PKSHA上野山・STORES佐藤が今25歳に戻ったら「キャリア開発よりも“好き”を追求する」の真意とは──AI全盛期を俯瞰する起業家の想い
「未来のソフトウエアを形にする」というミッションを基に、AIに関するさまざまな事業を展開するPKSHA Technology。国内のAI関連上場スタートアップの中でも随一の規模や成長率を誇る。
そんな同社が、この激動のAI社会をどのように捉えているのか?そして、迫りくるAI時代を生き抜くための企業戦略やキャリア戦略の考え方とは?こうしたことが気になるFastGrow読者も多いことだろう。
そこで、PKSHAで代表取締役を務める上野山勝也氏と、社外取締役監査等委員を務める佐藤裕介氏(STORES 代表取締役社長)の特別対談を企画。二人が起業の前からそれぞれ実際に潜ってきたイノベーション最前線の現場感から、今後のAI人材のキャリア戦略について語り合った。そんなイベントの模様を、読みやすく組みなおす編集を加えて記録した。
「複利」「共進化」「運動神経」といったキーワードを交えながら、AIにより高速化する社会変動と共進化したキャリア開発を実現するための糸口を探し出す。
- TEXT BY MARIKO FUJITA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
「AI開発」と「ポストAI時代」を創る2社の代表が、インターネットをよく知る友人として対談
──まずはお二人から自己紹介をお願いします。
上野山PKSHA Technologyという会社で代表をやっている上野山です。弊社ではAIの研究開発と、Solution/Product事業でのさまざまな会社への展開を両輪で行っています。
社員数はエンジニアを中心に500人ほど、加えて6,000台ほどのAIがエージェントとして動いています。本日は、このAI化する近未来でどうやってキャリアを築いていくのかといった話、そしてそもそものインターネット業界について、お話をさせていただきます。
佐藤PKSHA Technologyの監査等委員をやっています佐藤です。その傍らで、というと語弊はありますが(笑)、STORES という、PKSHA Technologyと同規模で中小企業のデジタル化を支援する会社を経営しています。本日はPKSHA Technologyの人間として、AIにまつわる面白い話を皆さんにシェアさせていただきます。
上野山補足させていただきますと、佐藤さんは15年以上インターネット産業にリアルタイムで新しい投資を続けている珍しい方です。100社ほどのスタートアップに投資をしながら、同時にご自身でも2社を上場させるなど、インターネット社会の発展をずっと深く見てこられているので、今後の皆さんのキャリアを考える意味でのいろいろなヒントをいただけると思います。
──まずは今日の議論の前提として、PKSHAの事業について、全体の紹介をいただけますか?
上野山この巨木のイラストに記載しているような事業構造になります。根の部分がPKSHA Research。研究開発といったAI開発のパーツで、レゴブロック®のようなものになります。いろいろな会社さんの抱える問題について、根となっている部分の研究開発成果を組み合わせながら解決してゆきます。
上野山幹や枝、葉となっている部分がSolution事業やProduct事業。特に、Solution事業の中でプラクティスした内容のうちProduct事業になると判断されたものを「AI SaaS」として、いろんな産業へ応用可能なかたちに開発しています。
ちなみに、こちらのモチーフとなった巨木は実際に本郷の弊社敷地内にあります。このスライドに写っているものですね。高さ30メーターぐらいの巨木をオフィスの窓から見ることができます。
佐藤こちらの巨木のようにR&Dから商用化、ディストリビューションまでを一貫して一つの会社でやるというのは珍しいですね。例えるならば、大規模な製造業の会社で行われるレベルの全レイヤーを、一貫して担っているということです。
──佐藤さんから、STORES についても教えていただけますか。
佐藤STORES という会社は、どちらかというとポストAIの時間軸を見ています。つまり、「PKSHAのような会社によって社会にAIが根付いた後に、いったい何が起こるのだろうか?」といった事を考えながら事業を行っています。主なお客様は中小の事業者さん。皆さんのお家に近いパン屋さんですとか、クリーニング屋さん、コーヒーショップさんといった事業者さんのソフトウエアによる武装を支援しています。
中小の事業者さんになりますと、全国に数百店舗を展開するような大手チェーン店さんと比べればお金もなければデジタルの専門性もないわけです。大手チェーン店さんですとNTTデータさんやアクセンチュアさんといった大手企業と組むことが多いですが、中小の事業者さんではそうした企業への発注を考えにくい。
