メルマガ回帰の始まり?
注目の欧米メルマガサービス9選──キーワードは「質の高いコミュニティ」

米国において、メルマガの価値が再認識されつつある。

SNSで情報を入手する手段が確立されたが、いつまでも見続けてしまう中毒性を持ち、FacebookやTwitterでは効率的に必要な情報が集まらないと感じる人は少なくないはずだ。

友人のプライベートな情報発信と、メディアが発信するニュースが混在してしまっているためだ。

一方、隙間時間に効率よく情報収集をおこなう人にとって、メルマガは有効な手段だ。

メール受信ボックスを見続けることはないだろうし、題名で一瞬にしてどのような主旨の内容かを判断できる。

なにより古くから使われてきたコミュニケーションチャネルであることから使い勝手がよい。

大学生から社会人まで、ほとんどの人が利用する「メール」という媒体に読者もメディアも注目し始めている。

本記事ではこうしたメルマガを巡る最新事情を実例を交えながら紹介していきたい。

  • TEXT BY TAKASHI FUKE
  • EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
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メルマガは、大手と個人の「中間」となる媒体

最近までミレニアルズ読者の多くが、SNSを通じて情報を得る時代であった。事実、2015年に「American Express Institute」が発表した調査データによると、88%のミレニアルズがFacebookから、次いで83%がYouTube、50%がInstagramから情報を得ているという。

しかし、フェイクニュースの広がりや、Facebookのデータ流出問題に端を発して、若者のFacebook離れが加速。2018年2月の『Independent』の記事によると年内に入ってから、25才以下の200万ユーザーがすでにFacebookを辞めたというのだ。1カ月で100万ユーザーがFacebook離れを起こした計算になる。

主要な情報源となっていたFacebookの信頼性が失われ、手軽にニュースを知る手段を探すミレニアルズは、個人から情報を得るようになった。「Revue」の記事によれば、66%の読者がパブリッシャーではなく、ジャーナリストから直接情報を得ることを好むという。

特定の分野に詳しい専門家が発信する情報は、パブリッシャーから発せられる情報と比べ、圧倒的に価値と信頼性が高いと認識されているからだ。情報源の関心は「大手パブリッシャー」から、「個人のジャーナリスト」へと移り始めるかと思われた。

だが、ジャーナリストを一人ひとりフォローして、日々情報を集める熱心なミレニアルズ読者はそうそういない。また、高い信頼度を持つジャーナリストたちを見つけて、日々追いかけるのは時間的コストがかかる。

そこで登場したのが、大手と個人の「中間」となる媒体である「メルマガ」だ。

SNSを通じて情報発信するパブリッシャーとは違い、コンテンツを拡散して読者を獲得するロジックが働かない。編集部が高いセンスを持っている場合が多く、コンテンツに対する高い信頼性が寄せられる。

なにより、SNSと同じく、高頻度かつ手軽にまとまった情報をチェックできる媒体だ。このような理由から、SNSでニュースを得ていた層がメルマガへと流入しつつあるのだ。

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競合コンテンツに埋もれない媒体「メルマガ」

冒頭では、読者がなぜメルマガに興味を持ち始めているのかを説明した。ここからは、なぜメルマガ配信を行うメディア企業が増加し、継続運営できているのかを2つの視点から探っていきたい。

まずはじめに、Facebookでは多数のコンテンツが無作為にニュースフィードに流され、自社ブランド力を上手く発信できないメディアの課題感が挙げられる。しかしメルマガとなれば、競合メディアのコンテンツに埋もれることはない。

その根拠を2つ挙げよう。1つは、読者が自発的にメールを開封しないかぎり情報の受け渡しが成立しない点。SNSのように一方的に多量の情報が流れてきて「受動的に情報を受け取る」場合と、メルマガのように「能動的に受け取る」場合とでは、断然後者のほうが自社コンテンツを消費してもらいやすい導線になっている。

もう1つは、占有率だ。メルマガの情報は画面ほぼすべてを占有することができ、かつ競合コンテンツが目に入らない環境下で、メール内容を読みきるまでの読者の時間を占有できる。自社メディアのコンテンツ一色に読者を染めることができるのだ。

メディアの世界観を存分に伝えることができる条件が揃っている媒体は、企業の情報発信にうってつけだ。SNSの欠点である競合メディアの情報にコンテンツが埋もれてしまい、自社メディアのブランド力を訴求できない「ワンオブゼム問題」。上述した利点により、メルマガは情報発信チャネルとして、企業から大きな注目を集めている。

