仕組みを変えればものづくりの商慣習すら変えられる!2大BtoBプラットフォーマー、ラクスル・キャディのSCM戦略

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インタビュイー
須藤 直樹

SEとしてキャリアをスタートしたのち、イギリスに渡り自社開発のERPパッケージのプリセールス、開発、導入を担当。帰国後、業務系コンサルを経てJINSのSCMヘッドとして150億円から550億円の成長を牽引。2019年にラクスルに参画。印刷プラットフォームの構築に挑む。

宮武 俊二

FA精密小型モーターメーカーのモーター設計、レーザー光学部品メーカーの事業責任者を経て、株式会社ミスミへ入社。同社では、100億円を超える商品群の事業責任者として売上、収益、投資を含めた商品企画、グローバルでの生産拠点やロジスティクスなど事業全体の戦略リードを経て、欧州FA事業責任者としてドイツへ赴任。2020年キャディに入社し、SCM本部長として、パートナー加工会社の開拓や生産/プロセス改善を担うチームを統括。

河合 聡一郎
  • 株式会社ReBoost 代表取締役社長 

大学卒業後、印刷機メーカー、リクルートグループを経て、株式会社ビズリーチの創業期を経験。その後、セールスフォース・ドットコム等を経て、ラクスル株式会社の創業メンバーとして参画。人事マネージャーとして、経営幹部/ビジネス職/エンジニア職と多様なポジションにおける採用戦略の策定及び実行、評価制度策定、採用広報と幅広く会社創りに従事。2017年、株式会社ReBoostを創業。スタートアップや上場企業、地方ベンチャーに対して、包括的な人事戦略の策定や実行のハンズオン支援を行う。VCへのLPや、30社を超えるエンジェル出資及び、出資先の組織人事領域を支援。2021年、2022年と経産省のスタートアップ向け経営人材支援事業である、SHIFT(X)の審査委員。2023年9月より、J-Startup KANSAI メンター就任

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“下請け業者は、発注企業や元請け業者からの無理難題に答え続けなければ経営が成り立たない”、そんな悪しき慣習がなくなるかもしれない。

製造業のDXを推進するスタートアップにおいて、「SCM(サプライチェーンマネジメント)」のポジションの重要性が増している。既存産業の構造を俯瞰し、テクノロジーを通して一連の業務を効率化する役割を持つSCM。パートナーである受注企業との信頼関係構築を進めることで業界の古い慣習による弊害を解消し、発注企業を含めたすべてのステークホルダーにとって魅力ある状態を実現する取り組みとなる。

印刷・物流・広告のDXを進めるラクスルと、製造業のDXを進めるキャディは、ともにプラットフォーマーとして急成長している。この2社でSCM部門を率いるラクスルの須藤直樹氏と、キャディの宮武俊二氏が、今重視されるSCMの経営的位置づけやミッション、そのポジションに求められる資質を語った。ファシリテーターには元ラクスルの創業メンバーであり、現在は株式会社ReBoostの代表を務める河合 聡一郎氏が担当。鋭い切り込みが両者を白熱した議論へと誘った。

  • TEXT BY MAAYA OCHIAI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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製造業の業界構造と商習慣にメスを入れる
「Tech×SCM」のポテンシャル

ピラミッド型の業界構造に革新をもたらすプラットフォーム企業がいま、存在感を放っている。製造業の見積もり効率化・最適発注に取り組むキャディと、印刷をはじめとする伝統的産業のDXを進めるラクスルだ。

これまでの業界慣習は、発注側が複数の下請け会社に個別で相見積もりを依頼し、適した下請け会社を選び、すり合わせをしたうえで契約を結ぶというものだった。だが、ここには膨大なプロセスコストがかかる。これは製造業界全体の課題となっているのが現状だ。

発注側は、数十社との個別のやりとりに人件費や時間がかかり、コミュニケーションエラーも出やすい。受注側である下請け会社にとっては、見積もりからの受注(CV)率が20~30%ほどと低く、大部分の見積工数が無駄となる。受注を見越して設備を空けているため、時間的なロスも生まれる。さらに、ピラミッド型の業界構造があるため、下流にある受注会社は発注側から買い叩きにあうこともしばしば。

ファシリテーター 株式会社ReBoost 代表取締役 河合 聡一郎氏

キャディは、発注企業から装置や装置部品の製造を一括で受託し、システムを介して製造コストを算出した上で部品種毎に最適な加工会社を選定する。その後、各加工会社で製造された部品は、すべてキャディの物流拠点に集結、出荷検査を経て、発注側へ届けられる。単なるマッチングプラットフォームではなく、キャディがすべての供給責任を持ち、品質保証をするのがSCM(サプライチェーンマネジメント)としての特徴だ。

