イーサリアム創業者を輩出したティール・フェローシップ。
2018年度に選出されたブロックチェーン・プレイヤー4名とは?

2018年5月、本年度のティール・フェローシップに選ばれた20名が発表された。ティール・フェローシップとは、PayPal(ペイパル)創業者で投資家のPeter Thiel(ピーター・ティール)氏が2011年に開始した若手起業家育成プログラムだ。大学を中退することを条件に、22歳未満の若者に2年間で10万ドルを投資している。

本年度に選ばれた20名のメンバーをみると、ブロックチェーン領域のプレイヤーが4名と多かった。本記事では、その4名を紹介していく。

  • TEXT BY MASAKI KOIKE
  • EDIT BY TOMOAKI SHOJI
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あのイーサリアム創業者も。多彩な人材の輩出に定評

The Thiel Fellowship

ティール・フェローシップ」は、PayPalの創業者でFacebookを含む数々の大手テック企業に投資をしてきた大物投資家のPeter Thiel氏が主宰する、若手起業家育成プログラムだ。

2011年から毎年開催されており、不老長寿の研究開発を行うスタートアップを支援する「Longevity Fund」を立ち上げたLaura Deming(ローラ・デミング)氏、ソーラーパネル発電効率化ツール「SunSaluter」を通して発展途上国の問題に取り組むEden Full(イーデン・フル)氏など、過去の参加者は今も活躍している人が多い。

2014年の参加者には、ビットコインに次ぐ時価総額を誇る「Ethereum(イーサリアム)」創業者のVitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)氏も名を連ねている。

同プログラムでは、起業を志す22歳未満の優秀な若者20人に、2年間で10万ドルが与えられる(開始当初は、20歳未満が対象だった)。起業資金だけではなく、著名な起業家や投資家、科学者とのコネクションが手に入るメリットもあるのが特徴だ。

参加条件は、大学を中退すること。選考は1年かけて行われ、倍率は100倍以上という。

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2018年度は20名が選出。ブロックチェーンやHealthTechに熱視線

今年度のティール・フェローシップに選ばれた20名が取り組む領域の内訳は、以下のとおり。ブロックチェーン4名、HealthTech4名、BioTech2名、ゲーム、VR/AR、プライヴァシーテクノロジー、インターネットインフラ、ハードウェア、AI、コンピュータプロセッサ、エネルギー効率化、FoodTech、ドローンが各1名だった。

選出者の専門領域をみると、ブロックチェーンに取り組む起業家が多い。Peter Thiel氏は以前からビットコインを支持しており、彼が立ち上げたサンフランシスコに拠点を置くベンチャーキャピタルの「Founders Fund(ファウンダーズ・ファンド)」は、2018年1月に2,000万ドル相当のビットコインを購入している

こうした事実から、ティール・フェローシップもブロックチェーンの可能性を高く評価していると推測できる。以下では、本年度の受賞者からブロックチェーン領域の4名をピックアップし、その最新トレンドを見ていく。

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世界初、オープンソース型のブロックチェーン研究所を設立。Aparna Krishnan氏

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まず一人目は、Aparna Krishnan氏。世界初のオープンソース型ブロックチェーン研究所「Mechanism Labs」の共同創業者かつCEOだ。カリフォルニア大学バークレー校出身で、複数のブロックチェーンプロジェクトに参画した経歴を持つ。

Mechanism Labsは、世界で初めてのオープンソース形式のブロックチェーン研究所という。暗号学・経済学を組み合わせた新たな学問分野「CryptoEconomics(クリプト・エコノミクス)」の観点から、ブロックチェーンの研究が行われている。日本ではメジャーではないが、海外の最先端のブロックチェーン研究においては主流となりつつある研究法だ。

CryptoEconomicsにおいては、トークンエコノミーは経済圏が取りうる形のひとつに過ぎず、暗号学・経済学的観点から、広く暗号通貨の法則性が研究されている。

同研究所では、ブロックチェーンの報酬設計とコンセンサス・アルゴリズムのあり方が目下のメイン研究テーマだ。両者の研究を通じて、ブロックチェーン普及に向けた大きな課題のひとつである、スケーラビリティ(拡張性)の問題を解決しようとしている。

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イーサリアムから利息を得られるサービスを開発。Axel Ericsson氏

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Axel Ericsson氏は、「Vest」の共同創業者。スタンフォード大学出身で、複数企業でのエンジニア経験がある。

Vestは、ユーザーが自分のイーサリアムを預けて利息が得られるサービスだ。まだ開発中で詳細は発表されていないが、実現すると、イーサリアムを保有する動機がより強まると推測できる。イーサリアム経済圏がますます拡大していくだろう。

獲得した資金をもとに、彼がどのようなアウトプットに落とし込むのか期待が高まる。

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イーサリアム管理用ウォレットを提供。Daniel Ternyak氏

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Daniel Ternyak氏は、イーサリアム管理用ウォレットを提供する「Mycrypto」のCTO。ミネソタ大学出身で、複数企業でのエンジニア経験を持つ。

Mycryptoは、同様のウォレットサービス「MyEtherWallet」から分裂して生まれた。Ternyak氏自身も、以前はMyEtherWalletのエンジニアだった。ちなみに、分裂の経緯は詳しく明かされていない。

両サービスの機能はほぼ同じだが、今後はティール・フェローシップの資金をもとに開発を加速させ、差別化を図っていくことが予想される。ウォレットの普及により、イーサリアムの安全性が高まり、保有者や利用者がさらに増えていくことに期待したい。

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サーバレスの分散化したインターネットの実現を目指す。Robert Habermeier氏

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Robert Habermeier氏は、ブロックチェーンプロジェクト「Polkadot」の創始者だ。ロンドン・ベルリン・モスクワに拠点を置く企業「Parity Technologies」に所属している。

Polkadotは、複数のブロックチェーン技術をつなぎ、分散化を目指すプロジェクトだ。ブロックチェーンごとの規格が異なることでスケールが阻害される問題や、一つの技術が市場を独占し中央集権化することを防ごうとしている。2017年にはICOも実施した。

また、イーサリアム開発者の一人であるGavin Wood(ギャビン・ウッド)氏が主催する、サーバのない分散化したインターネットの実現を目指す団体「Web3」で最初に始まったプロジェクトでもある。

前述のAparna Krishnan氏もそうだったように、ティール・フェローシップがブロックチェーン領域の中でも、スケーラビリティの問題に重きを置いていることがわかる。

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分散化された世界の実現に向け、ブロックチェーン活用を後押し

以上、2018年度のティール・フェローシップに選出されたブロックチェーン領域に挑戦する4名を紹介した。学術的知見を活用したオープンソースプロジェクト、イーサリアムから利息を得られるサービス、イーサリアム管理用ウォレット、複数のブロックチェーンの共存プロジェクトがあった。

どのプロジェクトも暗号通貨のさらなる普及を後押しするものであり、中心のない分散化された世界の実現に向けて、ブロックチェーンを活用して新たな経済圏の構築を目論んでいる点で共通している。彼らがティール・フェローシップで得た資金をもとに今後どのようなアクションを取っていくのか、今後も目が離せない。

こちらの記事は2018年09月13日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

編集

庄司 智昭

ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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