ソウゾウはなぜ、すべての事業をクローズしたのか?
──挑戦と撤退を繰り返すことで見えた、事業創造の要諦

登壇者
原田 大作

株式会社サイバード、ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社を経て、2011年にザワット株式会社を創業、代表取締役に就任。ブランド品フリマアプリの「スマオク」等のC2Cサービスをグローバルに展開。2017年2月、株式会社メルカリに売却し参画。メルカリの新規事業を行う株式会社ソウゾウの執行役員として、ブランド査定付きフリマアプリ「メルカリ メゾンズ」等、新規事業領域を担当。2018年4月ソウゾウ代表取締役社長に就任。現在はメルカリ新規事業責任者。

野辺 一也

学生時代にIT系ベンチャー創業、事業売却後に外資系コンサルティング会社にて事業戦略・マーケティング等のプロジェクトを担当。2007年に株式会社リヴァンプ立上げに参画、支援先化粧品会社CEOとして事業再成長を実現。2013年から株式会社ローソン上級執行役員マーケティング本部長、オイシックス、ロイヤリティマーケティング(ポンタポイント運営会社)などの社外取締役も努める。2019年2月より、株式会社メルカリに入社。執行役員 VP of Business Operations。

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2019年6月、メルカリの子会社、ソウゾウの解散が発表された。ソウゾウは2015年の設立以来、「メルカリ アッテ」や「メルカリ カウル」、「メルチャリ」など数多くの新規事業を生み出した。しかし、neuetに譲渡した「メルチャリ」以外はすべてクローズしている。数多くの起業経験者を擁していたにもかかわらず、なぜ解散するまでに至ったのか。

11月18日、ソウゾウの「失敗」にフォーカスしたFastGrow主催のイベント『「Next Mercari」 from 「Inside Mercari」ー 大胆な「挑戦と撤退」から得た事業作りの要諦とは』が開催された。ソウゾウの代表取締役社長を務め、現在はメルカリで新規事業責任者を務める原田大作氏と、執行役員VP of Business Operationsである野辺一也氏が登壇し、ソウゾウが歩んできた歴史を語った。

  • TEXT BY RYOTARO WASHIO
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY YUKO TAKANO
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メルカリを潰す存在は、メルカリが創る。ソウゾウの大胆な挑戦

ソウゾウの設立目的は「次のメルカリを生み出す」ことだった。アイデアを具現化するか否かは、メルカリのバリューの1つである“Go Bold(大胆にやろう)”かどうかをメンバーで協議して決めた。リスクが計算できない事業案は“Too Bold”とみなされ、廃案にされることもあったという。一時期は3ヶ月ごとに新規事業が生まれていった。

ソウゾウが注力していたサービスが、地域コミュニティアプリ「メルカリ アッテ」だ。自転車や机など、配送に手間のかかる大型家具がメルカリで売買されづらかったことを受け、近隣住民同士が会って取引できる環境を提供しようと試みたのだ。

2016年3月にリリースされ、ユーザー数は伸びていたものの、2018年5月にクローズ。理由は「メルカリ級になれなかったから」だと原田氏は語った。

株式会社メルカリ 新規事業責任者 原田大作氏

原田アッテは、メルカリと同規模のサービスに急成長することを見込んでいました。立ち上げメンバーもすごく優秀でしたし、皆アッテを成長させたくて集まってきていました。トラフィックは結構伸びたんですけど、メルカリのような成長曲線は描けなかったのでクローズを決断しました。

他にも、売りたい製品の写真をアップするだけで査定額が提示され、売買が成立するとメルカリのアカウントに売上金額が反映される、即金買取サービス「メルカリNOW」もあった。

原田2017年6月に、「メルカリキラー」と目された他社サービスがありました。メルカリを潰すサービスは、メルカリ自身が生まなくてはいけないと考え、2017年11月にメルカリNOWをローンチしました。

ソウゾウが作るすべてのサービスが「次のメルカリ」を目標にしていたわけではない。原田氏が目的に挙げたのは「メルカリの新機能の仮説検証」だ。

バーコード出品機能を実装したフリマアプリ「メルカリ カウル」は、その一環としてリリースされた。まず、メルカリは「出品に関わる作業を簡略化すれば、出品数を伸ばせるのではないか」と仮説を立て、バーコードをスキャンするだけで出品を可能にする機能の実装を企画した。

しかし、開発リソースが不足していたため、ソウゾウが新サービスとしてメルカリ カウルをリリース、検証の役割を担った。その結果、仮説が証明でき、メルカリにも機能を実装。メルカリ カウルは役目を終え、クローズした。

