二酸化炭素濃度で、集中の度合いが変わる?
馬田隆明氏が語る、明日からできるクリエイティブな「環境づくり」
スタートアップで働くうえで重要なのは、自らの課題を見つけ、解決への「ToDo」を設定するアントレプレナーシップだと言われている。しかし、個人のマインドセット以前に大切なのが、会社の「環境づくり」だ。クリエイティブなアクションを生み出すための環境が整っていなければ、会社の成長は停滞してしまう。
2019年4月11日、東京大学のスタートアッププログラム「FoundX」でディレクターを務める馬田隆明氏が『成功する起業家は「居場所」を選ぶ』を刊行した。どのような環境が人を育て、イノベーションを生み出すのか。多数の文献や研究結果を基に、科学的に論じた骨太な一冊となっている。
出版を祝して、同月22日に記念イベントが開催された。書籍を深掘った解説に加え、本書でも対談相手として登場している株式会社ACCESS・共同創業者で投資家の鎌田富久氏、エレファンテック株式会社・取締役副社長の杉本雅明氏も登壇し、パネルディスカッションが行われた。
スタートアップで働くビジネスパーソンは、どのように「環境づくり」に向き合っていくべきなのか。馬田氏、鎌田氏、杉本氏による、環境づくりのこだわりに迫ったイベント当日の様子を、ダイジェストでお送りする。
- TEXT BY HAYATE KAWAJIRI
- EDIT BY MONTARO HANZO
作業の効率が上がらない理由は「二酸化炭素」にあるかも?日常に潜む、思いがけない“リスク”とは
馬田隆明氏は、日本マイクロソフトでプロダクトマネジャーやテクニカルエバンジェリストなどを務めた後、東京大学にてスタートアップ支援活動に従事。培った方法論を網羅的に紹介した著書『逆説のスタートアップ思考』で名が広く渡った人物だ。
そんな馬田氏の2作目となる著書『成功する起業家は「居場所」を選ぶ』のテーマは、クリエイティブな「環境づくり」。執筆のきっかけは『逆説のスタートアップ思考』の出版以降に覚えた、ある課題感だった。
馬田『逆説のスタートアップ思考』は、狙い通りスタートアップ界隈を中心に広く読まれ、多くの方から評価をいただきました。一方で、書籍を通じてノウハウを届けたところで、個々人の行動変容に結びつけることができませんでした。「情報提供」だけでは、起業家が育つ土壌を育てられないと感じたんです。
在籍する東京大学で、私はスタートアップ支援を手伝うべく、2016年に「本郷テックガレージ」、今年2月にはFoundXを設立しています。学生たちがそうしたコミュニティを利用し、自らのミッションに挑んでいく姿を眺めるなかで「環境づくり」の重要性を実感しました。今回の著作は、それらから学んだ要諦を余すことなく伝えたものです。
馬田氏が「環境づくり」をテーマに考える過程で、重要であると定義したものに「4つのP」がある。創造性を高めるための「Place(場所)」。起業家の力を引き出す「People(人)」。成長するための確度の高い「Practice(練習法)」。意思決定のフレームワークとなる「Process(プロセス)」だ。
イベントでは「4つのP」をフックに、具体的なエビデンスに基づいた馬田氏の仮説が明かされた。
馬田例えば、作業に集中する目的で聴いている人の多い「BGM」は、仕事に与える影響の代表です。最近の研究によると、どんなジャンルの音楽であっても、聴きながらの作業はクリエイティビティが低下すると判明しています。
もうひとつ配慮したいのが、二酸化炭素濃度です。作業する部屋の二酸化炭素濃度が1,000ppmを超えると、人間の持つ認知タスクの値が一気に下がるのです。そのため、会議室に長時間こもることが予想されるミーティングなどは、換気をするタイミングを必ず設けましょう。
“マネージャー”に求められる、コミュニティを闊達にするための工夫
イベントの第2部では、モデレーターに鎌田富久氏を加え、エレファンテック取締役副社長の杉本雅明氏とのトークセッションが行われた。
杉本氏は東京大学在学中に、カフェ&イベントスペース「Lab+Cafe」を設立。「学生にとって好きなことができるディープな溜まり場・異空間」をコンセプトとするこの場所は、現在も多くの人々に活用されている。
