連載PMI成功論──株式会社リジョブ

20代で起業、倒産を経験。買収企業を10倍成長させた32歳経営者が辿り着いた、“社会性”の真意とは

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インタビュイー
鈴木 一平

東大起業サークルTNK所属。20歳で起業。ファッション通販ベンチャー、Webマーケティングベンチャーの創業メンバーを経験。ファッション通販ベンチャーの倒産を経験後、株式会社じげんに入社。経営企画・事業開発を経て、株式会社リジョブ代表取締役/株式会社じげん執行役員に就任。事業拡大のみに留まらず、事業を通して社会課題の解決、そして心の豊かさあふれる社会の実現を目指す。

植田 美保

当時社員数10数名であったリジョブに新卒1期生として入社。2年目に営業マネージャー、3年目に大阪支社長を経験したのち、CSV推進の責任者として「咲くらプロジェクト」の立ち上げを主導し、現在は当プロジェクトを運営するフィリピン子会社RENABLE PHILIPPINES Inc.のCEOを務める。

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企業経営において、「社会性と事業性の両立」は至難の業だ。

事業数字の徹底的な追求と、業界や社会への貢献が、トレードオフになってしまう企業も少なくないだろう。しかし、そんな常識を覆し、社会性の高い事業を展開しつつも、3期連続130%以上の成長を実現し、買収にかかった19.8億円の投資額をわずか2年強で回収した経営者がいる──株式会社リジョブの代表取締役社長を務める、鈴木一平氏だ。

この連載企画では、鈴木氏の珠玉の知見を深掘りしていく。第1回ではその半生と組織哲学、第2回では事業ノウハウに迫った。

連載第3回では、鈴木氏が「社会性」を重視している理由、事業成長と両立させるためのノウハウを深掘りする。今回も第2回に引き続き、鈴木氏のみならず、現場で実際に事業を動かしているメンバーにも話を伺う。

  • TEXT BY MASAKI KOIKE
  • PHOTO BY TOMOKO HANAI
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主語が「自分」な経営者に、数百億円規模の事業はつくれない

「社会課題を解決する」というビジョンを標榜する企業は少なくない。

しかし、そうした企業の経営者に問いたい。あなたが思う、「社会課題」とはなにか──。高い解像度で、具体的な説明ができる者は、どれだけいるのだろうか?

標榜するに留まり、実質は事業成長だけを目指している、「絵に描いた餅」に終わってはいないだろうか?

リジョブを3期連続130%以上の成長に導いた経営者・鈴木一平氏は、本当の意味での「社会性」を重視し、事業を通した社会課題解決の道を探っている。

鈴木氏は、「美容師の働き方改革」のような業界内の問題を「業界課題」、また「貧困」のように課題のスケールが社会全体にまで広がったものを「社会課題」と定義。そうした課題を事業を通じて解決することが、リジョブの「社会性」である。

株式会社リジョブ代表取締役・鈴木一平氏

鈴木悩んでいるお客様を救い、喜んでもらうのが、自分のモチベーションの源泉。プラスをさらにプラスにするのではなく、マイナスをプラスにする事業を手掛けたいんです。

とはいえ、鈴木氏も、元から社会性志向だったわけでは毛頭ない。

鈴木ファッション通販企業を経営していたときは、目先の目標としてIPOを目指していましたから──そんな彼は、連載第1回でも詳述したように、リジョブの社長に就任した直後、全メンバーとの面談を実施。メンバーの社会性の高さに衝撃を受けた。

リジョブのみんなは、主語が「自分」ではなく「業界」や「社会」だったんです。「今後リジョブで何をやっていきたいか?」と問うと、「自分は新規事業がやりたい」「給与を上げてほしい」ではなく、「美容業界のこういった課題を解決したい」といった答えが多く返ってくるのは驚きでした。