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低コストでロイヤリティー読者を獲得するメルマガの成長モデル

2つ目の企業側の意図として、高いロイヤリティーを持つ読者の獲得が挙げられる。

SNSで情報発信を行うマスメディアは、大量のページビューを稼ぐことで巨大なプラットフォームを構築。十分な数字が集まってからスポンサー企業を募り、広告収益で稼ぐモデルを採用している。

しかし、課題はプラットフォームを構築する際に多額のコストがかかる点と、読者のエンゲージメントの低さだ。毎日20-30ほどのコンテンツを配信し続けなければ、容易に競合メディアに読者を奪われてしまう。

競合の脅威に怯えながら、スポンサー企業が興味を示す規模にまで、まずは読者数を増やさなければならない。この成長段階ではほとんど収益が発生しないため、大型資金調達をするなどして、逃げ切るしか手がない。

訴求力の薄いコンテンツを通じて集まった読者の、自社メディアに対する求心力は低い。しかし、こうした読者を大量に集めるまで数億円規模のコストがかかる、不釣り合いな構造が現在のSNSマスメディアなのだ。

メルマガのアプローチは真逆だ。マスをあえて狙わないグロース戦略を採用。多種多様なコンテンツを発信するのではなく、ターゲット読者が欲する分野にコンテンツを絞っている。

読者は、自分の欲しい情報のみをキュレートされた形で受け取れるため、高いリピート購読率とエンゲージメントが期待できる。「興味」や「信念」に基づいて集まった読者が持つ、メディアに対する帰属意識は強い。

SNSマスメディアとは異なり、すぐに競合メディアへと興味が逸れてしまうフローユーザーの獲得は全く考えていない。ロイヤリティーの高い読者の獲得しか狙わないため、無理な急成長を目指さない。読者コミュニティを丁寧に作りあげることに主眼を置いていることから、成長に必要な広告費用に資金を費やすこともないのだ。

とはいえ、ここで疑問に浮かぶのは「いかにロイヤリティーが高くとも、小さなコミュニティでは収益化が難しいのではないか」という点だろう。

実際にSNSで月間数千万回視聴される規模の動画メディアを運営していた筆者の経験から話そう。

たとえば、SNSで10-20万人の購読者を集めたSNSマスメディアと、ニッチなコンテンツを配信し、1万人の読者を集めたメルマガメディアが、100人-200人規模のイベントを開催したとする。どちらがイベント集客に成功するかといえば、後者のほうが確率は高いといえる。

SNSマスメディアが読者をイベント集客へ転換できる率は1%にも満たない。なぜなら、フローユーザーしか集まっていないからだ。一方、メルマガはロイヤリティーユーザーの囲い込みを立ち上げ初期から目指すため、筆者の肌感覚では3-5%以上の転換率が望める

今回はイベント収益の事例を出したが、スポンサー記事に関しても同じことがいえるだろう。広告出稿主の目的は、高い転換率だ。この点、効率的に広告情報をターゲット読者に届けるには、メルマガに記事を出稿したほうが、高い費用対効果が望める。

低コスト運営であるにも関わらず、SNSで台頭するマスメディアと同程度の収益力と、発信力を持てる可能性がある。こうした背景から、メルマガ配信するメディア企業へと注目が集まっているのだ。

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ミレニアルズ女性向けメルマガ ── 『theSkimm』『Clover Letter』『Lenny Letter』

ここからは、代表的な欧米のメルマガ事例を取り上げていきたい。

最初に紹介するのは、10-20代の女性向けメルマガ『theSkimm(ザスキム)』、『Clover Letter(クローバーレター)』、『Lenny Letter(レニーレター)』。これらのメディアに共通するのは、若い女性が最新の政治、経済、社会ニュースを3分程度でキャッチアップできる手軽なコンテンツを配信していることだ。まずは、『theSkimm』から紹介したい。

theSkimm(ザスキム)

theSkimm(ザスキム)

『Techcrunch』の記事によると、2018年3月の時点で『theSkimm』は700万人の購読者を獲得。また、『Recode』の記事では、開封率が30%だと紹介されている。iOSアプリも展開しており、月額2.99ドルで、限定コンテンツへのアクセスが可能となる。Google Venturesや21st Century Foxなどから、累計2,800万ドルを超える資金調達を行った。