受注側の加工会社に対して各社が得意とする加工領域の部品種を最適なコストで発注することにより、加工会社それぞれのオペレーション負荷が軽減され受注率及び売上が上がり、その結果、低価格で発注企業に提供することが可能になる。キャディはここにフォーカスし、業界に切り込む。発注側にとっても、コミュニケーションコストが削減でき、安価で安定した部品調達できる点は魅力でしかない。

一方のラクスルも、印刷・物流・広告業界のDXを進めている。デザインから印刷、さらに集客支援まで一気通貫で担うサービス「ラクスル」では、発注企業から注文を受けると、受注側である最適な印刷会社(パートナー企業)に発注を出し、印刷・断裁を経て、発注企業への配送まで、QCD(品質・費用・納期)の担保をする。

キャディと同様、SCMを行うことによって、入稿や納品までに何週間もかかっていた印刷業界の商習慣を構造から変革しようとしているのだ。

ラクスルのSCMで特徴的なのは、工場DE(Deep Engagementの略。以下同様)というチームだ。受注側で、ラクスルとは委託関係にある印刷会社(パートナー企業)に入り込み、P/Lを共につくる取り組みをしている。工場現場と向き合いながら効率化を推進し、SCM全体の戦略を描き、各工程の効率化やスキームの構築を行う「SCM企画」とともに、現在ラクスルのSCM部が重点的に強化しているのが「工場DE」だという。

それぞれ各社のSCM事業を率いるキャディの宮武氏とラクスル須藤氏に、SCMがもたらす業界への影響を聞いてみた。

キャディ株式会社 SCM本部 本部長 宮武 俊二氏

宮武まずは見積もり工数の削減です。CV率が20~30%の状態が続けば、加工現場にいる人の作業負荷が売上拡大に応じて倍数で大きくなります。そこを自社開発の自動見積りシステムを使って製造コストを算出することで、受注側のオペレーション負担(コスト)が減る。

もう1つは、発注内容(部品種組み合わせ)の最適化です。究極の製造効率化とは、機械の稼働率をいかに上げるかに話は尽きます。一見バラバラの複数の発注企業様の依頼の中から、テクノロジーを使って受注側である加工会社様に得意な部品種を抽出・組み合わせて発注を出すことで物量を確保する。結果的に、受注率が改善し工場の稼働率も上がり、経営状態は劇的に改善されるのです。

須藤印刷業界でITレバレッジが最も効いてくるのは、面付け(印刷用紙に各ページのデータを正しい順で配置すること)の部分です。印刷する際、一斉に刷れる面数(印刷データ数)が多いほど、使用する版(紙に印刷データを色付けする”ハンコ”のようなもの)の稼働が少なくなり印刷時間が短縮できます。

私たちは面付けの最適化ソフトを開発して効率化しており、量が増えれば増えるほどITレバレッジが効いてくるのです。また、ラクスルは事業の成長性そのものが業界内での競争優位性にもなっていて、SCMは競争優位を作るために重要な機能となっています。

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「わたしたちは敵ではなく、伴走者である」
レガシーな業界でのパートナーシップの築き方

2社が重視するのは、サプライチェーンの効率化によってステークホルダーの事業全般に好循環を生むことだ。まずは、それぞれの受注パートナー企業の業務効率化や事業拡大につながること。これをキャディでは「サプライパートナーサクセス」と呼ぶ。受注側である加工パートナー企業のサクセス、つまり売上や利益拡大が実現すれば、工場や設備へ投資ができ、人材採用も進む。

この好循環をつくることで、品質が担保された製品をより多くの顧客に安価で提供できる体制が整い、発注企業にとってもメリットとなるのだ。

また、「プラットフォームサービスの構築において、受注パートナー企業とのコミュニケーションは特に重要だ」と河合氏は指摘する。製造業は、伝統的な産業であり、昔からの商習慣を持ち、ITリテラシーへの理解度も様々であることが多い業界でもある。ベンチャー企業がある日、突然訪ねてきたら、自分たちにとってどういう立場の存在なのかと言った、疑いの目を持つのではないだろうか。

宮武やはり最初に加工パートナー様と最初に対面するときは、斜めに構えられることも多いです。彼らは普段から無理難題を言われることが多いので、弊社のサービスがパートナー企業様の製造効率化に寄与し、事業成長にお役に立てるということを実例を交えてお伝えしています。

例えば加工会社は、発注側の需要が読めず、稼働を空けたくないがために安価に受注をしてしまうことがあります。ですが、我々はある程度安定的な発注見込みを適正コストでコミットするので、長期的な売上安定化と収益性向上の両立を実現することができるわけです。