だったら、それをやる会社があると面白いのではないかという考えのもと、意志と哲学以外の経営部分を全て自動化するお手伝いを十数年ほど行っています。事業オーナーの方々に対しては、「あとはあなたがファンをつくるだけです。そこだけは事業オーナーさんの責任をもって火を燃やし続けてください。それ以外は僕たちの方で自動化しますね」とお伝えしています。
イノベーションの震源地に、意外とリスクはない
──ではまず、おふたりはこの時代においてキャリアを選ぶ際に、どんなことに注意すべきだと思われますか?この点について率直な考えを教えてください。
上野山情報進化の「過去10年と今後」のイノベーションの震源地を探す。この点が非常に大事な点だと思っています。 私は創業に至る前の10年ほどのキャリアの中で、コンサルティングファーム、ベンチャー企業、そして海外企業での経験があります。その中で出会った各所の人たちを見比べて、「イノベーションが起きて会社がグロースしてゆく中で働いていた人たち」と「全くイノベーションが起きずに安定したところで働いていた人たち」では、何かを創り出すという意味での成長度合いに驚くほどの差が出ると感じました。ここから、イノベーションの震源地にいることの大きさがよくわかります。 最近起きていると感じるイノベーションは「AI is eating the software」。5年後にはソフトウエアが僕らの言葉を話し、僕らに話しかけてくるのが当たり前になる未来が見えます。 佐藤今は明らかにAIですよね。でも、実際にその震源地に転職する人は意外に少ない。 同じような話としてiPhoneが出てきた2007年頃も、100%スマホの時代だとわかっていたはずなのに、スマホ関連事業の現場に飛び込む人はあまり増えませんでした。 これはインターネット然り、モバイル然り、BtoBクラウド然り、多くの業界に共有することです。移り変わることにリスクを感じたり、社会構造が変わることを怖いと思ったりしてしまうのか……。「リスクを評価する機能がそもそも社会的に故障している」ように思います。 逆に、そこで適切なリスクテイクができると、大したリスクがないのにリターンが得られて得なことが起こる。そんな状態になり得るので、皆様にはぜひこの震源地、AIを選んでいただけたらと思います。ポジショントークでもなく本当に思っています。
──そんな震源地を選びつつ、その中で自分の成長を加速させるために重要なことは何でしょうか?
上野山伸びている産業の中で、試行錯誤し続けることだと思います。
キャリアのゲームとは、その領域で熟達して複利のように能力を拡張させていくことです。伸びている産業の中でエネルギーを全て注ぎ込むと、能力が勝手についてきて、昔の人の一生分くらいの能力を3~4年で獲得できる。マーケットが伸びると自分も伸びるんですよね。僕がこのことを一番実感したのが、創業する前のグリー・インターナショナルというアメリカの会社で働いていた時です。
当時一緒に働いていた、同い年でグリーの初期メンバーだった人は、同い年なのに信じられないくらい仕事ができる人でした。当時の僕もコンサルティングファームでの経験からそれなりに仕事ができる気になってはいたのですが、彼は見たことないレベルでした。うまい表現が見つかりませんが、例えて言うなら事業の急成長を通じて20~30年分の事業経験を、それまでのキャリアのたった7年に凝縮したような体験をしてきたかのようでした。
そんな彼の試行錯誤の全てが市場と共進化して、本人の能力を大きく拡張させていました。こんなことが、今のインタラクティブ企業やAI企業でも起きています。そうした領域で複利で経験を積み上げると、能力が世の中で飛び抜けていき、さらにどんどん拡張していく。
佐藤本当にその通りだと思います。付け加えると、逆説的ですが「キャリア開発の優先度を下げる」という考え方も重要です。
良いキャリアを築くための最適な行動として、世の中で「素晴らしい」と言われる職に就いて職位を高めていき、経済的成功を手にするといった考え方があると思います。でもそれは、実は結構大変なことなのではないかと思います。
なぜなら、そこには既にプレイヤーが山ほどいるためです。競争が激しい一方で、マージンが生まれにくく、得られるリターンが薄くなる。
僕が出会った人の中で「この人は上手くいっている」と思う人のほとんどは、むしろ“世の中における最適化行動”をとっていない。「キャリアをいい感じにする」ための行動をほとんどしていないんです。そうではなく、「自分が面白いと思うこと」をやってきた結果として、副次的にキャリアや経済的なリターンがついてきたという人ばかりです。
自社内で成果を上げている人からは、「キャリアのことなんて、全然考えなくなりました」といった話をよく聞きます。
上野山特にこの1年くらいで、キャリアについて考えるべきことがかなり変わってきたように思いますね。
「偏愛」「強い意志」「働きかけるコミュ力」。
AI時代に重要性が加速する、“人間力”
──では、このAI時代にこそ求められるヒューマンスキルとは何でしょうか?
