激動の1年を経て、VALUがリブート。
彼らが見据える「個人が評価される世界」の始まり

インタビュイー
小川 晃平
  • 株式会社VALU 代表取締役 

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント卒業後、株式会社グリーに入社。2012年より、グリー米国支社に赴任し、全米3位のモバイルゲームのリード・サーバーエンジニアを務める。帰国後、ホテル予約サイトなどの新規事業を牽引し、退社。退社後は、フリーランスのエンジニアとして、複数の新規事業を立ち上げる。その後、AccumBitを創業し、Bitcoin・Blockchainを用い、サービスの開発を進める。
2016年12月、株式会社VALUを創業し、現職。

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貨幣ではなく評価を基準に価値を測る。

それは「評価経済」と呼ばれ、体現するサービスが次々と登場している。

中でも2017年5月にベータ版をリリースした「VALU」は、その先駆けと言えるだろう。

個人の信用や価値をVALUとして発行し、そのVALUの価値を暗号通貨(ビットコイン)で売買できるサービスだ。

ローンチから脚光を浴びたものの、注目が集まりすぎたことによっていくつかの課題が見えたことや、暗号通貨市場の乱高下もあり、2017年秋の以降はあえて露出を減らし鳴りを潜めていた。

そのVALUがローンチから約1年を経た今、再びブーストをかけようとしている。

VALUで代表を務める小川晃平氏の言葉から、その展望を見た。

  • TEXT BY JUMPEI NOTOMI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
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VALUが担うべき役割の解像度を上げてきた1年間

リリースから1年が経ち、サービスや運営側にどのような変化があったのでしょうか。

小川最も大きいと思っているのは、自分の中でのVALUの捉え方が、リリース当初から徐々に変わってきたことです。

VALUが目指す「個人が評価される世界をつくりたい」というものは、本質的には変化していません。ただ、この1年間の激しい変化とともにさまざまな方と対話し、漠然としていたVALUのイメージや、担うべき役割の解像度が上がってきたように思います。

「個人が評価される世界」とは何か。そのためにVALUはどのようなアプローチで取り組むのか。サービスの根底に持っていた想いを、自分の中でより深く理解した1年でした。その中で個人が「株式」を発行できるという表現を取りやめたり、インフルエンサーばかりが注目を集める形ではない仕組み作りなども行いました。

「個人が評価される世界」とは、どのようなイメージなのでしょうか。

小川具体的な例を挙げましょう。株式会社VALUは株式で資金を調達しているため、借入はしていません。一方、美容室やラーメン屋といった小規模事業の場合、資金を調達するには銀行や金融機関から借入をするのが一般的です。

われわれのように株式で調達していれば、投資家との関係こそあるものの、失敗してもまたチャレンジできるチャンスはあります。一方で借入の場合は、失敗するとブラックリスト入りしてしまう。お金を投資家から預かっているという意味では個人のリスクは変わらないはずなのに、ここがアンバランス状況に陥っている。

本来は資金の調達には評価が必要なわけですが、既存の評価尺度ではそこがうまくできていない。そこにVALUが、個人を評価する仕組みを落とし込もうとしているんです。

とはいえ、個人の評価が価値に変わるという「評価経済」が社会に浸透するのには時間がかかるのではないでしょうか?

小川少しずつ地道に浸透させていくことが大切だと考えています。ただ、この1年で徐々に変化をしているなという実感もあります。大きな変化だなと感じたのは、2017年11月、メタップス代表の佐藤航陽さんが『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』を刊行されたことですね。この本の影響は大きく、それまで一部の層にしか認知されなかった評価経済という言葉が、市民権を得はじめていると感じています。

“わかってもらえる”というのは非常に重要です。たとえば、FacebookやTwitterなどのSNSも、当初はプライバシー的に信用できないから使いたくない、という声も一定数ありました。普及してわかってもらえるようになると、ユーザーのマインドも変わってくる。SNSと同様に、評価経済も理解が進み、徐々にユーザーのマインドを変えられると感じています。

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変化を脇目に、とにかく良いプロダクトへ

この1年間で小川さん自身のマインドや、評価経済への理解が変化してきた一方で、暗号通貨業界には多くのニュースがありました。ターニングポイントになった出来事はありますか?