もうひとつは、加工パートナー様単独ではリーチできないような発注企業様の案件をお繋ぎすることができる点です。加工パートナー様が過去複数年トライして獲得できなかった業界トップ顧客の案件を、取引開始直後に発注して驚かれることもよくあります。加工パートナー様はモノづくりのスペシャリストですので、製造にフォーカスしていただき、顧客サイドとの間の製造プロセスまで含めた全体効率化を我々が担う。

こうした役割分担をすることにより、全体効率化が加速できます。また月次での取引実績や品質状況などを振り返る月次定例ミーティングなどを通して課題に対してPDCAを両社の間で回し実績を積み上げていくことで、信頼関係構築が進みます。

受注計画や生産体制のサポートをトータルで行うことで、敵ではなく伴走する存在であることを伝えていくのだ。一方のラクスルでは、「3ステップで信頼関係を築いていく」と須藤氏は言う。

ラクスル株式会社 ラクスル事業本部 SCM部 部長 須藤 直樹氏

須藤パートナー企業様と私たちとの間には、まず概念のギャップがあります。例えば大型の輪転機(印刷機の一つ。円筒状の印刷版の間に巻取り紙を通して印刷する)をバンバン回している企業様の『小ロット(印刷部数の意)』の定義と、EC型で個人や中小企業のお客様向けビジネスを行う私たちの『小ロット』では数の感覚が全然違うわけです。そこをすり合わせることが第1ステップ。

次にEC型の小ロット多品種展開のフローにつくり変えていただく。これが第2ステップです。さらにそれに合意してくださった受注パートナー企業様には、我々が発注の最低コミットを作る。この3ステップです。私たちは月に1回受注パートナー企業様との定例会を行い、各社が持っている設備のキャパシティによって発注のバランスを取りながら、信頼関係をつくっています。

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受発注が”途絶える悩み”と、”追いつかない悩み”。
混在するジレンマの中でプラットフォーマーとしての2社はどう動く

受注パートナー企業との良好な関係構築を行う一方、発注側の要求との矛盾も発生する。両者の間に入るプラットフォーマーとしてのラクスル、キャディは、ここで生じるジレンマをこのように捉えている。

宮武発注側、受注側の立場の違いによる相反するニーズを両立することに難しさを感じています。安定的な発注であればマネージしやすいのですが、発注顧客側にもいろいろな状況があります。

例えば、「顧客が発注案件を失注した」、「設計遅れで製造計画が後ろ倒しになった」などです。ところが加工パートナー様からすると、顧客から発注されることを見越してある期間設備をブロックしているので、急に予定を動かされると困るわけです。

フレキシブルさを要求する発注企業様と、設備も時間も有限な加工パートナー様。この間にジレンマがあります。完全に顧客の不確実性を排除することは難しいため、不確実性がある前提でプロセス設計を行っています。製造現場で困るのは、作るものがなくなることによる設備の停止です。そのために短納期の案件と長納期の案件を同時にお出しして、短納期の案件がなくなっても先納期の案件を前倒し生産するなどです。

柔軟に生産計画を組み替えるためには、未来の製造計画がどうなっているかの見える化や迅速な生産計画変更などのプロセスが必要になります。そのため、時には加工パートナー様に常駐して、経営者や現場の方と一緒に社内プロセスを作成・導入などの改善を行っています。

こういった活動を通して、受注加工会社様側の製造現場の課題を解消しつつ、発注企業様の要求との最適解を実現しています。

須藤ラクスルでは、我々の事業成長とともにユーザーの需要も拡大しており、パートナー企業である印刷会社様の供給ペースやキャパを拡張しなければならないことが現状の難しさとしてあります。印刷会社様には、EC型の小ロット多品種に対応してもらい、少ない印刷部数にも対応いただける体制が浸透してきたのですが、今度はラージエンタープライズからの大ロット発注が増えてきている。ここがジレンマですね。

当初はECを用いて個人や中小企業が少ない部数でも発注でき、受注側である印刷会社様にはそうした少部数での発注でもご対応いただける体制をしいていただき、ここまでの普及を実現してきましたが、今後は大企業からの大量発注にも柔軟にこたえる体制を構築しなければならない。ラクスルは今、こうした大小のロット発注をはじめ、様々なオプションに柔軟に対応できる仕組みづくりの過渡期にある状態です。

