INTERVIEW
山下 正太郎
17-11-08-Wed

ベンチャーにとって
働きやすい場を考える

TEXT BY CHISA SATO
連載 Work per Life
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働き方の多様化と共に、働く場所も急速に変化している。

現在見られるオフィスをタイプ別に分類しつつ、ベンチャー企業にとって働きやすい環境を、
世界のオフィス事情に精通したコクヨ主幹研究員の山下正太郎氏に聞いた。

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働く場の大変革期

リモートワーク、コワーキングスペース、コミュニティーハブなど、新しいコンセプトの働き方や働く場所が次々と生まれ、働く環境は大変革時代を迎えている。

その理由を山下氏は「仕事が従来のように定型タスクを処理することから、持続的に新しい価値を生み出すことに変化した。そのため、イノベーションを生む場に注目が集まっている」と分析する。

話題の「働き方改革」では、働く時間の改善だけでなく、ワークスタイル、働く場所まで含め、どのように働くべきかを再構築することが求められているのだ。

これまで働く場はどんな変遷を経てきたのか、簡単に振り返ってみよう。

最初に形式として広まったオフィスは、アメリカの経営学者、フレデリック・テイラーの科学的管理法を反映した「テーラリスト・オフィス」だ。

産業革命以降の工場をモチーフに効率性を追求するもので、情報の流れに従って島ごとに机が並び、上司がトップに位置する日本の90%以上の職場がこの形態に当てはまるという。

二番目に生まれたのは、第二次大戦後の好景気を背景にした「ソーシャル・デモクラティック・オフィス」。より良い環境で人材獲得を狙ったものだ。

オフィスに初めて人間性が考慮され、快適性やエンターテインメント性のある環境がつくられた。シリコンバレーの広大で社員食堂などのアメニティーが充実する、キャンパス・オフィスもこの延長上にあると考えられている。

三番目は、インターネットやモバイルツールなどが普及した2000年前後からの「ネットワークド・オフィス」だ。オフィスに限らず、様々な場所で働くことが可能になり、ワークとライフの境界が曖昧になった。

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世界のオフィスの最新トレンド

そして、ここ5年程の新潮流が「エコシステム・ハブ」だ。

オフィスはもはや作業する場ではなく、多様な人材が混ざり合う生態系を形成する場としての機能が求められるようになった。

そのうちの一つが、働く人の近接性を高めて、新しいビジネスアイディアの創出を狙う「イノベーション型」。もう一つは、生活と仕事を融合させ、持続的な労働力の確保を目的とする「リテンション型」だ。

「イノベーション型」の例としては、建築家フランク・ゲーリーが設計したフェイスブックの新社屋「MPK20」が挙げられる。

メンローパークのFacebook本社 「MPK 20」
提供:Facebook

全長400メートルの広大なワンフロアに約2000名が集まり、分け隔てなくワーカーが混ざりあいながら働く。

かつてはリモートワークを推進した、ヤフーもマリッサ・メイヤーがCEOに就任して、在宅ワークを禁止したように、電話やメールといったツールを介したコミュニケーションではスピードが遅いだけでなく、創造的なインタラクションが無く、イノベーションは起きにくいとして、目下ベイエリアでは、リアルなコミュニケーションが見直されている。

また、自らもガレージでのスタートアップとして始まったグーグルは起業家向けに「キャンパス」と呼ばれる無料のコワーキングスペースを展開。スタートアップ拠点として注目されるテル・アビブ、ロンドン、ソウルなど世界六都市に、起業家のコミュニティーハブとして、ネットワーキングや教育プログラムを提供している。

グーグルキャンパス ソウル
提供:Google

一方、「リテンション型」は、オーストラリアやオランダで発達した「ABW(アクティビティー・ベースド・ワーキング)」と呼ばれる働き方を支える場が挙げられる。良い人材に長く働いてもらうため、働く場所はオフィスに限らず、自宅やカフェなど、ワーカーに自由に選択してもらう。

オフィスは、よりソーシャルかつライフとワークを円滑につなぐ場として、ワークショップルーム、カフェ、託児所などを充実させ、立ち寄りやすい一等地に設けられている。

「生産人口減少時代における働き方改革の文脈にはABWが合っています。シリコンバレーを熱心に視察する方が多いですが、世界中から優秀な人材が集まってくるアメリカのイノベーション型はすぐには参考になりづらい。今後のオフィス形態は、『イノベーション型』と『リテンション型』が融合し、社内外問わず必要な人材がプロジェクトベースで集まって、解散するプロジェクトベースドワーキング(PBW)を支えるハブになるのでは」と山下氏は予想する。

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ベンチャーにとって、理想のオフィス空間とは?

