ベンチャーの組織崩壊って立て直せるの?
Voicy執行役員・勝村泰久が、その打ち手をぶっちゃける

インタビュイー
勝村 泰久
  • 株式会社Voicy 執行役員 

1985年広島県生まれ。新卒でベンチャー期の総合人材サービス企業クイックに入社。営業部長や新規事業開発を経験後、HR divisionの責任者として採用や組織開発、制度設計などに携わり、東証一部上場までを経験。2020年に退社し、Voicyに参画すると、VPoHRとして総務人事領域を担当しつつアライアンスや事業開発も担当、採用や組織の立て直しを推進。2021年2月より執行役員に就任した。

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FastGrowが注目のスタートアップ関連人事を紹介する、ベンチャー人事報から、特に気になる人物のインタビューを敢行する企画。今回、2人目として登場するのが、2021年2月にVoicy初の執行役員に就任した勝村泰久氏だ。

同年1月、招待制の音声SNS『Clubhouse』が国内の話題を席巻した。経営者を始め芸能人からYouTuberまで、著名人と一般人が気軽に“声”で交流できる場に。盛り上がりは落ち着きも見せているが、「音声」という市場への注目を高めたという意味では十分すぎるインパクトをすでに残したと言えるだろう。

音声市場の日本のスタートアップはいまや跳梁跋扈の状態。Radiotalkやstand.fmなどがしのぎを削る。そんな中でVoicyは、著名人や専門家による“声のブログ”で徐々に人気を博し、利用者は2020年末時点で月間100万人を超え、2021年以降はClubhouseの波に乗り、月あたり60%成長という勢いを持つ。2019年にはTBS・電通・朝日放送グループや中京テレビ・文化放送などから約8.2億円の資金調達を実施し、事業成長を続けている。

しかし勝村氏に聞くと、2020年1月の入社時は、Voicy社内が組織崩壊寸前のカオス状態だったという。体系化されていない組織体制で、メンバーが次々と離職していく日々。HR責任者として奮闘し組織体制をいかに強化したのか。Twitterなどで「ぶっちゃけ人事」を自称する勝村氏にぜひ聞いてみたいと考え、インタビューを実施した。

  • TEXT BY YUKI KAMINUMA
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シリーズA組織崩壊のリアル

TwitterやInstagram、YouTube、TikTok、Netflixなど、人々の可処分時間を奪い合うビジネス競争は激しさを増す。その中で唯一残っていたのが「ながら聞き」できる音声だと、勝村氏は指摘する。テキストや動画と異なり、音声は日常生活を過ごしながら情報を受け取ることができるので、これまで可処分時間でなかった睡眠以外の全ての時間をターゲットとすることができる。その便利さと情報量が情報過多となった現代人にフィットする。

勝村今後は生活を止めずに情報を取る時代になっていくでしょう。音声は生活を止めない上に、情報量もちょうどいい。テキスト情報は受け手側の想像力や解釈が必要となる一方で、動画はすべての情報が揃っているメディア。音声は動画のようにone to oneで話しかけられるという利点を活かしつつ、イメージを膨らませることもできる。情報の提供具合が絶妙に心地よいのが音声の特徴と言えます。

株式会社Voicy 執行役員 勝村泰久氏(オンライン取材時の様子)

勝村氏もこうしたマーケットポテンシャル、そして企業のビジョンなどに魅力を感じ、ジョインを決めた。しかし入社直後から、HR担当の勝村氏には試練が訪れたという。

勝村入社を決めたときには「今は社員が30人くらいで、入ってくる頃には50人くらいに拡大していますよ」と聞いていました。でも、実際に入社した20年1月に在籍していた社員は25名、そして翌月末には16人に減りました(苦笑)。

社員のエンゲージメントを測るサービスを利用していたのですが、そのスコアも見た事ないくらい低かったですね。

これは、いわゆる「組織の急成長で起こるひずみ」だったと、解説してくれた。

勝村人事制度も組織体制も整っていない中で一気に人材を雇用したため、マネジメントが上手く機能していませんでした。音声という不確実な市場を創っていく中で、大きなビジョンはあるものの、KPIや具体的施策の明示が圧倒的に不足していた。人事の経験者や専任者がいないというのも一因でしたね。

その結果、経営と現場の乖離はもちろん、現場同士のコミュニケーションロスも多く発生し、事業にも少なからず悪影響がありました。今だからこそ言えますけど、チャットで罵り合うとか悪口・陰口とか、当たり前に起こっていました。

実は僕、正式入社前に「体験入社」というのもさせてもらっていたのですが、その時にも雰囲気の悪さを感じるほどでした。

しかし、体験入社した時点で環境の悪さに気づいていたのなら、なぜ入社したのか。勝村氏の前職は東証一部上場の人材系企業であるクイック。最年少の経営職として人事部長や営業部長を経験した。わざわざこのカオスに飛び込む理由は想像しにくい。キャリアを深掘りしたい記事なのでこの際、じっくり聞いてみた。

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「好きな会社」だから離れるべき?