それまで売上アップや利益創出を最優先にビジネスを行なってきた鈴木氏は、考えを改めさせられる。一定規模以上に成長している企業を見ると、「社会性を持つことが本質的な共通点ではないか?」「社会性が欠如していたことこそ、以前にファッション通販会社を倒産させた根本的な原因なのではないか?」と気付かされたのだ。

決して、事業成長を軽視しているわけではない。利益は会社の「血」であり、「自己犠牲の精神だけでは継続的に立ちゆかない」と鈴木氏は語る。特に創業期のように収益が安定しない時期は、一時的に事業成長を最優先することも必要だろう。

しかし、社会に大きなインパクトを与えることを志す鈴木氏の目線は、目先の利益よりもさらに高いところにある。定量化できる事業成長や利益だけをモチベーションにし、20〜30人で数億円規模の事業をつくる「儚さ」を、彼は知っているからだ。

「理念」と「社会性」が無ければ、メンバーを増やして数百億規模の事業に育てていく際、組織のまとまりが保てなくなる。

鈴木チームをまとめる接着剤として、さらには社内だけでなくクライアントとの関係をより強固にしていくためにも、社会性を打ち出し、社内外に浸透させることは、決定的に重要なんです。

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事業数字の話をするのは、週に3時間だけ

しかし、営利組織である以上、日々の数値目標を追い続けているうちに、社会性が等閑に付されてしまうケースも少なくない。

そこで「企業とはそういうものだ」と諦めては、永久に「社会性」など達成できない。鈴木氏は、このジレンマを突破すべく、大きな賭けに出た──両者を共存させるために、数値目標について議論する「時間」と「人」を徹底的に限定したのだ。

毎週月曜の15時から18時までの3時間、マネジャー以上が集い、ロジカルな、定量的な議論を徹底的に行う。一方それ以外の場所では、鈴木氏はKPIや数値に関する言葉を一切口にしない。メンバーに対しては、直属のマネジャーが数字に関する話を密にコミュニケーションし、鈴木氏がそれ以外の業界貢献や社会貢献に関するコミュニケーションを取る──そんな役割分担を徹底している。

鈴木私まで数字の話ばかり口にするようになると、「この組織では、事業成長だけが求められているのだな」とメンバーに感じさせてしまうじゃないですか。あえて切り分けることで、「数字だけ気にすればいいわけではない」というメタメッセージを発信しているんです。だからこそ安心して、マネジャー陣とメンバーでKPIに関する議論を徹底的に行なってもらえます。

鈴木氏の社会性へのこだわりは、数字について議論する「時間」と「人」の限定だけにとどまらない。社会性を意識してもらうため、社内PRにも注力している。たとえば、CSV活動もその1つ。収支だけを見ているとなかなか成果が見えづらく、「辞めたほうがいいのでは?」といった意見も社内から出てくる。そんな事態を防ぐべく、事業目標とは直接関係がなくとも、「CSVの教育プロジェクトで卒業生が300人を超えた」など、成果が出ると積極的に社内へ発信していくようにしている。

鈴木目の前の売上や利益を追っているメンバーは、ともすると社会性への意識が希薄になりがちです。そこで、リジョブは何かしらの形で「社会貢献の観点でも、日々成果を出している」と伝えていくことで、会社から社会に対して投げかけていきたいメッセージや、本来の理念・組織としての目的を再認識してもらっているんです。

もちろん、ミッション・ビジョンを社内に浸透させるための努力も怠らない。社員はもちろん、アルバイトにまでソーシャルビジョンを理解してもらう徹底ぶりだ。社員がアルバイトに「うちの会社は何を目指しているのか?」と聞かれたとき、またアルバイトがそれぞれの家族に同様の質問を受けたときに、誰もが淀みなく答えられる状態を創り上げている。

鈴木家族をはじめとした周囲の人が応援してくれるような、社会に対する大きなメッセージがあり、それに紐づく仕事をしてもらうことこそが、一人ひとりの頑張りやパフォーマンスを最大化すると信じているんです。だからこそ、ミッション・ビジョンの浸透には徹頭徹尾こだわっています。

