「未開市場への挑戦権」は起業やスタートアップだけじゃない──NTTアノードエナジーの戦略家に訊く、20代で突き抜ける人材になるためのキャリア論

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インタビュイー
川野 孝太郎
  • NTTアノードエナジー株式会社 経営企画部 事業戦略部門 課長/財務部 課長 

2007年NTT西日本に入社。支店での販売戦略を経験の後、本社にて次世代ネットワークに関する官庁・他事業者等の規制対応やサービスの料金戦略に従事。その後、2019年に設立されたNTTアノードエナジーに2020年出向しコーポレート業務に幅広く従事。主に、NTTアノードエナジーグループ全体の事業戦略・計画、グループ会社マネジメントを管掌している。

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若くして次世代の事業リーダーを目指すなら、リスクを取ってでも新卒キャリアにおける企業選びの軸に「未開拓な市場」や「新産業領域」も視野に入れておきたい。なぜなら、そこには先駆者としての挑戦機会が存在しているからだ。

現在、優秀な学生たちの新卒キャリアの挑戦の場としては、総合商社、コンサルティングファーム、IT系メガベンチャーなどが人気を集めている。だが、「なんとなく周囲の優秀な仲間たちが行くから」という理由で選んでいる者も多いのではないだろうか?

ライバルを退けて突き抜けるには、そもそも競争が発生していない領域を開拓し、突き進むことも有効な手段だろう。では、まだ多くの若手ビジネスパーソンや学生たちに知られていない未開拓の市場や新産業はと言うと、どういった領域になるのだろう。

今回はその点について、まさに新産業領域と言える「再生可能エネルギー」領域で急成長する大手発のスタートアップ・NTTアノードエナジーの川野氏に話を聞いていく。

前回の取材では、NTTアノードエナジーの設立の背景やカルチャー、再生可能エネルギー市場のポテンシャルを伺った。今回は、未開拓の市場や新産業領域に、若手が飛び込むことで得られる挑戦機会とキャリアの可能性について紐解いていこう。

  • TEXT BY YUKO YAMADA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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周囲の目を気にしていては、事業リーダーにはなれない

新卒キャリアにおいて、総合商社やコンサルを選ぶ学生は依然として多く、また加えてAIやSaaS系のスタートアップに挑む者も増えている。しかしその中には、「周りのみんなが選んでいるから」「その企業に入ればキャリアに箔がつきそうだから」といった理由で就職先を選ぶ者もいるのではないだろうか。

気持ちは分かるが、周りの20代よりも早く、突き抜けた存在になりたければ、周囲の意見に流されてはならない。挑戦の場は、自らの中にある確固たる軸で選ぶべきだ。

ならば、これから事業リーダーを目指す20代の若手たちが考えるべきキャリアとはどんな点だろうか。その疑問に対し、NTTアノードエナジーの川野氏はこう口を開いた。

川野「世の中に新しいインパクトをもたらしたい」「変革の第一人者になりたい」という気持ちがあるならば、まだ周囲が気づいていない「未開拓の領域」や「新産業領域」にこそチャレンジすべきだと思っています。そしてそれは単にスタートアップや起業といった選択肢を指しているのではなく、大手企業が取り組む事業の中にもそうした領域はあると思っています。

もちろん、誰も経験していない道をあえて選ぶことにリスクを感じるのは当然です。しかし、未開拓な領域だからこそ、世代間の経験の差による影響も受けず、若手にも平等のチャンスがあり、自らがリーダーシップを発揮する機会も多くあるからこそ、必然的に市場を牽引するリーダーになりやすい環境であると捉えています。

では、未開拓の領域の中でも若手が挑戦すべき新産業領域とはどこか?その1つが、再生可能エネルギー領域だ。

川野新産業と言えば、一般的にICTやテクノロジー領域という印象が強いかもしれません。事実、SaaSを中心にAIやIoTを活用した急成長企業が多く台頭していますよね。しかし、必ずしもそうした領域だけが新産業ではありません。