小川おっしゃるとおり、暗号通貨業界は国内外で動きが激しかったです。2ヶ月に1回程度なにかしらのビッグニュースがあったように思います。その都度、VALUも紆余曲折してきました。そういう意味では何もかもがターニングポイントでしたね。

2017年の5月にサービスをリリースして、8月には大型のハードフォークがありました。9月にはJPモルガンの発言(編注:2017年9月に米銀JPモルガン・チェースCEOが、ビットコインについて否定的な発言をしたと報じられた)がありつつも、年末にかけてビットコインの価格が急上昇。かと思えば、年明けには中国でマイニングの禁止や韓国での仮想通貨禁止の報道があり、そこへコインチェックのニュースです。コインチェックは、世の中の感覚を「暗号通貨は怖い」と曲げてしまったように感じます。

特に海外の出来事は影響が大きいですね。前述のJPモルガンの発言はかなりのインパクトがありました。現在は外部環境も落ち着きつつあり、徐々に安心して見ていられる状況になってきたかなというイメージです。

複雑な状況の中、VALUはこの1年をどう考え、歩みを進めてきたのでしょうか。

小川周りは見渡しつつも、プロダクトに集中してきました。ヒヤヒヤする場面はありますが、われわれにできることはプロダクトを改善し続けることだけです。周辺状況から「これはやっておいたほうが良い」と学ぶことはありますが、根本的なスタンスに変化はありませんでした。

正直、リリース当初の反響は想定を遥かに上回るもので、この中には投機的な側面があったのも事実です。ただ、これは必ずしも自分たちの本意ではありませんでした。本当にやりたいのは頑張っている人をサポートすること。あのときの勢いに乗って数字を伸ばすこともできたかもしれませんが、自分たちのやるべきことと向き合い、足場を固める期間としてこの1年を据えました。

ユーザーインタビューやバグの改善、機能追加といった基本的なことはもちろん、スマホアプリの開発にもかなりのリソースを割きました。本当はベータ版のWebサイトで少しずつ意見を集め、すぐにアプリ化へと進めていく予定でした。ただ、想定以上のユーザーが集まり数多くのフィードバックをいただけたことで、アプリの役割も拡大。要件整理などにもしっかりと時間を使ったため、このタイミングでのリリースとなりました。

加えて、裏側ではセキュリティやコンプライアンスなどへ対応を入念におこなってきています。ベータリリース当初のような起業家やイノベーター層が中心のサービスではなく、多くの人に使ってもらうためには安心して利用できる環境が必要です。コインチェックの件から学んだ部分もあり、安全面は特に気を配りました。

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何を目指したいか。明確なスタンスが求められる

1年間足場を固めた上で、VALUが見据える今後の展望を教えてください。

小川アクセルを踏む準備はできました。ここからは、より多くの方に使っていただくことへ、とにかく注力していきます。

暗号通貨によって、金融業界にイノベーションが起きようとしているのは周知の事実です。他方で金融業界は歴史が長いしお堅い業界でもある。実際、暗号通貨やブロックチェーンはまだ黎明期で変化が大きかったり不確定要素が多すぎるので、色んな意見があるのも当然な状況です。

その中で必要なのは、自分がどういうスタンスで何を成し遂げたいかという意思です。お金とはこうなっていなければならない、というものはありませんし、評価経済を推し進めても、既存の資本主義がなくなるわけではありません。

現代の資本主義経済でお金が正常にまわっていれば、暗号通貨のようなものは不要だと思うんです。ただ実際はお金が余っているのに、そのお金が特定の層にしか渡っておらず、アンバランスな状況に陥っている。

国内だけでなく海外のブロックチェーンや暗号通貨系スタートアップと話をしても、近しい課題を感じている人が多いんです。わたしはこういった違和感を、評価経済を通して解消したいと考えています。

こちらの記事は2018年07月23日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

納富 隼平

合同会社pilot boat 代表社員CEO / ライター 1987年生まれ。2009年明治大学経営学部卒、2011年早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。大手監査法人で会計監査に携わった後、ベンチャー支援会社に参画し、300超のピッチ・イベントをプロデュース。 2017年に独立して合同会社pilot boatを設立し、引き続きベンチャー支援に従事。長文スタートアップ紹介メディア「pilot boat」、スタートアップ界隈初心者のためのオンラインサロン「pilot boat salon」、podcast「pilot boat cast」、toCベンチャープレゼンイベント「sprout」を運営。得意分野はFashionTechをはじめとするライフスタイル・カルチャー系toCサービス。各種メディアでスタートアップやイノベーション関連のライターも務める。

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藤田 慎一郎

編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。

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長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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