愛される組織になるために──hey佐藤裕介氏に聞く“遊び心”の重要性

インタビュイー
佐藤 裕介

2008年4月、グーグル株式会社に入社し広告製品を担当。2010年12月、株式会社フリークアウト(現株式会社フリークアウト・ホールディングス)創業。また、株式会社イグニスにも取締役として参画し、2014年、共にマザーズ上場。2018年2月、コイニー株式会社とストアーズ・ドット・ジェーピー株式会社を経営統合しヘイ株式会社を設立、代表取締役社長に就任。

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ビジョンを掲げ、今年4月に設立されたヘイ株式会社。ボードメンバーには、スタートアップ界隈で名を馳せるトッププレイヤーが名を連ねている。各々が事業を手がけた経験を持つ実力派集団が率いるだけあって、今後の成長を期待する声も多い。

注目すべきは豪華なメンバーだけではない。会社設立時に話題を呼んだのは、コーポレートサイトに掲載された彼らのアロハシャツ姿の写真や、オリジナルブランドの展開など、同社の取り組みから漂ってくる“お祭り感”である。彼らはなぜ、このような「遊び心」あるスタイルを取るのだろうか。

同社代表の佐藤裕介氏にその理由を伺った。

  • TEXT BY AZUSA IGETA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
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“ライジングセラー”に支持されるために、同じ視点に立つことが必要だった

ヘイは、事業者向けの決済サービス「Coiney」を提供するコイニー株式会社と、最短2分でネットショップを開設できるという「STORES.jp」を提供するストアーズ・ドット・ジェーピー株式会社の経営統合によって誕生した事業持株会社だ。

ボードメンバーは、塚原文奈氏(ヘイ取締役/ストアーズ・ドット・ジェーピー代表取締役)、佐俣奈緒子氏(ヘイ代表取締役副社長/コイニー代表取締役社長)、「STORES.jp」創業者でもある光本勇介氏(ヘイ取締役/ストアーズ・ドット・ジェーピー取締役会長)、そして佐藤祐介氏(ヘイ代表取締役社長/元フリークアウト・ホールディングス共同代表)。彼らは「個別では実現できない大きなインパクト」を創出するために集結した。

同社のコーポレートサイトにアクセスしてみると、まず目に入るのはアロハシャツを身に纏い、笑顔を見せる彼らの姿だ。

左から、塚原文奈氏、佐俣奈緒子氏、佐藤裕介氏、光本勇介氏(提供:ヘイ株式会社)

ラフな出で立ちの経営陣が並んでいても、スタートアップでは珍しくない。ただ、同社はそれだけにとどまらず、STORES.jp内に「hey STORE」を構え、オリジナルグッズの販売も実施。社名のロゴがプリントされたTシャツやベビー服、ステッカー、キャップなど、ストリートブランドさながらのアイテムを展開している。

さらにはオリジナルパッケージのキットカットを配布したり、お揃いの法被をつくって盆踊りに参加したりと、楽しそうな雰囲気が外からも見て取れる。

同社はなぜ、このような仕掛けを用意するのか。その裏には、彼らが事業のターゲットとする“ライジングセラー”と同じ視点に立ちたい、という想いがあるという。

佐藤ライジングセラーは、われわれの顧客を定義するための言葉です。ブランドの世界観やストーリーを大切にし、それに共感してくれる“ファン”を集めて商売をされている、個人や中小規模の方々です。つまり、顧客と肩を並べて商売をしているんですよね。

ライジングセラーはミレニアル世代やZ世代が中心だという。彼らにとって「面倒だけれど重要なこと」である金融サービスを手軽に済ませ、出店を促すために、同社はモバイル決済サービス「Coiney」や手軽にネットショップが開設できる「STORES.jp」を提供している。

佐藤ライジングセラーの商売を支援することが事業の根幹にあります。なので、まずは彼らに「使ってみたい」と思ってもらえるサービスをつくることが重要になる。そのためにも、彼らと肩を並べることを意識しています。オリジナルブランドの販売も、そうした想いからですね。

