オフィスは戦略に応じて利用する“サービス”へ──ツクルバが考える、スタートアップが見据えるべき「仕事場の未来」

インタビュイー
北島 隆行

明治大学 経営学部 公共経営学科を卒業後、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社にて書店を中心とした商業施設の立ち上げに携わり、マーケティング調査・施設企画・店舗開発・同施設内のテナントリーシング業務に従事。2018年1月よりツクルバへ参画し、シェアードワークプレイス事業部のマネージャーとして主に新規不動産事業の立上げ、同事業部内の営業を担当。

立岩 宏章

京都工芸繊維大学大学院を修了後、ゼネコン系インテリア設計事務所にて主に外資系金融機関のオフィス設計と、オフィス空間における調査・研究業務に従事。
2016年6月よりツクルバへ参画し、主にワークプレイス領域の設計・デザイン及びプロジェクトマネジメントとデザインコンサルティングを担当。
2018年2月よりtsukuruba studios architecture室室長、デザインディレクター。

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社名ロゴが飾られたエントランス、ガラス張りの広々とした会議室、ハンモックと卓球台の置かれた休憩スペース──。

それらを代名詞としてきた「洗練されたオフィス」は、スタートアップにとって事業成長の証であり、自社のミッションやプロダクトサービスの世界観を伝え、優秀な人材を採用する上でも重要な役割を担っている。

一方、最近ではオフィスを持たずに業務を行う企業も少なくない。物理的な場がなくても仕事ができる時代になり、スタートアップはオフィスに何を求めるようになったのだろうか。

その変遷を辿るべく、シェアードワークプレイス(以下、便宜上「コワーキングスペース」と呼ぶ)の運営やオフィス設計など、スタートアップの働く場づくりを幅広く手がける株式会社ツクルバから、シェアードワークプレイス事業部マネージャーの北島隆行氏、同社クリエイティブ組織tsukuruba studios architecture室デザインディレクターの立岩宏章氏を迎え、話を伺った。

  • TEXT BY HARUKA MUKAI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
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いつの時代も彼らは「味がある場所」を探す

ツクルバが、渋谷にコワーキングスペース「co-ba shibuya」を立ち上げたのは2011年。ようやく“スタートアップ”という概念が、日本においても一般的になり始めた頃だった。

同時に、TwitterやInstagramといった名だたるスタートアップが、孤独なマンションの一室ではなく、起業家の集うコワーキングスペースから生まれたことも、徐々に知られるようになった。

ツクルバは、そんな“コワーキング”のあり方を見事に再現し、渋谷の起業家たちを開かれた交流の場へと連れ出した。

当時のスタートアップは、何を求め、co-ba shibuyaに集ったのか。北島氏は「共感」といった言葉から紐解いていく。

北島co-ba shibuyaは、CEOの村上とCCOの中村の『こういう場所があったらいいよね』を表現した場でした。米国のように、入居者同士が密に交流し合い、新しいものを生み出すコワーキングスペース。その構想に共感するスタートアップの起業家たちが、『何か面白いことが起きそうだ』と、集まってきてくれていました。設備云々より、そこで起きそうな何かを求めている。

僕たちも、その場の目的や思想に共感し、ワクワクしながら集う人たちのエネルギーが、代替の効かない価値になると信じていました。なので、入居を希望する人とは必ず面接を行うようにしていましたね。

シェアードワークプレイス事業部マネージャー北島隆行氏

co-ba shibuyaが登場した2011年に比べ、スタートアップが入居できるコワーキングスペースは格段に増えた。アメリカで生まれ、2017年に日本進出したWeWorkは、すでに複数の拠点を構え、大企業を中心に利用者を伸ばしている。

最近では、ビルの空いたフロアに『とりあえずコワーキングスペースを』といった提案が挙がることも珍しくないという。

そうした“コワーキングブーム”をツクルバは少し俯瞰して見つめている。

北島コワーキングスペースの裾野が広がっているのは感じていますし、それ自体は良いことだと思っています。けれど、僕たちが作りたいのは、掲げた思想に共感する人が集い、コミュニティを形成する場。そういった意味では、ほかのコワーキングスペースとは、掲げる思想が違うので、『競合が増えた』とは感じていないんです。

co-ba shibuyaは、開かれた場でありながら、新しく何か面白いことを仕掛けていこうという、明確な意思のある場でした。既存の社会にインパクトを与えようとするスタートアップは、そういう新たなムーブメントを仕掛ける“人格”のみえる場を、求めているように思います。

co-ba JINNAN(提供:株式会社ツクルバ)

そうした“人格”の見える場を、ツクルバ社内では『味がある場所』と呼ぶという。2018年11月にオープンした「co-ba JINNAN」は、まさに『味がある場所』の一つだ。

“co-working(共に働く)”ではなく“co-fighting(互いに切磋琢磨する)”というコンセプト、運営を担う「神南ボーイズ」というキャラクターは、多くのスタートアップの心を掴んだ。

北島co-ba JINNANでは、運営を担当する弊社の若手社員を『神南ボーイズ』というキャラクターとして前面に押し出しています。彼らがco-ba shibuyaを作った村上と中村の跡を継いで、渋谷で新たなムーブメントを生み出す、といったストーリーを提示しました。ありがたいことに個室が満席の状態でオープンを迎えられました。

神南ボーイズ(提供:株式会社ツクルバ)

入居者を後押しした記事は、co-ba JINNANの設備について詳しく触れているものではなかったという。

北島入居したスタートアップの方に理由を聞くと、口を揃えて『神南ボーイズの記事を読んで、彼らの想いに打たれた』と。なかには『ヤバい奴らが出てきたと思った』という方もいました。入居者は、神南ボーイズという“人格”と、彼らを突き動かしている想いに惹かれ、co-ba JINNANという場を選んでいる。スタートアップがコワーキングスペースに求めているのは、単なる設備ではなく、その場所のもつ思想なのだと再認識しました。