ブランド品特化型のフリマアプリ「メルカリ メゾンズ」も仮説検証が目的だった。写真をアップするとAIが査定価格を提示し、出品者の価格設定をサポートする機能を実装したところ、ユーザーから好評価を得る。AIによる価格設定機能をメルカリに組み込んだ後、2018年8月にサービス終了した。

原田マイクロサービス化などによって今はかなり解消されていますが、当時のメルカリは、機能をひとつ追加するにも、かなりの時間とコストが発生していました。それならば、新規サービスとして切り出し、仮説検証した方が早い。そこから良い成果が出たものをメルカリへ統合しています。

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新規事業に携わりたいなら、相応のリスクを取る覚悟を

仮説検証は順調だったものの、新規事業として立ち上げたサービスは、予想よりも成長しない状況が続いた。2018年4月、ソウゾウの代表取締役社長に就任した原田氏は、開発を仕切り直すために「コーン・プロジェクト」を設立。初心に立ち返り「メルカリ級のサービスを作る」ことにフォーカスするための、スタートアップライクな体制を構築する。

原田「メルカリ級」とは、メルカリと同じレベルの成長曲線を描けるサービスを指します。メルカリが立ち上がった初日からどのように伸びていったのかは、社内の誰でも見られるようになっていて、コスト関連などの細かなデータもすべて残っています。それらのデータと新規事業の業績を照らし合わせれば「メルカリになるか否か」が判断できます。

次なるユニコーン事業の創出を目指したコーン・プロジェクトでは3人チームを編成し、2ヶ月間で事業を構想、3ヶ月間でベータ版をリリースする。並行して、社内で投資判断も行われる。複数のチームが参加したなかで、2チームへの投資が決定。実際に開発を進めた。

原田氏は、初期のソウゾウの事業開発と、コーン・プロジェクトの相違点として「ブレイントラスト会議」の有無を挙げた。ブレイントラストとは「組織のブレイン集団」を指す。ブレイントラストが集結し、意見を交わして優れたサービスを生み出す「ブレイントラスト会議」は、ピクサーやディズニーも実践している。

ソウゾウの場合は、山田進太郎氏や小泉文明氏、青柳直樹氏といった当時のメルカリ経営陣が参加し、新規事業案のブラッシュアップを行った。

原田月1回のぺースで実施していました。特徴的だったのは、チームの責任者が最終判断することです。山田や小泉がどんなことを言ったとしても、です。だからこそ、経営陣も含めて、みんなでサービスを作った感覚が生まれたんだと思います。

しかし、プロジェクトから生み出された旅のストーリー共有アプリ「mertrip(メルトリップ)」も、リリースから3ヶ月後の2019年1月にサービス終了することになる。

なぜ、ソウゾウのプロダクトはすべてクローズすることになったのか。原田氏は、撤退の背景を語った。

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撤退を繰り返したからこそ気づけた、新規事業を失敗させる要因

メルカリアッテやメルカリNOWについては、「撤退基準がなかった点が失敗の要因だ」と原田氏。

原田会社としての勢いはあったものの、事業としては赤字だった。どこまで赤字事業を続け、どのような状態になれば撤退するか、明確に決めていなかったんです。辞め時を見失っていた。ここは反省すべき点です。

また、メルカリとのシナジーを想定よりも生めなかったことも失敗の要因だという。初期のソウゾウが作るアプリは、メルカリユーザーの流入を想定して作られていた。しかし、「メルカリ」としてのブランド認知が想像以上に強く、ソウゾウのアプリへのユーザー流入は想定を下回った。

失敗を踏まえたコーン・プロジェクトもまた、大きな反省点があると話す。

原田起業家レベルで事業を考えられる人が、思ったよりも少なかったんです。プロダクトだけでなく、戦略を考え、プレゼンし、投資家を納得させなければならない。極端に言えば、飲み会の予算まで介入するレベルでコスト意識を持たなくてはいけない。

当然、採用も自分でしなくてはなりません。コーン・プロジェクトでは、インターン生からエンジニアまで、メンバーが自ら仲間を探してくることを求めました。ただ、それら全部を行えるのは、ソウゾウでも執行役員クラスしかいなかった。

プロダクト開発が得意な人材、PL設計が得意な人材は多く存在する。しかし、事業開発に必要なスキルをすべて備えた人材は稀有だ。起業未経験者が、会社に所属しながらそれらを習得することは、予想以上に困難だったという。

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大きな失敗からは大きな学びを得られる。今、メルカリはより強くなった

一方、野辺氏は、コーン・プロジェクトを通じて得た気づきが、現在の組織編成において活かされていると語る。

株式会社メルカリ 執行役員VP of Business Operations 野辺一也氏

野辺改めて、リーダーの重要性を実感しました。ですから、今は新規事業を推進するリーダーの人選は、非常に厳しくしています。リーダーを務める者は「新規事業をやってみたい」程度の気持ちでは難しい。「絶対にやり遂げるのだ」という強いパッションが必要です。