「転職をしようと思ったのではなく、退職をしようと思って転職活動を始めた」と語る勝村氏。前職に不満があったのではなく、好きな会社だからこそ退職を選んだのだという。ベンチャーフェーズから大企業へと成長するにつれ、感じ始めた経営陣や社員との価値観のズレが、だんだんと大きくなり、このまま人事責任者を務める訳にはいかないと感じたのだという。

勝村会社のことはとても好きだったのですが、自分が進みたい事業方向やスピード感と、経営や社員が期待するそれにギャップを感じていました。そんな中働いていたので、当たり前ですが人事施策のクオリティに影響が出始めて。自分がこの会社の成長を妨げている、そんな自分が会社の要職にいてはいけない、好きな会社を悪い方向に導くくらいなら身を引くべきだ、と考えるようになりました。

好きな会社を辞めてまで、どの会社に行くのか。考えたのは「自身を最大限ストレッチできる、計画的に偶発性を高められる環境に行きたい」ということ。それは今まで従事してきた課題解決型のビジネスではなく、「不確実な何か」を創っていく産業に飛び込んでみたいという結論に至った。

日本の産業は基本的に、社会の負に向き合う課題解決型のビジネスが多いと感じています。例えば前職のクイックのようなHR支援事業は、「良い採用をしたいが自社ではうまくいかない」とか「良い転職先をどこから見つければ良いか分からない」といった課題を解決しようとして立ち上がるサービスですよね。

ですが、最近流行ったClubhouseや、世界的に圧倒的なユーザー数を誇るTwitter・Facebookなどの革命的なプロダクトは、「言語化・表面化されていないニーズを喚起する」というような創造型のビジネスが多いように思います。こういった事業にチャレンジすれば偶発性の高い体験ができると思いました。

転職活動当初はここまで考えがまとまっていなかったので、まず行動してしまい複数社内定を頂いてしまったのですが、この軸に考えが定まってから、改めて転職活動を行い、最終的に3社のオファーのなかで悩み、結果としてVoicyを選びました。

これだけ聞くと、抱いたビジョンに基づいて最適な選択をしたように見える。しかし先述のように、当時のVoicyは雰囲気の悪い状態。しかも聞いてみると、他に内定を得ていた企業には、名立たる有名企業が並んでいた。この決断の裏には、常人には理解しがたい内容もあったのだ。

勝村不確実性の高い事業に挑戦してみたい、この思いをとにかく強く持っていました。年収は一番低かったですし、役職も唯一なく、組織も一番カオスでしたし、将来性も分からないという状況。でもこれら全て、むしろポジティブに捉えられたんです。また、人事としての貢献度も高いだろうと考えました。

年収は一時は半分以下になりましたが、もともと僕は育った家庭環境や前職初期(リーマンショックの影響)といった経験から、金銭的に裕福に生きたいと感じる人間ではありませんでした。確かに、普段利用する飲食店はここ数年と比較すれば安価な店が増えたりと変化もありますが、僕にとってはこれも仕事と同じで「どこに行くか」よりも「誰と行くか」が重要なんです。今はVoicyのメンバーをはじめ、以前よりもさらに刺激的な面々と関わる機会が多いので、本当に楽しいですね。

こうして新たな挑戦を始めた勝村氏。それでは気になる「カオスの切り抜け方」に、話を進めたい。

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リアルな組織課題は「組織の外」にある

入社直後から大きな課題にぶち当たった勝村氏。まず社則や人事制度など基本的なことを整備したのち、組織設計や人事配置・コミュケーションラインの円滑化など比較的守備的な項目から手をつけた。基盤がしっかりしていなければ、また崩壊してしまうという危機意識に基づくものだ。

意思決定権のある人物を定め、経営から現場におろす情報の精査を行い、1カ月ほどかけて組織のかたちを再構築した。この作業を進めるため最も意識していたのが、社員全員との面談で、個人の意思や現状をしっかり把握することだという。

また、エンゲージメントツールのスコア推移も随時チェックし、悪化した社員は適宜面談。マネージャーとも改善案をコミュニケーションし、匿名の意見を経営に上申していった。細やかに現場の声をすくいあげ経営判断に生かされる仕組みづくりを心がけた。

こう書くと、当たり前のことをしっかりやってきた、それだけにも見える。しかし、その現場は崩壊した組織だ。外からやってきた勝村氏がいきなり推進し、うまくいくとは限らないはず。この点についてまずは聞いてみた。

