連載PMI成功論──株式会社リジョブ

「事業への偏重が死をまねく」2年強で20億の回収に成功した、リジョブ鈴木の組織哲学

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インタビュイー
鈴木 一平

東大起業サークルTNK所属。20歳で起業。ファッション通販ベンチャー、Webマーケティングベンチャーの創業メンバーを経験。ファッション通販ベンチャーの倒産を経験後、株式会社じげんに入社。経営企画・事業開発を経て、株式会社リジョブ代表取締役/株式会社じげん執行役員に就任。事業拡大のみに留まらず、事業を通して社会課題の解決、そして心の豊かさあふれる社会の実現を目指す。

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買収したベンチャー企業を、何倍、何十倍にも成長させられる経営者は、日本に何人いるだろうか──。

連日連夜、資金調達やイグジットのニュースが駆け巡るスタートアップ界隈。しかし、「買収したのち、その企業がいかに成長したか」が語られることは稀だ。「M&Aの大半は失敗に終わる」という言説も見られるように、成功事例は決して多くはない。

しかし、そんな常識を覆し、買収にかかった19.8億円の投資額を、わずか2年強で回収した「名・経営者」がいる──株式会社リジョブの代表取締役社長を務める、鈴木一平氏だ。

2014年に株式会社じげんに買収されたリジョブは、「日本が誇る技術とサービスを世界へ」をビジョンに掲げ、美容、ヘルスケア、介護領域で求人・PRメディアを運営している。鮮やかな経営統合を遂行し、同社を躍進させた鈴木氏だが、現在に至るまでの道のりは決して平坦なものではなかった。本連載では、鈴木氏の知見を、組織、事業、社会性の観点から、じっくりと掘り下げていく。

第1回は、20代で起業から倒産、買収企業の社長まで経験した鈴木氏の半生と、そこから導き出された本質的な組織哲学をお届けする。全てを達観したかのような鈴木氏が語る言葉は、一つひとつに確かな重みが込められていた。

  • TEXT BY MASAKI KOIKE
  • PHOTO BY TOMOKO HANAI
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名門TNKから始まった、波乱万丈の若手起業家時代

「私なんてまだまだ未熟な経営者ですよ」

そう謙遜する経営者・鈴木一平のキャリアは、「倒産」からスタートした。

オーナーシップを持って働く自営業の父や祖父の背中を見て育った鈴木氏は、専門性を身につけるべく、商業高校から専門学校に進んだ。プロジェクトマネジメントの講義をきっかけにビジネスへの興味を抱き、当時流行していたmixiを活用して同志を探すようになる。

そのとき出会ったのが、東京大学起業サークル「TNK」の設立者で、現在は株式会社ダブルエル代表を務める保手濱彰人氏。TNKといえば、株式会社Gunosyの設立者・福島良典氏、株式会社Candleの代表取締役CEO・金靖征氏など、錚々たる面々を輩出してきた起業家コミュニティである。

保手濱氏との出会いをきっかけにTNKに参画した鈴木氏は、TNK2期代表であり、現・ナイル株式会社代表取締役社長の高橋飛翔氏とルームシェアをしていた縁で、創業期の同社(当時はヴォラーレ株式会社)を手伝うことに。家庭教師事業とオンライン講義事業の撤退から、起死回生の一手としてのWebマーケティング事業へのピボットまで、苦楽を共にした。

しかし、参画から3年が経過し、Webマーケティング事業も軌道に乗り始めた頃、転機が訪れる。「クライアントワークではなく、自社プロダクトを運営したい」。そんな想いが抑えきれなくなり、創業に関わっていたファッション通販会社にジョインすることを決断したのだ。

株式会社リジョブ 代表取締役・鈴木一平氏

鈴木そのファッション通販会社は、自社メディアのみならず、オリジナルブランドや実店舗も運営していました。培ったノウハウを全て自社プロダクトにつぎ込めることに、大きな魅力を感じたんです。そこから、僕の経営者としてのキャリアが本格的にスタートしました。