我々が属する再生可能エネルギー市場も急成長中の新産業の一つ。巨大な市場でありながら、まだまだ未開拓の領域のため、自分たちで市場のスタンダードを創っていくことができます。

さらに、再生可能エネルギーは世界各国で取り組みが進んでいるため、グローバル進出の可能性も大いにある。そして、日本だけでなく世界的にも、まだ明確なリーディングカンパニーが生まれていないのがこの領域の現状です。つまり、再生可能エネルギーという領域は、世界を股にかける事業リーダーを目指していけるポテンシャルも秘めているんです。

ここであらためて、川野氏が考える若手が新産業領域に挑戦するメリットをまとめてみよう。

川野氏が考える、20代若手が新産業領域にチャレンジする3つのメリット

  1. ベテラン含め人材の絶対数が少ないため、若手にも大きな挑戦へのチャンスがある
  2. 圧倒的な競合が存在しない市場だから、市場を牽引するリーダーになるチャンスが相対的に多い
  3. 事業の成功が、社会の大きな課題解決に直結し、業界のスタンダードを創出するような事業開発に挑戦できる

もちろん、冒頭から挙げている総合商社やコンサルティングファーム、ITスタートアップでこそ「自身が描くキャリアが築ける」と考えているのであれば、迷わず進んでほしい。

ここでまず伝えたいことは、「周りのみんなが行くから」といった単純な理由で新卒キャリアを選ぶと、得ることができたはずの成長機会を失うかもしれないという話である。

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再生可能エネルギー市場はチャレンジ不可避。
「逃げられない面白さ」がある

再生可能エネルギー市場が、成長志向の高い若手にとって挑戦すべき領域であるとはいえ、まだ同市場に携わる面白さや魅力が見えていないはず。

再生可能エネルギー市場とは、どのような市場環境であり、そして今、何が課題なのだろうか──。まずはFastGrowが「事業家になるための視点」で改めて解説してみよう。

ご存じの通り、昨今の猛暑や豪雨などの異常気象は、日本のみならず世界各地で起きている。その要因の1つとされているのが地球温暖化だ。そして、地球温暖化の解決に向けて、世界各国でカーボンニュートラルの実現*に向けた取り組みがおこなわれていることはご存知だろう。

*カーボンニュートラルの実現とは、地球温暖化の一因とされる温室効果ガスの排出をゼロにするのではなく、排出せざるを得ない分と同量の温室効果ガスを「吸収」または「除去」することで、差し引き正味ゼロ(実質ゼロ)の社会を目指すもの。

川野日本政府は、世界に向けて「2050年にカーボンニュートラルの実現」を宣言しました。つまり、2050年までにカーボンニュートラルを実現するためには、CO2(温室効果ガスの約9割がCO2)の排出量を削減しなければなりません。

そのために、CO2を多く排出する火力発電を抑制し、CO2を排出しない太陽光や風力、地熱、バイオマス、水力といった再生可能エネルギーへの転換が急がれています。

つまり、これまで主要なエネルギー資源であった石炭や石油などの化石燃料に依存しない、次世代エネルギーへの転換が求められているのだ。事実、世界はもちろんのこと、日本においても再生可能エネルギー市場は拡大傾向であり、言わば国策と言っても過言ではない。

それほどまでに、再生可能エネルギーの導入は、企業や自治体はもちろん、各家庭に至るまで広がっているのだ。2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、この勢いはまだまだ止まらないだろう。

その一方で、川野氏はカーボンニュートラル実現に向けては「容易に超えられないハードル(課題)が存在している」と語る。この市場に投資こそ集まってはいるが、なかなか再生可能エネルギーが世界の中心になっていかない。そこには構造的な理由があり、各プレイヤーが苦戦している実態がある。

川野カーボンニュートラル実現のために、太陽光発電所や風力発電所などを次々と増やしていけばいいのか?というと、そう単純なものではありません。

なぜなら、発電し需要家に対して供給する「供給量」と、変動する需要家の消費量である「需要量」が常に“同時同量”になっていなければならないからです。「同時同量を守るための制度や運用が定められており」、発電のし過ぎや電力の使い過ぎによってバランスがくずれると、大規模な停電を引き起こすおそれがあります。