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スタートアップのオフィスは“定期購読型のサービス”へ

スタートアップが“コワーキング”に対して求めるニーズは変わらない一方、「オフィス」という場に対する意識は大きく転換したという。

立岩オフィスを、『働くために必要な場所』ではなく『目的達成のために一時的に使う場所』と捉える人が増えたと感じています。ひと昔前であれば、決まった予算のなかで、最適なグレードの家具をしつらえ、来客エリアを設計するのかが重要でした。

それが、内装や家具を選ぶ上でも、『来客者にどう見せたいか』ではなく『目的達成のために何が必要なのか』を起点に、場を構築していくようになった。もう『それなりにお洒落であれば良い』という時代ではなくなっているんですよね。外部への見せ方より、いかに内部で起きているプロジェクトを成功に導けるのか。設計者としても、デザインだけでなく、経営的な視点やボキャブラリーが、一層求められていると感じます。

また、急成長を求めるスタートアップの多くは、以前にも増して『即興性』を求めている。将来的に移転した際に家具を転用できるのかなど、拡大を前提とした設計が当たり前になっていますね。

tsukuruba studios architecture室デザインディレクター立岩宏章氏

フェーズによって自由にオフィスを選びたい。スタートアップのニーズの高まりを受け、ツクルバは2018年、中規模ワークプレイスの提供サービス「HEYSHA」の提供を開始した。

家具や通信設備を設置した状態のオフィスを、利用料と保証料のみで最短4ヶ月から利用できるため、敷金や礼金、内装費など、初期費用を抑えられる。不動産会社を介して借りるオフィスより、規模の変化に合わせて柔軟に利用できる。

立岩は、柔軟かつ利便性の高い仕組みのHEYSHAに期待を寄せながら、より長期的なオフィス設計の支援を行うサービスも模索している。

立岩定常的にコンサルティングを行い、企業にとってベストなオフィスをプロフェッショナルとして共に考えていく。めまぐるしく状況が変わるスタートアップだからこそ、そうした役割が必要なのではないかと思っているんです。例えば、月額で必要に応じていつでも環境について相談できる。そんなサブスクリプション型のサービスを考えています。

実際に、ある企業では月に数回オフィスを訪問して、細かい課題をヒアリングしています。総務の方だけではなく、事業部の方とも繰り返し話していると、課題や状況、今後の方向性など、企業の輪郭が浮かび上がってくる。こうしたプロセスを踏むことで、スタートアップの求める“戦略に寄与するオフィス”を、より精度高く構築できるのではと考えています。

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ハコありきから脱する企業に“攻める総務”あり

戦略に寄与するオフィス設計のためのコンサルティングをサブスクリプション型で行う。この新たな方向性にポテンシャルを見出した背景には、これまでに出会ったスタートアップの“攻める総務”の姿があった。

立岩総務は、社員からの要望に的確に応える、どちらかというと受け身な職種と捉えられやすい。ですが、いわゆるメガベンチャーの総務は逆です。全体の戦略に沿って、攻めの姿勢で業務に取り組む人が多いようです。彼らは、『私たちのオフィスがどうあるべきか』から逆算し、ハードと運用の両面から、改善を行おうとしている。

『オフィスの設計』と一言で表わせど、その企業を取り巻く状況によって、減床や集約、分散移転など、ベストな決断は異なります。既存の枠に囚われず、ありたい姿や戦略に沿って選択していく必要があるんです。

しかし、“攻めの総務”が不在の企業もあるはずだ。その場合、どのようにオフィスを選んでいけば良いのだろうか。

北島オフィス選びの難しい点は、組織の状況も規模も毎回違うので、『以前はこうだったから』が通用しない。ある意味では保険選びや家の購入にも近い。ほとんどの人が初めてで、絶対的な正解もありません。

だからこそ、移転すべきか否か、この物件を選ぶか否か、といった目先の選択肢に悩むより、外部の人の視点も借りながら『こういう方法もあるのでは』と、より広く方向性を眺めてみるといいと思います。

「取り得る選択肢を整理しては?」と提案する北島に対し、立岩は日頃から「こうあるべき」というイメージを蓄積する重要性を指摘した。

立岩とにかく人数が増えて大変な場合、一旦は『レンタルオフィス』でもありだと思っています。ただ、並行して、経営者が『予算があればこれをやりたい』とか、『規模が大きくなったらこういうのも良さそう』といった、実現したいイメージを貯めておくといいと思います。

経営側が『こうなったらいい』を描けていると、実現できる準備が整ったときに、すぐに動き出せる。それに応じて、僕らのようなオフィスのプロは、どれが必要そうか、そうでないかを判断できますから。

オフィス以外にも働く場の選択肢が広がった今、スタートアップにとってのオフィスは、戦略に応じて柔軟に利用する“サービス”に変わりつつある。ツクルバは、まさにそうした流れの先頭に立っている。

オフィスの移転を非日常な“点”ではなく、日頃の業務や将来の戦略と地続きに捉え、「どうありたいか」を長期的に思考する。そうした姿勢が、スタートアップのオフィスづくりにおいて、スタンダードになっていくのかもしれない。

こちらの記事は2019年01月09日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

向 晴香

inquire所属の編集者・ライター。関心領域はメディアビジネスとジャーナリズム。ソフトウェアの翻訳アルバイトを経て、テクノロジーやソーシャルビジネスに関するメディアに携わる。教育系ベンチャーでオウンドメディア施策を担当した後、独立。趣味はTBSラジオとハロプロ

写真

藤田 慎一郎

編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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