同メディアの巧みなグロースハック戦略は、学生アンバサダーの獲得にある。メルマガ運営の大切な要素として、ロイヤリティー読者の囲い込みが挙げられると指摘したが、この点で『theSkimm』は大成功を収めている。事実、『Wharton Magazine』の記事によれば、2016年時点で2万人のアンバサダーを獲得していたという。

theSkimm(ザスキム)

アンバサダーになるためには、10人以上の読者を口コミで獲得しなければならない。10人以上獲得することで、限定Facebookグループやイベントへのアクセス権を手にすることができる。また、段階に応じて限定LinkedInグループや、『theSkimm』でのインターンシップへの優先応募権、起業志向の読者へスカラーシップを与える機会も与えられる。

創業者たちは全米の各大学にいる発信力の強い女の子たちから声をかけていき、徐々にコミュニティを増やしていった。新興動画メディア『Great Big Story(グレートビッグストーリー)』が、賢いミレニアルズ層を狙っているのと同様に、「賢いミレニアルズ女子」をアンバサダーに集めたという具合だ。

意識の高いコミュニティを構築することで、読者自身が自分のアイデンティティを作っていく。こうした質の高いコミュニティに属している感覚が大きな成長フックとなった。

データを駆使したコミュニティ戦略も『theSkimm』の特徴だ。

SNSを基点にするマスメディアは、各ユーザーが自社コンテンツをどのくらいの頻度、エンゲージメントで読んでくれているのかなどの細かな数値データが、プラットフォーム側から共有されない課題を持っている。そのため、イベントを開催するまでどの読者が本当に自社メディアを好んでくれているロイヤリティー読者なのかがわからないのが現状であった。

一方、『theSkimm』は、10人以上の読者を口コミで集めるという明確に数値化できる敷居を設定することで、どのアカウントがアンバサダーなのか、個人データとの紐付けができる。こうして、ロイヤリティーユーザーの属性を特定する仕組みを作ったのだ。

数値化ができれば、良質なコミュニティを作るための具体的な施策を試すことができる。細かなデータ収集ができるメルマガの特権をフル活用したのだ。

アンバサダー獲得のために、あえて高い敷居を用意することも一役買っている。本当に『theSkimm』を好きになった読者でないかぎり、友人にオススメしてほしくも、コミュニティに参加してほしくもない企業側の意図を、明確化に線引きできる。

選別したコミュニティ運営を行うために、緻密なリファーラル戦略を採用する企業例に、ミールキットサービスを提供する「Martha & Marley Spoon(マーサアンドマーレイスプーン)」が挙げられる。

同社は、大手競合の「BlueApron」や「HelloFresh」のように手軽に口コミをしてお互いに割引券をもらえる安易な仕組みを導入していない。3回以上サービスを利用しなければ、友人へ口コミできない仕組みになっている。これは、顧客コミュニティの質を常に高い状態で維持し、リテンション率を下げないためだ。この戦略が功を奏して、市場シェア率は低いものの、業界Top10の座を維持し続けている。

『theSkimm』のコミュニティ育成は、分野を飛び越えて応用できる証拠が「Martha & Marley Spoon」の戦略から伺い知れる。

次に紹介する『Clover Letter』は、より厳選したコミュニティ育成を行っている。

Clover Letter(クローバーレター)

Clover Letter(クローバーレター)

2016年に創業された同メディアは、ジェネレーションZとミレニアルズの女の子向けに、主に社会問題やカルチャー系ニュースを中心に届けるメルマガだ。

『Digiday』の記事によると、平均開封率は60%で読者層は13-17才が35%、18-33才が47%を占め、合計20万人の読者を獲得したという。

『theSkimm』との違いは、人力で選ばれた200人のアンバサダーを中心にメディアの口コミ拡散が行われている点だ。発信力が強く、かつコンテンツの大ファンになってくれた読者を厳選し、精鋭チームとして抱えている。アンバサダーの数を拡大することで、読者層を増やすのではなく、一緒にメディアを成長させてくれるビジネスパートナーとして、彼女らを迎え入れている印象だ。

小さくとも力強いアンバサダー戦略が高いパフォーマンスを生み、創業からたった2年しか経っていない2018年5月、ジェネレーションZ向けのコンテンツプラットフォーム『Awesomeness TV(オウサムネスTV)』によって買収された。同メディアは、各SNSのみならず、自社開発製品をAmazonで販売するなど、幅広い事業展開を行っている巨大プラットフォームメディアだ。