さらに、太陽光発電や風力発電は、天候や季節の影響を大きく受けるため、電力量が安定しているとは言えません。例えば太陽光の場合、夜の発電に備えてどうすればいいのか?風力の場合は、風が吹かなければどうすればいいのか?といった問題が生じます。一方で、太陽光発電所で発電した再生可能エネルギーが、電力系統の許容量を超えるような場合には発電量が抑制されているという状況もあり、せっかく発電した再生可能エネルギーをを無駄にしないための調整力も求められています。

このように、再生可能エネルギー業界では、いつ変動するか分からない発電量を予測しながら、それに応じて需給のバランスを調整していく技術的な難しさがあるんです。

現状の法整備のもとでは、太陽光発電所で発電した電気を一度、蓄電池に貯めてから再びその電気を使う場合、形態によってはその電気が再生可能エネルギーとは認められていないといった実情もある。「それって変えていった方がより良いと思いませんか」と川野氏は述べる。つまり、新たな技術が生まれている一方で、まだまだ国の制度が追いついていないのが現状なのだ。

 

川野また、再生可能エネルギーとして発電されるものにも種類があり、例えば「固定価格買取制度(FIT制度)」に依らない発電事業を営む場合には、発電計画と発電実績を揃えるような必要性があります。ただ、再生可能エネルギーは天候に左右されるため、発電量の予測が難しく、かつ安定した電力を供給するために厳しい規制が定められており、非常に難度の高い事業領域だと感じています。

その中で多くの課題を解決しながら、脱炭素のニーズに応えていくことは、決して一筋縄でいくようなものではありません。これまでにない新たなアプローチを試みながら、自分たちの手で新常識(ルール)をつくらなければならないのです。

つまり、新領域の市場であり、且つ、制度も成熟しきっていないからこそ、再生可能エネルギー業界は、自分たちが広義な意味でのルールメーカーになれるポテンシャルの高い業界だと言えますね。(制度そのものは国や審議会にて決定される)無論、20代の若手が挑戦する上でも、専門知識や経験は仕事をしていく中で学んでいけますので、一切不問の領域です。

国が定めた「カーボンニュートラルの実現」という目標に向かって、再生可能エネルギー業界はチャレンジ不可避な状況であり、かつそこから「逃げられない面白さ」があると川野氏は述べる。

世界の動向や国の方針などを見ながら、不確実な天候や未整備状態のルールの中で挑んでいく事業づくり。非常にタフな、と言うと平易だが、とても一介の新興スタートアップがカバーできる領域ではなさそうに感じる。

すなわち、NTTグループが持つような豊富なアセットや知見を活かし、国と共に制度自体を変えていくような働きかけができる企業こそが求められているのだろう。

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「創る」「運ぶ」「売る」の一気通貫こそがNTTアノードエナジーの強み

新産業領域で難度の高い事業に挑むNTTアノードエナジー。同社は、一体何がすごいのか?どのような強みを持って、市場の創造に挑んでいるのだろうか?そんな疑問をここでは解消していきたい。

NTTアノードエナジーは、グループ会社であるエネットとNTTスマイルエナジー、グリーンパワーインベストメントと共に、「脱炭素社会の実現」と「エネルギーの地産地消の推進」に向けて、スマートエネルギー事業を展開している。

同社のエネルギー事業の規模感を理解する上で、普段、我々が使っている電力供給の流れを押さえておきたい。(参考

まず、電力供給の仕組みは大きく切り分けると、「発電」→「送配電」→「小売」の3つに分かれている。

初めに発電所で電気がつくられ、次に送電線・配電線などの送配電ネットワークで電力のバランス(周波数など)が調整され、最終的に消費者は電力の小売会社と契約して電気を利用している。2016年に電力の小売全面自由化にともなって、「小売」には通信会社やガス会社など数多くの企業が参入している。発電事業者も多数存在している。