その試みにより、社員の意識にも変化が現れた。

佐藤自分たちでイチから商品をつくってみると「Tシャツのタグもオリジナルにしたいよね」とか「梱包はこうしたい」など、さまざまな声があがりました。顧客と同じ視点に立ってみると、潜在的なニーズが言語化される前に、それを体感して理解できるんですよね。顧客の気持ちを“自分ごと”として理解することで、社員一人ひとりがユーザー視点でサービスに向き合えると感じます。

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身近な人を楽しませる“マイメン文化”を、組織づくりにも

STORES.jpに出店しているライジングセラーには、独自のこだわりや思想を持つ人が多いそうだ。彼らはそれらを商品に反映して、コアなファンを集めている。

たとえば、サウナ情報サイト「サウナイキタイ」は、サイト名をプリントしたTシャツを販売し、サウナ好きを中心に、小さな話題を呼び売り上げを伸ばしているという。10万人に受け入れられる商品ではなく、100人が何度もリピートしたくなるような商品をつくって販売し、短期の売り上げではなく、つながりを優先する。そんな彼らの文化を、佐藤氏は人気ブランド「Supreme」になぞらえて「マイメン文化」と表現する。

マイメン文化は元々ヒップホップ・カルチャーから生まれたものだ。仲間内の遊びから生まれたヒップホップは、今や世界中で親しまれている。身近な人を楽しませるための遊びが共感を呼び、大きなムーブメントとして広がったのだ。そんなマイメン文化は、ヘイの組織文化にも反映されている。

佐藤ライジングセラーは「身近な人を楽しませることの連続が大きな成果につながる」ことを体現しています。彼らにとってよいサービスを提供するためには、われわれも同様に内から外へ影響範囲が広がっていくような組織でありたいと考えました。

なので、彼らの行動様式を組織にコピーしてみたいんです。我が社の文化も彼らに倣い「マイメン文化」と表現しています。社員が「楽しい」と思うようなことを積み重ねていけば、社外にも共感してくれる人が絶対にいる。まずは、「『自分たちにできること』の力を信じて周りの人たちをハッピーにする」のを重視しているんですよね。それが事業を進めていく上でのひとつの軸になっています。

マイメン文化としてのあり方は、佐藤氏の起業に対する原体験にも関係しているという。

佐藤小学生の頃、「NOWHERE(ノーウェア)」というお店に衝撃を受けたんです。NOWHEREは文化服装学院出身の友達同士で立ち上げたアパレルショップです。“友達と仕事をする”という概念がなかった当時の自分には、その姿は非常に印象的でした。彼らの姿を見て、「将来は絶対に友達と仕事をしたい」と思ったのが、起業家としての原点であり、いまのマイメン文化へ繋がっているのだと思います。

振り返ると、起業したフリークアウトも「内向きのパワーが強い文化があった」と佐藤氏。ヘイにも同じ文化が根付いているものの、基本的に「ライジングセラーと肩を並べる」ことをベースに動いていることが違いだ。その整理がついたことで、組織として目指したい方向性が明確になってきたという。

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社内から社外に広がる、組織のファンコミュニティ

組織をライジングセラーに置き換えたとき、コアなファンにすべきは社員である。実は、オリジナルブランドの販売は、社員エンゲージを高めて「組織のファン」をつくるための仕組みでもあるそうだ。

オリジナルグッズの商品開発は、副社長の佐俣氏率いる「Employee Experience(従業員体験、通称『EX』)」の向上を目指すチームが主導している。

佐藤オリジナルブランドの展開は、EX向上の一環として行なっている部分もあり「社内のメンバーがお金を出しても買いたいか」がひとつの指標になっています。無償で配っているものも一部ありますが、基本的には社員も自らお金を払ってくれているんです。その点でいうと、ブランドを通した組織内のファンづくりは成功していると言えますね。

そのファンコミュニティは社外にも広がりつつある。「hey STORE」や同社が主催するイベントの会場でも、オリジナルブランドを購入する人は多いという。社外にファンをつくることは、組織にとって大きな強みとなる。とくに採用には効果的だと佐藤氏は考える。