ラクスルでは、プラットフォーマーとしてユーザーからの発注を適切に差配していくことで、印刷会社様のP/Lを担保している。そこには印刷会社様との信頼関係が何より重視され、時として現場に常駐したり経営会議にまで足を運ぶこともある。しかし、そこまですることで初めて、受注企業から”ラクスルは良きパートナーである”と、信頼を得られているのだという。これが須藤氏の言うディープエンゲージメント、つまり「工場DE」チームのミッションということだ。

このように紐解いていくと、2社とも受注パートナー企業へのアプローチの方向性は似たものがある。

また、こうしたジレンマに対しては、受注パートナー企業との妥協点を見つける必要も出てくる。「会社として、人として受注パートナー企業様から信頼されるようにならなければいけない。日々の積み重ねです」と宮武氏は言う。受注パートナー企業に納得してもらうためには、ある程度ウェットなコミュニケーションも必要になってくるのだろう。

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我々は単なる仲介役ではない。
業界の仕組みを再定義しているんだ

受注パートナー企業と発注顧客とのジレンマの他にも、「品質」と「標準化」のトレードオフはないのだろうか。

須藤受注元の工場が変わると印刷機やインクが変わるんです。すると、微妙に仕上がりが変わってしまう。同じ機械でも使用年数によって精度は変わります。発注クライアント様が前回と同じものを増刷したい場合でも、時期によって受注元の工場が変わることがあるので、品質の標準化は現在まさに取り組んでいるところです。これは今までになかった価値になると強く思っています。

受注側である印刷会社様ごとのクオリティ担保という部分では、現在行なっている受注パートナー企業様との定例会をなくす方針で進めています。有難いことではありますが、受注パートナーである印刷会社様の数が多くなってきたため各社ごとのコミュニケーションにムラが出たり、ラクスルサイドの絶対的な人員数が必要になってしまいます。

そのためこのまま従来の人的対応を維持していては上記のクオリティ担保を維持できないと考え、QMS(クオリティマネジメントシステム)をつくり、受注パートナー企業様が自分たちで品質管理を推進していける仕組みを構築していこうと考えたのです。

こうしたシステムの導入により、ファブレスな企業でかつ少ない人数でも標準化を進められるのだ。一方の宮武氏は、古い商慣習の中で生まれてきた特有の課題を挙げる。

宮武標準化に向けて取り組んでいるのは、暗黙知の言語化です。顧客から出てくる図面には、「図面に書かれてはいないが要求されている仕様」というものが存在します。長年の発注側、受注側双方の取引関係の中で暗黙知が蓄積、拡大して、いざ増産対応のために新しい加工会社に依頼すると図面通りだが不良品という事象が発生します。

発生頻度の高い項目に対してキャディ基準のスタンダード(仕様書)を事前作成し、受発注側双方にこれまで暗黙知とされてきた情報を可視化/事前確認することで品質問題の発生をコントロールしています。

宮武氏いわく、「モノづくりのコストは8割が設計で決まる」。そのため設計の段階に深く入り込むことで、大幅な効率化につながるのだ。宮武氏は、「顧客が使うCADソフトウェア上でリアルタイムに製造可否や見積もり金額が返ってくるシステムができれば、過剰品質や無駄な見積もりプロセスがなくなり、発注側の工数やコストも削減できる」と考えている。

宮武発注を受けたものを受注側に、単に効率良くさばく仲介役ではなく、部品提供における全フロー、すなわちサプライチェーンのあらゆる過程において効率化、最適化のソリューションを提供することを第一義としています。そのためには上流工程である発注側の設計フェーズにまで入りこむ必要があるし、そこを実現できたら業界構造が大きく変わると信じています。

須藤バリューチェーンを構築する中で、一般的にはどうしても下流の(印刷の)断裁や配送の部分でコスト調整しようとすることが多いです。しかし、上流から切り込んでいかないとサプライチェーン全体の流れに大きな変化は生み出せない。そこはITと連携させながら、ユーザーの要望に応えられるよう工夫していく必要がありますね。

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生産性向上の極み、稼働の見える化でP/Lを改善していく未来

ここで、SaaSスタートアップへの知見も深い河合氏から、「製造業のSCMにおける、あるべき未来」について、二人の見解に話が及び、対談が熱を帯びた。実現化されれば、業界に与えるインパクトは非常に大きな変革となりそうだ。

須藤これはまだアイデア段階ですが、将来的にやってみたいのは生産システムそのものをSaaSパッケージとして提供すること。これが実現すれば、印刷工場の中のデータが取れます。

例えば、「今の段階では印刷工程まで終わっていて、次の断裁工程ではこれくらいの仕掛かりがあるため、印刷機は空き始めている」、ということが見えてくる。そうやって吸い上げたデータをもとに、空いているところにリアルタイムで新たな発注を入れることができれば、稼働率は上がっていきます。そうすれば受注側の印刷会社様のP/Lは良くなり、喜んでもらえるのではないかと思っています。