では、NTTアノードエナジーのエネルギー事業は、「創る」「運ぶ」「使う(売る)」の中でどの領域を担っているのだろうか。答えは、3つすべての領域である。

NTTアノードエナジーでは、太陽光をはじめとした再生可能エネルギー電源を自社で開発し、民間企業や自治体、そしてNTTグループ各社に提供している。つまり、電気を「創る」「運ぶ」「使う(売る)」を同時に展開していることこそが、NTTアノードエナジーのユニークネスなのだ。

参考

とはいえ、この領域について馴染みの浅い読者からすると、それがいかに凄いことなのかイメージがつかないだろう。

それでは、他社比較の上で相対的に同社の優位性を確認したい。そこで、「NTTアノードエナジーに競合はいないのか?」という取材陣の問いかけに対し、川野氏は「我々のように全国展開、且つ、一気通貫で行っている企業は他にいないのではないか」と返す。

川野「創る」「運ぶ」「使う(売る)」の3つのプロセスの中で、例えば太陽光や風力に特化して発電所を「創る」企業や、電力の自由化に伴って「売る」企業は多く存在します。また地域の大手電力会社は、グループ会社で3つのプロセスに携わっているもののカバーするエリアは限定されています。その中で、全国展開で3つのプロセスを一気通貫で行っている企業は、NTTアノードエナジーだけだと言っても過言ではありません。

NTTアノードエナジーでは、3つすべてのプロセスがシームレスに繫がっているため、キャリアパスの観点でみても、NTTグループ内で「発電所を新たに創るような大きなプロジェクトを牽引する経験を積みたい」「大手企業の経営におけるカーボンニュートラル実現を手伝うコンサルティングサービスを手掛けたい」などさまざまな活躍が考えられます。

さらに、NTTグループは電気の使用が多い通信事業が主軸のため、年間の電力消費量は日本全体の1%以上を占めている。つまり、NTTグループ全体で率先してカーボンニュートラルを達成することができれば、「1つのグループ会社で、日本全体の1%以上に貢献した」ということになるのだ。このようなインパクトをもたらす企業は他に類を見ないのではないか。

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M&Aの規模は「数千億」円。
ヒト、モノ、カネをフル活用した事業づくりができる

NTTアノードエナジーが、再生可能エネルギー市場という新産業の領域で事業を拡大させていることは分かってきた。とはいえ、昨今のスタートアップにおいても未開拓な市場にチャレンジしたり、スピード感を持って業界変革に挑んでいる企業は多く存在している。そういったスタートアップとNTTアノードエナジーでは何が違うのだろうか。

川野氏は、「NTTグループの資金力はもちろん、長年蓄積されてきたNTTグループの技術力や人などの潤沢なアセットこそが、唯一無二の強みだ」と述べる。

川野おっしゃる通り、様々な新領域にチャレンジしているスタートアップは多いでしょう。

しかし、我々に関して言えば、再生エネルギーという市場に取り組む都合上、旧来の慣習に合わせた国の制度も1つのハードルになるので、国と一緒に地道に歩んで世の中に変革を起こしていく必要があります。

そのためには莫大な資金のみならず、豊富な人員や全国的なネットワークといったアセットも重要になります。その上で、3,000億円規模の大型買収*も実行できる。こうしたダイナミックな点が、他のスタートアップとの違いになるのではないでしょうか。

*2023年5月、NTTアノードエナジーは、発電会社のJERAと共同で、外資系企業が運営する国内再生可能エネルギー事業を買収した。(参考

後述するが、川野氏もこの買収案件に携わっており、そのトランジションプラグラムに今まさに奮闘中の身である。こうした点からも、NTTアノードエナジーには桁違いのチャレンジングな環境があることがお分かりいただけるはずだ。

とはいえ、読者の中には「NTTと聞くと、どうも「保守的」なイメージが拭えない」と感じる読者も少なくないだろう。しかし、NTTアノードエナジーは、事業の意思決定において、母体であるNTTの通信事業とは異色のカルチャーをもっていることも特徴だ。