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リジョブに深く浸透する「利他」の精神

事業成長と社会性の両立が実現できている要因には、鈴木氏の経営者としての資質も寄与している。現場のメンバーも、鈴木氏の「利他」重視の精神をひしひしと感じ取っている。

リジョブが社会性をダイレクトに追究している事例として、2015年に立ち上げたCSV事業「咲くらプロジェクト」がある。貧困層や学校に通えない子どもたち向けに、3ヶ月でセラピストの技術を身につけてもらう養成スクールを無償で提供。ここで最低限の技術を身につければ、手に職がつき、働き口を見つけられる。

2014年9月に鈴木氏に声をかけられ、咲くらプロジェクトの立ち上げを主導し、現在は当プロジェクトを運営するフィリピン子会社RENABLE PHILIPPINES Inc.(以下、RENABLE)のCEOを務める植田美保氏は、「社長が鈴木に交代してから、社内に利他の精神がこれまでの何倍も浸透した」と語る。

植田氏は、社員数が15名程度だったリジョブに新卒入社。入社2〜3年目での営業マネージャー、大阪支社長も経験したのち、海外拠点立ち上げの大任に就いた。

RENABLE PHILIPPINES Inc. CEO・植田美保氏

植田「利他離己」の精神を重視する鈴木の影響で、自分の成長よりもチームメンバーのことを優先して考えるカルチャーが根付いています。リジョブのメンバーは、もちろん自身の成長も志向しているのですが、「みんなで力を合わせて成功していきたい」という思想が強いため、ギスギスしていないんです。

利他の精神が根付いているからこそ、一つひとつの施策を検討する際も、事業成長だけではなく、自然と社会性を考慮できるという。

Webマーケティング部門なら「CPAを3,000円以内に抑える」「SEOで1位を取る」といった施策はあくまでも「企業理念達成」のための手段にすぎないはずだ。だからリジョブでは、「ユーザーにきちんと貢献できているか?」「業界のどういった課題を解決できるのか?」といった社会性の観点がメインで議論される。本質論で語れる環境に魅力を感じている中途入社のメンバーも少なくない。

植田そもそも経営陣が社会性を重視しているので、メンバーが本質的な社会性の追究に全力でコミットできるんです。「美容が好きだ」「営業がやりたい」といったマインドセットではなく、「どういった形で自分は社会貢献したいのか?」という想いを持って働いている人がほとんどだと思います。

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社会性と事業性を両立させる「おもてなし産業のSPA構想」

RENABLEは、咲くらプロジェクトの他にも、フィリピンの企業向けに福利厚生サービスとして日本食を提供する事業を手掛けている。

植田氏が咲くらプロジェクトでフィリピンと日本を行き来するなかで、甘いお菓子ばかり食べている、フィリピンの子どもたちの偏った食生活をなんとかしたい。そんな課題意識を抱いたことから立ち上げられた事業だ。世界でもトップクラスの平均寿命を誇る日本の食事をフィリピンに取り入れてもらうことで、健康面でのサポートをしようというのだ。「正直に言うと、この事業を始めるためにRENABLEを登記したんですけどね(笑)」

咲くらプロジェクトとあわせて順調に実績を伸ばしている同サービスだが、黒字化はまだ遠い。鈴木氏は、RENABLEの収益を安定させることが、リジョブの「社会性と事業成長の両立」において決定的に重要だと話す。「社会性を重視しています」と打ち出すためだけのCSR活動、ブランディング目的の「お飾り事業」で終わらせる気など、毛頭ない。

鈴木RENABLEで取り組んでいる事業は、いわゆる「貧困層」がターゲットです。「そもそもお金を持っていない彼ら、彼女らからのマネタイズは難しいのでは?」という指摘もよく受けます。「社会性と事業成長の両立」の難しさが端的に現れている事業だと思うんです。