参画した当時、同社は大きな負債を抱え、営業赤字が恒常化している状態。「事業を再成長させ、赤字から脱する」ことが、初めて本格的に経営に携わる鈴木氏のミッションとして課せられた。ヴォラーレで身につけたWebマーケティングのノウハウを活かし、EC事業を軌道に乗せることには成功。しかし、オリジナルブランド事業と実店舗事業の赤字を止めることはできなかった。

鈴木赤字状態が続き、キャッシュアウトも止まらず、仕入先企業への支払いの滞留が頻発しました。滞留を繰り返すうちに、ついには債権の差し押さえを受け、商品の出荷もストップ。事業が回らない状態になってしまったので、倒産させることを決めたんです。

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倒産直後には気付けなかった、経営の真髄

2011年に初めての倒産を経験した鈴木氏。「夢」が散り、抜け殻状態に陥った。何も手につかないまま3ヶ月が過ぎた頃、去就を気にかけてくれた知人の紹介で、人生を大きく方向付けることになる出会いが訪れた──株式会社じげんで代表取締役社長を務める、平尾丈氏との出会いだ。

「生活機会の最大化」を掲げ、衣食住のあらゆる領域での事業展開を目論む平尾氏は、魅力的に映った。しかし、一点だけ問題があった。ファッション通販会社の倒産を経て、実在庫を持つビジネスの難しさを痛感した鈴木氏は、「在庫を持たず、かつ自社プロダクトを展開する事業を手掛けたい」と思っていたのだが、そうした想いとは逆のオファーを受けたのだ。

鈴木「衣食住の“衣”への進出の第一歩として、アパレル事業を立ち上げて欲しい」とお願いされたんです。本当に手掛けたくなかったので、回避しようと必死でしたね…(笑)。結果、あらゆる領域の事業立ち上げを担う経営企画職として、拾っていただけました。

半年間の経営企画室での活動を経て企業理解を深めた後、新規事業として旅行事業を提案し、立ち上げを主導。その1年後には、主力事業の一つである人材領域事業の責任者を務めた。平尾氏のもとで事業推進の経験を積み重ねていくなかで、事業を拡大させるためのノウハウを身につけるだけでなく、ファッション通販会社が倒産を余儀なくされた本質的な理由に気付かされることになる。

倒産の直後は、「全ての事業の赤字が挽回できなくなり、債権を差し押さえられ、商品の出荷ができなくなったから」と自身の中で結論付けていたが、それは表層的な理解に過ぎなかったのだと振り返る。

鈴木「事業と組織は車の両輪だ」ということが、本当の意味で理解できていなかったんです。平尾は事業家としての側面がフォーカスされることが多いですが、「事業と組織を同じ比重で創り上げていかないと会社は立ちゆかない」という確固たる信念を持ち、研究し尽くしている。組織は常に変化を止めない“生き物”なので、事業の成長にあわせて最適化し続けなければいけないんです。

鈴木もちろん、ファッション通販会社の時代も、昇給制度の創設など、最低限の組織制度は整えていました。しかし、平尾の組織づくりへの熱量を目の当たりにし、「自分は事業拡大のための努力は怠らない一方で、組織は一切アップデートしていなかった」と気付かされたんです。

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拒んでいた「社長就任」を、あえて引き受けたワケ

経営における「事業と組織の両立」の重要性を身をもって痛感させられた鈴木氏。人材事業の責任者に就任して1年半が過ぎた2014年、またしても人生のターニングポイントが訪れた。

当時から美容・ヘルスケア業界支援の最大手として名を馳せていたリジョブを、じげんが約20億円で買収したのだ。M&Aに伴い、創業社長の望月佑紀氏は次の挑戦を目指しリジョブを去ることに。望月氏の後任として白羽の矢が立ったのが、鈴木氏だった。

鈴木当時は、とにかく不安で仕方なくて。一度会社を倒産に追い込んだ悪夢が思い返されましたし、「経営能力があれば会社なんて潰さない」と思っていたので、その能力が欠如する自分には経営者になる資格はないと思っていたんです。また、「創業社長が去った後の後任社長なんて、自分が社員の立場だったらついて行きたいと思うはずがない」という不安もありましたね。

しかし、結果的に鈴木氏はオファーを承諾することになる。もう一人挙がっていた候補者が別の事情でじげんを去ることになったという外的要因もあったが、何よりも、リジョブのビジネスモデルに惹かれたのが大きかったのだ。