上野山「自分は何が好きなのか」といった感情や情動、偏愛が極めて重要だと思います。
上野山先ほどの「キャリアを積み上げる最適化行動」として、たとえば金融という業界を選ぶ人が多くいます。そこでは激しい競争があります。もし、その業界に対する強い動機を持たずにその道を進んでいこうとしても、競争に勝ち続けるのは難しいでしょう。だからこそ、自分の中でテンションの上がる動機だったり、キャリアのコアとなる自分の原体験のようなものが重要となってくる。AI時代は、それがより強くえぐり出される時代になります。
佐藤その話でいうと、現在STORES がソフトウエアを提供しているコーヒー店さんとの関係性が印象的な事例です。そこではAIによってお店の運営にまつわる必要なデータがリアルタイムで蓄積されています。「誰がいつどのような商品を買ったのか、その原価はいくらなのか」といった、顧客の行動や売り上げに関する情報が全てわかります。さらに、現在のAIのケイパビリティをもって、経営の意思決定に対する示唆をレポートで送ったりもできています。今後のAIの発展を考えれば、「人が頭で考えずとも事業を成長させられる」という時代がすぐそこです。
しかし、そのコーヒー屋さんのオーナーは店を大きくしたいわけではないそうで、店のクオリティや経営の強度は高めたいけれど、目の届く範囲以外はやらないと決めている。こうした意志はおそらく、ソフトウエアでは示唆したり推奨したりすることができないわけです。そしてこの意志がそのお店の強みであり独自性になっていますね。
上野山そういう想いの部分こそが差別化になるんです。実は昔からそうだったわけなんですけど、AI時代ではもっと明確になっていきます。
──そういった意志や強い動機を持てる領域はどうすれば見つかるのでしょうか?
上野山いろんな人とディスカッションしたりいろんな人と格闘したりする中で、揺さぶられていくことによって意思や動機が増幅してゆくと捉えています。たとえば我々PKSHAで言うと、お客さんがいて、自分が何かを頑張ってつくり、喜んでもらう。このプロセスの嬉しい部分には、自分の中に反応があるんですよね。自分の神経系が揺さぶられ、拡張してゆくのを感じます。
佐藤その意味でも、先ほど話した震源地にいることは重要だと思います。変化の激しい場所にいると、「自分がこれを好きかどうか?」を疑う暇もないくらいにさまざまなことが起こる。すると、出来ることや知っていることが増えてきて、複利が効いてくるので、自分に向いている気がしてくる。
──自分の中でやることだけでなく、他者と関わる力も重要ですか?
上野山そうですね。「この事業のときはこの人に話を聞きに行く」といった運動神経とも言える能力の価値が上昇しているのを感じます。
人間の基本的な役割とは、「働きかけること」です。社内の人に限らずさまざまな人に働きかけていく力、そして人を動かす力。営業ってそういうことですよね。こうした「人と人とのインターフェース」は、絶対にAIが触れない領域です。一定のフットワークであったり、パッションや意志であったり、この人と働きたいと思うかであったり、そうしたものがここで大きく動きます。
AI業界は、「平均年収」で見極めよ?