では、ベンチャー企業にとってのオフィス環境はどうあるべきなのだろうか。

山下社員数が100~150人くらいまでのスタートアップ期は特にオフィスを気にしなくてもいいのではと思います。オフィスとは、人間の管理が及ばない時、空間の特性で社員の行動を適切な方向に仕向けるもの。

ダンバー定数と呼ばれる人間関係を把握できる100~150人くらいまでは、創業者がマネジメントできるのではないでしょうか。現にそうした思想で設計されるオフィスも増えてきています。

大企業ほどオフィスの効果は高いとされるが、ベンチャー企業にとって、立派なオフィスを構えることは、信用力やブランディングにもつながる。

山本規模が300人くらいのグロース ・ステージになると、リブランディングの必要が出てきます。新規採用した社員を統率したり、サービスを整理したりするためにも、ベイエリアのスタートアップもこの時期によくオフィスへの設備投資を行っています。

ベンチャー企業にとって、オフィスの役割とは何なのだろう。

山下ベンチャーを世の中にない新しいサービスを提供する企業と定義すると、一つ目にまず挙げたいのは、カルチャーを共有する場所が重要だということ。作業スペースよりも、社員が一堂に集まれるシアターや食堂など、自分たちのミッションや方向性を共有する場です。

宗教における寺社仏閣、教会と言ってもいい。グーグルやフェイスブックでも“all hands meeting”と呼ばれる全社会議を毎週のように開きCEOから熱いメッセージが共有され、一体感を高めています。

二つ目は、心理的安全性を担保すること。クレイジーだと思われるような新しいアイディアを生み出す必要があるので、しがらみや前例を取り払い、何を言ってもいい、どんな発想をしてもいいマインドセットが求められます。テック・ベンチャーのオフィスに落書きのようなグラフィティやユニークなオブジェが飾られているのも、そのため。

デザインシンキングを世に広めたスタンフォード大学のDスクールでは、つくりかけのようなラフな空間の方が創造性を発揮しやすいと、好き勝手に家具を動かしたり汚したりできるハッカブルな空間を提案しています。

イスの色や形も不揃いで、机もキャスターを付けて可動式にするなど、自分たちが使いやすいように創意工夫できる自由な空間が発想も引き出す。

ベンチャー企業にガレージで創業したという逸話が多いのも、何かをつくる未完成な場所が創造性を刺激するからだろう。

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リアルかリモートか。

ベンチャーに求められるイノベーションのためには、リモートワークよりも、リアルなコミュニケーションの方が重要ということだろうか。

山下イノベーションのためには、集まることが効果的だという研究結果もあります。リアルなコミュニケーションの方が情報量も多く、自分で選択しない幅広い情報が集まってきます。“フィルターバブル”というように、一人で仕事をしていると情報の種類が狭まりやすい。リモートワークは正にそういう状態です。

同じ場を共有していればアイディアを思いついたらすぐ話せること、リアクションがあることも、イノベーションのスピードを早めるためには重要です。30メートル以上離れたワーカーとのコミュニケーションはほとんど期待できないという研究結果も。

ただし、集まっても何も言い出せない堅苦しい会議ではダメで、カジュアルで、フレンドリーな雰囲気づくりもポイントとなる。

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スタートアップ都市に注目

最近では、クリエイティブな優秀人材をいかに獲得するかが課題となっている。

山下人材の移動が激しくなる中、オフィスに人を集めるのではなく、グーグルのように集まる場所に直接企業が出向くようになり、スタートアップで活性化する都市に注目が集まっています。

『WORKSIGHT』11号で特集したベルリンは、ボトムアップで生まれた欧州のスタートアップシティとして起業家たちを惹きつけてきました。

それが、最近ではベルリンに全く縁のない大企業までもがコワーキングスペースにイノベーションラボを開設し、スタートアップ人材との接点を持つことが増えています。

ベルリンでは、グーグルがコワーキングスペースのFactoryと提携し、起業家支援プログラムを行なっている。ドイツ銀行、ダイムラーといった大企業もコワーキングスペースにブランチを持ち、ベンチャーとのコラボレーションを行なっているという。

テクノロジー・キャンパス「Factory」のコワキングスペース
提供:Factory

都市の特性と結びつくことでイノベーションが加速する。東京は、どんな働く場を形成していくのだろうか。世界の動向を見ながら、自分にあった働き方を考えてみたい。

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コクヨ株式会社 コクヨ株式会社 主幹研究員/WORKSIGHT編集長 山下 正太郎
[文]佐藤 千紗

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