Lenny Letter(レニーレター)

Lenny Letter

『Clover Letter』と比較してコンテンツの濃さが違うのが、『Lenny Letter』。ミレニアルズ女性の強い価値観を啓蒙するメルマガだ。日本でいうと、女性のエンパワーメントをコンセプトに掲げる『BLAST(ブラスト)』の発信する情報に近いかもしれない。

政治思想からフェミニズムまで、内容の濃いコンテンツを発信する。『Digiday』によると同メディアは、50万人の読者を獲得し、開封率は約70%と非常に高い数値を示す。

ここまで3つのメルマガを紹介したが、共通して言えることが2つある。1つは、読者コミュニティを厳選していること。もう1つは、一見わかりづらいコンテンツを、ミレニアルズ女性に向けてしっかりとチューニングしていることだ。なかでも、『theSkimm』のコミュニティ戦略やコンテンツ配信内容は、あらゆるメディアが参考にすべき事例となるだろう。

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経済・テック系ニュースを配信するメルマガ ── 『the Hustle』『Espresso』『Quartz』『Morning Brew』『MarketSnacks』『Føljeton』

the Hustle(ザハッスル)

the Hustle(ザハッスル)

筆者がサンフランシスコに住んでいた頃、同世代のVCや起業家の主な情報源となっているメルマガが『the Hustle(ザハッスル)』であった。

同メディアは、サンフランシスコに拠点を持つ、スタートアップや経済ニュースを配信するメルマガ。2016年時点で、読者数が10万人を超えていると『Digiday』の記事で発表されていた。また、平均開封率は35-40%とあり、ビジネスニュースレターの業界平均開封率が20%前後だったことから、パフォーマンスは高いといえる。収益源はイベント事業「HustleCon(ハッスルコン)」と広告記事の2種類。

『the Hustle』の強みは、『theSkimm』と同様にアンバサダーにある。前述の記事によると、400人を超えるアンバサダーを抱えており、「HustleCon」への参加者のうち、5,000人はアンバサダーを介した紹介で成り立っているとのこと。2017年の『Digiday』の記事によれば、アンバサダー数が3,000人まで成長したと記載されていることから、紹介ネットワーク規模はさらに成長を遂げていることだろう。

サンフランシスコ・シリコンバレー界隈のスタートアップコミュニティは、紹介文化で成り立っている。『the Hustle』は、この強固な横の繋がりが生み出すコミュニティ文化をそのままメディアに取り込んだ。

特定地域のローカルな繋がりを活かす取り組みは、『The Information(ザインフォメーション)』のアクセレータプログラムを卒業したローカルメディア『Detour Stories(デトアーストーリーズ)』にもみられ、再びローカルメディアに注目が集まっている証左でもある。

Espresso(エスプレッソ)

Espresso(エスプレッソ)

大手ビジネス系メディアも、メルマガの活用に躍起になっている。

たとえば『The Economist(ザエコノミスト)』は、短文キュレートニュースメディア『Espresso』を立ち上げた。毎朝布団に寝転がりながら、最新のビジネスニュースを手軽にチェックできる読者体験を想定する。

アプリとメルマガのどちらか好きなほうで購読が可能で、利用料は2.99ドル。編集部で選びぬいた7本の記事を、短くまとまった形で購読することができる。隙間時間に老舗メディアが配信する難解なビジネスニュースを、わかりやすい形で読みたいミレニアルズの需要に応えたサービスだ。

Quartz(クオーツ)

Quartz(クオーツ)

競合ビジネスメディア『Quartz(クオーツ)』もメルマガを配信。『Digiday』が伝えるところによると、2018年には、開封率78%という驚異的な数値を維持しながら、購読者数を前年比2倍の70万人まで増やした。『Espresso』の狙いと同じように、隙間時間にニュースを読んでもらうことを想定して、20本の記事を選出して配信する。

最後に3つのビジネス系メルマガを簡単に紹介したい。

Morning Brew(モーニングブリュー)

Morning Brew(モーニングブリュー)

まずは、『Morning Brew(モーニングブリュー)』だ。同メディアは、ミレニアルズのなかでもビジネスプロフェッショナル層をターゲットとし、『Techcrunch』の記事によると、合計20万人の購読者を獲得し、開封率は50%。規模は小さいが学生アンバサダー700人を囲い込んでいるという。累計75万ドルの資金調達をした。

