。もちろんプロダクトもまだまだ未熟な中、ホームセンター通販のカインズやパッケージソフトウェアメーカーのオービックビジネスコンサルタントといった国内大手企業への導入実績を作ったのが奥村氏なのだ。

まだ機能の少ない、いちスタートアップのプロダクト、それでも導入を決意し、その後現在まで使い続けている背景には奥村氏がクライアントに寄り添い続けていたからだという。

そんな同氏は、noteにて「カスタマーサクセスの概念」について言及しているので、一部抜粋する。カスタマーサクセスって一体なんだったけ?と迷った際にはぜひ奥村氏が語る、カスタマーサクセスの本来の在り方に立ち返ってみるといいだろう。

カスタマーサクセスの概念は「製品やサービスをアップデートしないとお客さんが使い続けてくれない・買い続けてくれない」から、「世の中に提供してる価値をさらに良くしよう」という考えが前提になっているんです。

僕はその概念がすごく好きで。。。(笑)

この考え方って当たり前かもしれませんが、実は徹底できている会社や組織というのはそんなに多くないと思っています。

カスタマーサクセスは、「世の中に提供してる価値をさらに良くしよう」「お客さんをめちゃくちゃ喜ばそう」という前提に立ってるので、確実に世の中の製品やサービスが良い方向に進んでいくことが最大の特徴です。

例えばなんですが、仮に、世の中のすべての会社がカスタマーサクセスを当たり前として事業を行うとすると、僕たちの世界は、絶対にものすごく良くなっていくと思います。逆に「この製品/このサービスは失敗だったな〜」みたいな体験は格段に減ると思います。

カスタマーサクセスの概念というのは非常に社会貢献性の高いものであり、すごい極論を言うと、悪いサービスや商品は淘汰されていき、本当にいいサービスが残っていく世界を実現できると思っています。だからこそ、カスタマーサクセスという概念を世の中にとって当たり前にするというのは、社会を本質的に豊かにするという流れを加速させるものだと思っています。

──Asobica公式Wantedlyの記事《社員インタビュー03:カスタマーサクセスは世の中をアップデートしていく | 株式会社Asobica》から引用

奥村氏の発言からは、「顧客から愛されるプロダクトとは一体なんだろう」という問いへのヒントが眠っているような気がしてやまない。近年のSaaSの盛り上がりに見られるように、“売り切り”から“サブスクリプション”へと方針転換する時代において、顧客にとって本当に価値があるもの、また愛されるものでなければ、そのプロダクトはすぐに見放されてしまうだろう。だから、CSの存在が重要だ。

だが、その前に忘れてはならない前提がある。それが「プロダクトの強さ」だ。導入先は、今やSansanやマネーフォワードといったSaaS業界を牽引するリーディングカンパニーだけにとどまらず、グリコやカインズ、EPOSやリクルートといった多種多様な大手企業にも及んでいる。広く愛され、使われ続けるプロダクトへとどんどん進化しているわけだ。

また、顧客からすると負担になるようなインタビューや事例記事対応なども、嫌な顔一つせず「我々でよかったら協力させてください」と申し出があるという。それも、調達リリースのタイミングに伴い連携を依頼する回数が増えてもなお、だ。

顧客にファンになってもらうだけでも、相当ハードルは高いもの。しかしその先の、“顧客を味方にする”ところまで到達し、CSが大きな影響力を持ってプロダクトを進化させ続けているのが、Asobicaの魅力だと言えよう。

これらを体現するのが、Asobicaのメンバーに強く根付いている“ビジネスの枠を超えた”顧客視点というカルチャーだ。同社には、顧客の課題を解決するため、顧客に向き合い、サクセスさせるために愚直になれるメンバーが集っている。

Asobicaが誇る愛されるプロダクト、その作り方の秘密に触れたい方はぜひ下記の記事などを参照してみてほしい。

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CSの新たな型!?「ツーマンセル」で顧客価値を最大化──ロジレス・吉崎氏 & 佐藤氏