勝村外から来て偉そうに言えば進まない、それは当たり前です。だから対話は最重要視していました。互いを理解するための努力を、惜しむべきではありません。

ただ、今回うまくいった要因は、そもそも残っていたメンバーがみな、Voicyのことが本当に好きで、「この組織をなんとか良くしていきたい」という想いを共通して強く持ってくれていたこと。だから、僕が信頼を勝ち得れば、それで前に進む。そんな状況でもありました。

まずは信頼を得るため地道な努力を続け、さらに組織構築に向けた地道な設計も続けた勝村氏。また、組織課題の特定に向けては、少し変わった手法も取っていた。組織課題を見つける際に、敢えて「組織の外」に目を向けたのだ。

勝村社内にいるメンバーだけでなく、退職者にもヒアリングをしました。退職を選んだ人たちに敢えてアプローチすることで、より深い課題や不満を見出すことができました。例えば、人事評価制度に対する批判や、経営陣に対する不満、事業戦略で具体的にどこに不安を感じていたか、といったことなど。

もちろん、社内でもある程度は聞くことができると思いますが、別の角度から課題を特定し、新たな解決の糸口につなげることもできます。

そうして社内が落ち着き始めた頃、一気に採用を強化した。

勝村スタートアップですから、リスクを取って成長を進めるため、どうしても人材を確保していかなければならない状況でもあったので、少し急いでしまったかもしれませんが、採用は強化しました。組織構築は一定程度進んでいたので、なんとかなるだろう、と。

採用ではエントリーマネジメントを徹底しました。つまり、入社するまでの間に、僕自身が面接して、社内のカオスな現状を赤裸々に告白したり、本人の希望に対して提供できることとできないことを率直に伝えたりした上で、それでも入社したいと思うかどうか、という期待値調整を行ったんです。結果的には、4月に9人、5月に2人、その後も安定的に毎月2〜3人が入社することになりました。

まだ日本ではそれほど馴染みのないエントリーマネジメントという言葉。エントリーすなわち入社に際してのミスマッチを無くし、後に不幸になることを互いに避けるための考え方だと理解されている。

「入社してみたら思っていたのと違った」という自身の体験を繰り返さない、とまでは言わなかったが、勝村氏がこだわった点の一つが、このエントリーマネジメントだ。職務内容や人間関係・事業の方向性といった点における、退職理由に多くみられるミスマッチを、入社前に防ぐことで長期的な人事の安定性を確保しようとしたのだという(施策の詳細はこちらの記事から)。

ただ、こうして入社まで進んだ後も妥協しなかった。離職を避けつつ、一人ひとりがより活躍できる取り組みに力を入れた勝村氏。コロナ禍という大きな環境変化にも直面したわけだが、どのように進めたのか。

勝村せっかく入社を決めてくれた4月入社9人がいるのに、コロナ禍で出社ができないという状況になりました。エンゲージメントは対面でこそ高まるのではと感じていたので、私も不安でした。そうはいってもなんとかしなければならないので、月並みですがオンラインでのイベントを増やし、心理的安全性を担保していこうと考えました。

ここでも勝村氏のユニークな思考が発揮される。単なる「Zoom飲み」などではなく、「オンラインスナック」などテーマを決めることで、対話が促進されるよう設計した。その後も現在まで月に1〜2回程度のイベントを続けているが、必ず先月入社者への理解が深まるような企画を入れたり、他部署メンバーでチームになるゲーム性のあるイベントを行うなど、縦横だけでなく斜めに意識を向けた工夫を施し、メンバー同士の距離感を縮めることに成功した。

オンラインスナックの様子(提供:Voicy社オウンドメディア

こうして楽しみながら社員のアイデンティティを知るきっかけを作りつつ、イベントや社としての意思決定がある度に、メンバーから「NPS®」をとったり、エンゲージメントを測ったりすることも、欠かさず続けた。

勝村その他にも、内定から入社後まで違和感なく進むようオンボーディングは細やかに行っています。

また、Voicyに入社したからには音声が持っている力を実感してほしい。そのためにEXならぬVEX(voice employee experience)という人事施策にもチャレンジしています。

まず、オファーレターを音声にして渡すことから始まり、研修や社員からの自己紹介も音声に。また、評価面談後に半年後の自分に伝える音声メッセージを作成したり、表彰などを受けるとメンバーからの寄せ声が入るといったことなどまでしています。できるだけ音声コンテンツを絡めるよう工夫しているんです。