佐藤他社と条件を比較して入社を決める人よりも、ヘイのビジョンに共感して魅力を感じてくれる人、つまり組織のコアなファンを採用するほうが合理的なんです。お互いの求めるものも合致しますし、入社後のミスマッチも防げる。採用競争が激しい今の時代、指名で入社してくれる人を増やすことは採用コストの軽減にもなりますし、強い組織づくりにも寄与すると考え、こういった取り組みを続けています。

“社外のファン”との出会いの場として、同社は毎週木曜20時にオフィスを開放して「Hello hey」というイベントを開催している。誰でも参加可能で、お酒を片手に現役社員と気軽に交流できるカジュアルな会社説明会だ。これも採用への効果が大きい。

佐藤「Hello hey」は業務時間外のイベントなので、社員の参加は自由です。ただ「楽しいよ」とは伝えていて、実際に参加した社員には、ヘイに興味を持っていただいている社外の方々と交流することで、「自分の仲間は自分で選ぶ」という意識も芽生えはじめているようです。会社をコミュニティ活動として捉える上でも、そういった意識はとても重要だと思いますね。

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ただし、事業の基本は数字。ビジョンは未来の判断材料

遊び心ある取り組みによってビジョンを視覚化し、強い組織づくりを実現しようとしているヘイ。明確なビジョンを持った強い組織であることは、事業のスケールにも影響があるのだろうか?

これまでさまざまな事業を手がけ、2社を株式上場に導いた佐藤氏は、その疑問に対して「事業の連続的なスケールにビジョンは関係ない」と断言する。

佐藤事業のスケールは、選ぶ市場と参入アングルでほとんど決まります。われわれの強みは、佐俣が5年前に選んだ「対面店舗での決済」と、光本と塚本が6年前に選んだ「個人によるオンラインストア」という2つの強い市場を押さえていること。スケールが見込める市場を押さえているからこそ、われわれはビジョンを作り込み運用する余裕がある。創業初期からビジョンの作りこみに注力するプレイヤーが多いですが、大事なのはそこではありません。巨大な成長市場で優位なポジションをいかにして作るべきかです。

さらに佐藤氏は、事業成長を目指す上で忘れてはいけない“基本姿勢”について、次のように話す。

佐藤事業成長の基本は、目標数字を達成することです。定量的な長期目標を設定し、それに向かってマイルストーンを置き、適切なアクションを続けていけば、持続的に利益を生み出す事業をつくれる。

適切なアクションのもとになるものは、“正しくレントゲンを撮る”こと。根本的な原因を調べずに「頭が痛い」と言っている人の頭に絆創膏を貼るのは適切ではないですよね。事業においても、まずは数字を基にした事実を的確に捉えて、正しく向き合うことが重要です。そのためのツールはたくさんあるので、それらを使わずに感覚だけで動くことは大きな間違いだと思います。

一方で佐藤氏は、ビジョンを持つことの重要性を次のように語った。

佐藤社会に対して大きなインパクトを与える事業をつくるためには、既存の慣習や概念を180度変えなければいけません。そういった変化が激しい中で、自分たちが「どうありたいか」を示すためには、言語化されたビジョンを用いて同じ方向を向くことが必要になるのです。そうすれば、自ずと事業の成長スピードも加速するでしょう。

選択すべき市場、参入アングル、そして目標数値を達成し続ける日々のアクション。スタートアップの成長に必要な要素はシンプルだ。ゆえに、ヘイが持つ「遊び心」を体現しているカルチャーやビジョンは、事業の成長可能性にはクリティカルには寄与しないかもしれない。

ただ、強いビジョンや組織文化は、前述のとおり、採用やカルチャーマッチ、従業員満足度など“組織自体の強さ”へと寄与していく。つまり、一定規模への成長や拡大を目指すには追々必要になってくるだろう。

ヘイの場合は顧客との向き合い方が社内にも反映され、結果として好循環が生まれている。ただ、企業によってアプローチはさまざまでいい。自社にあう最適なカルチャーは何か、顧客・社内を見渡し考え抜くことが必要だ。

こちらの記事は2018年09月03日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

井下田 梓

ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。

写真

藤田 慎一郎

編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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