川野NTTグループの母体となる通信事業は、インフラ事業であり、安定した事業をおこなうべく、意思決定には多くの情報や時間などのリソースをかけ、徹底的に確度を高めた上で決断します。一方、NTTアノードエナジーではリスクを極力排除するのではなく、どのようなリスクがあるのかを把握し、リスクマネジメントをしていくことを前提に一定のリスクを許容した投資や買収、実証などの意思決定がなされるカルチャーがあります。

それは、NTTグループの中でも、NTTアノードエナジーの事業は短期的な利益を追求するのではなく、持続可能な未来に向かって社会を変革しうる長期的な価値に期待がなされているからこそ。莫大な投資額を見ても分かる通り、NTTグループからの期待は一身に感じています。

NTTアノードエナジーは、大手発のスタートアップだからこそ、NTTグループの人・技術・資産といったアセットを活用でき、インパクトの大きな事業展開ができる。もちろんそれだけでなく、NTTグループの成長領域として、グループ全社から期待されているからこそ、一般的なスタートアップでは実現できないスケール感で新規領域にチャレンジできるのだ。

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堅苦しいイメージはもう古い。
事業戦略を担うのは20代30代の若手メンバー

NTTアノードエナジーが持つポテンシャルの大きさは分かったが、しかし、読者の中にはまだNTTという組織に対して、「とはいえ、保守的なカルチャーが根強くありそう」「年齢層も高く、20代の若手が活躍できるイメージがわかない」といったイメージを持つ者もいるだろう。実際、2007年にNTT西日本に入社した川野氏も当初は世間と同じイメージを抱いていた。

川野入社前は、「西日本電信電話」という社名を見て、「なんだか堅苦しそうで、昔ながらの会社なのかな」という印象でした。ところが、入社してみると社内では新規事業が活発におこなわれていたり、上司に対して声をあげやすいカルチャーが根付いていたりと、入社前に抱いていたNTTの印象が大きく変わりました。

確かに、社内は若手世代が中心とは言えませんでしたが、その分、若手は周りから大切に育てられるだけでなく、失敗を恐れずに自由にのびのびとチャレンジさせてもらえる環境です。

川野氏はNTT西日本のセールスからキャリアをスタートさせ、今に至るまで2〜3年の単位で昇格に伴い異動をしている。まず、NTT西日本の経営企画を担い、その後、NTTスマイルエナジーではサービス企画や資材調達などを経験。2018年に再びNTT西日本に戻ってからは、通信事業の規制対応や料金戦略に従事。そして2020年に、当時設立2年目のNTTアノードエナジーに異動してきたのだ。

現在は、NTTアノードエナジーの経営企画部と財務部を兼務し、さらにグループ会社(エネットとNTTスマイルエナジー、グリーンパワーインベストメント)のマネジメントを担っている。

参考

直近では、買収後におけるPMI、NTTアノードエナジーでは「トランジションプログラム」と称する取り組みの推進と、NTTアノードエナジーグループの事業戦略・計画の策定に携わっているという川野氏。そこで、トランジションプログラムと事業戦略・計画の策定について川野氏が手がけている業務内容を尋ねてみた。

川野1つは、先ほどお話をした再生可能エネルギーの発電事業者を約3,000億円で買収したというプロジェクトです。私は買収による株主変更の中で円滑に事業を継続するためのトランジションプログラムを担当しています。

企業買収は、買収したらプロジェクトが終わりなのではなく、そこからが新たなスタートになります。今回の買収では、JERAという共同買収のパートナーもおり、3社の強みをいかに融合していくかが重要であると考えています。

そのなかの1つとして、今後どういった経営管理をしていけばいいのかということについて今まさに議論を開始したところです。NTTグループ内には買収に携わるメンバーは一握りなのですが、その中で今回、私は初めて経営企画部のマネージャーという立場で買収プロジェクトに携わることができ、大きなやりがいを感じています。