さらに、人事評価制度も改めて導入するなど、忙しい1年を過ごした勝村氏。結果、離職率は約70%から9%に低下。エンゲージメントツールのスコアは約30も上昇した。

この成果も一因子となり、2021年2月から執行役員の任を受けたというわけだ。

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喜怒哀楽のカオスな日々で、生きている実感を

と、ここまで勝村氏の努力について聞いてきたが、なぜここまでうまく事が進んだのか?という疑問も残る。「言うは易く行うは難し」ともいえる仕事の連続に見える。そう率直に聞いてみると分かりやすい答えが返ってきた。

勝村人材系の支援をずっとやっていましたし、人事の業務も一通りやっていたので、やるべきことは常に感覚的には理解できていました。まずこのことは当然、大きかったですね。

ここまでの話で、シリーズAの段階でも、経験豊かな人事責任者がいなければ組織が崩壊する可能性が高い、というようにも読める。一方で、そうした人材は市場にそれほど多くはなく、また必ず成果を出せるとも限らない。どこの企業も悩むこの点に、勝村氏もやはり悩んでいたと振り返った。

勝村先ほども述べたように、メンバーみんなの意識に助けられた面は大きいです。「共感」は大前提として重要ですね。

ただ、具体の進め方については悩むこともたくさんありました。そんなときには、有識者の方にすぐ聞くようにしていましたね。自分でオンラインサロン(※)を運営していたおかげで、すぐに話を聞くことのできるHR関係者が70人ほどはいます。力強いです(笑)。

このように、社内外の仲間にガンガン頼ることが必要不可欠だと、改めて感じますね。

※……勝村氏がオーナーを務める、助け合いHRコミュニティ「HRラボ

また、勝村氏自身は、すべてうまくいったという感覚でもないという。

勝村組織は最低限立て直すことができましたが、感覚としては、もっとやれることはあったのでは、とも思います。都度都度で何とか対応していたという面があり、時間の使い方は改善の余地があった。

想定外のこともいくつかありました。特にCFOが2020年秋に退任したことは大きかったです。これにより、僕は代表との距離がより近くなり、役割がHRだけでなく、事業側にもどんどん張り出すようになっていった。時間のやりくりには苦労しましたね。

ではここからどうしていくのか、と将来について話を進めると、晴れ晴れとした表情で展望を語ってくれた。

勝村CHROではあるのですが、事業側にもっと関わっていくことにしています。執行役員つまり経営陣なので、HRだけ考えていればいいということには当然なりません。しかもまだこの会社はシリーズAのスタートアップですから。

言葉を選ばずに言えば「死ぬ気で事業を伸ばす」という考え方だって、時には必要です。成長のためにすべきことは山積している一方、時間に限りがある以上、それを全てやることは不可能です。マネジメントの強化と、事業開発を、社内のメンバー一人ひとりをうまく巻き込んで推進していかなければ、と改めて気を引き締めています。

こうした役割の変化を意識するとともに、仕事に対する姿勢についての考え方にも変化が生まれてきたという。

勝村僕は人事という性質上、自分が目立つことを良しとしていませんでした。人事は、「クライアントは社員」であり、あくまで日陰の存在だと考えていたんです。だから、事業面で自分が目立つのは違うと思っていました。

しかし、いまこのフェーズで、この思考にこだわる意味はありません。事業を伸ばすために、経営陣の一人として、数字や成果に対してストイックな姿勢を、僕自身が背中で示す必要もあると考えるようになりました。

ふるまい方一つひとつにもまだ悩みがありますし、うちの代表はビジョナリーな人間ですから(笑)、ベンチャーにありがちな「朝令暮改」のような方向転換もしばしば必要になります。相変わらず刺激的な毎日ですね。

また悩みの尽きない日々であることを、楽しい刺激だと繰り返す。社会人になると年々、1年があっという間になるのが違和感だったのだとか。Voicy入社以来、1日はあっという間に過ぎるが、1年が経つのは長いと語る。

時に大きなストレスを抱えながらも、それすらも「充実」と捉える勝村氏。事業へのコミット度と本気度を見れば、執行役員就任に至ったのも頷けるだろう。今後、Voicyとして求める人材も、キャリアにとらわれずに事業にコミットできる姿勢を重視しているという。

勝村人事としてはキャリアを大事にしてほしいし、個の時代においてキャリア軸で思考することは重要だと理解しています。ただスタートアップに来るのであれば、キャリアを意図的に構築するよりもまずは事業にコミットし、振り返ったらキャリアになっていたという方が合う。職種に固執せずに事業成長にコミットできる人材こそが活躍できる環境だと、身をもって感じていますね。

こちらの記事は2021年04月09日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

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執筆

上沼 祐樹

KADOKAWA、ミクシィ、朝日新聞などに所属しコンテンツ制作に携わる。複業生活10年目にして大学院入学。立教大学21世紀社会デザイン研究科にて、「スポーツインライフ」を研究中。

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