──会場からの質問です。「AIスタートアップ」を名乗りつつも、裏側では人が大量の業務を抱えているといった、「なんちゃってAI」が多いと聞いたことがあります。その会社が本当の意味でAIを理解しているかどうか、どのように見極めたら良いでしょうか?
佐藤鋭い質問ですね。
上野山まず、上場企業であれば数字を見るとわかります。たとえばソフトウエアライセンスやプロダクトのような形の事業が本当に売り上げを上げているのか、利益率はどれくらいなのか、などですね。成長していないわけがないので売上は大きくなっているはずですし、AIを活用していれば効率的で利益率も高いはず。
スタートアップのような非上場の会社なら、エンジニア比率や平均年収を聞くとわかるかもしれません。たとえば平均年収が500万円であれば、市場価値に見合っていないのでAI人材を採用できておらず、AI活用は進んでいないと思います。
ただし、それ以上は話してみないとわかりませんよね。それに、まずは自分がAIのことがわからないと、相手がAIをわかっているかどうかもわからないでしょう。
──こちらも会場から。AIと単純に比較できるものではないかも知れませんが、介護業界、今後伸びていく業界、社会課題になってゆく業界、これらを取り扱う業界を選ぶことは、キャリアとしてどう思いますか?
上野山すごく良いと思います。キャリアの正解は、たとえばAさんにとっての正解、Bさんにとっての正解といったように、一人ひとりにとって違うわけですね。たとえば介護業界に人生をかけたいと思っているのであれば、絶対に介護業界に関わるべきです。
同時に、関わり方を考えると良いと思います、本当に業界を変えたいのであれば、一介の職員として関わるだけではなく、AIの力で、テクノロジーの力で構造改革するといったことを目指すべき。今後5年、10年、15年と、ほとんどの産業は、技術を中心に全ての構造がAIの力で変わってきます。介護はやはりヒューマノイドが広がる必要性が高いとは思いますが、これも僕らの思っている以上の速度で広がると思っています。
佐藤そうですよね。僕もヒューマノイドってすごく好き。既にいろんな動きがありますよね。5年以内ぐらいには、現場で一定の業務が行えているのではないかと思います。
上野山いくつものソフトウエアがグループとなって動くようになったり、その先の現場でヒューマノイドやデバイスが動いたりして、その上で人間がすべきことをするという時代になりますよね。今でいうと、すでに自動車がそう。UberではスマホをタップするとAIが動き、この車とこの車に「動け」と伝え、車が反応し、人間と一緒に動かすんですよ。
そんな構造が、今後は全業界で目に見えて生まれていきます。特定の業界に興味のある人こそ、是非ともAIをレバレッジするように関わっていただけたらと思います。ほとんどの業界が人手不足です。本当に足りない。この2020年代、取り残されている社会課題が山のようにある。若い人には主体者としてその業界で活躍してほしい。
佐藤そういう重要な業界に、AIのバックグラウンドを持つ若い方がどんどん入っていけるようにしていきたいですね。
──こちら、会場からの最後の質問です。実際にAIに関わる場所に来たとして、その中でどうやって周りと差別化し、戦っていけば良いのでしょうか。
上野山いろんな人たちと共進化することが最も重要だと思います。
誤解を恐れずに言えば「他力本願」で良い。キャリアを語る際に出てこない言葉をあえて使いますが、一人で殻に籠っていたら、いくら気合いを入れてもほとんど成長しないんですよね。反対に、いろんな人たちの中で揉みくちゃにされながら日々を過ごしていると、無意識のうちに周りの人の良い面をキャッチして追いつこうとします。
ほとんどの人は何かしらの側面で自分より優秀なんですよ。自分のまわりを「こうなりたい!」と思わされるような人たちに囲まれていると、それだけでも勝手に拡張していきます。そして、オリジナリティがその先に出てくる。自分自身の能力とは、過去に自分と関わってくれた人達の集合体なんじゃないかなと思うんですよね。
日本人は人と関わる体験が非常に少ないと言われています。だからこそ今からぜひ、人と関わることをやっていただきたいですね。
こちらの記事は2024年06月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
藤田マリ子
写真
藤田 慎一郎
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