MarketSnacks(マーケットスナックス)

MarketSnacks(マーケットスナックス)

競合には『MarketSnacks(マーケットスナックス)』が挙げられる。こちらはファイナンス系ニュースに特化しており、『Morning Brew』と差別化を図れているが、ターゲット読者は同じだ。

Føljeton(ボージェトン)

Føljeton(ボージェトン)

オランダ拠点の有料メルマガ『Føljeton(ボージェトン)』も見逃せない。「NiemanLab」の記事によると、2015年に創業されてから、合計8,500人の読者を獲得。月額サブスクリプション料金は8ドル。

面白い取り組みとして、エンゲージ率の高い500人の読者からコメントをもらい、1年間のニュースの中からいくつか注目記事をピックアップ、一冊の本を出版した点が挙げられる。まさに読者との双方向のやり取りから、コマース事業へ繋げた好例であろう。

もしほかのビジネスニュースメルマガを知りたければ、「Discover(ディスカバリー)」を是非参考にして欲しい。

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メルマガ回帰に至る変遷と展望 ── コミュニティを活かした多角化戦略

各SNSが急成長を遂げていた2015年、『BuzzFeed』のJonathan Perelman氏はプレゼンテーションで、「好きな情報を、好きなタイミングで消費できる時代になった」と語った。これは愛くるしい動物のコンテンツから、政治や経済のような難しいニュースまで、幅広い分野のメディアを傘下に持つ『BuzzFeed』のコンセプトに繋がっている。

読者は、自身が好きな分野のメディアのみを登録して、SNSを開けば自分好みの情報しか流れてこないニュースフィードにカスタマイズできる。こうした世界観を目指した『BuzzFeed』の考えは、あらゆるほかのメディアの参考となり、模倣された。

しかし、皮肉にも、模倣者が増加し読者が多数のメディアを購読することで、一方的に大量の情報が流れこんでくる事態に陥ってしまった。

Facebookはタイムラインのアルゴリズムを随時調節し、ニュースフィードの質を向上させようと、パーソナライズ化の仕組みを構築しようとしたがあまり意味をなさなかった。加えて、フェイクニュース事件を発端に、信頼は地に堕ちた。

Twitterは配信時間ごとにタイムラインにニュースが反映されるため、読者の欲しい情報ニーズに合わせたパーソナライズ設定ができない。こうした背景から、メルマガに再び脚光が集まった。これからもSNSの情報環境に嫌気を感じた読者の需要を満たす媒体として、生き続けるだろう。

読者が自発的に情報を取りにいく体験を想定すると、メルマガは最適な媒体であることは先述したとおりだ。なかでも質の高いコミュニティは、成長戦略を描くのに役立つ。『Awesomeness TV』のコマース事業や『Føljeton』の出版事業への横展開が好例だろう。

読者数の規模に関わらず、アンバサダーをしっかりと囲えていれば、彼らの求めるモノを開発することができる。特定分野に興味のある読者を囲えていれば、広告記事で収益を稼ぐだけでなく、たとえばアンバサダーと企業が一緒に商品開発を行っていくコラボ事業も可能であろう。

『theSkimm』の女子大生アンバサダーが、化粧品やアパレル企業と手を組んで、ミレニアルズ女子が好みそうな商品を開発すれば、ヒットするかもしれないし、メディア側はコンサル収益として新たな事業になるかもしれない。アンバサダー側も、就活の際に語れる貴重な経験となるため、Win-Winの関係を築くことができる。

いずれにせよ、SNS上でコンテンツを大量に配信するマスメディアとは違った魅力をメルマガは持っている。最たる例がニッチな読者層やアンバサダーを含めたコミュニティなのだ。

今後、コミュニティを軸にして、メディア事業の多角化戦略を行う事例が増えてくることは必至だろう。日本ではあまり注目されていないメルマガ市場の展望に期待が高まる。

こちらの記事は2018年07月10日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

福家 隆

1991年生まれ。北米の大学を卒業後、単身サンフランシスコへ。スタートアップの取材を3年ほど続けた。また、現地では短尺動画メディアの立ち上げ・経営に従事。原体験を軸に、主に北米スタートアップの2C向け製品・サービスに関して記事執筆する。

編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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