川野もう1つが、NTTアノードエナジーグループの事業戦略・計画の策定です。NTTグループでは、複数年単位で中期的な事業計画を策定するケースが多いのですが、卸電力取引市場での電力の仕入れ値は株式市場にも類似しており30分単位で売買価格が変動します。

そのため、事業計画では、将来の電力の仕入れ値が分からない不透明さがある中で計画を策定しなければならず、売上の見込みが外れることも少なくありません。その場合、なぜ目論みが外れたのか、同じ過ちをくり返さないためにも振り返りが必要です。

先ほど、NTTアノードエナジーグループの事業は、「NTTグループの中で成長領域であるため、たとえリスクがあるものでも、チャレンジが認められている」と言いました。しかし、だからと言って見込みがないものに迄すべてが許されているわけではありません。

我々が事業計画を策定する上では、親会社であるNTTに対して「なぜ、我々がこの事業をおこなうのか。それにより社会はどう変革できるのか、顧客にとってどのような価値があるか」とストーリーで語り納得してもらうことが必要です。

前回の取材では、20代30代のメンバーが裁量を持って事業を推進していることが語られたが、川野氏が手がける難度の高い事業計画周りの業務に対しても、NTTアノードエナジーでは若手が携わるチャンスはあるのだろうか?

川野もちろんです。私の部下は20代後半から30代前半の若手ばかりです。事業戦略・計画の策定や、実績の把握や分析については、さまざまな事業経験で得た知見が必要とされるため、新卒ですぐに携わることは難しいかもしれません。しかし、着実に経験を積んでいけば、若手であっても率先して活躍できる環境です。

NTTアノードエナジーでは、読者がイメージするスタートアップ顔負けの事業創出に向けたチャレンジを積極的におこなっている。そして、それを牽引しているのが20代30代の若手メンバーたちだ。同社では、事業経営周りのポジションにおいても若手が活躍していることから、若手の挑戦機会としては申し分なく、事業リーダーを目指す者にとっても魅力的な環境だといえるだろう。

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NTTアノードエナジーの経験は、グローバルなキャリア構築にも活きる

ここまでの話を通じても、まだ払拭されていない疑問がある。それは、再生可能エネルギー業界自体、専門性が高いがゆえ、その後のキャリアの幅が広がらないのではないか?というものだ。そもそも、若手が再生エネルギー業界で経験や知見、スキルを身に付けたところで得られるキャリアのメリットはあるのだろうか。

川野もちろんあります。エネルギー業界には、「創る」「運ぶ」「使う(売る)」という3つの切り口があることはお話しました。それぞれの技術やノウハウは需要の高い専門スキルだと思います。

例えば「創る」と「運ぶ」ですが、脱炭素化に向けて再生可能エネルギーの普及が進む中、電力の需給バランスを取るための技術力や、安定した電力を供給するための調整力などは他国でも求められています。国内に限らずグローバルに活躍の場は広げられるでしょう。

また、再生可能エネルギー業界から別の業界へのキャリアチェンジも充分あり得ます。

例えば、電気の燃料(再生可能エネルギー以外)となる石炭やLNGガス、石油は国内ではほとんどつくられていません。そのため海外との取引(トレーディング)で資源を調達していくのですが、そうした値動きが将来どうなるのかといったことや、先ほどお話した卸電力取引市場の売買価格に関する予測の技術や知見は、再生可能エネルギー業界を問わず、広く応用できると私は思います。

今は地球温暖化対策が喫緊の課題である以上、川野氏が言う通り、再生可能エネルギーの技術や知見はこれからますます需要が高まってくるだろう。ただし、同市場にはまだ圧倒的に若手の人材が足りていない。今後、再生可能エネルギー市場を伸ばしていくためには、新たな技術やアイデアが必要であり、スピード感を持って市場を変革できる若手の力が必要だ。

それはNTTアノードエナジーにおいても同様。そんな同社では、これからどんな若き仲間と共に市場を切り拓こうとしているのだろうか。

川野今回の取材を通して、再生可能エネルギー領域は専門性が高く難しい事業であることはお話ししてきましたが、エネルギー周りの知見がないと活躍できないというわけではありません。