鈴木じげんのビジネスは、大手メディア運営企業がメインのクライアントであることが多かった。そうしたビジネスモデルの特性上、エンドユーザーへの貢献範囲が広い一方、間接的だと感じていました。対してリジョブは、クライアントやユーザーとの距離が近く、より直接的な形でユーザーに価値貢献できると感じたんです。

さらに、リジョブは業界トップシェアを誇っているからこそ、その実績やブランドを強みに、美容・ヘルスケア業界のあり方自体を変革できる可能性があった。そうしたビジネスモデルや実績に魅力を感じ、「正直、いつかもう一度経営したいとは思っていたし、これも何かの縁かもしれない」と、オファーを受けることを決めました。

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当事者意識を醸成するために、ダブルミッション制度を採用

就任後、鈴木氏が当初抱いていた自らの経営能力への懸念は、良い意味で裏切られることになる。M&A後の経営統合──すなわち、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)──を見事に遂行し、リジョブを急成長へと導いていった。

ヴォラーレ(現・ナイル)の創業、ファッション通販会社の倒産、じげん平尾氏のもとでの事業経験……波乱万丈の20代前半を過ごしていくなかで蓄積した経営ノウハウが、ついに開花したといっていいだろう。

鈴木氏は、M&A直後をリジョブの「第二創業期」と位置付け、抜本的な組織改革を進めた。ヴォラーレやファッション通販会社での経験を通じ、「創業期にメンバーと近い距離で強固な関係を築いておくことが、未来の事業づくりに活きる」と知ったからこそ、リジョブの社長就任後も、できるだけ同じことをしようと心がけた。

そのため、全社員とアルバイトの一部を含めた70名、一人ひとりと面談を実施。「これまで何をしてきたのか」、「今後どうしていきたいのか」、「新生リジョブに何を期待しているのか」……各メンバーの声に丁寧に耳を傾けていった。

鈴木だって、私はリジョブの中で、一番リジョブを理解していない者なんですから、当然ですよね。社長として、メンバーがなぜリジョブで仕事をするのかを知らないと意思疎通も取れませんし、メンバーの立場から見ても、話したこともない社長について行きたくなるはずがない。毎日のように様々なメンバーと食事にも行きました。いま振り返ると、ここでしっかり全員とコミュニケーションを取ったことが奏功し、組織改革を進める際に受け入れてもらいやすくなったと思います。

また「幹部候補生制度」も、ヴォラーレとファッション通販会社での経験から得た学びをもとに、「第二創業期」を生き抜くために考案した人事制度のひとつだ。所属部門で担っているミッションに加えて、より経営に近いレイヤーでのミッションも持ってもらう社員を創り出すことで、未来の経営メンバーを育て上げる。この制度を導入した意図は、創業期の会社の人材に必要な「当事者意識」を醸成するためだという。

鈴木過去の経験を思い返すと、創業期に活躍できる人材は、「圧倒的な当事者意識を持って、なんでもやれる人」だと気付いたんです。しかし、「第二創業期」と銘打ちつつも、当時はアルバイトを含めると100名規模の組織となっていたリジョブでは、個々の役割が細分化されていました。そこで、幹部候補生制度を導入することで、全ての出来事を自分事として捉えられる人材を意図的に生み出すことにしたんです。

役割だけにこだわりたくない理由には、ファッション通販会社での苦い経験もある。外部からヘッドハンティングしてきた人材にブランドづくりを任せたところ、期待したような成果を出してもらうことができなかった。その時、「どんなプロフェッショナルでも、特定の役割を果たすことだけを求めると、うまくいかない」と学んだ。どんな役割であれ、共に組織を創り上げていくメンバーであることには変わりない。組織の方向性や理念への共感が必須なのだ。

また、鈴木の想いもあり、幹部候補生は当初、新卒入社メンバーのみから選抜された。

鈴木M&A後に事業と組織をつくっていく過程では、理念やビジョン・方向性に対する強いコミットメントが求められます。中途メンバーの場合はさらに、即戦力となるためのスキルセットも求めざるを得ませんが、双方をバランスよく持っている人を採用するのは時間がかかりますし、相当に難しい。であれば、ビジネス経験はなくとも、理念に強く共感してビジョンの実現にコミットできる、伸びしろのある新卒メンバーを中心に幹部を育成していこうと思ったんです。