杉本大学の外で学生や若手社会人が集まる「コモン・ルーム」は、知識や思考を共有し合い、思わぬ化学反応が生まれる可能性のある居場所です。海外では、大学寮やコワーキングスペースが、若者を繋げる「ハブ」としての役割を担っているんですね。
しかし東京大学は、歴史的な経緯で寮を潰されてしまったこともあり、若者たちが自然と集まる場所が少なかった。日本の最高学府である東京大学の周辺に若者たちの溜まり場をつくることで、学生のクリエイティビティを成長させる場を作りたいと思い、Lab+Cafeを設立しました。
近年はコワーキングスペースと名のつく場所も全国的に拡大している。馬田氏はそれらの活用を促すコミュニティマネージャーの「方法論」を議論すべきだと説く。
馬田コミュニティを下支えするコミュニティマネージャーの重要性が語られています。一方で、どのように知見を貯め、人が集まり、クリエイティブな場所が作られているのか、具体的な方法論まで議論が行き届いていない印象を受けます。
もし、この場にコミュニティに刺激をもたらしたいひとがいたら、私からはナレッジの共有を促進する「トランザクティブメモリー」を紹介したいです。組織内で「誰が、何を、知っているか」という特性を把握しておくことです。近年では、この組織学習を効率的に行うためのグループウェアの開発や、ナレッジ管理をするコミュニティが増えています。
杉本有意義なナレッジが共有されるよう、コミュニティに集まる人を意図的に調整するするのもまた、マネージャーの大事な仕事のひとつですよね。
私は、コミュニティの質は「常連」が決めるという仮説に立ち、Lab+Cafeを会員制にして訪れる人を調整する工夫をしています。また、コミュニティを刺激してくれる人びとが、定期的に作業をしにきてくれるよう仕掛けを設けています。設立したての頃は、アクティブな学生たちをある程度絞って呼び込むことで、カルチャーの醸成に一役買ってもらいました。
最初期に集まるひとを厳選することで、連鎖的に刺激を与える人びとが集まり、多くのひとにとって居心地の良い環境が生み出されたと感じています。
イベントの最後には、書籍では語れなかった「居場所やコミュニティをつくる上でのアドバイス」が贈られた。
杉本ベースとなるコミュニティをつくっておくことで、情報収集の効率が良くなり、全てのタスクを自分だけで抱えるリスクも軽減できます。「自由な働き方」といった言説を背景にフリーランスも増えてきていますが、“根無し草”として生きるのではなく、自分の「ホーム」をつくることを意識すべきでしょう。
馬田私は、1対1の関係に止まらず、複数の関係が有機的につながるような“三角形のつながり”を意識してほしいと思っています。知り合いと知り合い同士が繋がり、思わぬ出会いがイノベーションを生み出すタッグになるかもしれません。
多くのひとは仕事が捗らないとき、自分自身の気合いや根性に「言い訳」を見出しがち。しかし、少し視野を広げてみると、外的要因によって改善できる要素はたくさんあります。ぜひ、自分自身を責めることなく、主体的にクリエイティブになれる環境を模索してみてください。
『成功する起業家は「居場所」を選ぶ 最速で事業を育てる環境をデザインする方法』
こちらの記事は2019年06月28日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
川尻 疾風
ライター・編集者(モメンタム・ホース所属)。在学中に、メルマガ・生放送配信やプロデュース・マネジメント支援を経験。オウンドメディアやSNS運用などに携わったのち、現職へ。起業家やクリエイターといった同世代の才能と伴走する存在を目指す。
姓は半蔵、名は門太郎。1998年、長野県佐久市生まれ。千葉大学文学部在学中(専攻は哲学)。ビジネスからキャリア、テクノロジーまでバクバク食べる雑食系ライター。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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