電力のテクニカルな部分は入社してからいくらでも学ぶことができますから。それよりも、社会課題の大きさや市場としての成長環境にポテンシャルを感じてジョインされる方が多く、我々もそういった方を求めています。

今後、さらに脱炭素化に向けた「仕組み」や「サービス」を拡充していく段階なので、自分の技術やアイデアを事業づくりに活かしてみたいという若手にはぜひチャレンジしてもらいたいです。

具体的に言えば、我々はAIの技術を活用できる人材も求めています。というのも、例えば太陽光は、天気だけではなく、湿度や日射角度でも発電量に影響が出るため、AIによる高度な予測技術や解析技術が必要不可欠だからです。ですので、AIを活用した技術に興味関心のある若手の方も積極的に歓迎したいです。

NTTアノードエナジーは、再生可能エネルギーという次世代の電力を推進していく過程で、新しい技術や制度、仕組みづくりなどによって日本の経済や産業の在り方をも大きく変えようとしている。

世界中でエネルギー転換の波が訪れている今、現状に満足している人や固定的な考えにとどまってしまう人には、おそらく同社の環境は向いていないだろう。そんな未開拓な市場で挑戦を続けるNTTアノードエナジー。最後に今後の展望を尋ねてみた。

川野大きく2つあります。1つは、我々の顧客である企業や自治体、そして我々NTTグループ自身のカーボンニュートラルの実現です。

脱炭素化に向けての課題や目指している在り方は、顧客によってさまざまです。例えば、「再生可能エネルギーは、『生グリーン(*1)』しか認めない」という方、企業もいれば、「『FIT電気(*2)』を使用しても構わない」という方、企業も。顧客に合わせたやり方でサービス提供できるよう、ソリューションを広げていきたいと思いますね。

(*1)生グリーンとは、太陽光や風力などから発電所から直接需要家(電気の供給を受けて使用するもの)に送られる電力のこと

(*2)FIT電気は、再生可能エネルギーで発電された、かつFIT制度(政府が定めた再生可能エネルギーの固定価格買取制度)によって電気事業者に買い取られた電気のこと

川野もう1つは、アグリゲーション事業への参画です。

「運ぶ」の部分です。先ほどもお話した通り、再生可能エネルギーでは、制度上、発電し供給する「供給量」と電力を使う側の「需要量」が同時同量でなければ大規模な停電に繫がります。

そのため、せっかく多く再エネが発電できるのに、需給バランスが合わない分の再エネを無駄にしてしまっているというのが実情で、それは再エネを効率的に使えているとは言えないですよね。そこで、使い切れない電気を貯める蓄電池を設置して、必要な時に利用できる蓄電池の実証実験を始める予定です。そしていずれは事業化し、全国に普及させていきたいと考えています。

一方で、蓄電池は設備や建設、設置等に係るコストが高額になるため、現状は資金力のある大手企業が中心となって利用している状況です。現状、誰もが利用できるわけではありません。しかし、いずれはプラットフォームのような形で、例えば自然災害での停電時に電気を必要としている人がいれば誰でも使える、そういった環境づくりを積極的に進めていきたいと思います。

再生可能エネルギー市場は、喫緊の課題である地球環境問題と相まって、今、大きなビジネスチャンスが到来している。中でも、NTTアノードエナジーは、同市場の国内リーディングカンパニーとして筆頭であり、同社にジョインすれば先駆者としてルールメーカーになれるチャンスがある。

将来、事業リーダーになりたいと願うならば、成熟した産業ではなく、「未開拓の市場」「新産業」が持つ成長機会の大きさを理解しておくべきだ。そしてその機会は、今回紹介した再生可能エネルギー領域にも存在している。その領域で急成長するNTTアノードエナジーは、今まさに、次代を担う20代の若手に向けて門戸を開いているのだ。

こちらの記事は2023年09月25日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

山田 優子

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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