だからこそ、きちんと事業として成り立つことを証明したい。そうすれば、「社会課題の解決をテーマにしても事業は成り立つ」というメッセージを社会に発信でき、社会課題と向き合う会社も増えていくと思うんですよ。

そんな鈴木氏がリジョブの未来として見据えているのが「おもてなし産業のSPA構想」だ。「SPA」とは、企画から製造、小売までを一気通貫で行う製造・小売業のビジネスモデル。ユニクロやセブンイレブンをはじめ、現代はこのような包括的に消費者のニーズを満たせる事業が市場シェアを伸ばす傾向にある。このモデルを、美容、ヘルスケア、介護といった「おもてなし産業」にも適用しようとしているのだ。

咲くらプロジェクトで取り組む「人材育成」、リジョブがもともと手掛けている領域である「雇用支援」、働き口が見つかった人材が実際にお客様に行う「サービス提供」──この3つのサプライチェーンをカバーすることで、「美容・ヘルスケア」に関わるあらゆる消費者・サービス提供者のニーズを満たせる企業になることを目指している。また、咲くらプロジェクトのように、国内だけにとどまらず、日本が持っているおもてなしの技術を世界に届けていくことも進めていく。

鈴木「綺麗になって嬉しい」「マッサージを受けて癒された」など、良いサービスを受けるとプラスの感情になるじゃないですか。そうした物質的・経済的でない心の豊かさを感じてくれる人を、もっと増やしていきたいんです。

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「次の新規事業は、君たちが決めていい」リジョブで学べる経営の本質

誤解したくないのが、鈴木氏が社会変革を見据えているのは、「美容・ヘルスケア」領域に止まらないということ。実際、リジョブのソーシャルビジョン「日本が誇る技術とサービスを世界へ」というフレーズに、「美容・ヘルスケア」という言葉は含まれていない。ビジョンに適合する新規事業、新サービスが特定領域に限らず生み出されていくことを、鈴木氏は願っているうえ、実際に構想も練っている。その際にキーパーソンとなるのは、若手の「幹部候補生」だ。

鈴木彼らには「次に手掛ける事業は、君たちが決めていい」と伝えています。「美容・ヘルスケア」に全く興味がない人であっても、リジョブは自信をもっておすすめできる成長環境です。オペレーション・エクセレンスを徹底的に学んでもらったうえで、新サービスを立ち上げてもらう。その2つを提供できる環境こそ、未来の経営者にとって、最も成長できる場所だと思うんです。

実際、連載第2回で登場してくれた荒巻とも、「日本企業と海外企業をつなぐ事業を作れないか?」というような、新規事業のディスカッションを日々重ねています。リジョブが生み出す事業のポリシーは、「人と人との出会いを生む」というもの。リジョブの未来のためにも、前のめりで事業開発にコミットしてくれる荒巻のような人材に、もっとリジョブに来て欲しいと思っています。

事業を通じ、社会貢献する──。あえて批判的に見るならば、「耳触りの良い言葉」である。ブランディング施策のひとつとして、実態の伴わないビジョンを標榜する企業も存在するかもしれない。

しかし、自信をもって言えるのは、「どうやらリジョブは違うようだ」ということ。社会性を追究することの重要性を本質的に認識し、事業成長と両立するための難しさを本気で乗り越えようとしている。その壮大な挑戦を支えているのは、「成長だけ」を目的に奔走したものの、倒産を経験し、それを乗り越え、「経営の本質」を十二分に知り尽くした経営者・鈴木一平氏だ。

もちろん、「経営スタイル」に正解などない。しかし、だからこそ、「経営者」を目指す人であるならば、鈴木氏のように「自身の経営哲学」を持ち、日々洗練させていくべきではないだろうか。「経営者の持つ哲学」が、組織を動かし、人を変え、この社会の未来を創っていくのだから。

こちらの記事は2018年12月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

写真

花井 智子

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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