宮武今後目指していきたいのは、受注パートナー企業様の工場内における、加工設備のセッティングデータと連動した発注部品の最適化です。現状は、一品一様の注文部品毎に設備の加工ツールの変更など段取り変更が多く発生しています。

そこで逆転の発想で、加工設備のセッティング起点で、類似の発注部品を集約していく。加工設備のセッティング情報との連携で事前に造り易い部品の種類がわかるので、受注パートナー企業様に最も製造効率の高い部品種を我々からお渡しすることが可能になります。こうなればもう段取り変更はいらないですよね。本当の効率化を目指すために是非実現したいと考えています。

稼働を見える化するデータ連携システムを、2社のようなプラットフォーマーが構築できれば、生産性向上や安定稼働につながり、パートナー企業との関係維持の面で見ても強い競争優位性になるだろう。さらに宮武氏は、DXにもつながる「データ流通の効率化」についても言及した。

宮武驚かれると思いますが、現在当業界では発注企業がCADと呼ばれるソフトウェアで設計した部品図面のデジタルデータが、発注段階で情報保護の観点でPDF出力などの画像(紙)の仕様に変わるんです。それを、受注した加工会社様がもう1度画像からマニュアルでデジタルデータを起こして加工機のプログラムを作成しています。

ここには明らかな無駄がありますし、データ→画像→データの変換でミスも起きやすい。我々が間に入って情報管理を担保しつつデータ流通をスムーズにしていくことができれば、ミスは減りますし、データへの変換にかかっていた膨大な時間をカットできます。そうすれば加工会社様は製造原価低減により受注価格を下げることができ、発注企業ともwin-winとなるでしょう。

顧客から加工会社へ、デジタルデータがスムーズに流れていく仕組をつくることは、業界全体の業務プロセスの課題解決にもつながる。これまでは、受注側の加工会社が実現したいと思っていても、買い手と売り手の力関係があるため言えない状況があった。その間にプラットフォーマーが入ることで、デジタルデータ流通が促進され、トータルプロセスの効率化となるだけでなく、業界内の企業同士を「フェアな関係」に持っていくことができるのだ。

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やる気あるなら、誰でも来い!
ただし、マクロとミクロ使い分けられる猛者に限る

2社においては、さらにSCMとしての機能を強化していくため、積極的に採用も推進中だ。では、どのような人材が2社のSCMとして活躍できるのだろうかと河合氏が問うと、須藤氏は、SCMで活躍する人の特徴としていくつかの点を挙げた。

須藤SCMは個別最適で成り立つものではありません。そのため、全体最適の視点を持ち、かつシステム対応の勘所がある方を求めています。僕自身の経歴と照らし合わせてみると、そんな人であればマッチすると思います。

また、生産や配送など、個別のスペシャリティを持ちながら、加えてそこに経営の視点も併せ持てる人にも活躍の機会は広がっています。ただ、ここで重要なのは、実行力です。画を描くだけではダメで、「業務フローを変え、システムをつないでいく」。それをやりきる実行力が必要だと思っています。

宮武私のチームメンバーのバックグラウンドは製造業出身もいれば、リクルート営業、銀行員などさまざまで、製造業と関係のないバックグラウンドでも活躍できるのです。各々の共通点としては、長いサプライチェーンを俯瞰して、自分の職域だけでなく全体プロセスまで視野を広げて考えられること。そんな能力を持つ人材こそ適していると言えます。

もうひとつは、顕在・潜在の両面から課題を見つけて、仮説検証を回せること。SCMは、受注加工会社様1社1社に向き合い、その会社のサクセスを果たすために、自分なりに仮説検証していく仕事です。なので、前職の業界に関係なくPDCAを自分主導で回した経験を持っている人は十分に活躍できると思います。

両者に共通するのは、構造を俯瞰し、広い視野で物事を捉えられる人と言い替えることができそうだ。また、SCM構造の中の個々の課題ではなく、構造全体を変革する気概や視点を持つ人を求めている。

ラクスルには、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンがある。まさに「仕組みを変える」視点を持つ人であれば、受注パートナー企業に対してディープエンゲージメントが図れ、信頼関係が築けるのだろう。須藤氏は、「業界それぞれの特性を解像度高く理解し、構造を変えることで圧倒的な競争優位をつくる。そういった想いのある人がラクスルに来ていただけると、次の面白い仕組みができあがると思います」と結んだ。

こちらの記事は2021年07月28日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

落合 真彩

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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