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短期的なコスト増を厭うな。M&A直後は、社員への実利還元を優先

じげんから出向してきたメンバーと、元からリジョブで働いていたメンバー。その異なる2つの価値観をすり合わせるため、両者の合同合宿も開催した。少数精鋭チームで構成される事業部が多数存在するじげんと、ワンプロダクトをメンバー全員で支えていくリジョブは、そもそもメンバーに求められる素質が大きく異なる。合宿では、お互いの人生の軌跡や根本の思想を共有し合うことで、共通するマインドを明確化した。この施策は、じげんでの経験から得た学びを活かしたものだ。

鈴木じげんには、200個の人事制度を設け、あらゆる素質を持つ人が活躍できる組織にすることを目指した「じげんZoo」という取り組みがありました。価値観が異なるメンバーの共通項を丁寧に見つけていくことこそ、強い組織を生み出すために決定的に重要だと思いたち、合同合宿を敢行したんです。

そうした価値観のすり合わせを行った鈴木氏だが、カルチャーへのこだわりはここで終わらない。先述のように、鈴木氏は就任直後に一人ひとりのメンバーとの面談を実施したが、彼が積極的に会っていたのは、社内のメンバーだけではない。現場感覚を掴もうと、時間が許す限りクライアント先にも訪問を重ねていた。その際に「お客様商売」である美容・ヘルスケア業界のホスピタリティに感銘を受けたこと──それこそが、社会・社内・クライアントの「三方良し」な、社会性ある経営理念の制定につながったのだ。

株式会社リジョブ|企業ビジョン

鈴木氏のこだわりが功を奏し、「日本が誇る技術とサービスを世界へ」というこの新たな経営理念は、社内メンバーにもクライアントにもポジティブに受け入れられた。PMI直後に就任した新社長が、「代表が変わったから、とりあえずビジョンを刷新しよう」とトップダウンで理念を変えても、こうはいかなかったであろう。事前に社内外の関係者と丁寧にコミュニケーションを取り、理解を深めていたからこそ実現できたのだ。

同時に鈴木氏は、就任から3ヶ月前後で、給与のベースアップ、賞与制度の導入、休日の増設、オフィス移転といった「社員が実利を感じられる」施策を矢継ぎ早に断行。この背景にも、鈴木氏の独自の組織哲学がある。M&Aによる投資を回収するため、組織改革時に意識すべきポイントは、「短期的なコスト増加を厭わないこと」だというものだ。

鈴木こうした施策は、一時的にコストがかさみ、M&Aによる投資回収のタイミングが遅れることが懸念されるため、忌避されることが多いです。しかし、持続的な利益増加を実現するためには、コストカットではなく、そもそものパフォーマンスを上げる必要がある。

社員に実利を感じてもらって「頑張ろう」という気持ちを喚起することは、たとえ短期的なコストが増えるとしても、中長期的な視野で見れば有効だと思うんです。PMIの中でも重要だと言われている「最初の100日」に、社員への実利を還元する施策をできるだけ多く打つ。そうすることで、「これから会社が良い方向に変わっていく」というメッセージを組織全体に打ち出すことができます。

鈴木氏の組織哲学には、「丁寧に、一人ひとりのメンバーに向き合う」という思想が通底している。しかし、これはただの耳触りの良い理想論ではない。倒産という絶望を味わった鈴木氏が導き出した、「経営の本質」だ。PMIのみならず、あらゆる企業の経営に敷衍することができるだろう。

しかしながら、リジョブが3期連続130%以上の成長を実現できた要因は、組織哲学だけでは語り尽くせるはずもない。続く第2回では、「事業と組織は車の両輪だ」と語る鈴木氏の、卓越した事業ノウハウに迫っていく。そこには、継続的な事業成長を見据えた、オペレーション・エクセレンスへの徹底的なこだわりが見て取れた。

こちらの記事は2018年12月25日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

写真

花井 智子

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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