その人材を、経験豊富なシニアエンジニアなどが支えるチーム構成が、現在のメルカリには適していると思っています。全員がジュニアのチームだと経験不足が仇となる場面がある。一方で、経験豊富なだけのメンバーをリーダーにしてしまうと、熱量で事業をドライブしていく力が損なわれてしまう場合があるんです。

また、新規事業のチームには、「組成の段階からマーケティング担当を入れるべきだ」と野辺氏は指摘する。これまでの新規事業においても、プロダクトやUXデザインは完璧なものはあった。ただ、マーケティング人材がいなかったばかりに、サービスが伸びなかった例を多く目にしてきたという。

原田氏は、組織編成においては採用が最も重要だと語る。面接では、意思決定のプロセスを重点的に聞くことで、採用水準を一定に保っているそうだ。

原田仕事、プライベートどちらでもいいのですが「どういうリスクテイク」をしたのか、それに対してどういうリターンが得られたのかについてしっかりと聞くようにします。リスクを想定した上でチャレンジできる方。起業したときのプロセスと、最終的にもし失敗したらどうしようと考えていたかをどの程度想定していたかが語れるかどうかは大事だと思います。

例えば、「20代後半で起業しました。デザイナーやってみました。失敗しました。倒産しました。お金なくなりました。けどスキルめちゃくちゃ積めました。最初からそれも想定していたので、起業は向いていませんでしたが、また環境を変えて挑戦します」って人は評価されるべきだと思うし、リスクを正しく認識せずに突き進んじゃう人じゃなくて、分かった上で取りに行くみたいなことができているかですね。

結果的に全撤退となったソウゾウの新規事業には「次のメルカリ」になる可能性を秘めたものもいくつか存在したという。コーン・プロジェクトから生まれたメルトリップもそうだ。好調にサービスを伸ばし続けていたため、「そのままスピンアウトすることも真剣に検討した」と原田氏は語る。では、なぜ終了に至ったのか。決め手は、メルカリのバリューである“All for One”だった。

原田当時は、メルペイがローンチ直前で、メルカリのUS版も大きく伸びていた頃。会社として、どこに注力すべきか判断する時期に入っていたんです。そんな状況でメルトリップをスピンアウトさせ、メルカリから人材を連れていったとしたら、“All for One”に反するのではないかと、ずっと葛藤していました。悩み抜いた末、会社の中核事業にリソースを集中させるべきだと判断し、スピンアウトは断念。サービスも閉じました。

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メルカリは今後、新規事業にどう挑むのか?

「All for One」に立ち返り、力を結集したメルカリは、次にいかなる展開を見せるのだろうか。

ソウゾウは、メルカリのバリューである「Go Bold」「All for One」「Be a Pro」に「Move fast」を加え、運営されていた。スタートアップらしくPDCAを高速で回すことを重視したのだ。原田氏はメルカリのフェーズが進み、意識すべき言葉も変化しているという。

原田Move fast with stable infra──強固なインフラを使って、高速でPDCAを回していけば、より大きなことができる。そんなフェーズに入ってきているんです。

原田氏は一例として、これまでのサービス運用によって蓄積された二次流通データの活用を挙げた。メルカリだからこそ持ち得るビッグデータは、今後どのようなチャレンジを可能とするのだろうか。

原田例えば、ファッション。メルカリには「現在売れているプロダクトの傾向」や「定番化し、時間が経過しても売れるデザイン」など、二次流通のデータが蓄積されています。二次流通データを活用した新事業が、ファッション業界を変えることになるかもしれません。

また、原田氏はメルカリの次なる挑戦として「越境EC」を挙げた。11月15日、メルカリは、海外ユーザー向けに日本国内のEC商品を代理購入する「Buyee」と連携し、100カ国以上での越境販売を開始した。「まだ実証実験の段階」と前置きした上で、原田氏は「すでに多くの取引が行われている。日本の商品は、世界中で売れることが判明した」と自信をのぞかせる。

原田メルカリUSのようにローカライズするのではなく、日本のメルカリ自体を世界に進出させることも考えています。将来的には、越境ECを新規事業として独立させ、世界に打って出るのもいいですね。

壮大なチャレンジに踏み出したメルカリ。その影にはソウゾウが残した多くの“失敗”と“反省”が隠れていた。メルカリの新規事業の軌跡ほど、「Go Bold」を雄弁に語るものはないのではないだろうか。

こちらの記事は2019年12月26日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

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執筆

鷲尾 諒太郎

1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。

写真

藤田 慎一郎

編集

高野 優子

フリーの編集、ライター。Web制作会社、Webマーケティングツール開発会社でディレクターを担当後、フリーランスとして独立。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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