一般的に、toB向けのカスタマーサクセスであれば、企業ごとに一人ずつカスタマーサクセスがつくケースが多い。そんな中、ロジレスは「ツーマンセル」のスタイルでEC物流領域の顧客に伴走し、価値を最大化している。

まず、ロジレスはそのプロダクト体系が他のSaaSスタートアップと異なり、「ワンプロダクトで二つの顧客の課題解決を同時に実現する」といった稀有なスタイルを取っている。この二つの顧客とは“EC事業者”と“倉庫事業者”を指し、ロジレスのプロダクト『LOGILESS』によって、この二者間の連携は自動化・省人化され、飛躍的な生産性の向上を実現しているのだ。

LOGILESS』サービスサイトより抜粋

今回紹介する「ツーマンセル」でカスタマーサクセスを担う吉崎氏と佐藤氏は、上記の二者間のうち、倉庫DXチームとして、倉庫事業者側のサクセスを担っている。

具体的には、ペアのうち一人が倉庫事業者のサクセスにおける全体戦略立案から現場での関係性構築、課題整理など、所謂セールス業務を幅広く担当。そしてもう一人が、現場から出てきた課題に対し、個別具体での改善策の提示はもちろんのこと、そこから更なる核の課題発見までを担当するといった分担だ。

では実際に、この「ツーマンセル」をどんなメンバーたちが推進しているのか、その実例をみていこう。前者のセールス的なアプローチを担っているのが、元freeeで執行役員を担っていた吉崎氏だ。

同氏はもともとアクセンチュアでグローバル企業のサプライチェーン最適化や、GoogleでEC / 小売流通企業に向けたマーケティングやDXを推進してきた。これらの経験をもとに、倉庫事業者のサクセス業務に止まらず、倉庫事業者の事業全体を成長させる全社戦略の提案にまで染み出している。

続いて、吉崎氏との「ツーマンセル」の相方を務めるのは、物流業界歴10年超のスペシャリストである佐藤氏。EC通販会社の配送業務で現場経験を積んだ後、物流センターの運営業務へとキャリアの幅を広げる。その渦中で物流業界に蔓延る非効率さに問題意識を抱き、「ロジレスこそ変革の立役者になれると感じ、ジョインする。

佐藤氏は言うまでもなく、豊富な業界経験からくる現場解像度の高さがウリだ。先の吉崎氏が顧客との折衝によって現場や事業の成長戦略を策定し、そこに対し実務経験豊富な佐藤氏が価値を具体化して届ける。この「ツーマンセル」によって、お互いの強みが最大限に発揮されているのだ。

ちなみに、なんと両者ともロジレスには2023年1月に入社したばかりの新顔中の新顔。物流業界での経験年数においては違いがあれど、カスタマーサクセスという観点ではお互い未経験での挑戦ということになる。

しかし、上述したような互いのスキルセットで補完し合う「ツーマンセル」方式であれば、顧客への価値創出もスピーディに実現することができる。事実、二人がジョインした年明けから現在に至るまで、すでにその成果は出始めているそうだ。

彼らの持ち味や連携具合を見るに、カスタマーサクセスとして吉崎氏側の役割を担う人材像としては、エンタープライズを主としたtoB向けのセールス経験を持った人物が挙げられる。課題発見〜解決能力に長けていることは勿論のこと、現場での顧客との関係性構築も得意とするような人物であれば御の字だ。

一方で、カスタマーサクセスとして佐藤氏側の役割を一般化すると、物流業界において現場の改善実務に愚直に取り組んできた人物という具合だろうか。もちろんコンサルタント的に第三者観点でサクセスを届けてきた経験も活かせるが、何より事業会社側の当事者として、現場の改善に手を動かしてきた経験が活きることだろう。

今回、ロジレスを事例に紹介した「ツーマンセル」というカスタマーサクセスの在り方。カスタマーサクセスとしてのキャリアパスは勿論のこと、カスタマーサクセスという価値提供の新たな型としても参考になったのではないだろうか。

そんなロジレスが、どのよう想いを持って顧客へ価値提供しているのかは、下記の記事が詳しい。是非チェックしてみてもらいたい。

こちらの記事は2023年03月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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